トーイチティカーンの初めての魔物討伐
人工モンスターとの訓練を終えた三人は、すっかり自信をつけていた。
もちろん、まだまだ未熟ではある。
けれど、何度も戦っているうちに、それなりに動けるようになってきた。
特にトーイは、自分の成長を実感していた。
「こんなにできるなら、もう外のモンスターも余裕だぜ」
「まだ危ないよ~」
チティは心配そうに言う。
「まぁまぁ。僕がサポートしますから」
カーンはいつものように落ち着いていた。
「じゃあ三人で、弱いモンスターを狩りに行こうぜ!」
「えぇ~?」
「マドカに負けてらんねぇ!」
「マドカは私達じゃ相手にもならないよ~」
「そうですね」
カーンも頷く。
「あの子は規格外ですから。僕達は僕達のレベルに合わせた敵を探しましょう」
「そういうことだ!」
話は決まった。
もちろん、誰にも相談していない。
三人はモンバトを使い、周囲にいるモンスターを探した。
「いたぜ!」
モンバトが示した先にいたのは――。
「ゴブリンかよ」
トーイが露骨に顔をしかめる。
「だっせぇな」
「弱いモンスターを探したんですから、ちょうどいいんじゃないですか?」
カーンが言う。
「しかたねぇ。すぐ終わるだろ」
こうして三人は、こっそりスロリアゴールを出た。
◇
森の中。
モンバトが探し出したゴブリンは四匹だった。
「四匹か」
トーイが木剣を構える。
「俺が前に出る!」
「じゃあ、僕は周りを見ます」
カーンが後ろへ下がる。
「チティは僕達の防御をお願いします」
「うん!」
チティも頷いた。
三人は、それぞれの役割を決めてゴブリンへ向かっていく。
「来るぞ!」
ゴブリンが一斉に動いた。
「うおっ!?」
トーイが木剣を振る。
だが、ゴブリンは正面から受けなかった。
横へ飛び、木の陰へ隠れる。
「こいつ!」
トーイが追いかける。
その瞬間――。
ガラッ!
足元の倒木が崩れた。
「うわっ!」
「トーイ!」
チティが結界を張る。
飛んできた小枝が結界に弾かれた。
「助かった!」
「前だけ見ないで!」
「分かってる!」
『何をしておる、マスター!』
突然、手にしている木剣から声が響く。
『こんなザコ相手に手間取るとは情けないぞ! 早く仕留めてしまえ!』
「うるせぇ!」
『口答えしている暇があるなら斬れ!』
「分かってるっての!」
トーイが木剣を振り抜く。
今度はゴブリンの動きを読んで、一体を吹き飛ばした。
「やった!」
チティが喜ぶ。
「まだです!」
カーンが叫ぶ。
「右!」
トーイが振り返る。
別のゴブリンが木の陰から飛び出してきた。
「くっ!」
トーイが木剣で受け止める。
「トーイ、そのまま!」
「おう!」
カーンがスタンガンを構える。
「今です!」
バチッ!
「ギャッ!」
ゴブリンが怯む。
「トーイ!」
「任せろ!」
木剣が振り下ろされる。
ゴブリンが倒れた。
「あと二匹!」
だが、ゴブリンたちは逃げるように見せてから、別の方向へ回り込んでくる。
「こいつら、思ったより面倒くせぇ!」
「人工モンスターより動きが読めないよぉ!」
「森の地形を利用してますね!」
カーンが周囲を見渡す。
「トーイは無理に追わないでください! 僕が位置を確認します!」
「分かった!」
「チティは僕とトーイが離れないように結界をお願いします!」
「うん!」
今度は三人が、それぞれの役割を意識して動いた。
トーイが前で敵を引きつける。
チティが結界で二人を守る。
カーンが周囲を見ながら指示を出し、隙を作る。
何度か危ない場面もあった。
それでも――。
「あと一匹!」
「いけるよ!」
「トーイ、左です!」
「おう!」
最後のゴブリンを追い詰める。
だが――。
「ギャッ!」
ゴブリンは突然、背を向けて走り出した。
「あっ!」
「逃げた!」
「待て!」
トーイが追おうとする。
「トーイ、待ってください!」
カーンが止める。
「残りは倒しました。無理に追う必要はありません」
「……そうだな」
トーイが息を整える。
逃げたゴブリンが何をしに行ったのか。
三人には分からなかった。
◇
「へへっ」
トーイが木剣を肩に乗せる。
「大したことなかったな」
「でも、みんな怪我してない?」
チティが二人を見る。
「僕は大丈夫です」
「私も大丈夫~」
「じゃあ、初めてにしては上出来ですね」
カーンが少し嬉しそうに笑う。
「思ったよりは動けましたね」
「だろ?」
トーイも満足そうだ。
「俺達、結構やれるじゃねぇか」
『当然だ、マスター!』
木剣が偉そうに言う。
『この程度のザコに苦戦していては話にならぬ!』
「お前が言うなよ」
『何をしておる、マスター! もっと胸を張れ!』
「うるせぇな!」
三人は笑った。
初めての本物のモンスター。
思っていたよりも、ちゃんと戦えた。
そのことが嬉しかった。
だが――。
ブォンッ!!
「え?」
突然、何かが飛んできた。
「危ない!」
チティが咄嗟に結界を張る。
ドゴォォォン!!
巨大な木が結界にぶつかり、地面を削りながら転がった。
「……木?」
「なんで木が飛んでくるんだよ!?」
三人が森の奥を見る。
そこから現れたのは――。
「……ゴブリン?」
カーンが呟く。
先ほど戦ったゴブリンより、明らかに大きい。
体格だけなら、さっきのゴブリンの倍はありそうだった。
手には粗末な鉄の剣。
「なんだよ、こいつ……」
トーイが木剣を構える。
「そりゃ……」
カーンが大型ゴブリンを見る。
「さっき逃げたゴブリンが、呼んできたんでしょう」
「……」
トーイの顔が引きつる。
「そういうことかよ!」
『ほう』
木剣が声を上げる。
『ようやく少しは楽しめそうではないか、マスター!』
「楽しんでる場合じゃねぇ!」
大型ゴブリンが咆哮した。
「グオオオオオオッ!」
「チティ!」
「うん!」
大型ゴブリンが鉄剣を振り下ろす。
ガギィンッ!!
チティの結界が受け止めた。
「くっ……!」
結界が大きく揺れる。
「トーイ、前をお願いします!」
「任せろ!」
トーイが飛び出す。
木剣と鉄剣がぶつかった。
ガギィンッ!
「ぐっ……!」
腕が痺れる。
「こいつ……重てぇ!」
『何をしておる、マスター!』
木剣が怒鳴る。
『こんなザコ一匹に押されるとは! しっかりせぬか!』
「うるせぇ! こいつ結構きついんだよ!」
『弱音を吐くな! 敵の剣を受けるのではない! こちらから攻めよ!』
「分かってる!」
トーイが踏み込む。
だが、大型ゴブリンの力は強い。
まともに打ち合えば押し負ける。
「俺の力だけじゃ、きっちぃなあああ!」
『ならば技を使え、マスター』
「技?」
『今のマスターなら、使える』
「新しい技か!?」
『体で覚えよ!』
木剣が風を纏う。
『斬空波!』
トーイが思い切り木剣を振り抜いた。
風の刃が飛ぶ。
ザシュッ!
「グギャアアアアッ!」
大型ゴブリンの顔を斬撃が切り裂く。
視界を奪われ、大型ゴブリンが怒りに任せて鉄剣を振り回した。
「トーイ、離れて!」
カーンが叫ぶ。
「今ならいけます!」
「おう!」
トーイが飛び退く。
「チティ!」
「任せて!」
チティが結界を張り、大型ゴブリンの動きを一瞬止める。
その隙にカーンが飛び込んだ。
手にしているのは、護身用として渡されていたスタンガン。
「これで!」
バチバチバチッ!
「グガッ!?」
大型ゴブリンの身体が大きく痙攣する。
それでもカーンは離さない。
「まだです!」
ぷすぷすぷす。
焦げ臭い匂いが漂う。
「念には念を!」
トーイが木剣を構える。
『そうだ、マスター! 今度こそ仕留めよ!』
「だああああああっ!」
トーイが踏み込んだ。
木剣が首へ叩き込まれる。
大型ゴブリンが倒れた。
「……」
「……」
「……」
三人はしばらく動かなかった。
「ふぅ……ふぅ……」
トーイが荒い息を吐く。
「……勝ったな」
「うん……」
チティが頷く。
「でも……怖かったぁ」
「僕もです」
カーンも素直に答える。
「本物のモンスターって、こんな感じなんですね」
トーイは倒れたゴブリンを見る。
「……この森、やべぇ」
先ほどまでの余裕は、もうなかった。
「ザコでこれかよ……」
「王都の弱いモンスターから練習しようよぉ~」
チティが言う。
「転移を使わせてもらおうよぉ~」
「そうですね」
カーンも頷く。
「まだ僕達には、荷が重いのかもしれません」
三人は倒したゴブリンから魔石や剣などを回収した。
「ふー……疲れたー」
そして、スロリアゴールへ引き返した。
◇
「……あなた達」
戻ってきた三人を待っていたのは、リゼットだった。
笑顔ではある。
だが、目が笑っていない。
「どこに行ってたのかしら?」
「……」
三人が固まる。
「森です」
カーンが正直に答えた。
「三人だけで?」
「……はい」
「そう」
リゼットがため息をつく。
「まだ無理よ」
「……」
「あんた達は弱いもの」
「ぐっ……」
トーイが悔しそうな顔をする。
「それにね」
リゼットが続けた。
「マドカには、人工モンスターに『殺さないように手を抜け』って言ってあるのよ」
「……え?」
「つまり、あんた達が今まで戦っていた人工モンスターは――」
リゼットは呆れたように言う。
「ずっと手加減してたの」
「「「…………」」」
三人が固まる。
「ようは、舐めプされてたのよ」
「……」
トーイが木剣を見る。
「お前も知ってたのか?」
『当然だ』
「なんで言わねぇんだよ!」
『知らぬほうがマスターは楽しかったであろう?』
「余計な気遣いすんな!」
リゼットがため息をつく。
「それに、今回勝てたとしても、本当のモンスターの殺意をまだ理解したわけじゃないわ」
「……」
「本物は、殺すつもりで襲ってくる」
チティが小さく頷く。
「……怖かったよぉ」
「そうでしょうね」
リゼットは三人を見る。
「だから、これからはちゃんとアリシアも連れて、安全にやりなさい?」
「はい」
カーンが素直に答える。
「僕達は、まだ遊び気分だったということですか」
「そういうこと」
「覚えることも多そうですね」
「多いわよ」
そこへニコラもやってきた。
「確かに今回の戦闘で、レベルは上がったと思うけど~」
三人が顔を上げる。
「この辺境って、同じゴブリンでも王都の近くより三倍はずる賢い行動してくるよ~」
「三倍……」
「森の地形も使うし~。逃げたゴブリンだって、ちゃんと仲間を呼びに行ったでしょ~?」
「……」
トーイは何も言えなくなった。
リゼットが三人を見る。
「これからは、ちゃんとアリシアも連れて、安全にやりなさい?」
「はい!」
カーンが答える。
「分かったよぉ~」
チティも頷く。
「くそおおおおおお!」
トーイが叫んだ。
「修行のやり直しだああああああ!」
『その意気だ、マスター!』
「お前ももっと早く言えよ!」
『なにを言っておる! 強くなってから気づくほうが身になるではないか!』
「絶対それ後付けだろ!」
三人はその日の夜、反省会を開いた。
初めての本物のモンスター。
初めての本物の戦闘。
そして、自分たちが思っていたよりも、ずっと未熟だったこと。
今日の恐怖を忘れないために。
三人は、これからの修行について真剣に話し合うのだった。




