拠点にお泊り
スロリアゴールでの一日を終えた王家の一行は、リゼットたちに案内されて町の外れへと向かっていた。
「こちらが、今日お泊まりいただく拠点です」
エレノアがそう言う。
「……ここが?」
王太子が建物を見上げる。
そこにあったのは、町の宿ではなかった。
大きな屋敷。
かつては、この土地を治めていた村長の家だった建物だ。
しかし、今では当時の面影を残しながらも、何度も増築や改修が行われ、かなり大きな建物へと変わっている。
「ここ、最初はもっと小さかったんですよ」
エレノアが説明する。
「私が初めて来た頃は、こんなに大きくありませんでした」
「そうなのか?」
国王が周囲を見渡す。
「ええ。マドカたちがここへ拠点を移した頃から比べると、かなり変わっています」
「……町だけではなく、こちらも変わっているのだな」
国王が感心したように呟いた。
◇
「お帰りなさいませ」
中へ入ると、拠点の者たちが出迎えた。
広い玄関。
十分な広さの廊下。
いくつもの部屋。
明るい魔道具の照明。
壁や床も綺麗に整えられている。
「……これは」
王妃が目を丸くする。
「宿ではないのですわよね?」
「はい」
エレノアが頷く。
「ここはマドカたちの拠点です」
「まあ……」
王妃はもう一度、周囲を見渡した。
「高級宿よりも立派ではありませんこと?」
「たぶん、泊まるだけならこっちのほうが快適だと思います」
エレノアが苦笑する。
「お姉様がそう言うなら、本当にそうなのでしょうね」
第二王女も興味深そうに廊下を覗き込んでいた。
「客室も用意してあります」
リゼットが言う。
「今日はここでゆっくりしていってちょうだい」
「ありがたい」
国王は素直に頷いた。
「今日一日だけでも、かなり歩き回ったからな」
「陛下、温泉にも入られたではありませんか」
王妃が笑う。
「それでも疲れるものは疲れる」
「では、今夜はゆっくり休みましょう」
王妃は嬉しそうだった。
◇
夕食の時間になると、一行は大きな食堂へ案内された。
「……また料理ですの?」
王妃が嬉しそうに呟く。
「今日は拠点の料理を楽しんでください」
用意された料理は、肉料理に魚料理、野菜料理。
それだけではない。
マドカたちが持ち込んだ地球の料理を元にした料理まで並んでいる。
「これは何だ?」
第二王子が皿を覗き込む。
「食べてみれば分かるよー」
マドカが答える。
「それが一番分からないんだが……」
戸惑いながら口に運ぶ。
そして。
「……うまい」
「でしょう?」
マドカが得意そうに胸を張る。
「こっちも美味しいですわ!」
王妃はすっかり楽しんでいる。
王太子も料理を一つずつ確かめるように食べていた。
「王都でも、これほど種類の多い食事はなかなかないな」
「マドカたちが色々な料理を知っているからですよ」
エレノアが答える。
「なるほど……」
国王は料理を眺めながら頷いた。
「スロリアゴールの食事が評判になるのも分かる気がするな」
食事の最後には、もちろんデザートまで用意されていた。
「まあ!」
王妃の目が輝く。
「まだありますの?」
「ありますよー」
マドカが答える。
「食べる?」
「いただきますわ!」
その様子を見て、国王が小さく笑った。
「今日はずいぶん楽しそうだな」
「陛下も楽しんでいるではありませんか」
「……否定はせん」
王妃に言われ、国王も笑った。
◇
夕食後。
国王は少しだけ拠点の中を見て回っていた。
町そのものも凄かった。
しかし、こうして建物の中に入ってみると、また別の凄さがある。
魔道具による照明。
温度を調整するための設備。
水を使いやすくするための仕組み。
生活を便利にするための様々な道具。
「この拠点にも、魔道具が多いのだな」
国王が呟く。
「はい」
エレノアが答える。
「ニコラやグレタが作ったものが多いです」
「ほう」
国王が周囲を見る。
「町にある魔道具とは、また違うのか?」
「ええ」
エレノアは少し考えてから答えた。
「ここにあるものは、基本的に自分たちが使うためのものですから」
「なるほど」
国王は興味深そうに頷いた。
だが、その場にいたニコラはというと――。
「……?」
眠そうな顔で国王を見るだけだった。
「ニコラ殿」
「はい~?」
「ここには、まだ色々な魔道具があるのか?」
「ありますよ~」
ニコラはあっさり答えた。
「使います~?」
「……いや」
国王は少し考えた。
「今日はもう十分驚いた気がする」
「そうですか~」
ニコラは特に気にした様子もなく、その場を離れていった。
国王はその背中を見送る。
「……随分と普通にしているな」
エレノアが苦笑した。
「いつもあんな感じです」
「そうか……」
国王は少しだけ考えた。
町にはモンバトがある。
巨大なコロシアムがある。
温泉もある。
様々な店もある。
そして、この拠点にも見たことのない魔道具がいくつもある。
「……まだ何かありそうだな」
国王が呟いた。
「あると思いますよ」
エレノアは笑った。
「この人たちですから」
◇
やがて、それぞれの部屋へ案内される。
「……広いですわね」
王妃が客室へ入るなり、感心した声を上げた。
十分な広さのベッド。
机と椅子。
衣服を置くための収納。
そして、部屋の中を明るく照らす魔道具。
「これ、本当に客室ですの?」
「はい」
エレノアが答える。
「普段から来客もありますから」
「まあ……」
王妃はベッドに腰掛ける。
「柔らかいですわ」
そのまま少し沈み込む。
「……このまま眠れそうですわね」
「お母様、寝る前ですよ」
第二王女が笑う。
「分かっていますわ」
そう言いながらも、王妃はかなり満足そうだった。
国王の部屋でも同じような光景が広がっていた。
部屋は広く、清潔。
寝具も上質で、必要なものは一通り揃っている。
王都の王城と比べても、決して見劣りしない。
「……これが開拓地の拠点か」
国王は部屋を見渡した。
最初に聞いた時には、スロリアゴールをただの辺境の町だと思っていた。
実際に来てみれば、町は大きく発展していた。
そして、その中心にいるマドカたちの拠点もまた、普通の開拓地とはかけ離れている。
「陛下」
王妃が部屋へ顔を出す。
「どうしました?」
「少しだけお話しません?」
「構わん」
王妃が嬉しそうに入ってくる。
「今日は本当に楽しかったですわ」
「そうだな」
「町も面白かったですし、料理も美味しかったですし、温泉も気持ちよかったですわ」
「モンバトもあったな」
「それは陛下が負けたではありませんか」
「……」
国王が黙る。
「次は勝つ」
「ふふっ」
王妃が笑った。
「では、また来なくてはいけませんわね」
「そうだな」
国王も笑う。
「また来ればいい」
王妃は満足そうに頷いた。
「楽しみですわ」
◇
その夜。
スロリアゴールの町は静かに眠りへと向かっていた。
昼間の喧騒も少しずつ落ち着き、店の明かりも一つ、また一つと消えていく。
そして、その町の拠点では――。
王家の者たちも、それぞれの部屋で眠りにつこうとしていた。
「……今日は色々あったな」
国王がベッドに横になる。
王都を出て、スロリアゴールを見て。
美味しい料理を食べ、温泉に入り、モンバトで戦った。
どれも王城にいるだけでは経験できないことだった。
「また来てもよいかもしれんな」
そう呟いて、国王は目を閉じる。
一方、別の部屋では。
「明日は何を見せてもらえるのかしら?」
王妃が楽しそうに呟いていた。
それを聞いたエレノアが苦笑する。
「明日も、きっと驚くと思いますよ」
「まあ。楽しみですわ」
こうして。
王家のスロリアゴール訪問二日目を前に、長い一日が終わった。
そして翌日。
王家は、この拠点にまだ隠されていた――
**とんでもない物たちを知ることになる。**




