スロリアゴール、誕生
マドカ達が暮らす開拓地は、いつの間にか大きく様変わりしていた。
最初は、ただの荒れた土地だった。
村長の家を拠点にして、少しずつ畑を増やし、家を建て、道を整えていった。
それが今では――
「いらっしゃいませー!」
「温泉はこちらですよ!」
「お土産なら、あちらの店がおすすめです!」
あちこちから人の声が聞こえてくる。
宿屋がある。
温泉もある。
農具を扱う店、鍛冶屋、武器や防具を扱う店、魔道具屋。
牧場も増え、食事を出す店も増えた。
ここでしか手に入りにくい素材を目当てに訪れる者もいれば、噂を聞いて観光に来る者もいる。
湖の周辺はすっかり避暑地として定着しており、暖かい季節になると、のんびり湖を眺めながら過ごす観光客の姿まで見られるようになっていた。
「この辺り、本当に元は開拓地だったのか?」
「私も最初はそう聞いて来たんだけど……もう町だよね、これ」
「しかも料理が美味しいんだよな」
「王都より美味しいんじゃないか?」
観光客の評判も上々だった。
商業ギルドも、この状況を黙って見ているわけではない。
積極的に観光ツアーを組み、王都や周辺地域から人を呼び込んでいる。
おかげで町には、以前とは比べ物にならないほど人が増えていた。
そして最近、特に人気なのが――
「いけーっ!」
「そこだぁぁぁ!」
「うおおおおおっ!!」
巨大な歓声が響き渡る。
その先にあるのは、大きなコロシアム。
ここでは最近、モンスターゲット・バトラー――通称モンバトが大人気になっていた。
しかも、ただのモンスターではない。
マドカ達が怠惰のダンジョン、その十九層という超難関区域から連れてきたモンスター達だ。
普段見ることのできない強力なモンスター同士の戦い。
その迫力は凄まじく、今ではそれを見るためだけに訪れる観光客までいるほどだった。
「すげえ……!」
「あんなモンスター、初めて見た!」
「これを見るために来る価値はあるな!」
さらに別の場所では――
「そこ!」
「まだだ! ここでひっくり返す!」
「待った!」
「待ったは無し!」
ゲームの集会場まで盛り上がっていた。
マドカが村人達の遊び場として用意したカードゲームやボードゲーム。
その中にはオセロやトランプも含まれている。
地球では珍しくもない遊びだ。
だが、この世界では十分に新しい娯楽だった。
のんびり遊ぶために作ったはずなのに、勝負が始まれば誰もが本気になる。
「もう一戦だ!」
「次は負けない!」
怠惰の国で、今日ものんびりと熱い戦いが繰り広げられていた。
そんな町のあちこちでは、マドカ達の姿も見られる。
「マドカちゃん、このモンスターってどうやって捕まえたんですか?」
「えっとねー、ダンジョンで見つけて――」
「そんな簡単に言わないでくださいよ……」
観光客に囲まれているマドカ。
「この魔道具、どういう仕組みなんですか?」
「ん~? ニコラに聞いてみて~」
「ニコラさん、あちらですよ」
「え、私~?」
魔道具屋ではニコラが客に捕まっている。
鍛冶屋ではグレタが職人達と話し込み、牧場ではヒナタが農業や家畜の話をしている。
リゼットも温泉や宿で観光客から声を掛けられていた。
気付けば、マドカ達は町のあちこちに散らばっていた。
本人達は町を経営しているつもりなど、ほとんどない。
それでも、この場所を作った者達として、自然と町の人々や観光客と交流するようになっていた。
「……」
そんな町を眺めながら、一人の少女が静かに考えていた。
エレノアである。
「これは……」
最初にこの場所を見た時とは、まるで違う。
ここまで大きくなるとは、エレノアも予想していなかった。
「エレノア様!」
「どうしました?」
「実はお願いがありまして……」
村人の一人が近付いてくる。
「この町なんですが……」
「はい」
「そろそろ名前を決めた方がいいのではないかと思いまして」
「ああ……」
エレノアも頷いた。
確かに、いつまでも「村」や「開拓地」では呼びにくい。
「それでですね。私達だけで決めるよりも、この場所を作ってくださったマドカ様達に決めていただければと」
「なるほど」
こうして、急遽マドカ達が集められることになった。
「町の名前?」
「そうです」
マドカは首を傾げた。
「別に村でいいんじゃない?」
「マドカさん……」
エレノアが苦笑する。
「もう村と呼ぶには規模が大きすぎます」
「そうかなー?」
「そうですよ」
みんなで考える。
「スリーピアとか?」
「それは国の名前じゃない?」
「じゃあ……スロー?」
ニコラが言った。
「怠惰っぽいし~」
「スロー……」
マドカは少し考える。
そして、
「スロリア……」
そこから少しだけ考えて、
「スロリアゴール!」
「……」
「……」
「……いいんじゃない?」
リゼットが言った。
「スロリアゴール……」
村人が何度か口にする。
「うん。いい名前ですね!」
「では、この町の名前はスロリアゴールということで!」
こうして、今まで名前のなかった開拓地に、正式な名前が付いた。
スロリアゴール。
新しい町の名前である。
「それにしても……」
エレノアは改めて町を見渡した。
「この調子で発展していくのでしたら、そろそろ国王陛下にも一度見ていただいた方がよいでしょうね」
「え?」
マドカが振り返る。
「王様を呼ぶの?」
「はい」
「……めんどうだなー」
「なんで!?」
エレノアが思わず声を上げる。
だが、村人達は違った。
「国王陛下が!?」
「この町に!?」
「大変だ!」
「道を整えないと!」
「店も綺麗にしないと!」
突然、大騒ぎになった。
「……なんでみんなそんなに慌ててるの?」
マドカが不思議そうに眺める。
「国王様が来るんだから当然でしょう!」
村人達は大忙しだった。
そんな様子を見ていたマドカが、ふと思い付く。
「じゃあさ」
「はい?」
「せっかく王様が来るなら、なんか目玉作る?」
「目玉?」
「町のシンボルになるようなやつ」
「それなら~」
ニコラの目が輝いた。
「面白そうだね~」
こうして始まった。
巨大ゴーレムの製作が。
「でかいな……」
グレタが見上げる。
「町のシンボルだからね」
「しかし、こんなものを何に使うんじゃ?」
「普段は立ってるだけ」
「……」
「非常時には動かす」
「どうやって?」
ニコラが小さな魔道具を取り出した。
「これ~」
「……ラジコン?」
「ラジコン~」
巨大ゴーレムは、普段は町を見下ろすランドマーク。
もし巨大なドラゴンなどが襲ってきた場合には、魔道具によって遠隔操作できるようにする。
もっとも、そんな非常事態が起こらないことが一番なのだが。
「これも作ろうよ」
マドカが別の紙を広げる。
「何ですか、それ?」
「スロリアゴールのTシャツ」
「Tシャツ?」
「あと、ぬいぐるみ」
「ぬいぐるみまで?」
モンバトで人気のモンスターをモデルにしたぬいぐるみ。
スロリアゴールの名前が入ったTシャツ。
その他にも、観光客が持ち帰れる土産物が次々と考えられていく。
「これは売れるでしょう!」
商業ギルドの職員が目を輝かせる。
「うん。観光客が増えそうだね」
「もう十分増えていますけどね……」
エレノアが町を見渡す。
すでに多くの人が行き交っている。
それでも、まだ発展は止まりそうにない。
こうしてスロリアゴールでは、国王を迎えるための準備が着々と進められていった。
巨大なゴーレム。
新しい土産物。
そして、町そのもの。
果たして国王は、この町を見て何を思うのだろうか。
その答えは――もうすぐ分かることになる。




