合流したが 本人は通常通り
古代の転移魔法陣を抜け、行き先不明のまま見知らぬ『遺跡の残骸』へと辿り着いたリゼット、ヒナタ、ニコラ、グレタ、カトリーヌの5人。
「とにかくマドカたちの手がかりを……!」
と、険しい表情で近くの王都ベルゼピアへと向かった彼女たちだったが――。
街に入るや否や、捜索は一瞬で終わることになった。
なぜなら、街のあちこちの食堂や露店から、こんな噂が嫌でも耳に飛び込んできたからだ。
『おい、聞いたか? 最近、街の飯屋を回って神がかったアドバイスをくれる、白髪のガキと変な妖精の噂』
『ああ! あの二人のおかげで、どこの店の料理もめちゃくちゃ質が上がってるらしいぜ!』
「……白髪のガキと、変な妖精ねぇ」
腕を組んだグレタが呆れたように呟き、カトリーヌが「魔力波形を調べるまでもありませんね」と眼鏡の位置を直す。
リゼットはこの一週間の心労は何だったのかと、遠い目をしながら噂の現場である人気の食堂へと向かった。
店の扉を開けると、案の定、テーブルいっぱいに美味そうな肉料理を並べて、口の周りをソースだらけにしている白髪の少女の姿があった。
「あ、リゼットたちじゃん! あれ、迎えに来てくれたの?」
一週間ぶりに再会した“行方不明者”は、悲壮感など微塵もない、あまりにもあっけらかんとした声を上げた。
リゼットがピキピキと青筋を立てながら「マドカ……あなた、一週間もどこで何をしていたの……?」と詰め寄ると、マドカは肉をモグモグと咀嚼しながら平然と言い放つ。
「いやー、実は帰り方わかんなかったんだよね!」
「帰り方が分からないのに、どうしてこんなに満喫しているのよ!!」
大人の余裕を完全に無くしたリゼットの怒鳴り声が店内に響き渡る。
すると、マドカの肩の上で同じように小さな肉を突っついていたティニアが、慌てて羽をパタパタさせながら必死の形相で弁解を始めた。
「ち、違うのよリゼット! あたしはちゃんと考えてたわよ!? 『元の国に帰る方法を探さなきゃ』って何度も言ったのに、マドカが『せっかくカードも登録できたし、依頼しながらゆっくりしようよー』って、ずーっと適当だったんだから!」
「ティニア、あんたもあんたよ! 巻き込まれたならもっと強く言いなさい!」
「理不尽だわーーー!?」
ニコラは「相変わらずだね〜」とクスクス笑い、ヒナタは「元気そうで良かったです……」と真面目に胸をなでおろす。
「帰り方が分からなかったのなら、仕方がないわね。……でもマドカ、お仕置きは村に帰ってからじっくりね?」
「うへぇ、リゼットの笑顔が怖い……」
ひとしきり説教が終わった後、カトリーヌが街の近くにある遺跡(暴食側の転移陣)を調査したところ、あちこちの魔導回路が焼き切れていることが判明した。
「これを完全に修復して、20層へ安全に繋ぎ直すには……そうですね、私とグレタさん、ニコラさんで全力で作業しても、丸三日はかかります」
カトリーヌが真面目な口調で報告すると、リゼットは小さく溜息をついた。
「そう。じゃあ、その間はここに滞在するしかないわね。そうしましょう」
この瞬間、マドカとティニアの『暴食の国グルメツアー』の、数日間の延長が正式に決定したのだった。
「やったー! じゃあリゼット、あっちの露店の串焼き、すっごく美味しいからみんなで食べに行こうよ!」
「もう、マドカったら……。でも、一週間もまともなご飯を食べていないんじゃないかと心配していたのよ? どんな美味しいものがあるのか、案内してちょうだい。せっかくだから最高級のホテルにしましょう」
結局、過保護でマドカに甘いリゼットは、すぐにいつもの大人な微笑みに戻ってマドカの頭を撫でるのだった。
そこからの三日間は、まさに『食べ道楽』のお祭り騒ぎだった。
マドカとティニアに連れられて、リゼットたちも王都ベルゼピアの様々な食堂や屋台を巡った。
「う〜ん〜、このお肉〜、本当に柔らかくて美味しいね〜。これなら作業も頑張れそう〜」
と、ニコラはまったり肉を頬張り、ヒナタも「この国のお野菜、シャキシャキしていて凄いです! 村の厨房でも使ってみたいです!」と、目を輝かせて真面目に食文化を勉強している。
さらに、ただ食べるだけでは終わらないのが、今や商業ギルドが参入してウハウハな怠惰の村のメンバーである。
マドカがバイトで稼いだ大量の報酬と、リゼットが持ってきた潤沢な資金を使って、二人はお土産や珍しい品物の『爆買い』を始めた。
「これ、村のみんなへのお土産ね! あと、この見たことないお野菜と、食用モンスターの干し肉も全部ちょうだい!」
「マドカ、買いすぎよ! ……って、あら? このお野菜、村の畑に植えたらおいしそうじゃない。すみません、そっちの種も一袋頂けるかしら」
「リゼットだって買ってるじゃん!」
さらに、鍛冶師のグレタと魔道具研究家のカトリーヌも、修理の合間に目をギラつかせながら市場に突撃していた。
「おい、このモンスター素材、怠惰の国じゃあお目にかかれねえ珍品じゃねえか! 武器の補強に最高だ、全部包め!」
「こちらの魔石も、暴食の国特有の魔力波形を帯びていますね……! 研究材料として、予算の許す限り買い込みます!」
気がつけば、マドカたちの荷物袋は、知らない食材、珍しい野菜、強力なモンスター素材や魔石でパンパンに膨れ上がっていた。
三日後。
カトリーヌ、ニコラ、グレタのプロフェッショナルな仕事によって、遺跡の転移陣からは「いつでも跳べるよ〜」と青い正常な魔導光が美しく溢れていた。
「さぁ、それじゃあ村に帰りましょうか」
リゼットの合図で、両手にお土産の袋をこれでもかと抱えたメンバーたちが、次々と魔法陣の中へ入っていく。
一週間以上の行方不明騒ぎだったというのに、帰る全員の顔は、なぜか観光旅行帰りのように満足げに満ち足りていた。
ゲートを消し飛ばすほどの異常な魔力から始まったマドカとティニアの暴食グルメツアーは、村のメンバーを巻き込んだ大お買い物ツアーという、これ以上ないほど賑やかでマドカ達らしい大団円を迎えて、怠惰の国へと帰還するのだった。




