暇だなー
商業ギルドが村に参入したことで、村全体がさらに活気づいていた。
新しくできた支部では、村で作られた商品が次々と運び込まれている。
農作物。
魔道具。
モンスター素材。
そして、モンスターゲット・バトラー。
村人たちはそれぞれ、自分たちの仕事で忙しそうにしていた。
「私たちも何か手伝おうか?」
マドカはティニアと一緒に、村のあちこちを見て回った。
畑を見学する。
商業ギルドの支部を見学する。
魔道具を作っている場所も見学する。
建築現場にも顔を出した。
そして、そのたびに手伝いを申し出る。
「何かやることある?」
「いえ、お二人は見学を楽しんでください」
「……そう?」
別の場所へ行く。
「私たちも手伝うよ!」
「いえいえ。大丈夫です。見学していてください」
また別の場所へ行く。
「何か仕事ない?」
「ありませんね」
どこへ行っても同じだった。
マドカとティニアが手伝おうとすると、誰もが笑顔で断る。
別に嫌われているわけではない。
むしろ、みんなマドカたちに感謝している。
だからこそ。
「マドカさんたちは、ゆっくりしていてください」
そう言われるのだった。
拠点のメンバーも同じだ。
リゼットは魔法の修行。
ニコラは魔道具やゲームの研究。
グレタは鍛冶や建築関係。
カトリーヌは研究。
ヒナタは畑や薬、料理関係。
それぞれが自分のやるべきことを見つけて、忙しそうにしている。
「暇だなー……」
マドカは村のベンチに座って、ぼんやり空を見上げた。
隣にはティニアがいる。
「ねぇ、ティニア」
「なによ?」
「私って必要かな?」
「…………」
ティニアは少し考える。
「マドカ」
「うん」
「あんた、ハブられてんのよ!」
「えっ」
「自分たちを中心に村が回ってるとか、調子に乗ってんじゃないわよ!」
「うーん……」
マドカは腕を組んだ。
少し考えて。
「確かに……」
「でしょ?」
「人工モンスターもいるし」
「うん」
「村のみんなも、それぞれ自分で仕事できるようになってるし」
「そうね」
「私、やることないね!」
「今頃気づいたの? おっそいわね!」
ティニアが呆れたように言う。
「あたしはずっと前から気づいてたわ!」
「マジかー。早く言ってよ~」
「言う必要ある?」
「あるよ!」
「ないわよ」
二人はしばらく顔を見合わせる。
そして。
「どこか遊びに行きましょうよ!」
ティニアが言った。
「うーん……」
マドカは考える。
「……あっ」
何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ!」
「何よ?」
「ヒナタのいたダンジョンって、レアモンスターいっぱいじゃん!」
「……そうね」
「ゲットしに行こう!」
「いいわね!」
ティニアの目が輝く。
「あたしも強いモンスターがほしいし!」
「じゃあ決まり!」
「付き合ってあげるわよ!」
◇
こうして二人は、怠惰の新たに現れたダンジョンへ向かうことになった。
このダンジョンは、元々何千年もの間、ヒナタの時間スキルによって現代から切り離されていた。
外の世界では時間が進んでいる。
しかし、このダンジョンだけは違った。
長い年月の中で、内部のモンスターたちは独自の進化を遂げていた。
現代のモンスターなど、相手にもならない。
それほどまでに強力な魔物が、当たり前のように存在している。
「やっぱり、このダンジョンすごいわね……」
ティニアが呟く。
マドカと一緒に進みながら、ティニアのレベルも確実に上がっていた。
強敵と戦う。
経験を積む。
そして、また強敵と戦う。
その繰り返しだった。
そして二人は、二十層まで到達する。
「……ここならいいかな」
マドカが周囲を見渡す。
そこには何もない。
魔物もいない。
人もいない。
ただ静かな空間が広がっている。
「誰もいないわね」
「うん」
マドカは少しだけ笑った。
「ここなら、全力で試せそう」
「……え?」
ティニアが嫌な予感を覚える。
「マドカ?」
「ちょっと力を出してみようかな」
「ちょっとって……」
マドカがゆっくり構える。
そして。
「はああああああああああああああああああっ!」
気合いを入れた瞬間。
膨大な魔力が周囲へ広がった。
「は、はわわ……」
ティニアが思わず後ずさる。
「こいつ……とんでもないわね!」
マドカ自身は、自分の力がどこまで通用するのか試しているだけだった。
だが。
その膨大な魔力に反応するものがあった。
「……ん?」
マドカが振り返る。
何もなかったはずの空間。
そこに、僅かな亀裂が走っていた。
ピシッ。
「何これ?」
空間そのものに亀裂が入る。
そして、その亀裂が大きく広がっていく。
「マ、マドカ!」
「なに?」
「なんか出てきたわよ!?」
「え?」
二人の目の前で、空間が大きく割れた。
その向こう側に見えるのは、このダンジョンとはまったく違う景色。
「……なんだこれ!」
マドカが目を輝かせる。
「すっご!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「触っても……」
マドカがゲートへ近づく。
「平気かな?」
「いや、絶対やめたほうがいいと思うんだけど!」
ティニアの制止も聞かず、マドカはさらに一歩近づく。
「おもしろそうね!」
「でしょう!?」
「じゃあ――」
「待ちなさい!」
しかし。
二人がゲートへ近づいた瞬間。
空間が大きく揺らいだ。
「え?」
「なっ――」
次の瞬間。
二人の身体は、まるで吸い込まれるようにゲートの中へ消えていった。
◇
一方その頃。
村では、マドカとティニアの姿が見えなくなったことに気づいた者がいた。
「そういえば、マドカさんとティニアさんは?」
「さっきまで村を歩いていたんだけどな」
「どこかへ遊びに行ったんじゃないですか?」
いつものことだった。
マドカは暇になると、ふらふらと村を見て回る。
ティニアも一緒にいることが多い。
だから最初は、誰も気にしていなかった。
しかし。
「念のため、拠点の人たちには伝えておきましょうか」
村長がそう言った。
「そうですな」
別に心配しているわけではない。
ただ、マドカはこの村にとって重要な人物だ。
どこかへ出かけるなら、それくらいは把握しておいたほうがいい。
「マドカさんとティニアさんが、どこかへ出かけたようです」
村人から拠点へと伝えられる。
「そうなの?」
ヒナタが首を傾げる。
「たぶん、遊びに行ったんじゃないかな~」
ニコラも特に気にしていない。
「マドカちゃん、最近暇そうだったからね」
「ティニアも一緒なら、まあ大丈夫でしょう」
グレタも作業を続けながら答える。
「帰ってくるまで放っておけばいい」
「……そうですね」
カトリーヌも頷いた。
リゼットだけが少し考える。
「まあ、あの二人なら大丈夫でしょう」
結局。
誰も慌てることはなかった。
マドカは強い。
ティニアも、最近はかなり強くなっている。
それに、この村の周辺で何かあったとしても、人工モンスターが巡回している。
だから。
「遊びに行ってるなら、そのうち帰ってくるでしょ」
そんな認識だった。
誰も知らない。
マドカとティニアが。
すでに、この世界のどこにいるのかすら分からなくなっていることを。




