人工モンスター
新しい開拓地の地下。
そこには、いつの間にかニコラの研究室が作られていた。
「えへへ~。これが出来たら、みんな喜ぶだろうなぁ~」
ニコラは培養カプセルの中を覗き込みながら、楽しそうに笑っている。
カプセルの中には、まだ動かない小さなコボルトのような姿をしたものが浮かんでいた。
その隣には、中身のない鎧。
さらに別のカプセルには、馬の形をしたゴーレムが入っている。
どれもマドカが描いたモンスターの絵を元に作られた、人工モンスターだった。
「これは村の見回り用。こっちは荷物運び。馬型は畑を耕したり、荷車を引いたりできるよ~」
「……人工モンスターって、そんなことまで出来るの?」
「出来るように作ったからね~」
ニコラは得意そうに胸を張った。
「体の表面に魔石があるから、それでエネルギーを補給するの。大気中のマナを吸収したり、日光から力をもらったり、誰かに魔力を注いでもらったりも出来るよ~」
「便利だな……」
「それと、安全装置もちゃんとあるよ~」
ここはニコラが珍しく真面目な顔になった。
「起動するときに、この開拓地の住民を登録するの。登録された人は絶対に攻撃しない」
「絶対?」
「うん。攻撃されても反撃しないようにしてあるよ~」
そしてニコラは、にこっと笑った。
「でも、モンスターは別」
「……別?」
「モンスターを見つけたら、ちゃんと倒すよ~」
数日後。
「わんお!」
村の中を、可愛らしいコボルトが歩いていた。
「……可愛い」
子供たちが集まってくる。
コボルトは尻尾を振りながら子供たちの間を歩いていく。
ところが、村の外でモンスターの気配を感じると――
「わんお!」
さっきまでとは別人のような勢いで走り出した。
「うわっ、速い!」
人工モンスターは森から出てきた魔物へ向かっていく。
そして、きっちりと仕留めて戻ってきた。
「……本当に魔物には容赦ないんだな」
「そういう設定だからね~」
こうして人工モンスターたちは、少しずつ開拓地の生活に馴染んでいった。
見回り。
警備。
荷物の運搬。
農作業。
そして、リビングアーマーは子供たちの剣の練習相手にもなった。
「もう一回!」
「了解」
ガキン!
「もう一回!」
「了解」
ガキン!
「……あの鎧、疲れないの?」
「人工モンスターだからね~」
そんな日々が続く中、開拓地では新しい工事が始まった。
木の壁を、石の壁へ。
それも、ただの石壁ではない。
魔物の襲撃にも耐えられる、かなり頑丈なものを作ることになった。
大量の石材を人工モンスターが運び、リビングアーマーが持ち上げ、ゴーレムが施工を手伝う。
人間だけでは到底できない速度で工事が進んでいった。
そして数か月後。
「…………」
完成した壁を見上げ、マドカは黙っていた。
高い。
分厚い。
しかも開拓地をぐるりと囲んでいる。
壁の上には迎撃用のバリスタまで設置されていた。
村の入り口には巨大な城門。
その前には跳ね橋。
さらに、その下には水が張られた堀がある。
水の中では、水棲モンスターが悠々と泳いでいた。
「…………」
「…………」
「…………」
集まった村人たちも、誰も何も言わない。
しばらくして、一人が呟いた。
「これ……やばくね?」
「うん」
マドカも頷いた。
「どう見ても村じゃないよね、これ」
「砦より凄いような……」
そこへニコラがやってくる。
「完成したよ~!」
満面の笑みだった。
「これなら、みんな安心して暮らせるね~」
誰も反論できなかった。
開拓地の防壁は、いつの間にか領内の砦よりも立派なものになっていた。




