暑いから湖へ
新しい拠点での生活が始まってから、しばらく。
開拓、畑仕事、研究、鍛冶。
毎日のように何かしら仕事をしている一行だったが、その日は珍しく予定がなかった。
「……ねえ」
昼食を終えたマドカが、突然顔を上げる。
「暇じゃない?」
「暇って言われてもね~」
ニコラが眼鏡を押し上げる。
「今日はお休みの日だからね~」
「だったら遊びに行こう!」
「どこへ?」
「湖!」
マドカが即答した。
「この近くに湖があるんでしょ?」
「少し歩くけど、あるわね」
リゼットが頷く。
「せっかくだし、みんなで行ってみる?」
「賛成です」
アリシアも嬉しそうに笑う。
「私も行きたいです!」
ヒナタが手を挙げる。
「私も!」
チティも小さく手を挙げた。
「では決まりですね」
エレノアが頷く。
「ただし、今回は女性だけです」
「なんでだよ!」
近くにいたトーイが即座に反応した。
「男は参加禁止」
「横暴だ!」
「諦めなさい」
リゼットが笑う。
「今日は女の子だけで楽しむのよ」
「……ちぇー」
トーイが肩を落とす。
「じゃあ俺たちはモンスターゲームやってるからな!」
「そうしなさい」
こうして男性陣を置いて、女性陣だけで湖へ向かうことになった。
少し歩いたところで、木々の向こうに湖が見えてくる。
「わぁ……」
ヒナタが目を輝かせた。
広い湖だった。
陽の光を受けた水面がきらきらと輝き、周囲には木々と草原が広がっている。
「綺麗ですね」
アリシアも思わず足を止める。
「よし!」
マドカが荷物を置く。
「遊ぼう!」
それぞれ着替えを済ませ、湖畔へ出る。
ブリジットは赤いスポーティーな水着。
エレノアは青いスポーティーな水着。
ニコラとカトリーヌは大人っぽいビキニ。
リゼットは水色のビキニ。
アリシアは水色のおしゃれなビキニ。
マドカは黒のおしゃれなビキニ。
ヒナタとチティはかわいらしいワンピース水着。
そしてティニアは妖精サイズの小さな水着で、みんなの周りを飛んでいる。
「どう?」
マドカが胸を張る。
「……まあ、似合ってるわよ」
リゼットが笑う。
「今日は遊ぶんだから、細かいことはいいじゃん!」
マドカはそのまま湖へ駆けていった。
「わー!」
「マドカ、走ると危ないですよ!」
アリシアが追いかける。
「待ってください~!」
ヒナタとチティも続く。
水しぶきが上がり、湖畔に笑い声が響いた。
「冷たーい!」
「気持ちいいですね!」
「ティニアも来なよ!」
「私は飛んでる方が楽なのよ!」
ティニアが上空から水面へ急降下する。
「きゃっ!」
小さな水しぶきが上がった。
「やったわ!」
「楽しそうね」
リゼットが笑う。
しばらく泳いだり、水を掛け合ったりして遊んでいると、マドカがふと湖を覗き込んだ。
「……魚いるね」
「本当ですね」
アリシアも覗き込む。
「結構いますよ」
「じゃあ捕まえよう!」
「遊びに来たんじゃなかったの?」
カトリーヌが呆れたように言う。
「遊んでたじゃん」
「そうですけど」
「お腹空いた」
「……それなら仕方ありませんね」
結局、魚を捕まえることになった。
エレノアとブリジットが浅瀬を歩きながら魚を追い込み、マドカが素早く捕まえる。
「取った!」
「上手ですね、マドカ」
「昔からこういうの得意なんだよ!」
次々と魚を捕まえていく。
ヒナタはその様子を見ながら、持ってきた野菜を並べていた。
「畑から少し持ってきました」
「最高!」
マドカが笑う。
「じゃあ今日はBBQだ!」
「バーベキュー?」
アリシアが首を傾げる。
「こうやって焼いて食べるの」
マドカは簡単なかまどを作り、火を起こす。
魚に塩を振り、串に刺して焼いていく。
肉や野菜も鉄板に並べる。
「いい匂いですね……」
ヒナタのお腹が小さく鳴った。
「……」
「……」
「……今のは聞かなかったことにしましょう」
ヒナタが顔を赤くする。
「いや、聞こえたけど」
マドカが笑う。
「もうすぐだから待ってて」
魚の皮がぱちぱちと音を立てる。
肉から脂が落ち、香ばしい匂いが広がっていく。
「完成!」
焼き魚を取り出したところで、マドカがもう一つの鍋を見る。
「さて……」
「まだ何か作るの?」
ニコラが聞く。
「麺!こないだ小麦粉から作ってやっと形になったんだよ!」
「麺?」
「暑いから冷たいのも欲しい!」
マドカは材料を取り出した。
「冷やし中華作る!他にも焼きそばもできるよ!」
「私は焼きそばがいいわ」
ブリジットが即答する。
「私も焼きそばを」
エレノアも頷いた。
「冷やし中華ですか。冷たい物がいいです。」
アリシアが言う。
「私は冷やし中華がいいです!」
ヒナタも手を挙げる。
「私も……」
チティも小さく頷いた。
「私はどっちでもいいよ~」
ニコラはのんびりしている。
「私は冷やし中華かな。どんなものかわからないけど」
カトリーヌも答える。
「私は焼きそば!」
マドカが宣言した。
「じゃあ、半分ずつ作ればいいんじゃない?」
リゼットが言う。
「それだ!」
マドカはすぐに納得した。
こうして、湖畔で焼きそばと冷やし中華を同時に作ることになった。
「まず焼きそば!」
肉、野菜、麺を鉄板へ。
じゅうううっ、と音がする。
「ソース!」
香ばしい匂いが一気に広がる。
「こっちは冷やし中華!」
茹でた麺を冷水で締め、野菜や卵を乗せる。
「タレをかけて……完成!」
「どっちも美味しそうですね」
アリシアが目を輝かせる。
「両方食べればいいじゃん」
マドカが笑う。
「そうですね」
「ティニアは?」
「両方に決まってるでしょ!」
「だよね」
こうして、湖畔には大量の料理が並んだ。
焼き魚。
焼いた肉。
野菜。
焼きそば。
冷やし中華。
そして、ヒナタが持ってきた果物まである。
「いただきます!」
全員で声を揃える。
「……おいしい」
ヒナタが焼き魚を頬張る。
「湖で捕った魚だからね!」
「新鮮ですものね」
アリシアも嬉しそうに食べる。
「焼きそばも美味しい!」
ブリジットが箸を進める。
「冷やし中華もいいですよ」
アリシアが笑う。
「ほら、やっぱり両方必要だったんだよ」
マドカが得意そうに言う。
「最初から両方作るつもりだったんじゃないの?」
カトリーヌが突っ込む。
「ばれた?」
笑い声が起こる。
食事が一段落すると、みんな湖畔でのんびり過ごした。
泳いだり、水を掛け合ったり。
ティニアを捕まえようとして逃げられたり。
疲れたら木陰で休んだり。
普段なら開拓や研究で忙しい一行だったが、その日は何も考えずに遊んだ。
そして夕方。
帰り支度をしていると、ニコラがふと口を開いた。
「……そういえばさ~」
「ん?」
マドカが振り返る。
「中華って何?」
「…………」
「…………」
「…………」
一同が固まった。
「え?」
マドカが間の抜けた声を出す。
「いや~、さっきから気になってたんだけど~」
ニコラが首を傾げる。
「中華って、どういう意味なの?」
アリシアも不思議そうにマドカを見る。
「そういえば、私も知りません」
「私も……」
ヒナタが頷く。
「料理の名前ではあるんですよね?」
エレノアまで真面目な顔をしている。
「……えーっと」
マドカは腕を組んだ。
「私のいたところの……料理?」
「どこの?」
「…………」
みんなが顔を見合わせる。
「つまり、中華というのは?」
「えーっと……」
マドカは困った。
異世界の人間に中国料理とは何かを説明する。
そもそも中国という国そのものが存在しない。
文化も歴史も違う。
「……細かいことはいいじゃん!」
マドカが開き直った。
「美味しいでしょ?」
「美味しいですね」
アリシアが即答する。
「うん~」
ニコラも頷く。
「美味しかったです!」
ヒナタも笑う。
「なら問題ない!」
マドカは胸を張った。
「焼きそばも冷やし中華も、美味しい料理!」
「なるほど」
エレノアが頷く。
「中華というものが何なのかは分かりませんが、美味しいことだけは分かりました」
「それでいいんだよ!」
マドカは笑った。
こうして。
この日を境に、彼女たちの中では新しい料理の分類が一つ増えた。
――中華。
意味はよく分からない。
けれど。
美味しい。
それだけで十分だった。
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