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落内円は落ちている  作者: 七風


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ヒナタファンクラブ

新しい拠点での生活が始まって、しばらく経った。


 家が建ち、道が整えられ、鍛冶場や研究施設も少しずつ形になっていく。


 村人たちも自分たちの仕事を見つけ始めていた。


 そんな中。


「……ここ、畑にしようかな」


 ヒナタは拠点の一角にある空き地を眺めていた。


「畑?」


 トーイが不思議そうに聞く。


「うん。野菜とか育てたい」


「野菜なんて買えばいいだろ?」


「それもそうだけど……」


 ヒナタは土にしゃがみ込んだ。


 手で土を触る。


「……ここなら、育つと思う」


「なんで分かるんだ?」


「……分かんない」


 ヒナタ自身も困ったように笑う。


「なんとなく」


 土を握る。


 水を含んだ量。


 柔らかさ。


 日当たり。


 植物を植える場所。


 そういうものが、なぜか感覚的に分かる。


 けれど、その理由をヒナタは知らない。


 自分が昔、何をしていたのか。


 どこで暮らしていたのか。


 何が好きだったのか。


 記憶には何も残っていない。


「……まあ、やってみよう」


 ヒナタは立ち上がった。


「何を植える?」


 カーンが聞く。


「まずは薬草かな」


「薬草?」


「うん。常備薬にも使えるし」


 ヒナタは近くの森から採取してきた薬草を並べた。


「これは日当たりのいいところ」


「こっちは少し日陰」


「これは水を多めにして……」


 村人たちが集まってくる。


「ヒナタちゃん、詳しいな」


「そうかな?」


「うん。俺たち、こんなこと知らないぞ」


「……私も、知らないはずなんだけどね」


 ヒナタは首を傾げる。


 それでも手は止まらなかった。


 土を耕し、種を植え、水をやる。


 やっていることは、どこか懐かしい。


 けれど、その「懐かしい」という感覚すら、記憶には繋がらなかった。


 数日後。


「芽が出た!」


 ヒナタが嬉しそうに声を上げる。


 小さな緑色の芽が、土の中から顔を出していた。


「本当だ!」


「早いな」


「ちゃんと育ってる!」


 村人たちも集まってくる。


 ヒナタはしゃがみ込み、芽をじっと見る。


「かわいい……」


 その表情を見ていた村人の一人が、小さく呟いた。


「……ヒナタちゃん、植物好きなんだな」


「うん」


 ヒナタは笑った。


「なんか、好き」


 やっぱり理由は分からない。


 でも、植物を育てている時間は楽しかった。


 それから少しずつ、畑は広がっていった。


 薬草だけではない。


「これも育てたい」


 ヒナタが持ってきたのは豆だった。


「枝豆?」


「うん」


「食べられるのか?」


「食べられるよ」


「なんで知ってるんだ?」


「……分かんない」


 また同じ答えだった。


 さらに芋類。


 葉物野菜。


 根菜。


 育てられそうなものを次々と試していく。


「これなら保存もしやすいよ」


「こっちは葉っぱを食べるの」


「この芋はたくさん取れるから、主食にもできると思う」


 村人たちは驚きながらも、ヒナタの話を聞いていく。


 そして気づけば、


「ヒナタちゃん、これどう植える?」


「ヒナタちゃん、こっちは?」


「この葉っぱ、元気がないんだけど」


「ちょっと見せて」


 そんな会話が日常になっていた。


 さらに、ヒナタは薬草にも興味を持ち始めた。


「この薬草……薬にできそう」


「薬?」


「うん。常備薬にしておけば便利だと思う」


 ヒナタは薬草を乾燥させ、煎じ、別の薬草と組み合わせていく。


 作業をしている本人が、一番不思議そうな顔をしていた。


「……なんで私、これ知ってるんだろう」


 リゼットが完成した薬を確認する。


「ちゃんとした常備薬になってるわよ」


「本当に?」


「ええ。薬師としても結構やれるんじゃない?」


「……私、薬師だったのかな」


 答えは出ない。


 けれど、出来上がった薬は確かに役に立った。


「じゃあ、もっと作ろうかな」


 ヒナタは笑った。


 さらに日が過ぎていく。


 畑では葉が大きくなり、芋の葉が広がり、豆も実をつけ始める。


 そして――


「……そろそろ」


 ヒナタが畑を眺める。


「収穫できるよ」


「おお!」


 村人たちが一斉に集まった。


 土の中から芋を掘り出す。


「こんなに取れるのか!」


「すごい……」


「こっちの葉物も食べられるよ」


「枝豆もできてるぞ!」


 初めて見る収穫に、村人たちの顔が明るくなる。


 ヒナタも嬉しそうだった。


「いっぱい取れたね」


「ヒナタちゃんが育てたんだもんな」


「……みんなで育てたんだよ」


 そう言って、ヒナタは笑う。


 そして。


「これ、もう少しだね」


 ヒナタが大切に育てていたもの。


 それが――イチゴだった。


「赤くなってる!」


 ヒナタの顔がぱっと明るくなる。


 小さな赤い実を、そっと摘み取る。


「……できた」


 手のひらに乗せたイチゴを見つめる。


「で、出来ました!」


 ヒナタが嬉しそうに振り返る。


「ヒナタちゃん、イチゴです!」


 満面の笑顔。


「…………」


「…………」


「…………」


 村人たちが固まった。


「……かわいい」


「かわいいな」


「天使かな?」


 誰かが小さく呟く。


 その頃には、村人たちの間にヒナタちゃんファンクラブが結成されていた。


 もちろん本人は知らない。


「せっかくだし、これアイスにしようか」


 リゼットが言った。


「アイス?」


「牛乳もあるでしょう?」


「あ!」


 最近、神狼の支配下に入った牛や羊のおかげで、拠点では畜産まで始まっていた。


 ヒナタは牛乳を持ってリゼットのところへ行く。


「これでアイス作れる?」


「もちろん」


「じゃあ、イチゴも!」


 こうして出来上がったのは、イチゴをたっぷり使ったアイスだった。


「いただきます!」


 一口食べる。


「……おいしい!」


 その声につられて、村人たちも食べ始める。


「うまい!」


「これはすごい!」


「イチゴと牛乳ってこんなに合うのか!」


 あっという間に評判になった。


 ヒナタは嬉しそうに笑っている。


「よかった……」


 拠点に来たばかりの頃。


 ヒナタは、ただ保護されているだけの子供だった。


 けれど今は違う。


 畑を作り、植物を育て、薬を作り、村人たちに知識を教えている。


 その知識がどこから来たのか、本人にも分からない。


 記憶は戻っていない。


 それでも。


「明日は何を植えようかな」


 ヒナタは夕暮れの畑を眺めながら、楽しそうに考えていた。


 植物を育てる。


 薬を作る。


 食べ物を増やす。


 そして、それをみんなが喜んでくれる。


 そんな毎日が、ヒナタにとって少しずつ「自分の居場所」になっていった。


 隣では神狼が堂々と胸を張る。


「ヒナタの畑は我が守る!」


「うん。お願いね、神狼」


「任せるがよい!」


 その後ろを、牛と羊がのんびり歩いていく。


 新しい拠点の生活は、今日も少しずつ豊かになっていた。

AIで作ってもらったヒナタです https://img1.mitemin.net/jy/0x/6peydam7dcmxjgfyb249fii8fwxz_dae_sg_16o_1e1cv.png

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