移住歓迎会
近隣の村の代表が視察に訪れてから、しばらく。
話し合いの結果、その村から大勢の住民が新しい拠点への移住を希望することになった。
最初は一部の家族だけのつもりだった。
しかし話を聞いた住民たちは、この土地でなら新しい生活を始められると判断した。
結果として――。
「……思った以上に多いわね」
リゼットが集まった人々を見渡す。
「はい……」
元村の代表も困ったように頷く。
「これほどの人数が移住すると、元の村を維持することができません」
「畑はどうするの?」
マドカが尋ねる。
「残すしかありません。あちらにも畑がありますし、動かすことのできない資源もいくつかあります」
「そっかー」
マドカは少し考えた。
「じゃあ、隣村まで開拓して飲み込んじゃえば?」
「…………」
代表が固まる。
「え?」
「だって、元の村も使えるんでしょ?」
「まあ……そうですが」
「だったら、こっちから道を伸ばして、村同士を繋げちゃえばいいじゃん」
マドカは軽い調子で言った。
「不可能じゃないわね」
リゼットが頷く。
「この辺りの土地なら、整備すれば十分利用できるでしょう」
「研究資源も確保しに行くのが楽になるしね~」
ニコラも賛成する。
「鉱山とか珍しい植物とか、わざわざ遠回りしなくても済むようになるよ~」
「また広がるのですか……」
エレノアが頭を抱える。
「これは陛下に伝えないと……」
「なんで?」
「この規模で開拓地が拡張するのですよ?」
「でも、まだ村だよ?」
「その村が短期間でどんどん広がっているのですが……」
エレノアの苦労をよそに、話はあっさり決まった。
そして――。
「じゃあ、家を作るわね」
「え?」
リゼットが手をかざす。
大地が動いた。
土と石が組み上がり、次々と家の形になっていく。
一軒。
二軒。
三軒。
移住してきた家族の数に合わせて、必要な家が次々と完成していった。
「…………」
「…………」
「…………」
移住者たちは、全員口を開けたまま固まっていた。
「これでいいでしょう」
リゼットが手を下ろす。
「足りないものがあったら言ってね~」
ニコラも続ける。
「王都につながってるから~。許可制だけど、王都に買い出しにも行けるよ~」
「王都に……?」
「うん~」
「どうやって……?」
「転移陣で~」
「…………」
ニコラは、まるで近所の店へ行く方法を説明するような口調だった。
「伝説の転移陣があるから、必要なものがあったら買ってくればいいよ~」
移住者たちは顔を見合わせる。
どうやら自分たちは、とんでもない場所へ来てしまったらしい。
それでも――。
「……これで」
一人の老人が、完成した家を見つめる。
「これで我らは、生きていける……」
別の住民も深く頭を下げた。
「感謝しますぞ!」
「ありがとうございます!」
「本当に……ありがとうございます!」
次々と頭を下げる住民たちに、マドカは少し困った顔をする。
「そんなに気にしなくていいよ」
「そういうわけにはいきません!」
「まあまあ」
マドカは笑った。
「今日はもう休もうよ」
「そうですね」
エレノアも頷く。
「長旅でしたし、新しい環境に慣れるだけでも疲れているでしょう」
「じゃあ、歓迎会しようか~」
ニコラの提案で、その日の夜は急遽歓迎会が開かれることになった。
料理が並ぶ。
肉。
魚。
野菜。
焼きたてのパン。
温かいスープ。
移住者たちは、久しぶりに見るごちそうを前に、しばらく手をつけられずにいた。
「……食べていいのですか?」
「もちろん」
マドカが答える。
「遠慮しなくていいよ」
「では……」
一口。
「……うまい」
その一言をきっかけに、食事が始まった。
最初は遠慮していた者たちも、少しずつ箸を進めていく。
やがて会場には、久しぶりの笑い声が広がっていた。
「……よかった」
マドカがその様子を眺める。
すると――。
「せっかくだし、何か見せる?」
ニコラが言った。
「何を?」
「歓迎会だからね~」
こうして始まったのは、拠点メンバーによるちょっとした宴会芸だった。
まずは模擬戦。
剣と剣がぶつかる。
目にも止まらない速度で動く二人を見て、移住者たちが息を呑む。
「は、速い……!」
続いて魔法の実演。
大地が隆起し、炎や風が舞い、遠くに設置された標的が一瞬で消し飛ぶ。
「…………」
住民たちは言葉を失った。
さらに外へ出れば、近くに現れた魔物があっという間に討伐されていく。
「……なるほど」
代表が呟いた。
「これなら……」
周囲の住民たちも頷く。
「この土地の魔物を、それほど恐れる必要はなさそうですな」
「そうだね」
マドカが笑う。
「危ないところは私たちが倒すから」
「…………」
代表は少し考える。
そして住民たちを見る。
「皆さん」
「はい」
「この方々を――」
代表は真剣な顔で言った。
「絶対に怒らせないようにしましょう」
「はい」
「絶対に」
「絶対にですな」
全員が真顔で頷いた。
「なんで!?」
マドカだけが納得できない顔をする。
こうして、新しく移住してきた人々の最初の夜は終わった。
久しぶりのごちそう。
新しい家。
そして、自分たちを守ってくれる人々。
不安が消えたわけではない。
それでも――。
彼らはようやく、安心して眠ることができた。
そして翌朝。
新しい住民たちは、自分たちの手で新しい土地を作っていくために動き始めるのだった。




