モンスターを探そう!
新しい拠点での生活が始まって、数日。
屋敷の掃除や周辺の整備も少しずつ進み、ようやく落ち着いてきた頃。
「できたよ~」
ニコラが一台の魔道具を机の上に置いた。
「おおっ!」
マドカの目が輝く。
「これがゲーム?」
「試作一号機~」
手のひらより少し大きい魔道具。
中央には小さな画面があり、その周囲にはいくつかの操作用のボタンが並んでいる。
「ちゃんと動く?」
「基本的なところは動くよ」
「モンスターを探せる?」
「うん」
「捕まえられる?」
「登録って形だけどね~」
「育てられる?」
「できるよ」
「戦わせられる?」
「もちろん」
「よし!」
マドカは魔道具を抱えた。
「行こう!」
「どこに~?」
「モンスター探し!」
「今から?」
「今から!」
ニコラは苦笑した。
「まあ、試作品だから実際に使ってみないと分からないしね~」
こうして、ゲームの試運転は屋外で行われることになった。
拠点から少し離れた森。
「起動!」
マドカが魔力を流す。
魔道具の画面が淡く光った。
『モンスター・テイマーズ』
「おおおお……!」
マドカが身を乗り出す。
「それっぽい!」
「名前は仮だけどね~」
「いいじゃん!」
画面には簡単な地図が表示されていた。
中央に現在地。
そして、その周囲にいくつかの小さな光点がある。
「これ何?」
「モンスターの魔力反応だよ」
「…………!」
マドカの顔が変わった。
「どこにいるの?」
「この方向」
ニコラが指差す。
「距離は?」
「えっと……二百三十メートルくらい」
「分かるんだ!」
「うん」
「すごい!」
マドカが走り出す。
「ちょっと待って~!」
ニコラも慌てて追いかけた。
「あと百メートル!」
「おお!」
「五十メートル」
「近い!」
「三十……二十……」
マドカが草むらの向こうを覗く。
すると。
ガサッ。
「いた!」
小型のウルフが一匹。
「なるほどね~」
ニコラが魔道具を確認する。
「ちゃんと反応してる」
「じゃあ倒して登録しよう!」
マドカが前へ出る。
ウルフは威嚇するが――。
数秒後。
マドカの一撃で地面に倒れた。
「よし!」
「じゃあ、魔力を吸収するね」
ニコラが魔道具を操作する。
倒れたウルフから淡い光が浮かび上がり、魔道具へ吸い込まれていく。
『魔力情報を取得しました』
『ウルフを登録しますか?』
「する!」
マドカがボタンを押す。
『登録完了』
「やった!」
画面にウルフの姿が表示される。
「これでゲームの中にいるんだよね?」
「そういうこと~」
「出してみよう!」
「じゃあ、召喚」
ニコラが操作すると、地面に魔法陣が浮かんだ。
淡い光が集まっていく。
そして――。
「わっ!」
そこに一匹のウルフが現れた。
「…………」
アリシアが目を丸くする。
「本物……?」
「幻影だよ~」
ニコラが答える。
見た目は先ほど倒したウルフとほとんど変わらない。
ただ、身体の輪郭がわずかに淡く光っている。
「触れる?」
マドカが手を伸ばす。
指先がウルフの身体をすり抜けた。
「おお!」
ウルフが振り返る。
ちゃんと動く。
「すごい!」
マドカは嬉しそうに笑った。
「これなら怪我しない?」
「幻影だからね~」
「攻撃されたら?」
「消えるだけ」
「じゃあ安全だ!」
マドカはますます嬉しそうになる。
「戦わせよう!」
「早いね~」
森の中に、二体の幻影モンスターが現れた。
「ウルフ!」
マドカが声をかける。
幻影のウルフが走る。
「噛みつき!」
ウルフが飛びかかった。
ガブッ!
相手の幻影に噛みつく。
攻撃を受けた側の身体から魔力が弾けた。
「おおおお!」
見ていたアリシアが声を上げる。
「何をしているのか、ちゃんと分かりますね」
「そうそう!」
マドカが頷く。
「ゲーム画面だけじゃなくて、外で見えるから!」
火属性の攻撃を使えば、実際に炎の幻影が飛んでいく。
風の攻撃なら風が巻き起こる。
土の攻撃なら地面が盛り上がる。
もちろん、すべて幻影だ。
周囲にいる者にも、どんな攻撃をしたのかが一目で分かる。
「これ、みんなで見られるのがいいね~」
ニコラも満足そうだった。
「観戦できるようにしたかったから」
「大会とかもできそう」
「うん」
マドカの頭の中に、すでにいろいろな光景が浮かんでいる。
大勢の観客。
モンスター同士の戦い。
歓声。
「絶対面白い!」
そして――。
「もっとモンスター欲しい!」
「……やっぱりそうなるよね~」
それからしばらく。
マドカはゲーム機を片手に森を歩き回った。
「スライム発見!」
「登録!」
「ゴブリン!」
「登録!」
「鳥!」
「登録!」
近くにいるモンスターを見つけるたびに討伐し、魔力を登録していく。
ゲームの中に、少しずつモンスターが増えていく。
「これ楽しいな……」
マドカは完全に夢中になっていた。
最初はただの暇つぶしだった。
けれど、モンスターが一体増えるたびに、もっと集めたくなる。
「次は何かな?」
マドカが地図を見る。
「…………」
表示された光点。
「こっちにもいる」
「その辺りなら、たぶん普通のモンスターだよ~」
「じゃあ行こう」
「うん」
しばらく歩く。
また登録。
また歩く。
そして気がつけば。
「……あれ?」
ニコラが周囲を見回した。
「かなり奥まで来たね~」
「そう?」
「うん」
木々がだんだんと密になっている。
人の手が入った形跡もほとんどない。
「でも、まだモンスターいるよ」
マドカは地図を見ている。
「この先にも反応ある」
「……まあ、強いのが出たら戻ろうね~」
「うん!」
マドカはさらに奥へ進んだ。
「……あれ?」
突然。
マドカが足を止めた。
「どうしたの?」
「これ」
画面をニコラに見せる。
「今までと違う」
地図の端に、小さな光点が一つ。
これまで表示されていたモンスターの反応とは明らかに違う。
「魔力反応が小さいね」
「弱い?」
「分からない」
「珍しいやつかも」
マドカの目が輝く。
「行ってみよう!」
「マドカ~」
「大丈夫大丈夫!」
マドカはどんどん進んでいく。
「ほら、敵なんてザコばっかりだったし!」
「そういうこと言ってると――」
「ん?」
マドカが足を止めた。
目の前には、何本もの太い蔓が絡み合っている。
「……植物モンスター?」
「みたいだね」
そして。
蔓の中心から、ほんの少しだけ魔力が漏れている。
「…………」
マドカは目を細めた。
「これ……」
近づいてみる。
すると――。
蔓の隙間から、小さな手が見えた。
「…………」
マドカは固まった。
「…………」
ニコラも固まる。
どうやら植物モンスターに、何か小さなものがぐるぐる巻きにされている。
「…………」
マドカはそっと目を逸らした。
「見なかったことにしよう」
「ちょっと待ちなさいよ!!」
森の奥に、少女の声が響いた。
「助けなさいよ!」
マドカはゆっくり振り返る。
「…………」
「何よその顔!」
「いや……」
マドカは困ったように言った。
「モンスターかなって」
「失礼ね!」
蔓に巻かれた小さな少女が、精一杯胸を張る。
「私はモンスターじゃないわよ!」
こうして。
マドカの「モンスター探し」は――
思いもよらない存在との出会いへと繋がった。




