田舎への行き方
翌日。
「……やっぱり、これ全部持っていくの?」
マドカは、昨日買い込んだ荷物を眺めていた。
家具に生活用品、建築資材、鍛冶道具、研究設備。
並べてみると、改めてその量に驚かされる。
「持っていかないと、新しい家で生活できないからね~」
ニコラがいつもの調子で答える。
「それはそうなんだけど……」
マドカは腕を組んだ。
「収納魔法で全部入るんじゃない?」
「入るわよ」
リゼットが答える。
「じゃあ問題ないじゃん」
「問題は、向こうにどうやって出すかよ」
「……あ」
マドカが固まった。
新しく購入した土地は、王都からかなり離れている。
収納魔法に入れて運ぶこと自体はできても、結局は自分たちがそこまで移動しなければならない。
「転移装置は?」
ニコラが言った。
「もう完成してるよ~」
「え?」
マドカが振り返る。
「いつの間に?」
「昨日の夜に仕上げた」
ニコラが指差した先。
そこには、以前とは少し形の違う魔道具が置かれていた。
「これが転移装置」
「これで向こうに行けるの?」
「理論上はね~」
「理論上?」
「一度も実際に使ってないから」
「怖いこと言わないでよ!」
マドカが一歩下がる。
グレタが装置を覗き込む。
「仕組み自体は問題なさそうだな」
「じゃあ、試してみようか~」
「え?」
ニコラが魔力を流す。
装置の中心が淡く光った。
空気が揺れる。
そして――。
目の前の空間に、薄い光の膜が現れた。
「おお……!」
マドカが目を輝かせる。
「これ、向こうと繋がってるの?」
「まだ試してないよ~」
「えっ」
「じゃあ行ってみよう」
「誰が!?」
マドカが即座に後ずさる。
「マドカ~」
「ニコラが作ったんだからニコラが行けばいいじゃん!」
「私は作る方だから~」
「そういうところだけ研究者なんだから!」
結局、最初の実験は慎重に行われることになった。
小さな物を転移させる。
問題なし。
少し大きな物を転移させる。
こちらも問題なし。
さらに魔力の調整を行う。
それでも問題は起こらない。
「成功だね~」
「本当に?」
「うん」
ニコラが笑う。
「ちゃんと向こう側と繋がってる」
マドカはほっと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、これで荷物も運べるじゃん」
「うん」
「よかった!」
しかし、グレタが装置を見る。
「一つ問題があるな」
「何?」
「向こう側にも、これを設置しなきゃならない」
「…………」
マドカが止まった。
「……あ」
「まだ向こうには何もないからね~」
「じゃあ、転移装置を持っていけばいいんじゃない?」
「そうなるね」
「それなら問題ないじゃん」
「でも、向こうに着いてから設置しないといけないよ?」
「……」
マドカは考える。
「じゃあ、どうやって持っていくの?」
「歩いて?」
「遠いんでしょ?」
「遠いね~」
「じゃあ無理じゃん!」
マドカが叫んだ。
結局、転移装置が完成したことで問題が解決したと思ったら、別の問題が発生してしまった。
「……運ぶための乗り物が必要だね」
ニコラが呟く。
「馬車は?」
リゼットが提案する。
「道が整ってないよ」
グレタが答えた。
「じゃあ、船?」
「陸地だよ」
「……」
全員が黙る。
その時。
「飛べばいいんじゃない~?」
ニコラが言った。
「……飛ぶ?」
「うん」
ニコラが空を見上げる。
「空を飛べる乗り物を作れば、道も関係ないよね~」
マドカも空を見る。
「……飛空艇?」
「そうそう」
「作れるの?」
「作ったことはないけど、作れそう」
「その返事、信用していいの?」
「たぶん~」
「たぶんかぁ……」
マドカは少し考えた。
けれど、他にいい方法も思いつかない。
「……じゃあ、作ってみようか」
「うん!」
ニコラが嬉しそうに笑った。
「楽しそうだね~」
「いや、楽しそうっていうか……」
マドカは改めて周囲を見る。
新しく買った大量の荷物。
完成した転移装置。
そして、これから作ろうとしている飛空艇。
「……なんで引っ越しするだけなのに、飛空艇まで作ることになったんだろ」
「さあ?」
ニコラが笑う。
その日から、飛空艇の製作が始まった。
◇
数日後。
「よし、ここまでできた!」
ニコラが声を上げる。
目の前には、巨大な船体が組み上がっていた。
まだ外装も一部しか完成していない。
けれど、それは確かに船だった。
ただし、普通の船とは違う。
地面に浮かせるための魔力機構。
推進装置。
魔力制御装置。
そして、転移装置を安全に運ぶための設備。
「……本当に飛ぶの?」
マドカが船体を見上げる。
「飛ぶよ~」
「落ちない?」
「たぶん」
「またたぶん!」
グレタが呆れた顔をする。
「そこはちゃんと確認しろ」
「大丈夫だって~」
「お前の大丈夫は信用できん」
「ひどいな~」
作業は順調に進んでいた。
グレタは魔力機構を調整し、ニコラは制御系を組み上げていく。
リゼットたちも必要な材料を運び、マドカもできる範囲で手伝う。
ヒナタやアリシアまで作業を手伝うようになり、いつの間にか家全体が飛空艇製作の現場になっていた。
「これ、本当に引っ越しの準備なんだよね?」
アリシアが尋ねる。
「たぶん……」
マドカが答える。
「最初は買い物だけだったんだけどね」
「そうだったんですか?」
「うん」
マドカは遠い目をした。
「なんか、どんどん大きな話になってる気がする」
その横で、ニコラが楽しそうに作業を続けている。
「完成したら、みんなで乗っていこうね~」
「……まあ、それはちょっと楽しみかも」
マドカも笑った。
こうして、新しい土地へ向かうための飛空艇は、少しずつその姿を形にしていった。




