孤児三人が現れた!
それから、何日かが過ぎた。
ニコラの家の庭では、相変わらず飛空艇の製作が続いている。
「ここ、もう少しだけ補強した方がいいかな~」
「いや、それ以上やったら重くなる。飛ばすんだろ?」
「じゃあ、この部分を軽くして……」
ニコラとグレタ、カトリーヌが飛空艇を囲んで話し合っている。
少し離れたところでは、マドカとリゼットがその様子を眺めていた。
「なんか、もう普通に飛空艇作ってるね」
「最初は転移装置を運ぶだけの話だったんだけどね」
「ほんとだよ」
そんな庭の隅。
塀の向こうから、ひょこっと三つの頭が覗いた。
男の子が二人。
どちらも十一歳くらい。
そして、その後ろに小柄な女の子が一人。
女の子は塀にしがみつきながら、不安そうに庭を見ていた。
「……なあ」
「なに?」
「あれ、やっぱり飛空艇だよな?」
「たぶん」
「すげえ……」
男の子の一人が目を輝かせる。
「こんなの王都でも見たことねえぞ」
「だからって、勝手に入るのはやめようよ~……」
女の子が弱々しく止める。
「ちょっと見るだけだって」
「でも、怒られるよ?」
「見つからなきゃ大丈夫だろ」
「それ、見つかったら大丈夫じゃないやつだよ~……」
もう一人の男の子が塀を乗り越える。
「おい、早く来いって!」
「やっぱり帰ろうよ~!」
女の子はそう言いながらも、結局二人についていく。
三人はこっそり庭へ入り込んだ。
そして――。
「うわ……」
「すげえ……」
目の前にある飛空艇を見上げる。
まだ完成前だというのに、それは子供たちにとって十分すぎるほど珍しいものだった。
「これ、本当に飛ぶのか?」
「飛ぶから作ってんじゃね?」
「触ってみようぜ」
「やめとこうよ~!」
女の子が止めるより早く、男の子の一人が機体へ手を伸ばした。
「何をしている」
「うわああああっ!?」
三人が飛び上がった。
振り向くと、そこには巨大な狼が立っていた。
神狼である。
「しゃ、しゃべった!?」
「狼がしゃべった!?」
「だから帰ろうって言ったのに~!」
女の子が二人の後ろに隠れる。
神狼は三人をじっと見下ろした。
「我は神狼ぞ。狼が言葉を話すことくらい、驚くことではない」
「いや、驚くだろ!」
男の子が思わず言い返す。
神狼の眉間に皺が寄った。
「……生意気な小僧だな」
「うるせえ!」
「ちょっと!」
女の子が慌てて男の子の服を引っ張る。
「やめようよ~! 相手、どう見ても普通の狼じゃないよ~!」
「狼ではない。神狼だ」
「そこ重要なの!?」
神狼が鼻を鳴らす。
「貴様ら、何者だ」
三人は顔を見合わせた。
少しの沈黙。
やがて男の子が、ふてくされたように答える。
「……別に。ただ、これが気になっただけだ」
「勝手に入ってきたことについては?」
「……」
「……ごめんなさい」
女の子が先に頭を下げた。
だが、男の子はまだ神狼を睨んでいる。
そこへ――。
「神狼? どうしたの?」
マドカが庭に出てきた。
そして、三人の子供を見つける。
「……あれ?」
マドカと子供たちの視線がぶつかった。
男の子の一人が、マドカをじっと見る。
「……お前、俺たちとそんなに歳変わらないだろ」
「うん。十二歳だけど」
「一歳しか違わねえじゃん!」
「そうだけど?」
「なのに、なんでお前が冒険者やってんだよ!」
マドカが少し驚く。
「なんでって……冒険者になったから?」
「そういうところがナマイキなんだよ!」
「理不尽じゃない?」
男の子は悔しそうに拳を握った。
「俺だって冒険者になりてえんだよ!」
「じゃあ、なればいいじゃん」
「なれねえんだよ!」
「なんで?」
「十一歳だからだよ!」
男の子は吐き捨てるように言った。
「あと一年だ。あと一年待たなきゃ、冒険者登録できねえんだ!」
「ああ……」
マドカが納得する。
「そういう決まりなんだったね 私も九歳からお姉ちゃんに弟子入りして三年待ったよ!」
「そんなに早くからか?!」
「うん。元スラム街で死にそうだったの。でもさ、どこかで一年待てばいいんじゃない?」
「お前なあ!」
男の子がさらに怒る。
「その一年が長いんだよ!」
その横で、もう一人の男の子が苦笑する。
「こいつ、ずっとそれ言ってんだよ」
「うるせえ!」
「でも、マドカって本当に十二歳なの?」
マドカは頷く。
「そうだけど」
「……同じくらいなのに、冒険者か」
男の子が飛空艇を見る。
それからマドカを見る。
悔しそうな顔をしながらも、その目には少しだけ憧れが混じっていた。
「……やっぱり、ナマイキだ」
「なんで!?」
女の子が小さくため息をつく。
「だから、やめようよ~……」
こうして。
飛空艇を珍しがって忍び込んできた三人の孤児と、マドカたちの奇妙な出会いが始まった。




