ガブちゃん配信4
# 新ユニット結成!?――プライド、ファンサを学ぶ!
「そもそも、嫉妬の勇者様は最近マドカと絡んでいらっしゃいますから、知名度も上がってきていますわね」
ガブリエルは手元のメモを確認しながら、キシリアへ視線を向けた。
「ですが、プライドさんは……こちらでは、ほぼ無名ですわ」
「ぐっ……!」
「おとといの二十五階層の配信で、少しだけ認知度が上がった程度ですわね」
「俺、そんなに人気ねぇのか?」
プライドが、思わず自分の顔を指差した。
「人気がないというより、誰も知らない、というのが正解ですわね」
「そこまで言うか!?」
『プライドさん、初手から容赦なくて草』
『人気がないんじゃなくて、まだ知られてないだけかw』
『二十五階層の竜狩り配信で初めて知った人も多そう』
『キシリア様はマドカちゃんと絡んで認知度アップ中!』
「だって、事実ですもの」
ガブリエルはあっさりと言い切った。
「怠惰に来たばかりだからな。知られてねぇのは仕方ねぇだろ」
プライドは腕を組み、納得したように頷く。
「これから配信を続けていけば、自然と知られるようになるはずだぜ」
「まあ、ガブちゃん。何か解決策があるんでしょ?」
マドカが尋ねると、ガブリエルは待ってましたとばかりに胸を張った。
「もちろん! ありますわよ!」
「ほう?」
プライドが口元を吊り上げる。
「聞かせてもらおうじゃねぇか!」
「まず、あなたはファンサが足りないんですわよ!」
「……ファンサ?」
「そうですわ!」
ガブリエルはびしっとプライドを指差した。
「あなた、配信中に視聴者へ文句を言うことがありますでしょう? せっかく見に来てくださっているのに、そんな態度では怖がられてしまいますわよ!」
「おいおい、別に全員に文句を言ってるわけじゃねぇぞ!」
「でも、言っているのは事実でしょう?」
「そりゃあ、変なことを言われたら突っ込みたくもなるだろ!」
『あー、確かにプライドさん、コメントにツッコんでることあるなw』
『でも変なコメントにはツッコミたくなるのも分かる』
『ファンサって、コメントに優しくしろって話なのか?』
『ガブちゃんの講義が始まったぞ!』
「確かにそうね!」
キシリアが腕を組み、うんうんと頷いた。
「あんたは自分の強さを見せつけることばかり考えているもの! 敵を倒して、俺は強いだろうって顔をするだけじゃない!」
「それの何が悪いんだよ! 強さを見せるのだって、立派な配信の見どころだろ!」
「それだけでいいのかって話よ!」
キシリアは一歩踏み込んだ。
「例えば、あんたは視聴者のコメントを拾っているの? 視聴者と一緒に配信を楽しんでいるって、自信を持って言えるわけ?」
「そ、それは……」
プライドは言葉に詰まった。
配信を見てもらっていることは理解している。
応援のコメントがあれば嬉しいし、戦闘を褒められれば気分もいい。
しかし、コメントを拾って視聴者と話すことを、普段から意識していたかと聞かれると、答えに困ってしまう。
『キシリア様、急に先輩配信者の顔になったな』
『自分の強さを見せるだけじゃなくて、視聴者との交流も大事なのか』
『プライドさん、言い返せなくなってるw』
『キシリア様自身はファンサに自信がありそう』
「そりゃ、見てもらってるんだからありがたいとは思ってるぜ。ただ、必要以上に媚びるってのも違うんじゃねぇか?」
「誰も媚びろなんて言っていませんわ!」
ガブリエルが即座に反論した。
「視聴者と一緒に楽しむ、ということですわよ!」
「ああ……」
マドカも、納得したように頷いた。
「確かに、プライドって戦闘中はすごく楽しそうだけど、視聴者さんと一緒に楽しむっていう意識はあんまりないのかもね」
「俺は楽しんでるぞ?」
「うん。プライド自身はね!」
マドカは苦笑した。
「でも、見ている側からすると、『俺つえーだろ!』って自慢してるだけに見えることもあるのかも」
「……マジかよ」
プライドは、少しばかりショックを受けた様子だった。
『あっ、ちょっとショック受けてるw』
『強さを見せるのも魅力だけど、それだけじゃないってことね』
『プライドさん、根は素直そうなんだよな』
『視聴者と一緒に楽しむって、言われてみれば大事だ』
そこへ、ジャスティスが思い出したように口を開いた。
「そういえば、俺も配信するときは、よく視聴者と会話するなぁ」
「お前もか?」
「ああ。コメントを拾って話してるだけで、配信が終わることもあるぜ。何か特別なことをしなくても、会話だけで盛り上がるときもあるからな」
「それが雑談配信というジャンルですわ!」
ガブリエルが得意げに説明した。
「戦闘や企画だけが配信ではありませんの。視聴者と話すことそのものを楽しんでもらう配信もあるんですわよ!」
『ジャスティスさん、雑談配信もやってるのか!』
『コメント拾ってるだけで配信が終わるの、あるあるw』
『戦闘配信と雑談配信じゃ、見せ方も違うんだな』
『ガブちゃん、説明が分かりやすい!』
「雑談……」
プライドは考え込んだ。
「ただ話すだけで、そんなに面白いもんなのか?」
「面白いかどうかは、話す内容や相手とのやり取り次第ですね」
シルヴァが穏やかに答える。
「戦闘のように目に見える成果がなくても、配信者の人柄や考え方が伝わります。視聴者にとっては、それも魅力になるのでしょう」
「なるほどな……」
プライドは腕を組み直した。
強さを見せることが悪いわけではない。
ただ、それ以外にも視聴者に楽しんでもらう方法があるということらしい。
ガブリエルは、そんなプライドをまっすぐ見つめた。
「では、プライドさん。あなたは何を伝えたいんですの?」
「何をって……」
「強さだけですの? それとも、勇者としてどんな活動をしているのか、何を考えて戦っているのか。そういうところも見てもらいたいんですの?」
「…………」
プライドは、すぐには答えられなかった。
自分が配信で何を伝えたいのか。
改めて聞かれると、意外と難しい質問だった。
『自分が何を伝えたいか、か……』
『ただ強いだけじゃなくて、人柄も知ってもらうってことね』
『ガブちゃん、ちゃんと考えて審査してるんだな』
『プライドさん、ここからどう変わるのか楽しみ』
「……かっこいいところを見せるだけじゃ、足りねぇってことか?」
「そういうことですわ!」
ガブリエルは力強く頷いた。
「もちろん、かっこいいところを見せるのも大事ですわよ! でも、それだけでは、あなた自身を知ってもらう機会が少ないでしょう?」
「なるほど……。では、趣味を紹介するのはどうでしょう?」
シルヴァが提案した。
「プライドさん、モンバトも好きですよね?」
「おう! 好きだぜ!」
プライドは即座に答えた。
「モンバトなら、戦闘とは違う一面も見せられるかもしれません。好きなモンスターや戦術について話すだけでも、興味を持ってくれる方はいると思いますよ」
「それですわ!」
ガブリエルの目が輝いた。
「では、さっそくモンバトをやってみます?」
「……は?」
プライドが目を瞬かせた。
『モンバト配信!?』
『プライドさんの好きなモンスターが気になる!』
『趣味の話から実際に遊ぶ流れ、いいじゃないか』
『ガブちゃんも一緒にやるのかな?』
「王女様がゲームだぁ? できんのかよ」
「…………まっ!」
ガブリエルの笑顔が、ぴたりと止まった。
「今、私がゲームをできないとおっしゃいました?」
「いや、だってよ。普段からやってるのかも知らねぇし……」
「なるほど……。私を舐めていらっしゃるようですわね……」
ガブリエルはゆっくりと椅子に座り、モンバトの画面を立ち上げた。
「いいでしょう!」
その顔には、王女としての気品と、勝負事への闘志が同居していた。
「このガブちゃんの本気を、お見せしますわ!」
『あっ、地雷を踏んだwww』
『ガブちゃん、完全にスイッチ入ったぞ!』
『ゲームができるか疑っただけなのに!』
『プライドさん、煽るつもりじゃなかったんだろうなw』
『これはガブちゃんの実力を見せつける流れか!?』
「お、おう……?」
プライドは、なぜか少しだけ背筋を伸ばした。
どうやらファンサについて学ぶはずだった時間は、いつの間にかガブリエルの実力を確かめる勝負へと変わりつつあるらしい。
そして、彼女がどれほどモンバトに詳しいのか。
それを知るのは、もう少し先のことになりそうだった。




