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落内円は落ちている  作者: 七風


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ガブちゃん配信1



 エキドナの屋敷。


 ガブリエルは配信魔導具の前に立つと、映り具合を確認してから、いつものように満面の笑みで手を振った。


「みなさ~ん! お久しぶりですわ~! ガブちゃん配信、始めますわよ~!」


 配信が始まると、画面にはさっそく視聴者たちのコメントが流れ始めた。


『ガブちゃんだ! お久しぶり!』

『待ってましたわ~!』

『最近見なかったけど、元気だった?』

『今日は何の配信?』

『ガブちゃんの配信、久しぶりだな!』


「皆様、お元気でしたかしら~? 私はとっても元気ですわよ~! 少々忙しくしておりましたけれど、本日は時間ができましたので、こうして配信することにしましたの!」


 ガブリエルはご機嫌な様子で頷くと、カメラを持ち直した。


「そして今日はですわね~、ちょっとマドカに聞きたいことがありまして、エキドナのお屋敷からお送りしますわ~!」


『マドカちゃんに聞きたいこと?』

『エキドナ館からなのか!』

『何かあったの?』

『まさかの突撃配信?』


「ふふっ。大したことではありませんわよ~。ただ、少々確認しておきたいことがございますの!」


 そう言いながら廊下を進んでいくと、ちょうど向こうからマドカが歩いてきた。


「あっ! マドカ!」


「ん? ああ、ガブちゃん!」


 マドカは振り返ると、いつもどおりの笑顔で手を振った。


「久しぶりじゃん! 最近忙しそうだったけど、何してたのさ?」


「期末試験ですわ~!」


 ガブリエルは胸を張った。


「今年から三年生ですもの! 試験だって、しっかり頑張らなければなりませんわ~!」


「あー、そういえばそうだったね!」


 マドカは納得したように頷いた。


「そっかぁ、今年から三年生かぁ。ガブちゃんもいよいよ最終学年なんだね!」


「そうですわよ! 私だって、いつまでも学生ではありませんの!」


『ガブちゃん、今年から三年生なのか!』

『最終学年なんだなあ』

『期末試験で忙しかったわけね』

『勉強もちゃんと頑張ってて偉い』


「ええ! 学業も配信も、どちらも大切ですわ~!」


 ガブリエルは満足げに頷いたあと、すぐにマドカへ向き直った。


「……ところで、マドカ!」


「ん?」


「私に断りもなく、新ユニットの話を進めるなんて、ありえないですわ~!」


「えっ、そこ!?」


 マドカは思わず目を丸くした。


『おっと、いきなり本題かw』

『新ユニットの話?』

『ガブちゃん、何か聞いたのか?』

『マドカちゃん、説明してあげてw』


「いやぁ、だってガブちゃん、最近忙しかったじゃん」


「忙しかったのは事実ですけれど、それとこれとは別のお話ですわよ!」


 ガブリエルは両手を広げて抗議した。


「以前、ヒナタさんと私、それからジャスティスさん、シルヴァさん、アナスイさんでバンドを組んではどうか、というお話があったでしょう!?」


「あー、そうだったね!」


「そうだったね、ではありませんわぁ!」


 ガブリエルの声が、館内に響いた。


「私だって、あのお話を楽しみにしていたんですのよ! それなのに、試験で忙しくしている間に、いつの間にか別のユニットのお話が進んでいるではありませんか!」


『元々その五人でバンドを組む話だったのか』

『ガブちゃんがいない間に話が進んでたんだな』

『そりゃ知らない間に変わってたら驚くわ』

『マドカちゃん、事情を説明してあげて!』


「いや、別にガブちゃんを仲間外れにしようとしたわけじゃないよ?」


「それは分かっておりますわ!」


 ガブリエルはすぐに答えた。


「ですが、私がいない間にお話が進んでいたのは事実でしょう?」


「まぁ、そうだね!」


「そこは否定してほしかったですわ~!」


「えー、でも本当のことだし」


「むむむ……!」


 マドカのあっさりした返答に、ガブリエルは頬を膨らませた。


 もっとも、彼女が本当に気にしているのは、自分のユニットに固執することではなかった。


 そもそも、最初に話が出たのは、五人でバンドを組んではどうかという案だ。必ずその形でなければならないわけではない。


 ただ、自分が不在の間に別のユニットの話が進み、ジャスティスたちがそちらへ参加する可能性が出てきたのなら、事情くらいは確認しておきたかった。


「それで、今はどういうお話になっておりますの?」


 ガブリエルが尋ねると、マドカは指を折りながら説明した。


「えっとね。ジャスティスとシルヴァとアナスイが、キシリアさんとプライドと組むかもしれないって話になってるんだよ!」


「……ほう?」


 ガブリエルはにっこりと微笑んだ。


「ジャスティスさん、シルヴァさん、アナスイさんの三人が、キシリアさんとプライドさんと組む可能性がある、と?」


「うん! そういう感じ!」


「なるほど……。それは、なかなか興味深いお話ですわね~」


『キシリア様とプライドも参加するのか』

『勇者が集まったユニットになるんだな』

『どんな音楽になるんだろう?』

『メンバーの組み合わせが面白いな』


 ガブリエルは腕を組み、しばらく考え込んだ。


 そして、やがて顔を上げる。


「……まあ、私のユニットは、また別のメンバーを集めればいい話ですわね~!」


「おおっ、ガブちゃん、切り替え早いね!」


「当然ですわ! ユニットは一つしか作ってはいけない、などという決まりはありませんもの!」


 ガブリエルは堂々と胸を張った。


「それに、ヒナタさんはやる気満々だと聞いておりますわ!」


「うん! ヒナタ、かなり乗り気だったよ!」


「でしたら、まずはヒナタさんを中心に考えてみるのもよさそうですわね~!」


『ヒナタもやる気なんだ!』

『それならバンドの話はまだ続いてるのか』

『ガブちゃん側のユニットも楽しみだな』

『二つのユニットができる可能性もあるのか!』


「それから、お兄様も候補に入れてみてもよろしいかもしれませんわね~」


 ガブリエルは、次の候補を思い浮かべるように指を立てた。


「お兄様なら、いとこですもの。お声をかけるのも難しくありませんし、まあ、大丈夫でしょう!」


「おお、お兄ちゃんも誘うんだ!」


 マドカが楽しそうに頷いた。


「うん! お兄ちゃん、音楽をやるかどうかは聞いてみないと分からないけどね!」


「ええ、もちろんですわ。候補にすることと、参加が決まることは別のお話ですもの!」


 ガブリエルはそこをきちんと区別していた。


「まずはヒナタさん。それから、お兄様にも相談してみる。ここまではよろしいとして……」


 彼女は少し考え込む。


「ほかにも候補はいらっしゃいますかしら?」


「あっ、チヨとかナツメとか!」


 マドカがすぐに答えた。


「二人ともかわいいし、モンバト部も誘ってみたらさ。みんなで音楽をやってみるのも面白いんじゃない?」


「チヨさんとナツメさん、ですわね……」


 ガブリエルは名前を口にしながら頷いた。


「確かに、候補として考えるのはよさそうですわ。ただ、お二人が音楽をやりたいかどうかは、まだ確認できておりませんのね?」


「うん! まだ聞いてないよ!」


「でしたら、そこはこれから確認が必要ですわね~!」


『チヨちゃんとナツメちゃんも候補なのか』

『まだ参加が決まったわけじゃないんだな』

『モンバト部からバンドメンバーが増えるのも面白そう』

『まずは本人たちの意思確認だね』

『ガブちゃん、ちゃんと段取りを考えてるw』


「それに、ユニットを組むなら、担当する楽器や練習時間も決めなければなりませんわ。人数を集めれば完成、というわけではありませんもの!」


「うんうん。そうだね!」


「本当に分かっておりますの!?」


「分かってるって! だから、みんなで相談すればいいじゃん!」


「……まあ、そうですわね」


 ガブリエルは一度頷いた。


 自分のユニットについては、まだこれからだ。ヒナタはやる気があり、ルーデウスにも声をかけられる。チヨとナツメは候補として名前が挙がっただけなので、本人たちの意思を確認する必要がある。


 焦って決めることはない。


 自分には、自分のユニットを考える時間があるのだから。


 しかし――。


「……それはそれとして!」


 ガブリエルは、ぴしっと人差し指を立てた。


「キシリアさんとプライドさんのユニットについては、別のお話ですわ!」


「ん? そうなの?」


「そうですわよ!」


 ガブリエルは配信魔導具へ向き直り、堂々と胸を張った。


「私が不在の間に、ジャスティスさん、シルヴァさん、アナスイさんが、そちらのユニットに参加するかもしれないというお話になったのでしょう?」


「うん!」


「でしたら、そのユニットが本当に成功するのか、確認する必要がありますわね~!」


 マドカは、きょとんとした顔でガブリエルを見た。


「……確認?」


「もちろん、審査ですわ~!」


 ガブリエルは自信満々に宣言した。


「勇者様が集まれば、それだけで立派なユニットになると思ったら大間違いですわよ! 歌や演奏はもちろん、メンバー同士の相性、練習への取り組み方、そして皆様に楽しんでいただけるかどうか! きちんと見定めて差し上げますわ~!」


『なるほど、そっちのユニットを審査するのか!』

『キシリア様とプライドが審査対象w』

『勇者だからって成功するとは限らない、確かに』

『ガブちゃん、かなり本気だなw』

『どんな審査をするつもりなんだろう?』

『まずは歌唱力なのか、それとも演奏?』


「えー、ガブちゃんが審査するの?」


 マドカは面白そうに笑った。


「ええ! この私が審査して差し上げますわ~!」


 ガブリエルは満足げに頷いた。


「私のユニットは私のユニットで、これからじっくり考えますわ。ですが、キシリアさんとプライドさんが中心となるユニットが成功するかどうか……そこは、きちんと確認させていただきますわよ!」


『キシリア様たち、何を見られるんだろうw』

『プライド、音楽の経験はあるのか?』

『ガブちゃんの審査、厳しそうだな』

『まずは本人たちに知らせないとw』


「よーし! じゃあ、みんなを集めてみようか!」


 マドカが軽く手を叩いた。


「そうですわね! まずはキシリアさんたちに、審査を受けていただくことをお伝えしませんと!」


「……あれ? まだ本人たちには言ってないんだっけ?」


「今、決めたばかりですわよ!?」


「そっか! じゃあ、呼んでくるね!」


 マドカはあっさりと歩き出した。


「マドカ! 待ちなさいませ~! せめて、呼び出す前に審査内容を考えますわ~!」


 慌てて追いかけるガブリエルの声が、屋敷に響き渡る。


 こうして、久しぶりのガブちゃん配信は、新ユニットの相談から、キシリアとプライドを中心とした勇者ユニットの審査へと発展していった。


 ガブリエル自身のユニットも、まだ候補者を集めている段階。


 そして、審査を受ける側のキシリアたちは、まだそのことを知らない。


 新たな音楽ユニットを巡る騒動は、思わぬ方向から動き始めていた。


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