プライドのファッション
エキドナの屋敷。
歌配信の話から、いつの間にかプライドの服装について話し合うことになっていた。
きっかけは、リゼットの何気ない一言だった。
「そういえば、プライド。あなた、もう少し身だしなみに気を使ったらどうなの?」
「……は?」
突然話を振られたプライドは、眉をひそめた。
「身だしなみだと? 別に普通だろ」
「どこがよ」
リゼットは即答した。
「顔立ちは悪くないのに、格好で損をしているのよ。もう少し考えればいいのに」
『おっ、リゼット様からファッションチェックが入ったw』
『プライドさん、そんなに変かな?』
『いや、改めて見ると結構派手だぞw』
『強そうなのは間違いないんだけどな』
『顔立ちは悪くないと思う』
『リゼット様、初手から容赦ないw』
「おいおい、俺は冒険者だぞ? 見た目より実力だろうが!」
「その実力を、これから歌配信でも披露するんでしょう?」
マドカが楽しそうに口を挟んだ。
「せっかく人前に出るんだから、格好も大事だよ!」
「歌配信と服装に何の関係があるんだよ!」
「あるに決まってるじゃない! ステージに立つなら、見た目も含めてパフォーマンスなんだから!」
マドカは力説した。
「それに、プライドって顔は悪くないんだよね。なのに、アクセサリーをじゃらじゃら付けて、ドクロのネックレスまでしてるじゃん。どこのボンボンなの?」
「ボンボンじゃねえ! こういうのが好きなんだよ!」
プライドは首元のネックレスをつまみ上げた。
腕にはいくつものブレスレット。指には大ぶりの指輪。そして、服には派手なヒョウ柄。
改めて見渡すと、確かに主張が激しかった。
『ドクロのネックレスwww』
『アクセサリー盛りすぎじゃない?w』
『指輪にブレスレットにネックレス、全部主役を張ろうとしてる』
『どこのボンボンなの?は辛辣すぎるw』
『本人が気に入ってるならいいだろ! ……いや、でも多いな?』
『ヒョウ柄まであるのかよwww』
『情報量が多すぎて、服ばかり目に入る』
『これで戦闘中はめちゃくちゃ強いんだから不思議だよな』
「ヒョウ柄も、使い方次第では悪くありませんわ」
アナスイが穏やかに微笑む。
「全体の中で一部分だけに取り入れるなら、個性にもなりますもの。ただ……あなたの場合、どこもかしこも主張が強いのですわ」
「何が悪いんだよ! 派手でいいだろ!」
「派手なのと、まとまりがないのは別よ」
キシリアがぴしゃりと言った。
「それに、そのヒョウ柄で何を威嚇してるのよ。誰かに喧嘩を売るつもりなの?」
「威嚇なんかしてねえ!」
「じゃあ、どうしてそんなに威圧感があるのよ!」
「知らねえよ!」
プライドは思わず声を荒らげた。
『アナスイさん、ヒョウ柄そのものは否定してないんだな』
『一部分だけならいいって、ちゃんと考えてくれてるw』
『キシリア様の「何を威嚇してるのよ」で笑った』
『ヒョウ柄着てるだけで喧嘩を売ってる扱いは草』
『でも街でこの格好の人が歩いてきたら、ちょっと道を譲るかもしれんw』
『プライドさん、戦わなくても威圧できる装備を身につけていた説』
マドカは笑いをこらえながら、今度は彼の顔を指差した。
「あと、そのあごひげ。どうしてるの?」
「どうって、普通に伸ばしてるだけだが?」
「ちゃんと手入れしてる?」
「……してねえな」
「そこだよ!」
マドカが勢いよく指を立てた。
「ひげを生やすのが悪いわけじゃないんだよ! ムサシだってひげがあるじゃん。でも、ムサシはちゃんと手入れしてるから、歴戦の剣士って感じでかっこいいんだよね!」
「そうね。ムサシは年季の入った剣士らしい風格があるわ」
リゼットも頷いた。
「それに比べて、あなたは……」
「なんだよ!」
「山賊の頭みたいなのよね」
「おい!!」
プライドが叫んだ。
キシリアは遠慮なく頷いている。
「分かるわ。髪もぼさぼさだし、服も派手だし、ひげも整えてない。山賊の頭って言われたら、確かに納得しちゃうわね」
「お前ら、好き放題言いやがって……!」
「事実を言っているだけですわ」
アナスイはにこやかに答えた。
『ムサシさんと比較されるのは厳しいw』
『同じひげでも手入れで印象が変わるんだな』
『歴戦の剣士と山賊の頭、どこで差がついたw』
『プライドさん、ひげを整えるだけで結構変わりそう』
『髪もぼさぼさなのが追い打ちになってるんだよな』
『これ、ファッションというより身だしなみの話になってきたw』
「そもそも、プライドは普段から戦ってばかりなんでしょう? 身だしなみを気にする余裕がなかったのかもしれませんけれど、これからは少し意識してみてはいかがかしら」
「……まあ、戦ってばかりだったのは確かだな」
プライドは頭をかいた。
「でも、別に汚いわけじゃねえぞ。風呂には入ってるし、服だって洗ってる!」
「そこは最低限の話でしょう?」
リゼットが呆れたように返す。
「清潔にしていることと、格好よく見えることは別なのよ」
「うっ……」
プライドは言葉に詰まった。
『風呂に入ってるのは当たり前なんだよwww』
『本人、清潔さはちゃんと気にしてた!』
『服を洗ってるアピールで押し切ろうとするなw』
『リゼット様の「そこは最低限」が正論すぎる』
『冒険者なら戦闘後に汚れることも多いだろうけど、身だしなみは大事だな』
「あと、鎧を脱いだときなのだけど」
リゼットは、ふと思い出したようにプライドを見た。
「なぜシャツのボタンをすべて外すのかしら? お腹を冷やすわよ?」
「いや、別に冷えねえよ!」
「そういう問題じゃないんだけどね……」
マドカが苦笑する。
「よくいるよね。上半身裸にベストだけ着てる冒険者。あれ、防御力は大丈夫なのかな?」
「動きやすいだろうが! それに、どうせ鎧を着るんだから問題ねえ!」
「でも、鎧を脱いだらその格好なんでしょ?」
「そりゃそうだが……」
「お腹どころか、胸まで無防備じゃない!」
キシリアが呆れたように言った。
「冒険者なんだから、せめて急に襲われても困らない格好をしておきなさいよ!」
「いや、普段からずっと戦ってるわけじゃねえぞ!?」
「でも、あなたなら屋敷の中でもいつでも戦えるようにしてるんでしょう?」
リゼットが先ほどの話を持ち出すと、プライドはぐっと言葉に詰まった。
「……それは、まあ」
「だったら、なおさら服装を考えなさいな。鎧を着ているときだけ格好がついていても、脱いだら別人みたいになるんじゃ意味がないでしょう?」
「うぐっ……!」
プライドは自分のシャツを見下ろした。
『鎧を脱いだらボタン全開なの!?w』
『お腹を冷やすわよ、で親みたいな心配されてるw』
『上半身裸にベストって、冒険者には結構いるよな』
『防御力はベストの素材次第……いや、そもそも肌が出てるw』
『鎧を脱いだら急に防御力が下がる男』
『戦闘用の鎧は立派なのに普段着が無防備すぎるw』
『リゼット様、本人の発言をきっちり回収していくw』
「……分かったよ。そこも考えりゃいいんだろ!」
「ええ。期待しているわ」
リゼットは満足そうに頷いた。
マドカは、そんなプライドを見て少しだけ真面目な顔になる。
「プライドって、配信で戦ってるときは普通にかっこいいんだよね。強いし、豪快だし、見せ場も作れるし。でも、今の格好だと、女性ファンより男の子に人気が出そうなんだよ」
「男の子?」
「うん。十代半ばくらいの少年たち!」
「……なんでだよ!?」
プライドは納得できない様子だった。
リゼットが腕を組む。
「シルヴァとジャスティスは女性人気が集まりそうね。シルヴァは知的で落ち着いているし、ジャスティスも余計なことをしなければ顔立ちは悪くないもの」
「余計なことって何だよ!?」
ジャスティスが即座に反応した。
「長い詠唱や、妙に気取った決め台詞のことじゃない?」
マドカがさらりと言った。
「それは俺の個性だぞ!」
「その個性がどう評価されるかは、ファン次第ね」
「ぐっ……!」
ジャスティスが言葉に詰まる横で、リゼットは話を続けた。
「アーノルドは少し体格がよすぎて、ちょっと威圧感はあるけど……ご婦人にも人気が出そうね」
「そうか? 俺は普通にしてるつもりなんだがな」
アーノルドは自分の腕を見下ろした。
「アーノルドは頼りになる大人って感じだもんね! 料理もできるし、落ち着いてるし!」
マドカが笑顔で補足すると、アーノルドは少し困ったように笑った。
「まあ、そう言ってもらえるなら悪い気はしないな」
「そして、あなた」
リゼットは再びプライドへ視線を向けた。
「あなたのファン層は、十代半ばの少年でしょうね」
「……は?」
プライドの顔が固まった。
「ちょっと待て。なんでだよ!?」
「トゲトゲの鎧に派手な柄の服。強さに憧れる少年たちには刺さりそうだけど、女性人気となると、少し考えた方がいいわね」
「いや、別に強そうに見せたがってるわけじゃねえ! 実際に強いんだよ!」
「そこは否定してないわよ」
リゼットはあっさりと言った。
『シルヴァさんは知的で落ち着いてるし、女性人気はありそう』
『ジャスティスさんは顔立ちはいいのに、詠唱が長いのがなw』
『アーノルドさんは頼れる大人って感じで、ご婦人に好かれそう』
『プライドさん、十代半ばの少年に人気www』
『強さに憧れる男子からは、かなり人気が出そうだな』
『でも女性ファンだっていると思うぞ!』
『その自信のなさそうな言い方はなんだw』
マドカは、ふと何かを想像したように遠い目をした。
「……そのうち怠惰に、プライドスタイルとか言って、トゲトゲにヒョウ柄の服を着てる冒険者が増えそう」
「……おい、なんだそのプライドスタイルって」
「いや、ほら。プライドに憧れたD級冒険者が、肩にトゲトゲを付けて、ヒョウ柄の服を着て、髪型まで真似し始めるんだよ」
マドカは自分で想像した光景に、じわじわと笑いが込み上げてきた。
「なんか……治安悪そうだよね」
「確かに……」
ジャスティスが思わず頷いた。
「街中にそんな格好の冒険者が増えたら、初めて来た人はちょっと怖がるかもしれないな」
「お前まで何を言ってやがる!」
プライドが抗議する。
しかし、キシリアも腕を組み、真剣な顔で頷いていた。
「そうね。一度考えた方がいいわよ? 本当に……」
「キシリアまで!?」
「だって、あなたの格好を真似した冒険者が街に増えるのよ? 想像してみなさいな。どこを見てもトゲトゲとヒョウ柄。お店の前に腕を組んで立ってたり、通りすがりの人を睨んでたり……」
「誰がそんなことするか!」
「あなたに憧れている子たちよ?」
「ファンに何を教えるつもりなんだ、俺は!?」
『プライドスタイルwww』
『その名前で服装が想像できるのが嫌すぎるw』
『D級冒険者が全員トゲトゲになったらどうするんだよw』
『冒険者ギルドの受付嬢が大変そう』
『新人冒険者「プライドさんみたいになりたいです!」』
『先輩冒険者「まずは肩のトゲを外せ」』
『街の治安が服装で判断される世界www』
『真似するなら戦い方だけにしておけ!』
『プライドさん、妙な流行を生み出すところだったな』
会話を聞いていたアナスイが、くすりと笑った。
「ふふっ。プライドの強さに憧れる方が増えるのは、素敵なことだと思いますわ。ただ、せっかくなら、憧れた方々が見習いたくなるような格好を目指したいところですわね」
「……つまり、俺が悪いってことか?」
「悪いというより、少し改善の余地があるということですわ」
「言い方を変えただけじゃねえか!」
マドカは楽しそうに笑った。
「まあまあ! プライドはちゃんと強いんだから、あとは見た目を整えればいいんだよ! 別に貴族みたいな格好をしろって言ってるわけじゃないし!」
「そうね」
リゼットが頷く。
「無理に上品ぶる必要はないわ。ワイルドなのと、だらしないのは別物よ。そこを理解すればいいだけ」
「……ワイルドと、だらしない……」
プライドは自分の服を見下ろした。
どうやら、今まで考えたこともなかった問題らしい。
「よし、分かった。少しは考えてみる」
「本当?」
キシリアが疑わしそうに目を細める。
「おう。俺だって、別に今の格好に一生こだわるつもりはねえからな!」
「それなら、まずは服を選びに行こうよ!」
マドカが勢いよく立ち上がった。
「えっ、今からか!?」
「もちろん! せっかく話が出たんだから、実際に試してみようよ!」
「いや、待て! まだ心の準備が――」
「必要ないわよ。行くわよ、プライド」
リゼットが立ち上がり、あっさりと告げた。
「……おいおい、マジかよ」
プライドは助けを求めるように周囲を見渡した。
しかし、ジャスティスは面白そうに笑い、アーノルドは「まあ、頑張れ」と肩を叩き、アナスイとキシリアはすでに服選びを始める気満々だった。
「……くそっ。こうなったら、とことん付き合ってやるよ!」
プライドは勢いよく立ち上がった。
「ただし、俺のワイルドさは残せよ! 変にお上品な格好にするのはなしだからな!」
「分かってるって!」
マドカは満面の笑みで答えた。
「プライドらしさを残しつつ、ちゃんとかっこよくするんだよ!」
「……本当に分かってるんだろうな?」
「もちろん!」
その返事を聞いたプライドは、なぜか少しだけ不安になった。
『次は服選びか!』
『肩のトゲトゲを外すところから始まりそう』
『ヒョウ柄をワンポイントにできるかが勝負だな』
『マドカちゃんの服選び、楽しみだ』
『リゼット様が選ぶ服も見てみたい』
『キシリア様、絶対に面白がってるだろw』
『アナスイさんは上品にまとめてくれそう』
『プライドさん、無事にワイルドで格好いい冒険者になれるのか!?』
『次回も楽しみにしてるぞ!』
こうして、プライドのファッション改革が始まった。
本人が望むワイルドさを残しながら、どこまで見た目を改善できるのか。
そして、彼が次にどんな服を選ぶのか。
その答えは、次の試着で明らかになる。




