ユニット結成?
# キシリア様のダンジョン配信!――帰還後の大騒ぎ
三十一階層の攻略配信が終わり、しばらくして。
エキドナ屋敷に、マドカたち五人が戻ってきた。
「ただいまー!」
マドカが元気よく声を上げる。
「おかえりなさい。攻略はどうだった?」
食堂にいたキシリアが、さっそく立ち上がった。
その隣では、プライドも腕を組んで待ち構えている。
「おう、帰ってきたか! ちょっと聞きたいことがあるんだが!」
「……なんだか嫌な予感がするね~」
ニコラがのんびりと首を傾げた。
「なんだよ、あれは!!」
プライドが開口一番に叫んだ。
「ガトリングだのランチャーだの、あんなもんを大量に持ち込んで! 見えない敵に片っ端から撃ちまくるなんて、どういう攻略なんだよ!?」
「そうよ! 私たちが見たこともない武器ばっかりだったじゃない! あんなの知らないわよ!」
キシリアも勢いよく詰め寄った。
ニコラは二人の顔を交互に見て、いつもの調子で答えた。
「ん~? 武器だよ~?」
「わかってるわよ!!」
キシリアの声が食堂に響き渡る。
「武器なのは見れば分かるわよ! 私が言ってるのは、あんなものをいつの間に作ったのかってことよ!」
「え~? 前から作ってたよ~?」
「前から!?」
プライドが目を剥いた。
「そんなものが前からあったのか!?」
「うん~」
ニコラはあっさり頷いた。
キシリアは頭を抱えた。
「もう! どうしてエキドナは、こういうことを平然とやるのよ……!」
「だって、便利だよ~?」
「便利とかいう問題じゃないでしょうが!」
そこへマドカが、思い出したように口を開いた。
「あれ? キシリアたちって、お母さんの魔法銃配信を見たんじゃないの?」
「……魔法銃?」
キシリアが顔を上げる。
「うん! お母さんが魔法銃を使って戦ってた配信! あれの強化版だと思えばいいじゃん!」
「いや、待て。強化版って……」
プライドは言葉を失った。
「お前、あれを見て、あの兵器が出てくると思うか!?」
「えー? だって、銃で攻撃するっていう方向性は同じでしょ?」
「方向性だけじゃねえか!」
プライドが叫ぶ。
キシリアも何度も頷いた。
「そうよ! あれは魔法銃だったでしょう!? 今回のは、もう兵器の規模が違うじゃない!」
「ふふっ」
リゼットが小さく笑った。
「わざわざ真っ向勝負をする必要なんてあるわけないじゃない」
「……たしかに、そうだが」
プライドは一瞬、言葉に詰まった。
「敵の姿が見えないなら、無理に接近して戦う必要はない。広範囲を攻撃して、敵が潜んでいる場所ごと制圧すればいい。それだけの話よ」
「それは分かる! 分かるけどよ!」
プライドは納得できない様子で声を上げた。
「俺たちは二十五階層で、あれだけ苦労して竜を狩ってきたんだぞ!?」
「竜狩り、楽しそうだったからよかったじゃん!」
マドカはにこにこと笑った。
「素材もいっぱい集まったんでしょ?」
「そういう問題じゃねえ!!」
「えー、そうなの?」
「そうだよ!」
プライドが頭を抱えた。
ナナリーは苦笑しながら、二人に声をかける。
「でも、二十五階層でたくさん竜を倒したんですよね? 素材も売却できる分があるなら、結構稼いだんじゃないです?」
「……まあ、それはそうだが」
プライドは少しだけ勢いを失った。
「研究用と装備製作用の素材も確保できましたし、成果は十分だったと思いますよ」
シルヴァも穏やかに補足する。
「だったら、よかったじゃない!」
マドカが笑顔で頷いた。
「私たちは三十一階層を攻略して、みんなは二十五階層で素材集め! それぞれ成果があったんだから、問題ないよね!」
「……くっ!」
プライドは反論しようとしたものの、うまい言葉が見つからなかった。
キシリアはまだ諦めていなかった。
「でも、あんな武器があるなら、先に教えてくれたっていいじゃない!」
「え~? だって、みんなにもサブ武器で銃を渡したよね~?」
ニコラが不思議そうに首を傾げた。
「使えば~?」
「…………」
キシリアが固まった。
プライドも固まった。
「……え?」
「……銃?」
二人は、ゆっくりと顔を見合わせた。
そして、同時にニコラへ振り返る。
「「あれも銃なの!?」」
「うん~。魔法銃だよ~?」
「いや、俺たちが持ってるやつの話だよ!!」
プライドが思わず叫ぶ。
「そっちも銃なのか!?」
「そうだよ~。サブ武器として渡したでしょ~?」
「…………」
キシリアは自分の装備を思い返した。
確かに、以前ニコラから受け取ったサブ武器がある。
だが、これまで使う機会がなく、ほとんど意識していなかった。
「……私、あれを使えばよかったの?」
「うん~」
ニコラはにこにこと頷いた。
「剣だけで戦わなくてもいいんだよ~。遠くの敵には銃を使ってもいいし、相手に合わせて使い分ければいいんだよ~」
「…………」
キシリアはしばらく黙り込んだ。
そして、ゆっくりとプライドへ顔を向ける。
「……ねえ、プライド」
「……なんだよ」
「私たち、もしかして……」
「……ああ」
二人は同時に、深々とため息をついた。
「「使い方を知らなかっただけ……?」」
「そういうことだね~」
ニコラが、あっさりと答えた。
「なにいいいいいいいいい!?」
キシリアの絶叫が、再び屋敷に響き渡った。
その横で、マドカは楽しそうに笑っている。
「じゃあ、今度は銃も使ってみようよ! せっかく持ってるんだから!」
「……くそっ! 次は絶対に使いこなしてやるからな!」
プライドは拳を握った。
キシリアも悔しそうに頷く。
「ええ! 次の配信では、私たちだってもっと派手に戦ってみせるんだから!」
「うんうん。楽しみにしてるね~」
ニコラは最後まで、いつもののんびりした笑顔を崩さなかった。
こうして、勇者二人は新たな目標を得た。
# キシリア様のダンジョン配信!――まさかの歌配信計画!?
「……ちょっと待ちなさいよ!」
ニコラから魔法銃の説明を聞き、ようやく落ち着きを取り戻しかけたキシリアだったが、ふと思い出したように声を上げた。
「そういえば、歌配信ってなんなのよ!」
「あー、それね!」
マドカが、ぽんと手を叩いた。
「今日の配信、見てたでしょ? みんなが戦ってるところに、かっこいいってコメントがいっぱい流れてたじゃん!」
「……それは、まあ」
キシリアは少しだけ得意げに胸を張った。
「当然よね! 私の活躍を見れば、そう思うのも無理はないわ!」
「いや、誰もキシリアだけのこととは言ってないだろ」
プライドが横から突っ込む。
「なによ! あなたもかっこいいって言われていたでしょう!?」
「お、おう! まあ、そうだな!」
あっさり調子を取り戻すプライドを横目に、リゼットが口を開いた。
「それなら、芸能配信でもしたらいいじゃない」
「……芸能配信?」
キシリアが首を傾げる。
「ええ。戦闘だけでなく、歌や演奏、ダンスなんかを披露する配信よ。せっかく注目されているのだから、そういう活動をしてみるのも面白いでしょう?」
リゼットはさらりと続けた。
「メインはキシリアとアナスイね」
「…………えっ?」
キシリアが目を見開いた。
「わ、私が……デビュー!?」
思わず自分を指差す。
「ふふっ。あら、わたくしもですか?」
アナスイは少し驚いたように目を瞬かせたものの、すぐに優雅な笑みを浮かべた。
「歌や舞台というのも、なかなか楽しそうですわね」
「ちょっと待ちなさいよ! アナスイ、ずいぶん乗り気じゃない!」
「せっかくのお話ですもの。やるからには楽しみたいですわ」
「むむむ……!」
キシリアはアナスイを見つめ、それからリゼットへ視線を戻した。
「……ま、まあ? 私がメインというのなら、考えてあげなくもないわ!」
「まだ何も決まっていませんわよ?」
「う、うるさいわね!」
『キシリア様、もうデビューする気満々で草』
『アナスイさん、こういうの似合いそう!』
『戦闘配信から芸能配信へ進出w』
『リゼット様、思いつきでとんでもない企画を始めたなw』
そのやり取りを聞いていたジャスティスが、慌てて手を挙げた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺たちはどうなるんだ!?」
「そうですよね。僕たちも参加するんでしょうか?」
シルヴァも確認する。
「もちろん、楽器の練習はしていますよ?」
「……えっ?」
マドカが目を丸くした。
「シルヴァ、楽器も練習してたの!?」
「ええ。せっかく皆さんと活動する機会があるなら、演奏くらいできた方がいいかと思いまして」
「へえ~! それはいいね!」
マドカは楽しそうに頷いた。
ところが、プライドは露骨に顔をしかめていた。
「チャラチャラしやがって! 歌だぁ? そんなことしてる暇があったら、もっと鍛えた方がいいだろ!」
「……あら、そう?」
リゼットがプライドへ視線を向ける。
「なら、プライドの代わりにアーノルドを入れようかしらね」
「……何?」
プライドの表情が変わった。
その一方で、話を振られたアーノルドは腕を組んで考え込んでいた。
「歌か……」
少し間を置いてから、彼は自分の胸元を指差す。
「ドラムなら俺向きじゃないか?」
「ドラム?」
マドカが首を傾げる。
「ああ。叩くだけなら、そこまで難しくねえだろ?」
「いや、ドラムは叩けばいいだけってものでもないんですけど……」
シルヴァが苦笑した。
しかし、リゼットは別のことを考えていたらしい。
「別に、何も歌わなくていいわよ」
「……あ?」
「あなたはその辺をビュンビュン踊っていればいいじゃない」
「踊り?」
アーノルドが、今度は少し真剣に考え込んだ。
「……それなら、できるかもしれねえな」
「えっ、アーノルドさん、踊れるんですか!?」
ナナリーが驚いたように尋ねる。
「いや、やったことはねえが……動き回るのは得意だからな」
「ふふっ。それはそれで面白そうですわね」
アナスイが微笑む。
すると、ナナリーも何かを思いついたように手を叩いた。
「あー、それもいいかもしれませんね!」
「何がだ?」
プライドが尋ねる。
「男の人たちだけでユニットを組むんです! トライアングルみたいに三人で活動したら、かっこいいと思いますよ!」
「男版トライアングル、か……」
シルヴァが考え込む。
「楽器の演奏とダンスを組み合わせるなら、歌が得意でなくても参加できますね」
「それ、派手でいいかもね!!」
マドカが勢いよく頷いた。
「魔法の演出も入れたら、ライブでもすごく盛り上がりそう!」
「魔法演出ですか。確かに、照明と合わせれば面白い演出ができそうですね」
シルヴァも興味を示し始めた。
そんな二人のやり取りを聞いていたキシリアは、ふっと口元を緩めた。
「……ははぁん」
意味ありげに笑う。
「なるほどねぇ?」
「キシリアさん?」
アナスイが首を傾げた。
キシリアは、男三人を順番に見渡した。
「つまり、リゼット様。こいつらはオマケってことね!」
「誰がオマケだ!」
プライドが即座に反論する。
「だって、メインは私とアナスイなんでしょう? だったら、あなたたちは私たちを引き立てる役目ってことじゃない!」
「いや、まだメインが誰かも決まってないだろ!」
「ふふん! 今のうちに言っておくわ!」
キシリアはびしっと男三人を指差した。
「あんたたち、私たちより目立つんじゃないわよ!?」
「……ずいぶん勝手な話になってきたな」
アーノルドが呆れたように呟く。
「キシリアさん、まだ企画の段階ですよ?」
シルヴァも苦笑する。
「うるさいわね! こういうのは最初が肝心なのよ!」
『もうセンター争いが始まってるwww』
『男版トライアングルも気になる!』
『アーノルドが踊るの想像できないんだがw』
『プライド、さっきまで文句言ってたのに参加枠を取られそうになってるぞw』
「……ちょっと待て」
プライドが、はっとしたように顔を上げた。
「俺の代わりにアーノルドを入れるって言ったよな?」
「ええ、言ったわよ?」
リゼットは平然と答える。
「……」
プライドは腕を組み、しばらく考え込んだ。
「……ちょっとだけ考えてみるか」
「お前、やりたいんじゃないのか!?」
ジャスティスが即座に突っ込んだ。
「ち、違う! 俺はただ、アーノルドに枠を取られるのが気に入らないだけだ!」
「それをやりたいって言うんじゃないのか?」
「違うって言ってるだろ!」
プライドは顔を赤くして反論した。
キシリアはそんな様子を見て、勝ち誇ったように笑う。
「ふふん! いいわよ。参加したいなら、私たちの引き立て役として頑張りなさい!」
「だから、誰が引き立て役だ!」
また始まった言い合いに、マドカは楽しそうに笑った。
「いいじゃん! せっかくだから、みんなでいろいろ考えてみようよ!」
リゼットは頷き、資料を手に取った。
「そうね。まだ何も決まっていないけれど、試しに企画をまとめてみましょうか」
こうして、三十一階層を攻略したばかりの屋敷では、いつの間にか新たな計画が動き始めていた。
キシリアとアナスイをメインにした芸能配信。
そして、シルヴァ、プライド、アーノルドによる男版トライアングル構想。
魔法演出に、楽器演奏に、ダンス。
まだ誰もステージに立っていないというのに、すでにセンター争いだけは始まっているのだった。




