31層攻略
エキドナ屋敷の食堂。
テーブルには、和の国づくしの豪華な和御膳が並んでいた。
揚げたての天ぷらに、握り寿司。焼き魚に茶碗蒸し、味噌汁まで揃っている。
キシリアたちは食事を楽しみながら、マドカたちの三十一階層攻略配信を眺めていた。
「ん~! やっぱり天ぷらは最高ね!」
キシリアが海老天を頬張る。
「お寿司も美味しいですわね。こちらの鯛も、実に上品な味わいですわ」
アナスイも満足そうに微笑んだ。
そんな穏やかな夕食の時間は、配信画面に映った光景によって終わりを告げることになる。
画面の中では、アリシア、マドカ、リゼット、ナナリー、ニコラの五人が、三十一階層の攻略を進めていた。
この階層では、敵の姿を視認することができない。
気配はある。敵が潜んでいることも分かる。
しかし、その姿を直接確認するのは難しい。
『敵が見えないのに、どうやって戦うんだ?』
『これ、索敵だけでも大変そうだな』
『普通なら慎重に進むところだよね』
『マドカたち、どうするんだろう』
視聴者たちがそんなコメントを流していると、マドカが元気よく声を上げた。
「よーし! じゃあ、まとめていっちゃおう!」
「うんうん。いっぱい持ってきたからね~」
ニコラは、いつもののんびりした口調で頷いた。
その背後には、ガトリング砲やランチャーをはじめとする、大量の重火器が並んでいた。
しかも、一人分ではない。
マドカも、アリシアも、ナナリーも、それぞれが大型の兵器を手にしている。
『…………え?』
『ちょっと待って』
『なんかすごい物騒なものが並んでない?』
『ダンジョン攻略だよね? 戦争じゃないよね?』
ニコラがにこにこと手を振った。
「それじゃあ、みんな~。準備はいいかな~?」
「ばっちり!」
「こちらも大丈夫です!」
「いつでもいけますよ!」
マドカ、アリシア、ナナリーがそれぞれ応じる。
そして、マドカが大きく手を挙げた。
「一斉攻撃、開始ーっ!」
ガガガガガガガガガッ!!
ガトリング砲が一斉に火を噴いた。
続いてランチャーから魔力弾が放たれ、広範囲に爆発が巻き起こる。
ドォォォン!!
ドガガガガガッ!!
次から次へと攻撃が叩き込まれ、三十一階層の一角が轟音に包まれた。
『うわあああああ!?』
『何だこの火力!?!?』
『敵が見えないからって範囲攻撃で埋め尽くすなwww』
『ガトリングにランチャーまで持ち込んでるんだが!?』
『ニコラの兵器開発、方向性が物騒すぎるwww』
『これ、攻略っていうか制圧じゃないか!?』
食堂でも、キシリアとプライドが同時に立ち上がった。
「な、な、な、何なのよおおおおお!?」
「おいおいおいおい!? なんだあの武器の数は!? あんなもん、どこから持ってきたんだよ!?」
二人は画面に顔を近づける勢いで叫んだ。
「ちょっと待ちなさいよ! 敵の姿が見えないのよ!? 普通はどうやって戦うか考えるところでしょう!? なんでいきなり撃ちまくってるのよ!」
「しかも、あいつら全員持ってるぞ!? ニコラだけじゃねえ! マドカもアリシアもナナリーも撃ってるじゃねえか!」
「そうよ! 何なのよ、あの物量! 敵が何体いるかも分からないのに、あんなに撃って大丈夫なの!?」
「いや、そこは心配するところなのか……?」
ジャスティスが思わず呟いた。
隣ではシルヴァが、特に驚く様子もなく寿司を口へ運んでいる。
「……ああ、やってますね」
「やってますね、じゃないでしょうが!!」
キシリアが即座に振り向いた。
「あなた、あれを見て何とも思わないの!?」
「いえ、ニコラ博士の兵器ですから。あれくらいは想定内ですよ」
「想定内!?」
プライドが目を剥いた。
「ガトリング砲とランチャーを複数持ち込んで、見えない敵に一斉射撃するのが想定内なのか!?」
「ええ。効率的ですからね」
「効率的で片付けるなあああああ!!」
キシリアの叫びが食堂に響いた。
アナスイも、配信画面を眺めながら小さく息をつく。
「まあ……エキドナらしい攻略ですわね」
「アナスイまで!?」
「だって、敵が見えないのでしょう? それなら広範囲を攻撃して、相手の動きを制限するのも一つの方法ですもの」
「一つの方法っていう規模じゃないでしょうが!」
その間にも、配信画面では爆発が続いていた。
そして、リゼットが静かに前へ出る。
「少し、こちらも手を加えましょうか」
彼女が手をかざすと、地面から冷気が広がった。
パキパキパキッ!
地面の一部が一瞬で凍りつき、氷が周囲へと広がっていく。
「リゼットは何をしてるんだ?」
プライドが身を乗り出した。
「敵の動きを封じているのでしょうね」
シルヴァが平然と答える。
「動けないように固めてしまえば、あとは攻撃を集中させればいい。そういう考えだと思います」
「……は?」
キシリアが画面を凝視した。
リゼットは凍りついた場所を見下ろし、マドカたちへ指示を出す。
「そこに攻撃を集中させてちょうだい」
「はーい!」
マドカたちは即座に照準を合わせた。
ガガガガガガガガガッ!!
ドォォォン!!
凍結した場所へ、再び大量の攻撃が叩き込まれる。
リゼットはその様子を確認すると、満足そうに頷いた。
「これでいいわね」
『いやいやいやwww』
『凍らせてから集中砲火!?』
『リゼット様、やってることが合理的すぎるw』
『ニコラの火力とリゼットの拘束、組み合わせちゃダメなやつだろw』
『敵が見えない問題、物理的に解決してるwww』
「……ああ、やっぱりそうなりますわよね」
アナスイが呆れたように呟いた。
ジャスティスも頷く。
「まあ、リゼット様ならそうするよな……」
「お前ら、慣れすぎだろおおおおお!!」
キシリアは二人へ向かって叫んだ。
「何なのよ! 敵が見えないから凍らせる!? そしてガトリングとランチャーで撃つ!? そんな攻略、聞いたことないわよ!」
「俺も聞いたことねえよ!」
プライドも叫び返す。
「というか、あれだけ撃ちまくって、武器も弾も大丈夫なのか!?」
「そこはニコラ博士の設計次第でしょうね」
シルヴァは落ち着いたままだった。
「魔力供給や弾薬の補充も考慮してあるのかもしれません」
「かもしれませんって何よ! そこまで考えてあるの!?」
キシリアは再び画面へ向き直った。
そこではニコラが、次の兵器を取り出していた。
「う~ん。次はこっちも使ってみようかな~」
『まだあるの!?!?』
『何種類持ってきたんだよwww』
『ニコラ博士、普段の雰囲気との落差がすごい』
『本人は楽しそうなのが一番怖いw』
『五人だけでこの火力ってどういうことだよ!』
「…………」
キシリアは、ゆっくりとソファに座り直した。
そして、天ぷらを一つ口に運ぶ。
「……ねえ」
「何ですか?」
アナスイが尋ねる。
「私たち、明日も二十五階層で竜狩りをする予定だったわよね?」
「そうですわね」
「……そう」
キシリアは、再び画面を見つめた。
マドカたちは楽しそうに攻撃を続けている。アリシアとナナリーも自然に連携し、ニコラは次の兵器を準備し、リゼットは凍結させる場所を探していた。
五人だけで、三十一階層を攻略している。
「……なんか、私たちが普通に冒険しているのが馬鹿らしくなってきたわ」
「いや、俺たちだってちゃんと戦ってるだろ!」
プライドが抗議する。
「分かってるわよ! 分かってるけど、あれを見なさいよ!」
キシリアが画面を指差した。
ちょうどその瞬間、マドカたちが次の一斉射撃を開始した。
再び響き渡る轟音。
そして、流れ続けるコメント。
『三十一階層、攻略というより火力試験になってるw』
『ニコラ博士の兵器、もっと見たい!』
『リゼット様が拘束してくれるから安心して撃てるのか』
『この五人、役割分担ができすぎてる』
『キシリア様たち、食事どころじゃなくなってそうw』
「……もういいわ」
キシリアは箸を置き、真剣な顔で宣言した。
「明日から、私たちももっと強くなるわよ!」
「おう! 望むところだ!」
プライドも拳を握った。
その隣で、シルヴァとアナスイは顔を見合わせる。
「……まあ、頑張っていただきましょうか」
「そうですわね。まずは、今日の夕食をきちんと食べてからですわ」
二人は、まるでいつものことだと言わんばかりに、再び食事へ戻った。
キシリアだけが、最後まで配信画面を睨みつけていた。
「絶対に追いついてみせるんだから……!」
その決意が、明日の竜狩りをさらに激しくすることになるのかもしれなかった。




