↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
586/606

勇者パーティー23層へ

# キシリア様のダンジョン配信!――二十三階層、森の厄介者たち


 二十三階層へ続く扉をくぐると、五人の目の前には広大な森林が広がっていた。


 背の高い木々が空を覆い、枝葉の隙間から木漏れ日が差し込んでいる。地面には草やシダが生い茂り、あちこちに大きなキノコが顔を出していた。


「わあ……今度は森なのね!」


 キシリアは周囲を見回し、楽しそうに声を上げた。


「砂漠の次が森林か。ずいぶん雰囲気が変わるな」


 プライドも感心したように頷く。


「森の中を進んでいけばいいんですよね?」


 ジャスティスがシルヴァに尋ねた。


「ええ。この階層のゴールは、森の奥にある一番大きな木です。そこを目指して進みましょう」


「一番大きな木、ねえ。分かりやすくていいじゃないか!」


 プライドは気楽に笑った。


「ただし、気をつけてください。この階層では、キノコの胞子が厄介なんです」


 シルヴァが注意を促した。


「胞子?」


 キシリアが首を傾げる。


「特定のキノコが放つ胞子を吸い込むと、一時的に身体を操られてしまうことがあります。本人の意思とは関係なく、周囲の者に攻撃を仕掛ける場合もあるそうです」


「……は?」


 キシリアの笑顔が止まった。


「ちょっと待ちなさい。仲間が急に敵になるってこと?」


「そういうことですね」


「嫌すぎるだろ、それ!」


 プライドが思わず声を上げた。


「気をつけていれば防げるのか?」


「胞子を吸い込まないようにするのが基本ですね。風魔法などで散らすこともできますが、風向きによっては別の場所へ飛ばしてしまう可能性もあります」


「なるほど……。注意して進む必要がありますわね」


 アナスイは真剣な表情で頷いた。


 そのとき、配信画面にコメントが流れ始めた。


『二十三階層きた!』

『胞子には気をつけろよ!』

『キノコを見つけたら不用意に近づくな』

『仲間が急に襲ってくることもあるからな』

『ゴールは一番大きな木だぞ!』

『初見組は胞子に注意だ!』


「……なるほどね。視聴者の皆様も、ずいぶん詳しいようですわね」


 アナスイがコメントを眺めながら言った。


「この階層は、それだけ胞子が厄介なんでしょうね」


「ふん。操られる前に倒せばいいんだろ?」


 ジャスティスが剣の柄に手をかけた。


「まあ、確かにそうなんだけど……」


 プライドは森の奥を見渡す。


「どんな魔物がいるのかも分からないし、気をつけながら進むしかないな」


「そういうことですね。では、出発しましょう」


 シルヴァを先頭に、五人は森の中へと足を踏み入れた。


 しばらく進むと、木の幹に張りついた小さなキノコの群れが見えてきた。


「おっ、キノコだ」


 プライドが何気なく視線を向ける。


「待ってください。あれが胞子を放つ種類かもしれません」


 シルヴァが足を止めた。


 その直後だった。


 キノコの表面がぷくりと膨らみ、ふわっと白い煙のようなものが広がった。


「うわっ!?」


 プライドが反射的に身を引く。


「きゃっ!? 何よ、これ!」


 キシリアも慌てて後ろへ飛び退いた。


「風よ!」


 アナスイが即座に風魔法を発動させる。


 胞子が五人の進路から逸れ、森の奥へと流れていった。


「危なかったですね……」


 シルヴァが安堵の息をつく。


「ええ。今のは吸い込まずに済んだようですわ」


 アナスイも胸をなで下ろした。


「……ちょっと! こんなのが森のあちこちにあるの!?」


 キシリアがキノコを睨みつける。


「そう考えておいたほうがいいでしょうね」


「最悪じゃない!」


『いきなり胞子のお出迎えw』

『アナスイさんの風魔法、ナイス!』

『吸い込まなくてよかったな』

『ここからが本番だぞ』

『キノコを見かけたら距離を取るのが基本』


「よし、今度からキノコを見つけたら、先に確認してから進もう」


 プライドがそう提案した。


「それがよさそうですね」


 シルヴァも頷く。


 その後も五人は慎重に森を進んでいった。


 木の根が張り出した道を抜け、茂みを迂回し、ときには枝葉の間から飛び出してくる小型の魔物を迎え撃つ。


 ここまでは順調だった。


 ――だが、別の問題が待ち受けていた。


 ガサガサッ。


 頭上の枝が揺れた。


「ん?」


 キシリアが顔を上げる。


 次の瞬間、葉の陰から大きな虫型の魔物が姿を現した。


 硬そうな外殻を持つ、巨大な甲虫だった。


 その大きさは、人間の頭ほどもある。


「……っ!?」


 キシリアの顔が固まった。


「…………」


 アナスイも笑顔のまま、ぴたりと動きを止めた。


「おい、どうした?」


 プライドが二人を見比べる。


「ちょっと待って……」


 キシリアがじりじりと後ずさった。


「それ、こっちに来ないでしょうね?」


「いや、魔物なんだから、こっちに来る可能性はあるだろ?」


「そういう現実的なことを言わないでちょうだい!」


 キシリアが声を荒らげた。


 甲虫は羽を広げ、低い羽音を響かせる。


 ブブブブブ……!


「ひっ!?」


 キシリアが悲鳴を上げた。


「ちょっと! 飛んだわよ!?」


「え、ええ……。飛ぶ種類のようですわね……」


 アナスイも明らかに表情が引きつっていた。


 普段なら魔物が飛びかかってきても冷静に対応できる二人だが、目の前の虫には、どうにも近づきたくないらしい。


「……お前ら、虫が苦手なのか?」


 プライドが意外そうに尋ねた。


「苦手に決まっているでしょう!?」


「そ、そうですわね……。できれば、あまり近くで見たくありませんわ……」


「いや、魔物だぞ? 倒せばいいだろ?」


「分かってるわよ! 分かってるけど、近くに来るのが嫌なの!」


 キシリアが必死に訴える。


 その間にも、甲虫は羽音を立てながら近づいてきた。


「うわっ、こっち来た!」


 今度はシルヴァが声を上げた。


 甲虫が彼の顔の近くをかすめて飛んでいったのだ。


「……っ、できれば、もう少し離れて飛んでほしいですね!」


「シルヴァまで苦手なのかよ!?」


 プライドが目を丸くする。


「好き好んで近づきたい相手ではありませんからね!」


「まあ、気持ちは分かるが……」


 プライドも甲虫を見上げ、露骨に顔をしかめた。


「俺も、できれば触りたくはないな……」


「プライドさんまで!?」


 シルヴァが思わず叫んだ。


「いや、あの大きさの虫は普通に嫌だろ!?」


「皆様、落ち着いてくださいませ!」


 アナスイが自分に言い聞かせるように声を上げる。


「落ち着いて攻撃すれば、すぐに倒せますわ!」


「じゃあ、誰が倒すんだよ!?」


 プライドが尋ねた。


 四人の視線が、自然と最後の一人へ集まった。


 ジャスティスだった。


「……ん? 何だよ?」


 彼は不思議そうに首を傾げた。


「いや、ジャスティス。お前、平気なのか?」


 プライドが尋ねる。


「何が?」


「虫だよ、虫!」


「別に? 魔物なんだから倒せばいいだろ」


 ジャスティスはあっさり答えた。


 そして剣を抜くと、飛び回る甲虫の動きを見極め、すっと間合いを詰めた。


「ほら、そこ!」


 一閃。


 炎をまとった剣が甲虫を捉え、外殻を砕いた。


 甲虫は地面へ落ち、そのまま動かなくなった。


「よし、終わり!」


 ジャスティスは剣を振って刃を収めた。


 あまりにもあっさりした決着だった。


「…………」


 キシリアは無言でジャスティスを見つめた。


「…………」


 アナスイも、どこか信じられないものを見るような目をしている。


「……え? 何だよ、その顔」


「いや……」


 プライドが口元を押さえた。


「お前、こういうときは頼りになるんだな」


「こういうときって何だよ!?」


「虫退治だよ!」


「そりゃ、普通に倒しただけだろ!」


 ジャスティスは不満そうに言い返した。


「いやあ、まさかジャスティスが一番頼りになるとは思いませんでしたわ……」


 アナスイが、ようやく表情を取り戻した。


「その点については、わたくしも認めざるを得ませんわね……」


「ちょっと! そこ、妙に納得しないでくれる!?」


 キシリアが抗議する。


『まさかのジャスティス無双w』

『虫に関しては頼れる男』

『キシリア様、完全に距離を取ってて草』

『アナスイさん、まだ虫のいた場所を見てるw』

『シルヴァさんまで苦手なの意外だな』

『プライドさんも平気じゃなかったのかw』

『ジャスティス、今日だけは格好いいぞ!』


「今日だけはって何だよ!」


 ジャスティスが配信画面へ向かって抗議する。


「俺だって、やるときはやるんだからな!」


「はいはい。虫が出てきたら、またお願いするわね」


 キシリアが即座に言った。


「お前、絶対それが目的だろ!?」


「何のことかしら?」


「とぼけるな!」


 そんなやり取りをしながら、五人は再び森の奥へ進み始めた。


 ただし、キシリアとアナスイは、先ほど虫が飛んできた場所を通るとき、いつもより大きく迂回していた。


 シルヴァも何も言わず、その判断に従った。


 プライドは少しだけ不満そうだったが、結局は同じように迂回する。


 ジャスティスだけが、何事もなかったかのように先へ進んでいた。


「……なあ。次も虫が出てきたら、お前が倒してくれよ」


 プライドが小声で頼む。


「だから、普通に倒すって言ってるだろ!」


「助かるわ。頼りにしていますわね」


 アナスイまで便乗した。


「アナスイさんまで!?」


 ジャスティスの叫びが、森の中に響き渡った。


 だが、彼らが森の奥へ進むにつれて、魔物の気配は少しずつ濃くなっていった。


 そして、道の脇には、先ほどよりも大きなキノコがいくつも生えていた。


 その傘の表面には、不気味な粉がうっすらと積もっている。


『そろそろ胞子に気をつけろ』

『この先、キノコが増えてくるぞ』

『ジャスティスさん、虫退治だけじゃなく周囲も見てくれよ』

『仲間同士で距離を取って進むんだ!』


 コメントを見たシルヴァは、改めて周囲を確認した。


「皆さん、ここからは特に注意しましょう。キノコの種類によっては、刺激を受けただけで胞子を放つものもあるかもしれません」


「分かったわ。今度こそ、絶対に吸い込まないんだから!」


 キシリアが気合いを入れる。


「ええ。ジャスティスさんも、油断なさらないでくださいませ」


 アナスイが声をかけた。


「分かってるって。虫も胞子も、まとめて片付けてやるよ!」


 ジャスティスは自信たっぷりに答えた。


 ――その直後。


 彼の足元に生えていた小さなキノコが、ぷくりと膨らんだ。


 誰も、それに気づいていなかった。


 次の瞬間、白い胞子がふわりと舞い上がる。


「……ん?」


 ジャスティスが、わずかに顔を上げた。


 そして、そのまま胞子を吸い込んでしまった。


『あっ』

『ジャスティスさん!?』

『今、吸ったぞ!?』

『お約束きたあああ!』

『いや、笑ってる場合じゃない! みんな気をつけろ!』


 ジャスティスは、しばらく何事もなかったかのように立っていた。


「……ジャスティス?」


 プライドが声をかける。


「どうしたのよ? 急に黙り込んで」


 キシリアが怪訝そうに顔を覗き込む。


 ジャスティスはゆっくりと顔を上げた。


 その目から、いつもの表情が消えていた。


 そして、彼は無言で剣を抜いた。


「……え?」


 シルヴァが目を見開く。


 ジャスティスは剣を構え、目の前にいる仲間たちへ切っ先を向けた。


「おい、ちょっと待て……」


 プライドが一歩下がる。


「まさか……!」


 アナスイの表情が強張った。


 キシリアは、自分たちに向けられた剣を見つめ、思わず声を上げた。


「ちょっと! ジャスティス! 何をするつもりよ!?」


 返事はない。


 次の瞬間、ジャスティスが地面を蹴った。


 仲間たちへ向かって、一直線に斬りかかってきたのだった。


ジャスティスが剣を構え、仲間たちへと斬りかかった。


「うおっ、ちょっと待て! 本当に攻撃してきたぞ!」


 プライドが大剣でその一撃を受け止める。


 ガキンッ!


「ジャスティスさん、聞こえていますか!?」


 シルヴァが呼びかけるが、返事はない。

 ジャスティスは剣を引き戻すと、今度はプライドへ向かって踏み込んだ。


「くそっ、操られてるって分かってても、こいつ普通に強いじゃねえか!」


「感心している場合ではありませんわ!」


 アナスイは風魔法でジャスティスの足元を払った。

 体勢が崩れたところへ、キシリアが細剣を突きつける。


「ちょっと! 私たちに剣を向けるなんて、いい度胸じゃない!」


「キシリア、今は説教してる場合じゃない!」


「分かってるわよ!」


 ジャスティスが再び立ち上がろうとした瞬間、プライドが横から大剣の腹で身体を押さえ込んだ。

 さらにシルヴァが拘束用の魔道具を作動させ、ジャスティスの腕と脚を固定する。


「これで動けないはずです!」


「よし、確保!」


 キシリアが胸を張った。


「……って、ちょっと待ちなさい。これ、どうすれば元に戻るのよ?」


「胞子の影響は一時的だと聞いています。まずは、周囲のキノコから離れましょう」


 シルヴァは手早く周囲を確認した。

 アナスイが風魔法で残っていた胞子を散らし、五人はキノコの群生地から距離を取る。

 やがて、ジャスティスの身体から力が抜けた。


「……ん? あれ? 俺、何してたんだ?」


 目を瞬かせるジャスティス。

 その目の前には、武器を構えた仲間たちがいた。


「…………」

「…………」

「……え? 何で全員、そんな顔してんの?」


 キシリアが一歩前へ出た。


「ジャスティス。あなた、私たちに斬りかかったのよ」

「は?」


「胞子に操られていたんです。本人の意思ではありませんが、こちらも対処せざるを得ませんでした」


 シルヴァが説明すると、ジャスティスはしばらく黙り込んだ。


「……えっ。俺、みんなに攻撃したの?」


「ええ。なかなか激しかったですわよ」


 アナスイは笑顔を浮かべていた。

 ただし、その笑顔には少しだけ迫力があった。


「いや、待てって! 俺、全然覚えてないんだけど!?」

「覚えていないからといって、こちらが受けた攻撃まで消えるわけではありませんわ」

「うっ……」


 ジャスティスが言葉に詰まる。

 プライドは大剣を肩に担ぎ、しみじみと呟いた。


「いやあ、仲間が急に敵になるってのは厄介だな。しかも、遠慮なく攻撃してくるし」

「悪かったって! 俺だって好きでやったわけじゃないんだよ!」


『ジャスティスさん、胞子にやられたw』

『制圧までが早い!』

『操られてる間も普通に強いから危ないんだよな』

『キシリア様、怒ってる怒ってるw』

『本人に悪気がないのは分かるけど、襲われた方はたまらん』

『二十三階層のお約束だけど、やっぱり怖いな』


「……とにかく、先へ進みましょう」


 シルヴァが話を切り上げた。


「この階層のゴールは、一番大きな木でしたね。森の奥を目指せばいいはずです」

「そうね。もうキノコは見たくないわ!」


 キシリアは勢いよく歩き出した。


「虫もできれば勘弁してほしいですわね……」


 アナスイも、先ほど甲虫が現れた場所を思い出したのか、少しだけ表情を曇らせた。


「いや、虫なら俺が倒すから大丈夫だって」


 ジャスティスが胸を張る。


「今はあまり格好をつけない方がいいと思いますよ」



 シルヴァに指摘され、ジャスティスは不満そうに口を尖らせた。

 その後、一行は大きな問題もなく森の奥へと進んでいった。

 やがて木々の向こうに、ひときわ巨大な樹木が姿を現した。

 幹は見上げても全体を捉えきれず、枝葉は周囲の木々を覆い隠すほど広がっている。


「あれが……この階層のゴール?」


 キシリアが目を見開いた。


「大きいな……。森の中に、こんな木があるのかよ」


 プライドも感嘆の声を漏らす。


「ええ。あの木の近くに、次の階層へ進むための入口があります」


 シルヴァが答えた。

 五人は巨大な木の根元へと向かい、周囲を確認してから入口を見つけた。


「よし、二十三階層は突破だな!」


 プライドが拳を握る。


「ふふん! 私たちにかかれば、こんなものよ!」


 キシリアが配信カメラへ向かって胸を張った。


『二十三階層突破!』

『胞子には気をつけようなw』

『ジャスティスさん、次は吸い込む前に気づいてくれ』

『巨大な木、何度見ても迫力あるな』

『次は二十四階層か!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。