勇者パーティー配信 21層へ
# キシリア様のダンジョン配信!――新装備と海の階層
「はーい! 今日も始まりました、キシリア様のダンジョン配信よ!」
黒髪を揺らし、キシリアは配信カメラに向かって優雅に微笑んだ。
「今日は新しい装備の性能を確かめながら、ダンジョンの奥を目指すわ。もちろん、主役は私! そこのところ、忘れないようにね?」
「最初から主役を宣言するの、すごいな……」
隣に立つプライドが呆れたように呟く。
「何か言ったかしら?」
「いや、何も?」
「ならいいわ!」
『キシリア様、今日も元気だなw』
『プライドさんとの掛け合い、もう定番になってきた』
『新装備の性能が気になる!』
『今日はどこまで進むんだ?』
『五人パーティーなら安定しそうだな』
今回のパーティーは、キシリアとプライドに加え、シルヴァ、アナスイ、ジャスティスの五人。
シルヴァは全員の装備と持ち物を確認し、アナスイは長剣の位置を整えている。ジャスティスも剣を腰に収め、準備を終えていた。
「よし、準備はできていますね。では、十七階層から進みましょう。無理に急ぐ必要はありませんが、周囲への注意だけは忘れずに」
「ええ。問題ありませんわ」
「俺も大丈夫だ。さっさと行こうぜ」
「ふふっ、私の活躍を見ているといいわ!」
「はいはい。じゃあ、行くか」
プライドの返事を合図に、一行はダンジョンの奥へと進み始めた。
最初に現れたのは、十七階層に生息する大型の魔物だった。
魔物が唸り声を上げて突進してくる。
「まずは俺がやる!」
プライドが前へ出た。
大剣を振り上げ、身体強化を発動する。迫り来る魔物の攻撃を真正面から受け止めることなく、半歩だけ身体をずらし、その勢いを利用して大剣を叩き込んだ。
鈍い音が響く。
魔物の巨体が地面を滑り、そのまま動かなくなった。
「……え?」
プライドは大剣を下ろし、倒れた魔物を見つめた。
「今ので終わりか?」
「終わりね」
キシリアも目を丸くしていた。
「ちょっと待って。今の、そんなに強く叩きつけたつもりはなかったんだけど……」
「十分な威力だったと思いますよ」
シルヴァは倒れた魔物を確認し、落ち着いて答えた。
「武器の性能もありますが、お二人の身体強化との相性もよさそうですね」
「相性がいいって……こんなに変わるものなの!?」
キシリアは自分の手に視線を落とした。
新しい装備を受け取ったとき、性能が向上していることは説明されていた。しかし、実際に戦ってみると、想像していた以上の差があった。
「まあ、考えていても仕方ないわね。次は私よ!」
キシリアは細剣を構えた。
魔物の群れが前方から現れる。彼女は先頭の一体へ向かって踏み込み、細剣を振るった。
赤い宝石が輝き、刃に魔力が集まる。
「さあ、踊りなさい!」
鋭い突きが魔物の防御を貫き、続けざまに放たれた闇魔法が周囲を包み込んだ。
魔物たちの動きが鈍る。その隙を逃さず、キシリアは一体ずつ確実に仕留めていった。
最後の一体が倒れたところで、彼女は優雅に剣を払った。
「ふふん! どう? これがキシリア様の実力よ!」
『キシリア様、決まった!』
『闇魔法からの連続攻撃、綺麗だな』
『攻撃が鋭くなってない?』
『プライドさんも一撃だったし、二人とも装備の性能すごいな』
「そうでしょう、そうでしょう! もっと褒めてもいいのよ!」
「キシリア、まだ先があるんだからな」
「分かっているわよ!」
その後も、一行は十七階層から十九階層までを順調に進んでいった。
シルヴァは水魔法と魔道具を組み合わせて敵の動きを封じ、アナスイは風魔法で味方の動きを助けながら、剣で確実に魔物を仕留める。
ジャスティスも剣と火魔法を使い分け、危なげなく戦っていた。
「よし、次は俺がまとめて片付ける!」
ジャスティスが剣を構える。
「紅蓮の炎よ、我が刃に宿れ! 燃え盛る力を今ここに示せ――!」
「おっ、始まった」
プライドが横目で見た。
「ジャスティス、前に敵がいるわよ!」
「分かってるって! ここからが本番だ!」
炎をまとった剣が一閃する。
前方にいた魔物たちがまとめて吹き飛び、地面に倒れた。
「よし、こんなもんだな!」
「うん。ちゃんと強いのに、詠唱だけは相変わらず長いね」
シルヴァが穏やかに言った。
「いや、これでも短いほうだからな!?」
「そうなのですか?」
アナスイが首を傾げる。
「もっと短くまとめたほうが、戦闘では便利だと思いますわよ?」
「そこは譲れないんだよ。せっかくなら、格好よく決めたいだろ?」
「まあ、気持ちは分からなくもないけれど……」
キシリアが腕を組んだ。
「私の配信なのだから、決め台詞の時間が長すぎるのも困るのよね」
「そこを気にしてたのかよ!」
『ジャスティスさん、今日も通常運転w』
『詠唱のあとに一撃で倒すのは格好いいんだけどな』
『キシリア様、自分の見せ場を取られるのが嫌なだけでは?』
『それも含めていつもの配信』
やがて一行は二十階層へ到達した。
この階層でも魔物は次々と現れたが、五人の連携は安定していた。
プライドが前衛で敵の注意を引きつけ、キシリアが隙を突いて闇魔法を叩き込む。シルヴァは全体の動きを見ながら魔道具で援護し、アナスイが回復と攻撃支援を担当する。ジャスティスも必要に応じて前衛へ加わり、敵の数を減らしていった。
特に大きな危機もなく、最後の魔物が倒れる。
「よし、ここまでだな!」
プライドは大剣を肩に担ぎ、満足そうに息を吐いた。
「……ねえ、シルヴァ」
キシリアは自分の細剣を見つめていた。
「何でしょう?」
「私たち、こんなに簡単に進めてよかったのかしら?」
「順調なのはよいことだと思いますよ。もちろん、油断は禁物ですが」
「それはそうだけど……」
キシリアは少しだけ不満そうに頬を膨らませた。
「もっとこう、強敵を倒して、視聴者を驚かせて、最後に私が格好よく決める展開があってもいいと思うのよ!」
「自分で展開を指定するなよ」
プライドが笑った。
「何よ! 配信者として大事なことなの!」
『キシリア様、敵より演出に厳しいw』
『でも新装備の性能は十分伝わった』
『プライドさんの大剣、威力がすごい』
『五人の連携が安定していて見ていて安心する』
「さて、ここで一度休憩にしましょう」
シルヴァが提案した。
「二十一階層からは環境も変わります。先へ進む前に、食事と装備の確認を済ませておきましょう」
「賛成ですわ。急ぐ必要はありませんもの」
アナスイが頷く。
「よし。俺も少し休みたいな」
ジャスティスも剣を収めた。
五人は安全な場所を確保し、休憩を取ることにした。
食事を済ませながら、シルヴァはこの先の予定を確認する。
「二十一階層への入口は、以前に案内していただいた場所で間違いありませんね?」
「ええ。覚えていますわ」
アナスイが答える。
「私も大丈夫です。以前、エキドナの皆さんと訪れたことがありますから」
「俺も覚えてる。入口までならすぐに案内できるぜ」
ジャスティスも頷いた。
「なら、休憩が終わったらそのまま向かいましょう」
「待って。三人とも、二十一階層に行ったことがあるの?」
キシリアが顔を上げた。
「ええ。以前、エキドナの方々に連れていっていただきましたわ」
「へえ……。じゃあ、どんな場所なのかも知っているの?」
「海が広がっていて、木橋を渡って先へ進む階層ですわ。海から魔物が飛び出してくることもありますの」
「……なるほど。最初から危険な場所だって分かっているのね」
キシリアは少し考え込んだあと、すぐに顔を上げた。
「でも、海の上を歩くなんて面白そうじゃない! 実際に見るのが楽しみになってきたわ!」
「俺は、橋から落ちないように気をつけないとな」
プライドが笑う。
「まあ、落ちたら助けますわよ」
「頼もしいな、アナスイ!」
「ただし、落ちないようにするのが一番ですわね」
「それはそうだな!」
『二十一階層まで来たか』
『この階層、初めて見ると海の広さに驚くんだよな』
『木橋から飛び出してくる魔物には気をつけて』
『キシリア様とプライドさんは初見だから、反応が楽しみ』
『ここは景色もいいから、配信映えするぞ!』
休憩を終えると、一行はアナスイたちの案内で二十一階層への入口へ向かった。
しばらく進んだ先にあったのは、大量のゴミが積み上がった薄暗い一角だった。
「……え?」
キシリアは足を止めた。
「ちょっと待って。ここなの?」
「そうですわ」
アナスイは平然と答える。
「ここに、次の階層への入口があるんです」
「いやいやいや! どう見てもゴミ捨て場じゃない!」
キシリアが思わず声を上げた。
プライドも周囲を見回し、眉をひそめる。
「本当にここなのか? もっとこう、石造りの門とか、魔法陣とか……そういうのを想像してたんだけど」
「残念ながら、ここです」
シルヴァが落ち着いて答えた。
「以前来たときも、この場所から進みました」
「ダンジョンって、階層ごとに雰囲気が違うのは知っていたけれど……入口までこんなに違うなんて」
キシリアは納得できない様子でゴミの山を見つめた。
「まあ、入口が分かっているなら問題ないだろ」
ジャスティスはそう言いながら、足元のゴミを避けた。
「さっさと行こうぜ。ここで長居したくないしな」
「それは同感ですわね」
アナスイも小さく頷いた。
「では、行きましょう」
シルヴァが入口へと進む。
キシリアは最後まで不満そうだったが、配信カメラへ向き直ると、すぐに表情を整えた。
「こほん! えー、皆さん。二十一階層への入口は、まさかのゴミ捨て場でした! ……どうしてこうなったのかしら?」
『そこは初見だと驚くよなw』
『入口の場所、初めて見たときは笑った』
『階層に入れば綺麗な海だから安心してくれ』
『プライドさん、まだ入口で戸惑ってるw』
「……視聴者は慣れているみたいね」
キシリアはコメント欄を見て、少しだけ口を尖らせた。
「私たちだけ驚いているみたいじゃない!」
「初めてなんだから、仕方ないだろ」
プライドが笑いながら入口をくぐる。
「ほら、行こうぜ。海が待ってるんだろ?」
「言われなくても分かっているわ!」
キシリアも続いて入口をくぐった。
次の瞬間、周囲の景色が一変した。
「……わあ」
キシリアの口から、思わず感嘆の声が漏れた。
目の前に広がっていたのは、果てしなく続く海だった。
どこまでも青い水面が広がり、遠くを見渡しても陸地らしきものは見当たらない。頭上には広い空があり、陽光を受けた波がきらきらと輝いていた。
「うわ……すげえな」
プライドも思わず足を止めた。
「本当に、海しかないじゃないか」
「でしょう? 実際に見ると、写真や映像で見るよりもずっと広く感じるものですわ」
アナスイが微笑んだ。
「海の上には木橋が続いています。あの道を進めば、二十二階層への入口にたどり着きますわ」
海の上には、木材を組み合わせた長い橋が続いていた。
橋は遠くまで伸び、その先は水平線に溶け込むように見えなくなっている。
「……あの橋をずっと渡っていくの?」
キシリアが尋ねた。
「ええ。基本的には、あの道を進むことになります」
アナスイが答える。
「ただ、海の中から魔物が飛び出してくることもありますから、足元だけでなく水面にも気を配ってくださいませ」
「なるほど。橋の上を進みながら、海中の魔物にも注意する必要があるわけですね」
シルヴァは水面を観察した。
「橋の幅も限られていますし、複数の魔物が同時に襲ってきた場合は、立ち位置を考える必要がありそうです」
「よし、なら前は俺が行く!」
プライドが大剣を握り直した。
「橋の上なら、敵がどこから来ても迎え撃てるだろ」
「待って。海の中から飛び出してくるんでしょう? どこから来るか分からないのよ?」
「だから、来たら倒すんだろ?」
「……あなた、単純ね」
「分かりやすくていいだろ」
プライドは笑いながら、木橋へ足を踏み出した。
キシリアも負けじと続く。
「ちょっと! 私を置いていかないでよ! 今日の配信の主役は私なんだから!」
「はいはい。ちゃんとついてこいよ」
五人は木橋の上を進み始めた。
最初のうちは、波の音と風の音だけが聞こえていた。
しかし、橋を進んでしばらくしたところで、水面の一角に不自然な波紋が広がった。
「……来ますわ!」
アナスイが声を上げる。
次の瞬間、海面が大きく弾けた。
魚のような姿をした魔物が、水しぶきを上げながら橋の上へ飛び出してくる。
「おっと!」
プライドが即座に大剣を振るった。
魔物は空中で弾き飛ばされ、そのまま海へ落ちていった。
「よし、一匹!」
「私だって!」
キシリアは細剣を構え、別の魔物へ狙いを定めた。
魔物が橋の縁から飛び上がった瞬間、彼女は闇魔法を放つ。黒い魔力が魔物を包み込み、その動きを止めた。
「そこよ!」
続く一撃が魔物を捉え、海へと叩き落とした。
「……今の、私が思っていたより簡単に倒せたわね」
キシリアは剣を見つめた。
「装備の性能もあるでしょうが、狙いが正確でしたね」
シルヴァが答える。
「この調子なら、橋の上でも十分に対応できそうです。ただし、水面の変化を見逃さないようにしましょう」
「ええ。次はもっと派手に決めてみせるわ!」
『ここで魔物が飛び出してくるのはお約束』
『キシリア様、初戦闘からいい動きしてる』
『プライドさんの反応も速いな』
『新装備、二人ともかなり馴染んでる』
『橋の上だから、油断しないようにな!』
アナスイは風魔法で別の魔物を橋の外へ押し戻し、ジャスティスは炎をまとった剣で飛び込んできた敵を迎え撃つ。
「ほら、来るなら来い! まとめて相手してやる!」
ジャスティスが剣を振るうと、炎の軌跡が海面を照らした。
「おお、ジャスティス、格好いいじゃない!」
キシリアが声を上げる。
「だろ? たまには素直に褒めてくれてもいいんだぞ!」
「たまには、ね!」
「おい!」
そんなやり取りをしている間にも、シルヴァは水面の波紋を観察し、魔物が現れそうな位置を仲間たちへ伝えていた。
「右側です! 次は二体来ます!」
「分かりましたわ!」
アナスイが風を操り、二体の魔物の進路をずらす。プライドが片方を大剣で弾き飛ばし、キシリアがもう片方を闇魔法で仕留めた。
魔物たちは海へ落ち、再び波の音だけが周囲に戻ってくる。
「ふう……。なるほど、こういう階層なのね」
キシリアはカメラに向かって微笑んだ。
「景色は綺麗だけれど、海の中から魔物が飛び出してくる。油断していると危ないけれど、きちんと対応すれば問題なさそうね!」
「そうだな。ただ、まだ先が長そうだ」
プライドは遠くまで続く木橋を見渡した。
その先には、青い海と空が広がっている。
そして、橋から少し離れた水面に、いくつもの波紋が生まれ始めていた。
「……また来ますね」
シルヴァが静かに告げる。
「今度は、数が多そうですわ」
アナスイが剣を構えた。
ジャスティスも一歩前へ出て、剣に炎をまとわせる。
「よし。なら、さっさと片付けて先へ進もうぜ!」
「ふふっ、望むところよ!」
キシリアは細剣を掲げ、配信カメラへ向かって笑った。
「皆さん、ここからが本番よ! キシリア様の活躍、見逃さないようにね!」
『海の階層、やっぱり景色がいいな』
『初見組の反応も見られて満足』
『水面の波紋が増えてるぞ。次は大群か?』
『キシリア様、最後まで主役を譲る気がないw』
『五人とも頼もしい! このまま二十二階層まで進めそうだな』
青い海の上に伸びる木橋。
視聴者にとってはおなじみの階層でも、キシリアとプライドにとっては初めての景色だった。
二人が驚きながらも、少しずつこの階層の攻略に慣れていく。
そんな様子を配信に映しながら、五人は海から現れる魔物を迎え撃ち、二十二階層への道を進んでいった。




