勇者パーティー
エキドナの拠点、その食堂。
テーブルには、アーノルドが用意した夕食が並んでいた。
メイン料理は、じっくり煮込まれたビーフシチュー。柔らかく煮えた牛肉と野菜が濃厚なソースに包まれ、香ばしいパンも添えられている。
先ほどまで31階層の調査をしていたマドカたちはもちろん、プライドとキシリアも同じ食卓についていた。
二人は配信を見て、未知の31階層の存在を知ったばかりだ。
当然、話題はそのことで持ちきりだった。
「……それで、31階層にはいつ行けるんだ?」
プライドがスプーンを片手に尋ねた。
「私も気になるわ。あんな未知の階層が見つかったのに、次回まで待つなんて落ち着かないじゃない!」
キシリアも身を乗り出す。
そんな二人を見て、リゼットはビーフシチューを一口食べてから、何でもないことのように言った。
「あなた達、パーティーでも組んだら?」
「……パーティーだ?」
プライドが眉をひそめる。
「誰と組めってんだよ?」
「ちょうどいい人たちがいるでしょう?」
リゼットは、二人の向かい側に座る面々へ視線を向けた。
「アナスイ、シルヴァ、それからジャスティス。あなた達でパーティーを組んで、まずは30階層まで安定してクリアできるようになりなさい」
「……もしかして、こいつ!?」
キシリアが隣のプライドを指差した。
「リゼット様、私にこいつと組めっていうの!?」
「おい、こいつってなんだよ!」
「あなた以外に誰がいるのよ!」
「だったらお前だって同じパーティーだろうが!」
「なによ! 私はちゃんと20階層まで進んでるわよ!」
「俺だって進んでるわ!」
「二人とも、食事中よ」
リゼットの一言で、二人はぴたりと口を閉じた。
もっとも、互いに不満そうな顔をしているあたり、納得したわけではなさそうだった。
「勇者パーティーじゃん!」
マドカが楽しそうに声を上げた。
「みんな脳筋っぽいけど!」
「あら、失礼ですわね」
アナスイが優雅に微笑む。
「少なくとも、プライドさんとジャスティスさん以外は回復魔法も使えるのではありませんの?」
「おい、俺も回復くらい――」
プライドが言いかけて、口をつぐんだ。
「……いや、俺は使えねえな」
「正直でよろしいですわ」
「お前なあ……!」
プライドが抗議しかけるが、アナスイは涼しい顔でビーフシチューを口に運んでいた。
「まあ、僕もまだ自力では30階層まで行けていませんけどね」
シルヴァが苦笑しながら補足する。
「アナスイさんと二人で攻略して、24階層までは進んでいます」
「24階層!?」
プライドが目を見開いた。
「もうそんなところまで進んでるのか? 俺、こっちに来てまだ一週間も経ってねえから、17階層くらいだぜ?」
「私だって、武器と防具を新調してからは20階層まで苦もなく進めたわ!」
キシリアは少し得意げに胸を張った。
「そういえば、20階層に古い都市があったけど? あれはスルーでいいの?」
「あー……」
マドカは少し困ったように頬をかいた。
「あれは文化資産だと思って、そっとしておいてよ。何千年も前の都市の残骸なんだからさ」
「ええ。あそこは冒険者ギルドにも、荒らした場合は厳罰にするよう伝えてあるわ」
リゼットが続けた。
「遺跡の調査そのものを禁じているわけではないけれど、貴重な文化資産を勝手に持ち出したり、破壊したりするのは認められないわ」
「過去の遺産か……」
プライドは少し考え込んだ。
「面白そうだが、確かに墓荒らしみたいなもんだな。勝手に持ち出すわけにはいかねえか」
「理解してもらえて助かるわ」
リゼットは再び食事に戻った。
そこで、シルヴァがプライドへ視線を向けた。
「そういえば、プライドさんも仮の武器と防具は用意してもらっているんですよね?」
「ああ。まだ調整してもらってる途中だが、とりあえずこれを使ってろって渡されたんだ」
プライドは、自分の装備について思い返すように言った。
「前に使ってた武器や防具とは比べ物にならねえ。数倍どころじゃないくらい性能が上がってて、正直、使いこなすのに困ってるくらいだ」
「それなら、装備に慣れる意味でも、僕たちでダンジョン攻略の配信をしてみませんか?」
シルヴァが提案した。
「アナスイさんと僕も一緒なら、戦い方を確認しながら進められます。プライドさんとキシリアさんにとっても、装備の調整に役立つと思いますよ」
「配信か……。悪くねえな」
プライドは少し考えたあと、頷いた。
「せっかく新しい武器をもらったんだ。実際に使って慣れるのが一番だろ」
「私も、こいつと組むのは不本意だけど……」
キシリアはプライドを横目で見た。
「ダンジョン攻略そのものには興味があるわ。新しい装備の性能も試してみたいしね」
「おい、俺だってお前と組むのは不本意だぞ!」
「だったら別の相手を探しなさいよ!」
「だから今、その話をしてんだろうが!」
「はいはい。二人とも、食事を終えてからにしなさい」
リゼットの声に、またしても二人は黙り込んだ。
その様子を見て、ジャスティスが腕を組む。
「なるほど……。勇者同士でパーティーを組み、ダンジョンを攻略するわけか」
彼は真剣な表情で頷いた。
「俺はムサシさんたちのパーティー以外で、誰かとパーティーを組んだことがないんだが……」
「えっ、あそこって回復役いないでしょ!」
マドカがすぐさま突っ込んだ。
「前衛ばっかりでしょ、あのパーティー!」
「うっ……! そ、それはそうだが!」
ジャスティスは言葉に詰まった。
「でも、俺はムサシさんたちと一緒に戦ってきたんだ! パーティーの形は一つじゃないだろ!」
「それはそうだけどね!」
マドカはあっさり認めた。
「でも、勇者パーティーを組むなら、役割分担はちゃんと考えたほうがいいと思うよ!」
「その通りですわね」
アナスイが頷いた。
「攻撃できる者が揃っていても、回復や支援を担当する者がいなければ、長い探索では不利になる場面もありますもの」
「僕も、戦闘中の役割を決めておくのは賛成です。装備や魔法の組み合わせも考えれば、もっと効率よく攻略できるはずですから」
シルヴァも同意する。
そんな中、リゼットがジャスティスへ視線を向けた。
「ジャスティス。あなた、本当に勇者を目指しているのよね?」
「も、もちろんだ!」
「だったら、30階層程度、ムサシに連れていってもらわないとクリアできないようでは駄目ね」
リゼットの声は淡々としていた。
「エキドナの協力者としても、私の後継を目指す者としても、そのままでは話にならないわ」
「なっ……!?」
ジャスティスが目を見開く。
「俺だって、やればできる!」
「なら、実力で証明しなさい」
「くっ……! 絶対に見返してやるからな!」
ジャスティスは拳を握りしめた。
その様子を見て、プライドがにやりと笑う。
「へえ。じゃあ、俺たちと一緒に30階層を目指すか?」
「……なに?」
「勇者パーティーなんだろ? だったら、まずは30階層を安定して突破できるようになればいい。俺もまだそこまで行けてねえしな」
プライドは肩をすくめた。
「お互いに実力を上げるには、ちょうどいいんじゃねえか?」
ジャスティスは少し驚いた顔をしたあと、真剣に頷いた。
「……確かに、それはそうだな」
「ちょっと待って!」
キシリアが割って入った。
「なんで自然にパーティー結成の流れになってるのよ!?」
「お前だって参加するんだろうが!」
「それは……そうだけど!」
キシリアは言葉に詰まり、悔しそうに顔をしかめた。
その様子を見て、マドカが笑う。
「なんだかんだで、仲良くなれそうじゃん!」
「どこがよ!」
「どこがだ!」
プライドとキシリアの声が重なった。
食堂に笑い声が広がる。
ひとしきり盛り上がったところで、アナスイがリゼットへ尋ねた。
「それで、私たちはいつから攻略を始めればよろしいの?」
「あなた達が準備でき次第でいいわ。ただし、私たちも明日から31階層の探索を再開する予定よ」
リゼットは食器を置いた。
「ムサシも、31階層へ行きたいでしょうね」
「もちろんですぞ!」
ムサシは即座に頷いた。
「ただ、同じ条件で挑戦できるのか、それともすでに封鎖されてリゼット様たちのパーティー専用になっているのかは分かりませんがな」
「確かに、31階層がそのまま残っているかどうかも、明日にならないと分からないってことか?」
プライドが考え込む。
「そういうことね。今回の探索で確認できたのは、私たちが31階層へ入れたことと、30階層へ戻れたことだけよ。誰でも入れるのか、同じ条件で再挑戦できるのかは、まだ分からないわ」
「黒いイフリートが、挑戦できるかどうかの目安なんじゃないの?」
マドカがスプーンを持ったまま首を傾げた。
「知らんけど!」
「確かに、いつもとは違うボスでしたね」
アリシアも頷く。
「色が違うだけでなく、黒い炎も通常のものとは違っていました。あの個体が何かの条件に関係している可能性はありそうです」
「なるほどな……」
プライドは腕を組んだ。
「つまり、31階層に行けるかどうかも、明日にならねえと分からねえってことか」
「ええ。だからこそ、今できることをしておくのよ」
リゼットは二人を見渡した。
「あなた達は、まず自分たちのパーティーで安定して攻略できる階層を増やしなさい。未知の階層へ挑むのは、それからでも遅くないわ」
「……分かったわよ」
キシリアは少し不満そうにしながらも頷いた。
「私だって、いつまでも20階層で止まっているつもりはないもの」
「俺もだ」
プライドも頷く。
「30階層まで、必ず自分の力でたどり着いてやるぜ」
「その意気よ」
リゼットは満足そうに微笑んだ。
こうして、プライド、キシリア、アナスイ、シルヴァ、ジャスティスの五人による新たなパーティー結成案が浮上した。
ただし、まだ正式に決まったわけではない。
それぞれの戦い方も、役割分担も、これから考える必要がある。
そして、マドカたちが31階層の探索を再開する一方で、彼らもまた、自分たちの力で上を目指すことになるのだった。




