パーティーメンバー勧誘
アリシアが目を覚ましたのは、冒険者ギルドの一室だった。
「……ここは?」
身体を起こそうとすると、すぐそばから声がかかる。
「無理に起きなくても大丈夫よ」
「リゼットさん……?」
ベッドの横には、リゼットが座っていた。
「ここはギルドの治療室よ。あなたは森で気を失っていたの」
「……そうでした」
少しずつ記憶が戻ってくる。
森。
魔物。
カイとミナ。
そして――。
「カイさんたちは……?」
「捕まったわ」
「……え?」
アリシアが目を見開く。
「二人は最初からあなたを狙っていたのよ」
「そんな……」
「新人冒険者を狙って、仲間のふりをして近づいていたみたいね。あなたを気絶させて、別の場所へ運ぶつもりだった」
アリシアは言葉を失った。
あのとき、親切に声をかけてくれた。
自分にできる仕事を教えてくれると思った。
一人では何もできない自分を、仲間に入れてくれたのだと思っていた。
「……私」
手を握りしめる。
「何も知らなかったんですね」
「最初から全部見抜ける人なんて、そうはいないわ」
「でも……」
アリシアの声が震える。
「私、また騙されたんです」
「そうね」
リゼットは否定しなかった。
「でも、それはあなたが悪いということではないわ」
その言葉に、アリシアは顔を上げる。
「……私が弱いからです」
「それも違うわ」
「でも、一人では何もできませんでした。薬草も見つけられなくて、ゴブリンにも戦えなくて、荷物すら運べなくて……。そのうえ、知らない人に声をかけられたら簡単に信じてしまって」
言葉が止まらない。
自分の情けなさを、一つ一つ並べているようだった。
「私、本当に冒険者に向いていないのかもしれません」
「そんなことないよ」
突然、扉の方から声がした。
「マドカ……?」
マドカが入ってくる。
「もう大丈夫?」
「はい……」
アリシアは小さく頷いた。
マドカはベッドの近くまで来ると、少し考えるように首を傾げた。
「じゃあさ」
「はい?」
「私たちとパーティー組む?」
「…………え?」
アリシアは固まった。
「騙されたばかりで、信じられるかはわからないけど」
マドカはあっさり続ける。
「私たち、今ちょっと暇なんだよね。一緒に冒険者やってみようよ」
「……」
あまりにも自然に誘われて、アリシアは返事ができなかった。
パーティー。
昨日まで、一人でやるものだと思っていた。
そして今日、一人でやることの難しさを思い知らされた。
「でも……」
アリシアは迷う。
「私、また足を引っ張るかもしれません」
「最初から何でもできる人間なんていないわ」
リゼットが言った。
「必要なことは教えるわ。ただし、何でも私たちがやってあげるつもりはないから、そのつもりでね」
「……はい」
「危険なときは助ける。でも、あなた自身が覚えなければならないことは、自分で覚えてもらうわ」
優しいだけではない。
けれど、それがアリシアにはありがたかった。
誰かに守ってもらうだけでは、また同じことになる。
自分で生きると決めたのだから、自分自身も変わらなければならない。
「……少し、考えてもいいですか?」
「もちろん」
マドカは頷いた。
「急がなくていいよ」
アリシアは目を閉じる。
カイとミナのことを思い出す。
そして、自分を助けてくれたマドカとリゼットのことを思い出した。
マドカは、初めて会ったときから余計なことを聞かなかった。
家を追い出された理由も、以前の立場も、何も。
ただ、「これから頑張ればいい」と言ってくれた。
森でも、自分を見捨てずに助けてくれた。
リゼットも、今こうして自分に必要なことをきちんと伝えてくれている。
そして何より――。
「……サリーさん」
アリシアが呟いた。
「どうしたの?」
「私が冒険者になった初日から、いろいろ教えてくださったんです」
「うん」
「サリーさんが信頼している方なら……」
アリシアは顔を上げた。
「私も、もう一度だけ信じてみたいです」
マドカが笑う。
「じゃあ、決まり?」
「はい」
アリシアは、しっかりと頷いた。
「お願いします」
「うん! 一緒に頑張ろう」
マドカが嬉しそうに笑った。
その日の少し前。
「ねえ、サリーさん」
マドカは受付カウンターで、いつものように気軽な調子で話しかけていた。
「アリシアって、私たちのパーティーに入っても大丈夫?」
「ええ、もちろんです」
サリーは少し驚きながらも頷いた。
「マドカさんとリゼットさんなら、アリシアさんを無茶に危険へ連れていくようなことはないでしょうし」
「じゃあ、いいんだね」
「はい」
「よかった!」
マドカが嬉しそうに頷く。
「新米同士、頑張らないとね!」
「……」
サリーは一瞬だけ黙った。
そして、何か言いたそうに口を開く。
「マドカさんたちは、その……ランクが――」
「その話はまた今度!」
マドカは笑顔で押し切った。
「じゃあ、アリシアのことよろしくね!」
「はい……」
サリーは苦笑しながら見送った。
◇
そして今。
正式にパーティーへ加わることになったアリシアは、少しだけ緊張した様子でマドカとリゼットを見ていた。
「……本当に、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
リゼットが微笑む。
「まずは、あなたが冒険者として何を覚えるべきなのか、一つずつ確認しましょう」
「はい!」
アリシアは背筋を伸ばした。
すると、マドカがアリシアの服を見て首を傾げる。
「でも、その服だと戦いにくそうだね」
「え?」
「動きにくくない?」
「……たしかに」
アリシアは自分の服を見る。
上品で、丈夫ではある。
けれど、冒険者として森を歩いたり、魔物と戦ったりするための服ではない。
「装備も見直した方がいいわね」
リゼットも頷いた。
「まずはそこからね」
「わかりました」
アリシアは真剣な顔で頷いた。
「私、ちゃんと冒険者になりたいです」
「じゃあ、一緒に頑張ろう」
「はい!」
こうして――。
アリシアは、マドカとリゼットのパーティーメンバーになった。
まだ何もできない。
剣もまともに扱えない。
薬草の見分けもつかない。
荷物を運ぶことすら苦手だ。
それでも、今日からは一人ではない。
そしてアリシアはまだ知らない。
自分がパーティーを組んだ二人が、冒険者としてはとんでもない実力者だということを。
まずは服を変えるところから。
アリシアの冒険者生活は、もう一度ここから始まる。




