ジャスティス査定始まる
# 第35話 現役勇者二人による、次期勇者ジャスティスの査定!
「今日はもう、ゆっくりなさいな」
リゼットはキシリアにそう告げると、優雅に微笑んだ。
「装備なんて、すぐにできるものではないのだから。あなたの戦闘データも取れたことだし、あとは技術班が検討する時間も必要よ」
「そうね。確かに、焦っても仕方ないわね!」
キシリアは素直に頷いた。
「それなら、せっかくだしお茶にしましょうか。マドカもいらっしゃい」
「うん、お姉ちゃん!」
こうして三人は、庭から応接室へと戻ることになった。
応接室のテーブルには、すでにお茶の用意が整っていた。
キシリアが持参したどら焼きだけではない。色とりどりのケーキに、焼き菓子、クリームを使ったデザートなど、さまざまなスイーツが並んでいる。
「まあ! ずいぶんたくさんお菓子があるじゃない!」
キシリアの目が輝いた。
「ふふっ。せっかくのお茶の時間だもの。お菓子はいろいろあったほうが楽しいでしょう?」
「さすがリゼット様ね!」
『キシリア様、装備の相談よりお菓子に夢中になってない?』
『いや、ちゃんとお土産も持ってきたからセーフ』
『どら焼きだけじゃなく、いろいろ食べられるぞw』
『お茶会にスイーツが並ぶの、エキドナらしいな』
『キシリア様の目が輝いてるwww』
『さっきまで装備の話をしてた人とは思えない』
「ちょっと! 私だって、装備のことは真剣に考えているわよ!」
キシリアが配信端末に向かって言い返した、そのときだった。
「お客さんだよ~!」
明るい声とともに、ニコラが応接室へ入ってきた。
その後ろには、一人の男が続いている。
鋭い目つきに、堂々とした立ち姿。身に着けた装備にも目を引くものがある。
男は部屋を見渡すと、リゼットへと視線を向けた。
「わざわざ迎えてもらって感謝する。リゼット殿、マドカ。俺が傲慢の勇者プライドだ。よろしく頼む」
プライドは落ち着いた口調で名乗った。
「あ、プライドさん! いらっしゃい!」
マドカは気軽に手を振った。
「ふふっ。ようこそ、プライド。そんなにかしこまらなくてもいいのよ」
リゼットも笑顔で応じる。
ところが、マドカはプライドをじっと見つめると、率直な感想を口にした。
「実物はちょっと怖いね! なんか、あちこちにケンカ売ってそう!」
「おい、マドカ。初対面の相手に向かって、ずいぶんな言い方だな」
プライドが眉をひそめる。
「あら、マドカの言うことも分かるわね」
リゼットは楽しそうに微笑んだ。
「でも、プライド? この屋敷でチンピラみたいな態度を取ってみなさい? 消し炭にしてあげるから」
「……相変わらず物騒だな、リゼット殿」
「ふふっ。あなたが余計なことをしなければいいだけよ?」
そのやり取りを見ていたキシリアも、くすりと笑った。
「ふふっ! あんた、このエキドナ屋敷にはいろいろな強者がいるわよ! いつもの態度は引っ込めたほうがいいわね!」
「キシリア、お前なぁ!」
プライドがすかさず反論する。
「俺は、頼みに来た相手にそこまで偉そうにしねぇぞ!?」
「あら、そうかしら?」
「お前も十分、偉そうだろうが!」
「私はいいのよ!」
「よくねぇだろ!」
『待って、傲慢の勇者プライドが来た!?』
『キシリア様の配信、急に勇者会議みたいになってきたw』
『マドカ、初対面で「ケンカ売ってそう」は直球すぎるw』
『リゼット様の「消し炭にしてあげるから」が怖すぎるwww』
『プライドさん、ここで暴れたら本当に消し炭になりそう』
『初対面からキシリア様と口げんかしてるの草』
『勇者同士、相性がいいのか悪いのか分からんw』
『キシリア様、自分のことは棚に上げてて草』
「まったく……賑やかなことね」
リゼットは楽しそうに二人を眺めていたが、やがて話を切り替えるように口を開いた。
「さて、先ほどキシリアの戦闘データを取ったばかりよ。プライド、まずはあなたたち二人が気になっていることを片付けましょうか」
「気になっていること?」
キシリアとプライドが、ほぼ同時に首を傾げた。
マドカは「ああ」と思い出したように手を叩いた。
「ああ、ジャスティスかー」
そして、指にはめた念話リングに意識を向ける。
「もしもし、ジャスティス? 今、ちょっと来られる?」
しばらくすると、応接室の扉が開いた。
「なんだ? マドカ! 俺に用か!?」
ジャスティスが、どこか面倒くさそうな顔で入ってくる。
部屋にいる顔ぶれを確認した瞬間、彼の視線がプライドとキシリアに向いた。
「……なるほどな」
プライドはジャスティスを見て、胡散臭そうに目を細めた。
「そいつか」
キシリアもまた、ジャスティスを上から下まで眺める。
「へぇ……。そいつが自称勇者なのね!」
「自称ってなんだ、自称って!」
ジャスティスがすぐさま反応した。
「ジャスティス、挨拶なさい」
リゼットが静かに促す。
「こちらは現役勇者の二人よ」
「やれやれ……俺の見定めってやつか!?」
ジャスティスは肩をすくめたものの、すぐに胸を張った。
「いいぜ? 俺はジャスティス! いつか勇者になる男だ!」
「あはは。まぁ、自称だけどね」
マドカがさらりと付け加えた。
「おい、マドカ!」
『ジャスティス呼び出し!?』
『現役勇者二人に査定されるのかw』
『ジャスティス、逃げ道なくて草』
『「いつか勇者になる男だ!」って堂々と言うのはすごい』
『マドカの「まぁ、自称だけどね」が容赦ないw』
『二人とも初対面から胡散臭そうに見てるの草』
『この部屋、ジャスティス以外みんな慣れてる感じなのがまたw』
プライドとキシリアは、そろってジャスティスを眺めていた。
その視線には、まだ信用していないという気配がはっきりと表れている。
プライドは腕を組み、ジャスティスの装備にも目を向けた。
「現時点じゃ、まぁ弱くはないな。だが、装備が底上げしてるのは事実だろう、お前」
「……ほう?」
ジャスティスが反応する。
プライドは装備をじっくりと見ながら、少しばかり不満そうに呟いた。
「それにしても、こいつの装備……俺のよりよさそうなんだが?」
「そこが気になるのね」
リゼットが笑みを浮かべた。
「確かに、装備の性能は無視できないわね。キシリア、あなたはどう思うかしら?」
キシリアは改めてジャスティスを観察した。
「そうね。レベル自体は私たちより低いし、戦闘スタイルもまだ見ていないから、詳しい評価はできないわ。でも……装備による底上げがあるのは確かでしょうね」
「まぁ、そういうことだ」
プライドも頷いた。
『プライド、まずは冷静に評価してるな』
『レベルだけじゃなく装備まで見るのは勇者らしい』
『自分の装備よりよさそうって、そこが気になるのかw』
『エキドナ製の装備を借りてるなら、そりゃ強いだろうな』
『でも装備がよくても本人の実力は別だからな』
『キシリア様も、まだ戦い方を見てないから慎重だね』
すると、マドカが説明を引き継ぐ。
「確かにそうだねー。まず、ジャスティスは正式メンバーじゃないよ。だから今はレンタル装備」
「レンタル装備なの?」
キシリアが聞き返す。
「うん。まぁ、私たちもこいつをSクラスにしないと、お姉ちゃんが勇者を辞められないからさ」
「マドカ……」
リゼットが苦笑する。
「それに、ジャスティスは結構協力してくれてるからね。剣聖のムサシも稽古をつけるし、ある程度は支援してるわけ」
「なるほどな……」
プライドは納得したように頷いた。
エキドナの装備を借り、剣聖から稽古を受けている。
それならば、装備によって実力が底上げされているのも当然だろう。
『剣聖ムサシが稽古をつけてる!?』
『待って、あのムサシだよな?』
『ジャスティス、育成環境だけならすごいことになってるw』
『エキドナの装備を借りて、ムサシに鍛えてもらう……贅沢すぎる』
『正式メンバーじゃないのに、そこまで支援されてるんだな』
『リゼット様が勇者を辞めるための後任探し、思った以上に本気だ』
だが、キシリアにはまだ疑問が残っていた。
「リゼット様は、ジャスティスが後任でもいいの?」
「ええ」
「でも、エキドナにはこいつ以外にも強い人がゴロゴロいるでしょう? 例えばマドカだってそう!」
キシリアはマドカを指さした。
「それに、アリシアの幻影とも、さっき戦ったわ! Sクラス認定されているエキドナのメンバーは、マドカ、リゼット様、アリシアだったはずよね!?」
「おお、俺もそこは気になるな」
プライドも同意するように頷いた。
「これだけ強い連中がいる中で、なぜジャスティスなんだ?」
二人の視線がリゼットへと集まる。
『そこは確かに気になる』
『エキドナの強い人たちを差し置いて、なぜジャスティス?』
『マドカもアリシアもいるからなぁ』
『キシリア様、さっきアリシアの幻影と戦ったばかりだもんね』
『あの幻影を見たあとだと、後任候補の基準が気になるよな』
『プライドも同じ疑問を持ってるのか』
しかし、答えたのはジャスティスだった。
「ん!? 俺は、勇者にふさわしいかどうかを見定めるために呼ばれたわけか!?」
ジャスティスは二人を見比べ、納得したように頷いた。
「そうだな。俺もまだ、エキドナのメンバーに勝てる見込みはない!」
その言葉に、プライドとキシリアは少しだけ意外そうな顔をした。
ジャスティスは、自分の実力を過大評価しているわけではないらしい。
「でも、リゼットさんは勇者って立場には、そこまでこだわってないんだ!」
「……ええ、まぁ」
リゼットは否定しなかった。
「だから、俺も考えたんだ! 俺は昔から、正しいと思ったことはちゃんとやるようにしてきた。今はまだAランクだけど、リゼットさんの代わりに怠惰の平和を守れるようになりたいんだ!」
ジャスティスはまっすぐに言い切った。
その声には、飾り気のない熱意があった。
「まぁ、こういうやつなんだよ」
マドカは苦笑しながら肩をすくめる。
「バカだけど、正直に『この世界のために!』とか言っちゃうんだよね!」
「マドカ! バカは余計だ!」
「だって本当じゃん!」
「本当じゃない!」
「はいはい」
二人のやり取りを見て、リゼットがくすりと笑った。
『おお、ジャスティスは自分の実力を分かってるんだな』
『エキドナに勝てないって自分で言えるのは悪くない』
『正義の行いを心がけてきた、か』
『少なくとも、勇者の肩書きだけが欲しいわけじゃなさそう』
『マドカの「バカだけど」が全部持っていくwww』
『熱意は本物。でも言い方が暑苦しいタイプかw』
「確かに、ジャスティスはまだあなたたちより弱いわね。でも、本人のやる気は十分というわけよ」
リゼットは紅茶を一口飲んでから、話を続けた。
「エキドナは、転移アイテムと装備を少し手伝ってあげただけ。ジャスティス自身は、世界のいろいろなことを調べたいと言っているのよ」
「調べる、ですか?」
キシリアが聞き返す。
「ええ。稽古を受けたり、ダンジョン攻略に混ざったりしながら、レベルも上げているわ」
「正義の行いをしたいっていうだけじゃないんだな」
プライドがジャスティスを見る。
「具体的に、何を調べるつもりなんだ?」
「正直、世界にどんな問題があるのか、俺もまだよく分かってないんだ!」
ジャスティスは迷いなく答えた。
「ただモンスターを倒せばいいってわけでもないだろ? それで問題が解決するとは限らないからな! まずはエキドナと協力して、変な奴らがいないか調べないとな!」
その答えに、プライドは少し考え込んだ。
『なるほど、まず問題そのものを調べるわけか』
『モンスターを倒すだけで解決するとは限らない、って考え方は大事だな』
『分からないことを分からないと言えるのはいい』
『エキドナと協力して調査してるのか』
『熱血なだけじゃなく、ちゃんと考えてはいるんだな』
『ジャスティス、意外とまともなのでは?』
「なるほどな……。リゼット殿は、単に勇者の座を押し付けたいからこいつを選んだわけじゃないってことか?」
「そうね」
リゼットはあっさりと頷いた。
「やりたい人で、資格があるのなら、やればいいと思っているわよ?」
そして、少し意地悪そうに微笑む。
「少なくとも、あなたたちが見てきたSクラスの冒険者たちよりはマシではないかしら?」
「……まぁ、それはそうだな」
プライドは否定しなかった。
キシリアも、少し考えたあとに頷く。
「確かに、嫉妬大陸のSクラスよりは強いわね。ただ、なんというか……」
「なんだ!?」
ジャスティスが身を乗り出した。
「俺に足りないものがあるのか!?」
キシリアは遠慮なく答えた。
「あんたの配信を見たけど……バカっぽいのよ」
「なっ!?」
ジャスティスが固まった。
「アハハハハハ! それ言っちゃう!?」
マドカはとうとう吹き出した。
リゼットも口元に手を当て、困ったように笑う。
「まあ……そうなのよね」
「リゼットさんまで!?」
ジャスティスの声が応接室に響いた。
『キシリア様、直球すぎるwww』
『配信を見て判断した結果が「バカっぽい」なのかw』
『ジャスティス、実力より先に知性を疑われてるぞw』
『マドカ大爆笑で草』
『リゼット様まで否定しないのがひどいwww』
『本人は真剣なのに、周りの評価が容赦ない』
『これは勇者査定というより面接では?』
プライドは腕を組んだまま、胡散臭そうな視線をまだジャスティスに向けている。
「……なるほどな。実力だけじゃなく、そういうところも含めて見定める必要があるわけか」
「ちょっと待て! プライドさん! 俺は本気で勇者を目指してるんだぞ!?」
「それは分かった。だからこそ、これから見せてもらうんだろうよ」
プライドはそう言って、ジャスティスをまっすぐに見た。
キシリアもまた、まだ納得しきれない様子で紅茶のカップを手に取る。
「ふふん……。本当にリゼット様の後任にふさわしいのか、もう少し見極めさせてもらうわ!」
「望むところだ!」
ジャスティスは胸を張った。
「俺はいつか必ず勇者になる男だからな!」
「まぁ、自称だけどね」
マドカが再び付け加える。
「マドカ!」
『また言ったwww』
『ジャスティス、マドカにずっといじられてるなw』
『でも勇者になりたい気持ちは本物っぽい』
『プライドとキシリア、どんな評価を出すんだろう』
『キシリア様の配信、今日は情報量が多すぎるw』
『次は実際に戦って査定する展開かな?』
『いや、まだお茶会中だから落ち着けw』
応接室には、また賑やかな声が響き渡った。
現役勇者二人による、次期勇者候補の査定。
ジャスティスの実力だけでなく、その考え方や覚悟まで見極める時間は、まだ始まったばかりだった。




