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落内円は落ちている  作者: 七風


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キシリア エキドナ屋敷へ

「ふふっ、よし! これで準備は万端ね!」


エキドナ館での買い物を終えたキシリアは、両手にお土産の袋を抱えて、エキドナ屋敷へ向かっていた。


その頭の上には、先ほどお迎えした黒猫がちょこんと乗っている。


「あなたの名前はキャリーよ! 私の名前とちょっと似ているでしょう? ふふん、なかなか素敵な名前じゃない!」


頭の上のキャリーは、特に異論もない様子で丸くなっていた。


『マドカ【エキドナ公式】:キャリーかあ! かわいい名前だね!』

『キシリアとキャリー、確かにちょっと似てるw』

『頭の上が定位置になってるwww』

『キシリア様、初日から新しい家族との暮らしを満喫してるな』


「でしょう? 私が名付けたのだから、当然よ!」


キシリアは上機嫌で歩き続けた。


両手の袋には、屋敷の皆へのお土産が入っている。


いろいろな味を楽しめる、マドカがデザインしたどら焼きの詰め合わせ。


そして、もうひとつ。


「ふふふ……。屋敷の皆へのお土産はどら焼き! 警備を頑張っているコボルトたちには、専用のお菓子!」


キシリアは袋を見下ろして、満足そうに頷いた。


「これなら、ジュリエットだけじゃなくて、ほかのコボルトたちにも喜んでもらえるはずよ!」


『ちゃんと屋敷用とコボルト用で分けてる!』

『警備コボルトのみんなへの差し入れなんだね』

『前回の門番イベントをちゃんと覚えてたw』

『キシリア様、こういうところは気が利くんだよな』


「こういうところは、って何よ! 私はいつだって気が利く勇者よ!」


コメント欄に言い返しながら、キシリアは歩みを進めた。


やがて、立派な門が見えてくる。


エキドナ屋敷。


前回は、お土産を持っていなかったために門番のジュリエットに止められてしまった場所だ。


だが、今回は違う。


お土産はばっちり用意した。


しかも、屋敷の皆用と警備コボルトたち用に分けてある。


「ふふん! 今度こそ、何の問題もないわね!」


キシリアは自信満々に門へ近づいた。


すると――。


「わんお!」


門の前に、小さなコボルトが姿勢よく立っていた。


ジュリエットである。


手には槍。耳はぴんと立ち、門番としての仕事に集中している。


「ジュリエット! また会ったわね!」


「わんお!」


「ふふん。今日は前回とは違うわよ! ちゃんとお土産を持ってきたんだから!」


キシリアは得意げに、コボルト用のお菓子が入った袋を取り出した。


「ほら! あなたたち警備コボルトのみんなへのお菓子よ! ジュリエット、あなたの分もちゃんとあるんだから!」


そう言って、ジュリエットに袋を差し出す。


ところが――。


「わんお!」


ジュリエットは袋を受け取らず、首を横に振った。


「……え?」


「わんお!」


ジュリエットは槍を持ったまま、きっぱりと拒否した。


「な、なんでなのよおおおおおおおおおお!?」


キシリアの悲鳴が門前に響き渡った。


「あなたたちのお菓子を買ってきたのよ!? ちゃんとコボルト用って確認して選んだのよ!? 前回、お菓子を持ってこいって言ったのはあなたでしょう!?」


『ジュリエット、まさかのお土産拒否www』

『ちゃんと買ってきたのに!』

『キシリア様、今度は何を間違えたんだw』

『いや、ジュリエットは仕事してるだけなんだよなw』


「ちょっと! 今度こそ正しいものを持ってきたはずでしょう!?」


キシリアが袋を差し出したまま訴えていると、配信のコメント欄にマドカの書き込みが流れた。


『マドカ【エキドナ公式】:あー、キシリアさん。勤務時間中はダメだね!』


「……は?」


『マドカ【エキドナ公式】:ジュリエットたち、今は門番のお仕事中だからね。お菓子はあとで食べるってことだよ!』


「…………」


キシリアは手にしたお菓子とジュリエットを交互に見た。


「……つまり?」


『マドカ【エキドナ公式】:お土産を持ってきてくれたのは嬉しいと思うよ! でも、お仕事中に受け取って食べるわけにはいかないんだ』


「そ、そういうことなの……!?」


『勤務中の飲食禁止www』

『門番としての規律がしっかりしてる』

『ジュリエット、ちゃんとお仕事してて偉い!』

『キシリア様がルールを知らなかっただけだったw』


「な、なるほど……! そういうことなら、最初からそう言いなさいよ!」


キシリアが抗議すると、ジュリエットは不思議そうに首を傾げた。


「わんお?」


「いや、ジュリエットは最初からそう言ってるんじゃないかな……」


『マドカ【エキドナ公式】:あははっ! でも、ちゃんとみんなの分まで買ってきてくれたんだから、ジュリエットも嬉しいと思うよ!』


「……ふん。まあ、いいわ!」


キシリアは咳払いをして、改めてお菓子の袋を持ち直した。


「じゃあ、これはアナスイに預けておくわ。勤務が終わったら、警備コボルトのみんなで食べなさい!」


「わんお!!」


今度はジュリエットが元気よく返事をした。


尻尾も嬉しそうに揺れている。


どうやら、お菓子そのものが嫌だったわけではないらしい。


ただ、仕事中だから受け取れなかった。それだけなのだ。


『おお、今度は意思疎通できた!』

『ジュリエット、あとで食べるの楽しみなんだなw』

『自分だけじゃなく、みんなの分もあるのがいいね』

『キシリア様、ようやく門番攻略の糸口をつかんだw』


「ふっ……。最初からこうしておけばよかったのよ!」


キシリアは満足そうに胸を張った。


「まったく、エキドナ屋敷はお菓子ひとつ渡すのにも、いろいろと決まりがあるのね!」


『マドカ【エキドナ公式】:みんなが気持ちよく過ごすためのルールだからね!』


「わかっているわよ! 私だって、決まりを守るくらいできるんだから!」


そう言いながら、キシリアは残った袋を持ち上げた。


こちらは、屋敷の皆へのどら焼きの詰め合わせだ。


あんこ、クリーム、イチゴ、リンゴ。


いろいろな味を用意したので、きっと皆にも喜んでもらえるだろう。


「そして、こっちは屋敷の皆へのお土産よ! マドカがデザインしたどら焼きなんだから、きっと皆も気に入るはずだわ!」


『どら焼きもちゃんとある!』

『屋敷用と警備コボルト用、二種類のお土産だね』

『これならアナスイさんたちも喜びそう』

『キシリア様、準備万端じゃないか!』


「当然よ! 私を誰だと思っているの!」


キシリアは堂々と宣言すると、いよいよ門をくぐろうとした。


頭の上では、キャリーがのんびりと尻尾を揺らしている。


「さあ、マドカ! これでようやく屋敷に入れるわね! 今度こそ、あなたに会って話をするんだから!」


『マドカ【エキドナ公式】:うん! 待ってるよ、キシリアさん!』


『ようやく本来の目的に戻ってきたw』

『いや、まだミルフィーユとプリンが残ってるぞ』

『黒猫キャリーも一緒に屋敷デビューだ!』

『ジュリエットたち、あとでお菓子いっぱい食べてね!』


「……ところで、マドカ」


『マドカ【エキドナ公式】:ん?』


「このコボルト用のお菓子、私もちょっと食べてみたくなってきたんだけど……」


『マドカ【エキドナ公式】:えっ!? 警備コボルトのみんなへのお土産だよね!?』


「わ、わかっているわよ! これはみんなの分! 私の分はあとで買うわ!」


『結局、自分の分も欲しいんじゃねぇかwww』

『お土産選びで自分の好物も増えていくw』

『どら焼きも食べたのに、まだ食べる気だw』


「うるさいわねええええええ!!」


キシリアは顔を赤くしてコメント欄に言い返した。


その様子を見ているかのように、ジュリエットが元気よく鳴いた。


「わんお!」


「……何よ。あなたも食べたいなら、ちゃんと仕事を終えてからにしなさいよね!」


「わんお!」


ジュリエットは、今度こそ満足そうに尻尾を振った。


こうしてキシリアは、屋敷の皆へのどら焼きと、警備コボルトたちへのお菓子を用意し、ついにエキドナ屋敷の門を通過した。


最初の難関は突破。


お土産は無事に預けられ、ジュリエットも仕事を続けられる。


そしてキシリアの頭の上では、新しい家族のキャリーが気持ちよさそうに丸くなっていた。


――ただし、屋敷の中にはまだまだ彼女を待ち受ける誘惑がある。


明日のミルフィーユも、そのひとつなのだった。


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