キシリア様観光10
「さて、と! お土産を買いに行くわよ!」
ゴールの街を歩きながら、キシリアは元気よく宣言した。
エキドナ屋敷に入るためのお菓子を用意する。それが、今の彼女にとって最優先事項だった。
もちろん、ただ門を通るためだけではない。
せっかく招待してもらったのだから、屋敷にいる皆にも喜んでもらえるものを選びたい。
そして何より――。
「ジュリエットに、お菓子を持っていくって約束したものね!」
『ちゃんと覚えてたw』
『キシリア様、今度こそ門番突破なるか!?』
『お土産選び配信、始まります!』
『ジュリエットちゃんの好物は何かな?』
「ふふん! そこは私のセンスに任せなさい!」
自信満々に胸を張ったキシリアだったが、すぐに店先の商品を見て足を止めた。
「……あら? これは何かしら?」
目に留まったのは、可愛らしい缶に入ったクッキーだった。
缶には小さな妖精の絵が描かれ、色とりどりの装飾が施されている。
「ティニアの妖精缶……ですって? まあ、可愛いじゃない!」
キシリアは缶を手に取り、くるりと眺めた。
『あ、それ人気のやつ!』
『ティニアの妖精缶、見た目もいいんだよな』
『お土産にはぴったりじゃない?』
『キシリア様、いいものを見つけたね!』
「そうでしょう? 見た目も華やかだし、これなら屋敷の皆も喜びそうね!」
キシリアは満足げに頷いた。
そこへ、いつものように配信のコメント欄へマドカの書き込みが流れる。
『マドカ【エキドナ公式】:あっ、妖精缶だ! それ、エキドナ館でも扱ってるよ!』
「マドカ! これ、そんなに人気なの?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! お土産に買っていく人も多いよ。屋敷にも置いてあるんだ』
「まあ、そうなのね!」
キシリアはますます興味を持ち、缶を見つめた。
「だったら、これをいくつか買っていけばいいんじゃないかしら?」
『マドカ【エキドナ公式】:あ、でも屋敷にはもう結構あるよ! お客さん用に置いてあるんだけど、みんな好きだからね。たしか二十缶以上はあったはず!』
「に、二十缶以上!?」
キシリアの手が止まった。
『wwwww』
『屋敷に在庫があるのかw』
『しかも二十缶以上www』
『人気商品だからね、仕方ないね』
「ちょっと! そんなにあるのなら、私が持っていっても珍しくないじゃない!」
『マドカ【エキドナ公式】:そうなんだよねw もちろん、もらったら嬉しいと思うけど、せっかくなら別のお菓子もいいんじゃない?』
「むむむ……確かに、それもそうね」
キシリアは妖精缶を棚に戻した。
せっかくのお土産なのだから、屋敷にたくさんあるものより、まだあまり食べていないものを持っていくほうがよさそうだ。
「それで、マドカ。ほかにおすすめはないの?」
『マドカ【エキドナ公式】:あるよ! ちょうどいいものがあるんだ!』
「おっ、何かしら?」
『マドカ【エキドナ公式】:どら焼き!』
「……どら焼き?」
キシリアは聞き返した。
『マドカ【エキドナ公式】:うん! 私がデザインしたやつなんだけど、何種類かあるんだよ!』
「まあ、マドカがデザインしたの!?」
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう! 普通のあんこ入りだけじゃなくて、クリーム入りとか、イチゴ入りとか、リンゴ入りもあるよ!』
「イチゴに、リンゴ……?」
キシリアの目がきらりと輝いた。
『あんこもおいしいぞ!』
『クリームどら焼きもおすすめ!』
『イチゴ入り、見た目も可愛いんだよな』
『リンゴ入りもおいしいよ!』
「なるほど……。これは迷うわね!」
キシリアは商品を見比べながら、真剣に考え込んだ。
お土産として配るなら、いろいろな種類を買っていくのもよさそうだ。
だが、その前に。
「……ねえ、マドカ。イチゴ入りって、どんな感じなの?」
『マドカ【エキドナ公式】:クリームとイチゴが入ってるよ! 甘酸っぱくておいしいんだ!』
「クリームとイチゴ……!」
キシリアは商品を手に取った。
ふっくらとした生地の間から、赤いイチゴの断面が見える。
「いいじゃない! この赤色、私にぴったりだわ!」
『出たwww』
『赤いものは自分に似合うと思ってるw』
『でも黒髪に赤い瞳だから似合いそう』
『キシリア様、完全に自分用を選んでるw』
「何を言っているのよ! お土産を選ぶうえで、見た目も大切でしょう!?」
キシリアは堂々と言い返した。
「それに、せっかくなら自分でも味を確かめておかないとね。皆に渡すものなのだから!」
『マドカ【エキドナ公式】:それはそう! 気に入ったら、みんなの分も買っていってね!』
「ええ、そうするわ!」
キシリアはイチゴどら焼きをひとつ購入すると、さっそく包みを開けた。
「では、いただきます!」
ひと口。
ふわりとした生地の甘み。その中に広がるクリームのまろやかさ。そして、イチゴの爽やかな酸味。
「…………!」
キシリアの目が大きく見開かれた。
「お、おいしい……!」
『おっ!』
『キシリア様の食レポだ!』
『これは当たりか!?』
『顔がもう答えを言ってるw』
「ちょっと、これ、本当においしいわよ! クリームの甘さだけじゃなくて、イチゴの酸味があるから、全然くどくないの!」
キシリアはもうひと口食べた。
「しかも、この生地がふわふわで……! ああ、なるほど。これは何個でも食べられそうね!」
『マドカ【エキドナ公式】:やった! 気に入ってくれて嬉しい!』
「ええ、気に入ったわ! これはお土産に決定ね!」
キシリアは残りのどら焼きを食べながら、店員に向かって指を立てた。
「すみません! これと、あんこ入り、クリーム入り、リンゴ入りもください! 屋敷の皆に配りたいから、いろいろな種類を多めにお願いするわ!」
『大人買いだwww』
『ジュリエットちゃんの分も忘れずに!』
『結局、自分の分も買ってるw』
『マドカのどら焼き、気に入ったみたいだね!』
「当然でしょう! こんなおいしいもの、私だけで楽しむわけにはいかないじゃない!」
キシリアは購入したどら焼きの包みを大事そうに抱えた。
「よし! これでお土産はばっちりね!」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! これならみんな喜ぶと思うよ!』
「ふふん! さすが私、いい買い物をしたわ!」
『自画自賛w』
『でもちゃんと皆の分を買ってるから偉い』
『今度こそ門を通れるはず!』
『ジュリエットちゃん、待っててね!』
「待ってなさい、ジュリエット! 今度こそお菓子を持ってきたわよ!」
キシリアは意気揚々と歩き出した。
ゴールの街を抜け、見覚えのある立派な門が見えてくる。
エキドナ屋敷。
前回はお土産がないという理由で、門番のジュリエットに止められてしまった場所だ。
だが、今回は違う。
キシリアの手には、屋敷の皆に配るためのどら焼きがある。
もちろん、ジュリエットの分も忘れていない。
「ふふふ……。さあ、今度こそ入らせてもらうわよ!」
『キシリア様、リベンジだ!』
『お土産持参で再挑戦!』
『ジュリエットちゃん、喜んでくれるかな?』
門の前までたどり着くと、キシリアは配信の画面に向かって胸を張った。
「見ていなさい、キシラーたち! これが、お土産をきちんと用意した勇者の姿よ!」
『キシラーって呼び名、もう完全に定着してて草』
『はい、キシリア様!』
『お土産持参、確認しました!』
『あとはジュリエットちゃんの審査だけだw』
「審査って何よ! もうお菓子は買ってきたでしょう!?」
ここから先は、屋敷の皆との直接のやり取りになる。
キシリアは改めて、門の向こうへと視線を向けた。
「さて……今度こそ、堂々と入らせてもらうわよ!」
その手には、皆へのお土産。
そして、明日のお楽しみであるミルフィーユへの期待。
ゴールでの観光を満喫した嫉妬の勇者は、ようやくエキドナ屋敷の門をくぐる準備を整えたのだった




