キシリア様観光8
# 第28話 猫カフェで里親募集!? キシリア様、黒猫をお迎えする!
「ふふん! ゴールには、まだまだ面白いものがありそうね!」
エキドナ館を見て回っていた嫉妬の勇者キシリアは、猫カフェの看板を見つけて足を止めた。
武器や防具、珍しい商品にお菓子。ゴールには嫉妬大陸で見かけないものが多く、歩いているだけでも飽きない。
そして今、彼女の目の前にあるのは、猫と触れ合えるという魅力的な施設だった。
「猫カフェ……? 猫と遊べるお店なの?」
『そうそう!』
『猫好きにはたまらない場所だぞ』
『エキドナ館には里親募集の猫もいるんだよね』
『キシリア様、猫は好き?』
「猫? もちろん好きよ! あの気まぐれなところも、優雅な身のこなしも、実に魅力的じゃない!」
キシリアは胸を張った。
「それに、私の黒と深紅を基調とした装いにも、猫はよく似合うと思わない?」
『自分のファッションに絡めるの草』
『黒猫とキシリア様、絶対似合う』
『これは運命の出会いがあるかもしれない』
「ふふん! ならば、さっそく入ってみましょう!」
キシリアは意気揚々と猫カフェへ足を踏み入れた。
店内には、白い猫、茶色い猫、三毛猫など、さまざまな猫たちがいた。
その中には、里親を募集している猫もいるらしい。
「まあ……! この子たち、みんな可愛いじゃない!」
キシリアは猫たちを見回し、自然と頬を緩めた。
そして、一匹の前で足を止める。
艶やかな黒い毛並み。光を受けて輝く赤い瞳。
「……あら?」
その猫は、キシリアをじっと見つめていた。
キシリアもまた、その猫から目を離せなくなっていた。
「この子……私と同じ、赤い瞳なのね」
『おお、黒猫!』
『黒髪ロングに赤い目のキシリア様とお揃いだ』
『これはもう決まりでは?』
『キシリア様、顔が緩んでますよw』
「緩んでなんかいないわよ! 私はただ、この子の美しさを正当に評価しているだけよ!」
キシリアは黒猫の前にしゃがみ込んだ。
「こんにちは。あなた、ずいぶん綺麗な毛並みをしているのね」
黒猫は小さく鳴き、キシリアの手に鼻先を近づけた。
「ふふっ。そう、挨拶してくれるのね」
キシリアは優しく頭を撫でた。
黒猫は嫌がる様子もなく、気持ちよさそうに目を細めている。
「……可愛い」
思わず漏れた言葉に、コメント欄が反応した。
『言ったwww』
『キシリア様が素直に可愛いって言った!』
『もう飼う気満々じゃないですか』
『黒猫ちゃん、これは勝ち確』
「だから、まだ決めていないでしょう!?」
キシリアは反論したが、視線は黒猫に釘付けだった。
そのとき、里親募集の案内が目に入った。
「……あら。お迎えすることもできるの?」
案内には、引き取りに必要な費用として金貨一枚と記されている。
「金貨一枚なら……問題ないわね」
キシリアはうなずいた。
しかし、次の瞬間、ふと考え込む。
「……待って」
『ん?』
『どうした?』
『まさか金貨一枚が高かった?』
「違うわよ! 金額の問題じゃないわ!」
キシリアは腕を組んだ。
「私、ゴールに来たばかりでしょう? まだ自分の住む場所だって、ちゃんと決めていないのよ」
『あー、住居問題か』
『猫をお迎えするなら住む場所も必要だな』
『まさか家を建てるところから始めるつもり?』
「当然でしょう? 猫と暮らすなら、それなりの住まいが必要じゃない!」
キシリアは真剣な顔で答えた。
「土地を買って家を建てるとなると、いろいろと準備が必要になるわよね……。ううん、でも、この子を諦めるのも……」
『キシリア様、話が大きくなってるw』
『借家という選択肢は?』
『家を建てなくても住めますよ!』
そのとき、配信のコメント欄に、見慣れた名前が現れた。
『マドカ【エキドナ公式】:ゴールなら普通に借家やアパートもあるよ! 家を建てるなら土地が必要だけど、住むだけなら借りればいいんだよ』
「……え?」
キシリアは画面を見つめた。
「ちょっと待って。家を建てなくても住めるの?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! 借家でもアパートでも、好きなところを探せばいいんだよ』
「そ、そうだったの……!?」
キシリアは目を丸くした。
「嫉妬大陸でも借家はあるけれど……そうよね、どうして私は最初から家を建てる前提で考えていたのかしら!」
『そこは勢いでしょw』
『猫をお迎えするために家を建てようとする勇者』
『マドカさん、説明ありがとうw』
キシリアは咳払いをして、気を取り直した。
「と、とにかく! 住む場所については、あとで考えればいいわ!」
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう! それに、キシリアさんが使える部屋も用意してあるから、ひとまず心配しなくて大丈夫だよ!』
「…………え?」
キシリアは再び固まった。
「私のためのお部屋……?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! ゴールにいる間は、そこも使ってね!』
キシリアの頬が、じわじわと緩んでいく。
「そ、そう……。私のために部屋を用意してくれたのね……」
『あっ、始まったw』
『キシリア様、何を考えてるんだw』
『また妹扱いするつもりだぞ!』
「さすがマドカね! 私のことを大切に思ってくれているのね!」
『マドカ【エキドナ公式】:もちろん! せっかくゴールまで来てくれたんだもん、歓迎するよ!』
「そうでしょう、そうでしょう! まったく、可愛い妹を持つと誇らしいわね!」
『マドカ【エキドナ公式】:だから妹じゃないってば!』
「ええっ!? まだそこにこだわるの!?」
『マドカ【エキドナ公式】:そこは大事だよ! 親戚のお姉ちゃん系でお願い!』
「親戚のお姉ちゃん……?」
キシリアは少し考え、それから満足そうにうなずいた。
「なるほど! つまり、家族同然ということね!」
『マドカ【エキドナ公式】:まあ、そういうことにしておこうかな!』
『結局まとまったw』
『マドカさん、キシリア様との掛け合いに慣れてきたな』
『猫カフェで何の話をしてるんだw』
「ふふん! 分かったわ、マドカ! これからも親戚のお姉ちゃんとして、あなたを大切にしてあげるわね!」
『マドカ【エキドナ公式】:だから、私のほうがお姉ちゃんだってば!』
「はいはい、分かったわよ!」
キシリアは笑いながら、再び黒猫へと視線を戻した。
「さて……それじゃあ、あなたのことも考えなくちゃね」
黒猫は、まるで返事をするように小さく鳴いた。
「この子をお迎えしたいのだけれど、何か気をつけることはあるのかしら?」
『マドカ【エキドナ公式】:この子たちは人工モンスターだから、普通の猫とはちょっと違うんだ。食事やトイレは必須じゃないよ!』
「……えっ?」
キシリアは瞬きをした。
「食事も、トイレも必要ないの?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! 主の魔力をエネルギーにして動く仕組みなんだ。もちろん、食べ物をあげても大丈夫だし、食べること自体を楽しむ子もいるよ!』
「な、なんて便利なの……!」
キシリアの目が輝いた。
「猫と暮らせるうえに、食事の心配もないなんて! しかも、一緒にお菓子を楽しむこともできるのね!?」
『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと! ただ、食べなきゃいけないわけじゃないから、そこは安心してね』
「素晴らしいわ!」
『猫の話からお菓子に飛んだw』
『キシリア様らしい』
『黒猫ちゃん、甘いもの好きだといいね』
「ふふん! 決めたわ!」
キシリアは黒猫をそっと抱き上げた。
黒猫は大人しく腕の中に収まり、赤い瞳で彼女を見上げている。
「あなたをお迎えするわ! これからよろしくね!」
黒猫は小さく鳴いた。
「名前は……そうね。帰ってから、ゆっくり考えましょう」
『お迎え決定!』
『おめでとうございます!』
『名前は後日発表かな?』
『黒猫とキシリア様、絵になるなあ』
「ふふん! 当然よ! 私の家族になるんだから、じっくり考えて素敵な名前をつけてあげるわ!」
キシリアは黒猫を優しく撫でた。
初めて訪れたゴールで、新しい家族ができた。
それだけでも、ここまで来た甲斐があったというものだ。
「さて、まだまだ見て回りたい場所があるわね!」
キシリアは黒猫を大切に抱きながら、店内を見渡した。
「お土産のお菓子も買わなくちゃいけないし、マドカが作ったというミルフィーユも気になるし……。ああ、装備の相談だって忘れてはいないわよ!」
『予定が多いw』
『猫をお迎えしたばかりなのに、もう次の目的地』
『ゴール観光、楽しんでるなあ』
「楽しんでなんか……いえ、まあ、少しくらいは楽しんでいるけれど!」
キシリアは得意げに笑った。
「せっかく来たんだもの。ゴールを満喫しなくちゃ損でしょう!」
その腕の中で、黒猫が気持ちよさそうに目を細めた。
こうして嫉妬の勇者キシリアは、ゴールで新しい家族を迎えたのだった。




