キリシア様観光6
# 第24話 嫉妬の勇者、ゴールでニュースデビュー!? そしてマドカと踊ってみた計画!
ゴールの街を歩くキシリア。
その視線の先に、街中に設置された大きな情報塔があった。
情報塔の画面には、ニュースが映し出されている。
『続いてのニュースです。現在、怠惰大陸のゴールを訪れている嫉妬の勇者キシリアさんについてお伝えします』
画面に映ったのは、黒髪に赤い瞳、黒と深紅のドレスをまとった美しい女性。
薔薇の髪飾りと赤い宝石が輝き、その姿は実に華やかだった。
「……えっ?」
思わず足を止めるキシリア。
情報塔の画面では、彼女の紹介が続いていた。
『嫉妬の勇者として知られるキシリアさん。今回は怠惰大陸を訪問し、ゴールの街を観光している模様です』
「…………」
数秒後。
「私ってば有名じゃない!!」
勢いよく配信に向かって宣言するキシリア。
『いや、ニュースで紹介されただけだろwww』
『ゴールに来たことがニュースになっただけでは?』
『そもそも怠惰大陸での知名度はどうなんだ?』
『嫉妬大陸ならともかく、怠惰ではまだ知らない人も多そう』
『本人のポジティブさがすごいw』
「何を言っているの! 情報塔のニュースに取り上げられたのよ!? これはもう、私の美しさと存在感が世界に認められたということじゃない!」
『結論が早いw』
『ニュース出演から世界的スターまで一瞬だった』
『キシリア様、今日も絶好調です』
「ふふふ……この調子でいけば、ゴール中の人々が私の名前を覚えるのも時間の問題ね!」
『まだ名前を覚えられてない前提なの草』
キシリアは満足げに笑い、再び歩き始めた。
その配信には、エキドナ公式アカウントの名前も表示されていた。
『マドカ【エキドナ公式】:いや、ニュースで紹介されてるだけじゃないかな?』
「マドカじゃない! そういう細かいことはいいのよ! 大事なのは、私がニュースに出たという事実なの!」
『マドカ【エキドナ公式】:あはは、そっか! じゃあ、これからもっと有名になるかもしれないね!』
「もちろんよ! 私の魅力に気づく人間が増えれば、そうなるのは当然だもの!」
『マドカ、否定しないで乗ってあげてるw』
『キシリアの扱いがうまい』
『いや、マドカも普通に楽しんでない?』
マドカはキシリアの配信を見ながら、楽しそうに笑っていた。
会議でプライドに怒りをぶつけていたキシリアの姿は、マドカも配信で見ている。
けれど、自分に接するときのキシリアは、また違う。
相手によって態度が違うのだろう。マドカはそんなふうに理解していた。
そして今、キシリアは自分と一緒に何かをしたがっている。
だったら、こちらも楽しめばいい。
「さて、次の話題よ!」
『マドカ【エキドナ公式】:ん? なになに?』
「今夜、マドカと一緒にトライアングルの踊ってみた配信をするわ!」
『!?』
『いきなり重大発表!?』
『マドカとのコラボ!?』
『本人の許可は取ったのかwww』
『マドカ【エキドナ公式】:えっ!? キシリアさんとコラボしていいの?!』
「もちろんよ!」
『マドカ【エキドナ公式】:絶対視聴者くるんじゃない?! 勇者とコラボなんて、なかなかないよね!』
「そうでしょうとも! しかも! 勇者と怠惰最強クラスの冒険者! そして何より! トライアングルのマドカなのよ!?」
『マドカ【エキドナ公式】:あはは! それは確かにすごい組み合わせかも!』
『待って、二人ともノリノリなんだけどwww』
『キシリアは自分の知名度を喜んでる』
『マドカは視聴者が増えそうで喜んでる』
『理由は違うのに意気投合してるの草』
「本家と私! これは見逃せない配信になるわよ!」
『マドカ【エキドナ公式】:でも、今夜の予定はまだ確認してないからね? 時間が合うか調べてみるよ!』
「ええ、もちろん! 予定を確認して、問題なければ今夜ということで!」
『あれ、ちゃんと確認するんだw』
『今のところ、まだ開催決定ではありません』
『キシリア様、勝手に決定事項にしないように』
「ふふふ……楽しみになってきたわね!」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! 私も楽しみ! せっかくだから、やるなら楽しい配信にしようね!』
『マドカ、ちゃんと乗り気なのいいな』
『キシリア、思っていた以上に歓迎されてるぞw』
キシリアは満足そうにうなずいた。
「さて、踊ってみたの話はこれでいいとして……」
『まだあるの!?』
『話題が尽きない女、キシリア』
視聴者の反応を見ながら、キシリアはふと思いついたように言った。
「そうよ! マドカ、あなたが勇者になればいいんじゃない?」
『マドカ【エキドナ公式】:えっ? 私?』
「そうよ! あなた、ものすごく強いんでしょう? 実績だって十分ある。みんなマドカのことは、自分より強いって認めているんでしょう!? それならあなたが勇者になれば解決じゃない!」
『たしかにマドカなら実力は十分だよな』
『ダンジョンの攻略実績もすごいし』
『勇者になったら仕事が増えそうだけどw』
『マドカ【エキドナ公式】:うーん……私、やることが多いんだよね。それに、ジャスティスがやる気満々なんだよ』
「ジャスティス?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん。お姉ちゃんは勇者を辞めたがっているというか……そもそも、勝手に勇者に認定されたんだから、無効だと思ってるんだけどね』
『えっ、勝手に認定されたの!?』
『それは無効だと思いたくもなるw』
『リゼット、そんな事情だったのか』
『マドカ【エキドナ公式】:もし勇者認定が有効なら、ジャスティスが勇者の権利を得た時点で、お姉ちゃんから譲渡することは決まってるよ?』
「なるほどね……。本人が勇者を目指しているなら、そちらを先に考えたほうがよさそうね」
『マドカ【エキドナ公式】:うん。だからキシリアさんも、ジャスティスを試してみてもいいから、少し見てあげたら?』
「ふむ……次の勇者を目指す者、ね!」
『キシリアによる勇者候補の審査が始まる?』
『ジャスティス、嫉妬の勇者に見定められるのかw』
『マドカからキシリアに話がつながったな』
「いいわ! 機会があれば、そのジャスティスという人物を見てみましょう!」
『マドカ【エキドナ公式】:ありがとう! ジャスティスも、きっと喜ぶと思うよ』
「ふふっ、未来の勇者がどれほどのものか、私自身の目で確かめてあげるわ!」
『急に審査員みたいになったw』
『キシリア、こういう話は好きそう』
話がひと段落したところで、キシリアは別の勇者のことを思い出した。
「そういえば、アナスイもいたわね」
『マドカ【エキドナ公式】:アナスイ?』
「ええ。あの人、なんだか周りの人間が自分にひれ伏すのを当然だと思っていそうなのよね」
『マドカ【エキドナ公式】:あー、アナスイは色気がすごいからね! なんか勝手にファンが親衛隊とか作ってそう!』
「でしょう!? 本人が何も言わなくても、周りが勝手に集まってきそうな感じがするのよ!」
『アナスイ親衛隊www』
『ファンが勝手に作ってそうなのはわかる』
『本人の意向とは関係なく組織ができていくタイプ?』
『マドカ【エキドナ公式】:でも、アナスイ本人がそういうつもりかはわからないけどね?』
「そこは私の印象よ! まだ本人に聞いたわけじゃないもの!」
『キシリア、ちゃんと自分の印象だってわかってるんだw』
『マドカもアナスイを知ってるからこその感想だな』
「それに、ジュリエットは別よ! あの子はアナスイの大切な家族なんだから。下僕だなんて思っていないわ!」
『マドカ【エキドナ公式】:うん。ジュリエットは家族だよね』
『そこはちゃんと区別してるんだな』
『ジュリエットへの評価は高い』
「さて! 私がゴールに来た目的のひとつは、将来の家族を探すことだったわね!」
『マドカ【エキドナ公式】:将来の家族?』
「そう! 小さくて、ふわふわで、ずっと小さいままの小竜よ!」
『ああ、小竜を探してたんだっけ』
『ふわふわで大きくならない竜、かわいいだろうな』
『マドカ【エキドナ公式】:ああ、小竜ね! 飛空艇計画では、ふれあい広場に住ませる予定なんだよ』
「えっ!? 小竜がいるの!?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん。ほしいの?』
「ほしいわ! まだ見ていないけど、竜なんてかわいいじゃない! ふわふわなんでしょ!?」
『まだ見てないのに即決www』
『キシリア様、家族候補への判断が早い!』
『小竜側の相性は大丈夫なのかw』
『マドカ【エキドナ公式】:まあ、今はニコラが調整してるから、調整が終わってるなら里親になれば? 金貨三枚くらいだと思うけど』
『金貨三枚!? そんなにするの?』
『バカだなー、コボルトで一枚だぞ? 小竜ならそれくらい普通だろ』
「払えるわ! まずはニコラ博士に聞かないとなのね!」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! いろんな種類がいたからね。選ぶのも楽しいかもね!』
「いろんな種類!? それは迷うわね……!」
『もう里親になる気満々じゃんw』
『どんな小竜を選ぶのか楽しみだな!』
『ニコラ博士への問い合わせが決定しました』
「よし! 小竜の件はニコラ博士に確認するとして……。せっかくゴールに来たのだから、ほかにも楽しめる場所を探さないとね!」
『観光する気満々だw』
視聴者から、ひとつの提案が届いた。
『エキドナ屋敷に猫カフェがあるよ!』
「猫カフェ? 何なの、それは?」
『マドカ【エキドナ公式】:猫と触れ合えるお店だよ! かわいい猫がたくさんいるんだ』
「猫と……触れ合える……?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん。のんびり一緒に過ごしたり、遊んだりできるよ』
「……行くわ!!」
『即決その2www』
『小竜の次は猫!』
『キシリア様、かわいい生き物に弱い説』
「小竜も猫も、どちらも魅力的じゃない! これは見に行くしかないわね!」
『マドカ【エキドナ公式】:ふふ、気に入ると思うよ!』
「決まりね! 今日の予定を整理するわ!」
キシリアは指を折りながら、今日やることを数え始めた。
「まずはお菓子を買う! それからエキドナ屋敷へ行って、マドカのミルフィーユを食べる! シュークリームも忘れないわ!」
『お菓子が最初に来るのかw』
『ミルフィーユへの期待がすごい』
『マドカの新作、気になってたもんな』
「それからマドカにジャスティスのことを聞いて、猫カフェにも行く! 小竜についてはニコラ博士に確認! そして、踊ってみたの予定も調整する!」
『マドカ【エキドナ公式】:盛りだくさんだね!』
「当然よ! せっかくゴールに来たのだから、楽しまないともったいないでしょう?」
『予定がどんどん増えていくw』
『観光というよりミッション一覧だな』
「……あっ!」
突然、キシリアがぴたりと足を止めた。
「そうだったわ! ジュリエットへのお土産を買わないと!」
『あっwww』
『忘れてたのかよ!』
『第20話の門番ルール!』
「あの子にお菓子を持っていかないと、エキドナ屋敷に入れてもらえないかもしれないもの!」
『マドカ【エキドナ公式】:ジュリエット、お菓子が好きだからね!』
「好きというだけではないわ! あの子は屋敷の門番なのよ! 手土産は重要な交渉材料なの!」
『ジュリエットを交渉相手にするなw』
『お菓子が通行証なの草』
『キシリア様、学習している』
「よし! まずはジュリエットへのお土産を買う! それから屋敷へ向かうわ!」
『マドカ【エキドナ公式】:うん、待ってるね!』
「ええ! それじゃあ、またあとでね、マドカ!」
『マドカ【エキドナ公式】:またね、キシリアさん!』
キシリアは元気よく手を振ると、ゴールの街を歩き出した。
その配信を見ていた視聴者たちは、ニュースでキシリアを見かけた人々も含め、少しずつ彼女に興味を持ち始めていた。
『ニュースで見た人、今の配信を見たらびっくりしそうw』
『嫉妬の勇者、思ってたよりずっと賑やかな人だな』
『マドカとのコラボ、本当に実現してほしい!』
『小竜の里親報告も待ってます!』
『まずはジュリエットへのお菓子だ! 忘れるなよ!』
「ふふふ……待っていなさい、ゴール! 今日一日で、私の魅力をたっぷり知らしめてあげるわ!」
こうして、嫉妬の勇者キシリアのゴール観光は、まだ始まったばかりだった。




