キシリア様観光5
# 第23話 嫉妬ダンジョンのボスデータ、驚きの査定額!
ゴールの街を歩いていたキシリアは、ふと目に入ったモンバトのデータ屋の看板に足を止めた。
「……そういえば、せっかく他の大陸に来たんだもの。自分の大陸のモンスターが、どれくらいの価値を持つのか調べてみるのも面白そうね!」
『おっ、さっき見つけたデータ屋に入るのか?』
『キシリア様、モンバトのデータを売る気なのかな?』
『他大陸のデータは貴重って話だったし、査定してもらうのはありだな』
『マドカ【エキドナ公式】:あ、キシリアさん、ゴールに着いたんだね!』
「マドカじゃなーい! 今、モンバトのデータ屋に来たところよ!」
『マドカ【エキドナ公式】:あっ、もうお店の前なんだ! せっかくだし、私も配信を見ながらゴールの案内を手伝うよ!』
「ふふん! ちょうどいいわね! ゴールのことなら、あなたに聞くのが一番早そうだもの!」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! ゴールのことなら任せてね!』
『マドカ、いつの間にか参加してるwww』
『いや、ゴールの所有者なんだから案内役としては最適だろw』
『キシリア様、街の案内役まで確保してしまった』
「ふふん! 私は嫉妬大陸の勇者、キシリア様よ! 私のダンジョンにも、それなりに珍しいモンスターがいるんだから!」
そう言うと、キシリアは勢いよく店の扉を開けた。
「ちょっとあなた! 私、嫉妬大陸の勇者なんだけど、データ査定してもらえる!?」
「はい、もちろんです! 他の大陸のデータは希少ですからね!」
店員は笑顔で答えた。
「おお! 話が早いじゃない!」
『勇者の肩書きを最大限に活用していくスタイルwww』
『キシリア様、入店早々に自己アピールがすごい』
『でも他大陸のデータなら、店側も興味あるだろうな』
「それで、どのようなデータをお持ちでしょうか?」
「嫉妬ダンジョン上級の十五階層のボスなんだけど! どのくらいの値段がつくの?」
「十五階層のボスですか……!」
店員の表情が、商売人のものからデータ収集家のものへと変わった。
「嫉妬大陸の上級ダンジョン、その階層ボス……。しかも、こちらでは流通していないデータですね。ぜひ拝見させてください!」
キシリアは得意げにデータを提示した。
「ふふん! さあ、驚きなさい! 私のダンジョンのボスなんだから、きっと相当な価値があるわよ!」
「少々お待ちください。まずはこちらのデータと比較してみましょう」
店員は端末を操作し、別のモンスターカードを取り出した。
「勇者様、こちらのカードをご覧いただけますか?」
「ん? 強いカードね……」
キシリアはカードを覗き込み、目を細めた。
「見たところ、私が持っているボスのカードより、倍くらい強そうだけど……」
「はい。こちらは怠惰大陸の最難関ダンジョン、十層のボスデータなのです」
「…………は?」
キシリアの笑顔が固まった。
「怠惰大陸の、十層?」
「はい」
「私の嫉妬ダンジョンの十五階層より、怠惰大陸の十層のボスのほうが強いっていうの!?」
『あっ……』
『比較対象を出されてしまったwww』
『キシリア様、現実を突きつけられる』
『いや、怠惰大陸の最難関って言ってるからな!?』
『大陸によってダンジョンの難易度も違うんだろうな』
「まあ、そういうことなのです」
店員は悪びれる様子もなく、淡々と説明した。
「もちろん、階層の数字だけで単純に比較できるわけではありません。ダンジョンごとに構造も難易度も異なりますから。ただ、こちらのボスは怠惰大陸でも特に強力な個体でして、モンバトのデータとしても非常に人気があるのです」
「そ、そう……。別に、私のダンジョンが弱いと言われたわけじゃないものね!」
『自分に言い聞かせてるwww』
『キシリア様、そこは気にしなくていいんだぞw』
『怠惰大陸の基準がおかしい可能性もある』
「それで、私のデータはいくらになるの!?」
キシリアは話を切り替えるように、ぐいっと身を乗り出した。
「はい。今回のデータは、他大陸の階層ボスとしては初めての種類です。特に嫉妬大陸のボスデータは、こちらではまだほとんど流通しておりません」
「ほうほう!」
「コレクターの方なら、金貨五枚を出してもいいと考えるかもしれませんね」
「金貨五枚!?」
キシリアの目が輝いた。
『金貨五枚!?』
『一枚どころじゃないじゃん!』
『他大陸のボスデータ、思った以上に高額だな』
『しかも嫉妬大陸のデータは初物か。そりゃ欲しい人もいるだろ』
「はい。特に竜系のモンスターは人気が高いんです。勇者様のデータは小型の竜ではありますが、竜種であることに変わりはありません。その点も考慮して、買い取り金額は金貨五枚でいかがでしょうか?」
「売るわ!!」
即答だった。
『決断が早すぎるwww』
『さっきまで強さの比較でショックを受けてたのにw』
『金貨五枚の前ではプライドも何もないwww』
『キシリア様、商売の才能あるのでは?』
「ありがとうございます! それでは、こちらのデータを買い取らせていただきます」
「ふふん! いい取引だったわね!」
「まいどありがとうございます。もし他にもデータをお持ちでしたら、ぜひ査定させてください!」
店員の言葉に、キシリアは顎に手を当てて考え込んだ。
「他にも、ねえ……。そういえば、私のダンジョンにはいろいろなモンスターがいるわね」
「同じ種族のモンスターでも、大陸によって姿や能力に違いがあれば、査定対象になることはありますよ。嫉妬大陸特有のモンスターなら、相当な人気が出る可能性もあります!」
「そうなの!?」
キシリアは目を輝かせた。
「なら、被っているデータでもいいのよね!?」
「ええ、もちろんです!」
「決まりね!」
キシリアは勢いよく手を叩いた。
「だったら、他のモンスターもカード化して査定してもらおうじゃない! 私の大陸のモンスターが、どれだけ価値のあるものなのか、まとめて見せてあげるわ!」
『急に商売人の顔になったwww』
『金貨五枚がキシリア様のやる気に火をつけた』
『嫉妬大陸のモンスターデータ、思わぬ輸出産業になるかもしれない』
『でもカード化する前に、ちゃんとデータを集めないとな』
「カード化には、少々お時間をいただくことになります。データを確認して査定し、カードと買い取り金額の明細を用意いたしますね」
「わかったわ! あとでまた取りに来るわよ!」
「はい。こちらのお店に再びお越しになる、ということでよろしいでしょうか?」
「ええ。今日はエキドナ屋敷に行く用事があるから、しばらくはそこにいるわ!」
「でしたら、完成したカードと買い取り金額の明細を、エキドナ屋敷の方へお届けしておきましょうか?」
「えっ、そこまでしてもらっていいの!?」
キシリアは思わず目を丸くした。
「もちろんです。今回は貴重な他大陸のデータをお持ちいただきましたからね。今後もお取引をお願いできれば、こちらとしてもありがたいですので」
「助かるわね! ふふん、なかなか気が利くじゃない!」
『キシリア様、完全に上客扱いwww』
『店側も貴重なデータを逃したくないんだろうな』
『金貨五枚だけじゃなく、今後の取引にもつながるわけか』
『エキドナ屋敷に届けてくれるなら、キシリア様も動きやすいな』
「それでは、カード化するデータの種類と数を確認させてください。追加のデータをお持ちになった際も、同じように査定できますので」
「ええ、よろしく頼むわ!」
キシリアは満足げに頷くと、店を出るために踵を返した。
「いやー、ゴールって本当に面白いところね! 観光に来たつもりだったのに、まさか自分のダンジョンのデータが金貨五枚になるなんて!」
『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ。観光もできて、お金も稼げるなら一石二鳥だね』
「そういうことよ! お土産のお菓子代も確保できたし、これで心置きなくエキドナ屋敷に行けるわね!」
『いや、金貨五枚を全部お菓子に使うつもりか?www』
『屋敷に持っていくお土産代は別に必要だぞw』
『キシリア様、ミルフィーユとシュークリームのこと忘れてない?』
『むしろ今からが本番なのではwww』
「……はっ! そうだったわ! お菓子を買って、ミルフィーユを食べて、シュークリームも食べて、それからマドカにジャスティスのことを聞くんだった!」
キシリアは指を折りながら、本日の予定を確認する。
「忙しくなってきたわね……!」
『予定の大半がお菓子www』
『ジャスティスの調査はどこへ行ったw』
『勇者としての仕事も忘れないでくださいね、キシリア様!』
「忘れてないわよ!! ちゃんと覚えているわ!」
そう叫びながら、キシリアはゴールの街を元気よく歩き出した。
嫉妬大陸のモンスターデータが、ゴールでは思わぬ価値を持つ。
そしてキシリアは、金貨五枚という成果を手にしたことで、他のモンスターのデータにも興味を持ち始めていた。
もっとも――。
「さあ、次はお菓子よ! 待ってなさい、ミルフィーユ!!」
『結局そこかwww』
キシリアのゴール観光は、まだまだ始まったばかりだった。




