キシリア様観光4
# 第22話 次期勇者ジャスティス、そしてリゼットの思惑
エキドナ館へ向かう途中、ゴールの街を見て回っていたキシリアは、視聴者のコメントに目を向けた。
『勇者でまともなの、アナスイさんだけだろ?』
『いや、ジークさんもまともじゃないか?』
『ジャスティスは次期後継者らしいぞ?』
『ジャスティスはネタ枠だろうな』
「……ジャスティス?」
キシリアの表情が変わった。
聞き捨てならない名前が出てきたのだ。
「そういえば、ジャスティスっていうのも見定めなきゃダメね!」
『急にどうしたwww』
『次期勇者の話になったぞ』
『キシリア様、ジャスティスを査定する気なのかw』
「だって、次期後継者なんでしょう? 勇者という立場を継ぐのなら、どんな人物なのか知っておく必要があるじゃない!」
キシリアは真剣な顔で頷いた。
「アナスイは『まあ、別にいいんじゃないんですの?』みたいなことを言っていたけれど……それだけで判断するわけにはいかないわ!」
『アツい男だな』
『ちょっとウザい系』
『勇者になりたいAランク』
『ジャスティスの評価、コメント欄でも割れてるwww』
「……なるほど」
キシリアは腕を組み、考え込んだ。
「熱血漢で、少し押しが強くて、勇者になりたいAランク……。ふむ。確かに、いろいろと癖がありそうね」
『情報が偏ってるぞw』
『コメント欄だけで人物像を組み立てるなwww』
『本人の配信を見てから判断してあげて』
「分かっているわよ! だから、ちゃんと調べようとしているんじゃない!」
キシリアは言い返したあと、ふと首を傾げた。
「……そういえば、ジャスティスって、リゼット様に勇者の座を譲渡したいって言われていたわよね?」
『そうそう』
『リゼット様、今の勇者の座をジャスティスに押し付けたいらしい』
『本人は次期後継者として名前が挙がってるな』
「そんなに強いの?」
キシリアは素直に疑問を口にした。
勇者の座を継ぐというのなら、それなりの実力が必要なはずだ。しかも、リゼットが候補として名前を挙げているのなら、何かしらの理由があるのだろう。
『強いには強いけど、キシラーの俺らにはよく分からんがw』
『ダンジョン配信を見てると、強いのは分かる』
『ただ、エキドナの他のメンバーを100としたら、ジャスティスは25くらいって感じ』
『あくまで俺の印象だけどな』
『比較対象がエキドナなのが厳しすぎるwww』
「……二十五?」
キシリアは、思わず聞き返した。
「ちょっと待ちなさい。エキドナのメンバーが百だとして、ジャスティスは二十五なの? それで勇者を継ぐ候補なの!?」
『いや、基準がエキドナだからなw』
『一般の冒険者と比べたら、普通に強いと思うぞ』
『そもそもエキドナのメンバーを基準にするのが間違い』
『あの人たち、比較対象にしちゃダメな連中だから……』
「それはそうかもしれないけれど……」
キシリアは少し考えた。
エキドナのメンバーには、長年にわたって鍛えられた者や、規格外の実力を持つ者が揃っている。
その集団を基準にすれば、どんな実力者でも低く見えてしまう可能性はある。
だが、それでも気になることがあった。
「……それ、リゼット様が認めているわけ!?」
『いや、リゼット様は押し付けたいだけだろwww』
『自分が勇者をやりたくないから、後任を探してる説』
『ジャスティス本人の希望もあるんじゃないか?』
『実力を認めているのと、勇者を任せたいのは別の話かもしれない』
『リゼット様なら「あなたがやりなさいな」で終わらせそうw』
「……ああ、そういうこと?」
キシリアは妙に納得した顔になった。
「つまり、リゼット様がジャスティスの実力を高く評価しているから後継者にしたい、という単純な話ではない可能性もあるのね」
『お、少し冷静になった』
『そうそう、本人の事情もあるからな』
『リゼット様の「勇者を譲りたい」は、まず本人が勇者をやりたくない問題があるwww』
「ふむ……」
キシリアは顎に手を当てた。
「だったら、ジャスティス本人がどういう人物なのかも調べないといけないわね。勇者になりたい理由も、実力も、本人の考えも。そこを知らずに判断するのは早計よ!」
『急にまともなことを言い始めたwww』
『さすが勇者、こういうところは真面目だな』
『でも、最初はキシラーを強制的に作ってた人です』
『ジャスティスの査定より先に自分の配信をどうにかしろwww』
「最後の人! あなた、まだキシラーを名乗っていないでしょう!?」
『名乗らされるの確定なの草www』
「まったく、もう……!」
キシリアはため息をついたものの、すぐに表情を引き締めた。
「いいわ。まずはエキドナ館に行って、お土産のお菓子を買う! それからマドカに会って、ジャスティスについても聞いてみるわ!」
『予定が増えたwww』
『お菓子を買って、マドカに話を聞くのか』
『ゴール初日から忙しすぎる勇者』
『キシリア様、観光に来たんだよね?』
「そうよ! 観光も調査も、どちらも大事なの!」
キシリアは堂々と宣言した。
「それに、私は嫉妬大陸の勇者キシリアよ! 知らないものを見て、知るべきことを知る。それが勇者というものじゃない!」
『おお、かっこいい!』
『急に勇者らしくなったぞ!』
『キシリア様、やっぱり強そう』
『でもお菓子を忘れないでくださいwww』
「分かっているわよ! お菓子は最優先よ!」
『そこは譲らないwww』
キシリアは再び街を歩き始めた。
エキドナ館へ向かう道すがら、ふと目に留まった看板があった。
そこには、モンスターの絵とカードを組み合わせたような意匠が描かれている。
「……あら?」
キシリアは足を止め、看板を見上げた。
「モンバトのデータ屋ね!」
未知のモンスターの情報を扱う店らしい。
「見てみなさい、キシラー! あんなお店、嫉妬では見たことがないわ!ふふっ……ここも、あとでじっくり見てみたいわね!」
『エキドナ館に行くんじゃなかったのかw』
『寄り道候補が増えていくwww』
『次はデータ屋に入店かな?』
「寄り道じゃないわ! これも立派な調査よ!」
キシリアはそう言い切ると、名残惜しそうに看板をもう一度見てから、エキドナ館へ向かって歩き出した。




