勇者会議雑談23
# 第18話 勇者会議閉会、新作ミルフィーユの誘惑
『リゼット【エキドナ公式】:言いたいことは言ったわ。では、わたしは退室するわね。』
勇者たちへの説明も、必要な手配もひと通り終わった。これ以上、彼女が配信に残っている理由はない。
『マドカ【エキドナ公式】:私も落ちようかな! あ、アナスイとシルヴァ、新作ミルフィーユが食堂の冷蔵庫にあるから、あとで食べてね! じゃあ、勇者のみんな、バイバイ!』
「えっ!?ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」
キシリアの叫びは、すでに届かない。
「ミルフィーユって何よ!?新作って何!?マドカアアアアアアア!?」
『最後に爆弾を置いていったwww』
『キシリア様、観光の話よりミルフィーユに食いついてるw』
『マドカ様、退出のタイミングが完璧すぎる』
『新作の情報だけ残して消えるとか』
『ゴールに行く目的がまた増えたぞwww』
「もういないだろ? 諦めろや」
プライドは呆れた顔でキシリアを見た。
「なんか食いもんなのは分かったが、そんなに気になるもんかね……」
「気になるに決まっているでしょう!?新作よ、新作!しかもマドカが作ったっていうのよ!?」
「いや、作ったって言ってたか?」
「新作ミルフィーユがあるって言っていたじゃない!つまり、そういうことでしょう!?」
「どういうことだよ……」
プライドは頭を抱えた。
一方、アナスイとシルヴァは、すでに帰還後の楽しみに思いを馳せているようだった。
「あら、では早めに戻りませんと」
アナスイは上品に微笑んだ。
「新作のミルフィーユですもの。マドカちゃんが用意してくださったのなら、ぜひいただきたいですわね」
「そうですね。これは楽しみです」
シルヴァも嬉しそうに頷く。
「料理の場合は、アーノルドさんとヒナタさんが主にレシピを作っていますが、デザートの場合はマドカさんが強いですね」
「へえ……料理と菓子じゃ、得意なやつが違うってことか?」
「ええ。もちろん、アーノルドさんたちもデザートを作れますが、マドカさんは独自の発想を持っていますから。今までにない組み合わせや、見た目にもこだわったお菓子を考えるのが得意なんです」
「なるほど。食べ物にもそれぞれ専門家がいるということか」
ジークフリートも納得した様子で頷いた。
しかし、その表情には別の感情も浮かんでいた。
「ミルフィーユ……どんな食べ物なのだ……!?」
『ジークさんまで気になってるwww』
『勇者会議、最後の議題は新作スイーツ』
『ミルフィーユの正体を知らない勇者たち』
『エキドナの食堂、どんだけすごいんだよ』
『マドカ様、デザート方面でも強キャラなのかw』
「ミルフィーユは、パイ生地とクリームなどを何層にも重ねたお菓子ですわね。サクサクした生地と、なめらかなクリームの組み合わせが魅力ですの」
アナスイが丁寧に説明した。
「何層にも重ねる……? それは、作るのに手間がかかりそうだな」
「そうですね。生地の食感を保つのも簡単ではありませんし、クリームとの組み合わせや甘さの調整にも工夫が必要です」
シルヴァの説明を聞きながら、ジークフリートは腕を組んだ。
「ふむ……。つまり、技術と知識が必要な菓子なのだな」
「そういうことですわね」
「……ますます気になるではないか!」
「いや、ジークまでそっちに行くのかよ!?」
プライドが思わず突っ込む。
『ミルフィーユの説明で興味を持つ勇者w』
『未知のモンスターと同じくらい未知のスイーツが気になる』
『ジークさん、調査対象が増えましたね』
『ゴールの観光名所、デザート店に決定www』
「いいじゃない。せっかくゴールに行くんだから、食べ物も楽しみたいわよね!」
キシリアはすでに立ち直り、胸を張っていた。
「ゴールに行ったら、まずはデザートからね!」
「お前、最初は武器や防具を見に行くんじゃなかったのか?」
「それはそれ、これはこれよ! 買い物もデザートも、どちらも大事でしょう!?」
「はいはい……」
プライドはもう突っ込むのを諦めた。
『キシリア様、目的が増え続けてるwww』
『装備、観光、モンスター調査、そしてデザート』
『三日後には予定がぎっしりになってそう』
『ゴールに行く前から楽しそうで何より』
「あらあら。皆さん、すっかりゴールを楽しみにしていらっしゃいますわね」
アナスイは微笑みながら、会議場にいる勇者たちを見回した。
「では、長い間お疲れ様でしたわ。これで閉会としますわね」
会議の進行役として、最後の挨拶を告げる。
「転移アイテムについては、登録などの手続きがありますので、三日くらいだと思いますよ」
シルヴァが補足した。
「三日ね! 分かったわ! 準備ができたら連絡しなさいね!」
キシリアは勢いよく頷いた。
「よし。俺も素材と金を用意しておくか」
プライドは腕を組み、今後の装備相談に向けて考え始める。
「ふむ。三日か……。こちらも準備を整えておく必要があるな」
ジークフリートも頷いた。
それから、彼は配信の視聴者たちへ向けて、落ち着いた声で告げる。
「視聴者の皆、長い間お疲れだったな。今回はここまでとしよう。俺も色々と準備せんとな!」
『お疲れ様でした!』
『勇者会議、今回も面白かった!』
『三日後が楽しみだ!』
『キシリア様、デザートのことしか考えてなさそうw』
『プライドさんは素材集め、ジークさんは島の調査、キシリア様はスイーツ巡りかな?』
『それぞれ準備するものが違いすぎるwww』
『マドカ様、次はミルフィーユの詳細もお願いします!』
『エキドナの新作デザート、絶対うまいやつだろ!』
コメント欄が盛り上がる中、アナスイが最後にもう一度、優雅に頭を下げた。
「では、皆様、解散いたしますわ。お疲れ様でした」
こうして、長時間にわたった勇者会議は、無事に閉会となった。
勇者たちはそれぞれ、三日後のゴール訪問に向けて準備を始める。
装備の相談に必要な素材と資金を用意する者。
転移アイテムの登録を待ちながら、今後の予定を考える者。
未知の島やモンスターの調査に胸を躍らせる者。
そして――。
「……ミルフィーユ。絶対に食べてやるんだから!」
なぜか新作デザートへの闘志を燃やす、嫉妬の勇者。
三日後、ゴールでどんな騒動が待っているのか。
それは、まだ誰にも分からなかった。




