勇者会議雑談22
# 第17話 ゴールでの買い物と、エキドナが関与しないトラブル
『リゼット【エキドナ公式】:さて……そろそろ話すこともなくなってきたわね』
配信越しに、リゼットが淡々と話を切り上げようとした。
勇者会議場では、ヒロバトの設置やエキドナへの訪問、特注装備の相談など、今後の予定について一通り話がまとまっていた。
ただ、最後にひとつだけ、リゼットには気になることがあったらしい。
『リゼット【エキドナ公式】:ただ、嫉妬のあなた。買い物のトラブルには気をつけなさいね?』
「……私!?」
突然名指しされたキシリアは、目を丸くした。
「大丈夫よ! 私、お金は持っているもの!」
『マドカ【エキドナ公式】:そういう問題かなあ?』
「どういう意味よ! お金があれば、買い物で困ることなんてないでしょう!?」
『リゼット【エキドナ公式】:そうとは限らないわ。そもそも、エキドナでは、ゴールのメンバーの弟子が作れる程度のものを持ち込まれても、依頼としては受け付けていないのよ』
「……えっ?」
キシリアの勢いが、ぴたりと止まった。
『リゼット【エキドナ公式】:だから、まずは相談に来る前に、ゴールの町で探しなさいな。町の店で買えるものなら、わざわざエキドナに特注を頼む必要はないでしょう?』
『マドカ【エキドナ公式】:確かに! グレタなんて、そんなもん弟子でも作れんだろうが、いちいち持ってくんな! って怒るよね!』
「グレタさん、そんなに厳しいんですの?」
アナスイが少し驚いた様子で尋ねた。
『マドカ【エキドナ公式】:腕のいい職人だからね。自分たちが特注で作る必要のないものまで持ち込まれたら、そりゃあ怒るよ。まずは町のお店の商品を調べてから、特注を頼むかどうか決めたほうがいいと思う!』
「なるほど……。お弟子さんが作れるものでも、十分に高品質なのね」
キシリアは納得したように頷いた。
「エキドナに頼めば何でも最高のものが出てくる、というわけではないのね。いえ、腕がいいからこそ、頼む仕事を選ぶということかしら」
『リゼット【エキドナ公式】:そういうことね。ただし、ゴールの武器防具店は、扱う素材を絞っているわ。あえて高額になりすぎないようにして、町の冒険者でも買える値段にしているということね』
「なるほどな。素材のランクで、商品の値段も性能もピンキリってことか」
プライドが腕を組んだ。
「希少な素材を使えば、それだけ値段も跳ね上がる。普通の冒険者向けの商品と、俺たち勇者が求める装備じゃ、必要なものが違う場合もあるわけだ」
『リゼット【エキドナ公式】:ええ。だから、店の商品で満足できないなら、改めて必要なものを相談しなさい。最初から特注ありきで考える必要はないわ』
「ふむ……。まずは市場にどの程度の品が流通しているかを調べ、そのうえで不足している部分を補う装備を依頼するのが合理的だな」
ジークフリートも納得したようだった。
「……確かに、町には武器防具店があるのよね。せっかく行くんだから、まずは専門店を見て回るのもよさそうね!」
『マドカ【エキドナ公式】:掘り出し物が見つかるかもしれないしね!』
「ふふん、そうと決まれば、ますますゴールに行くのが楽しみになってきたわ!」
『リゼット【エキドナ公式】:ただし、高額商品を扱う店では、窃盗などのトラブルもあり得るわ』
浮かれていたキシリアに、リゼットが釘を刺す。
「……窃盗?」
『リゼット【エキドナ公式】:値段が高くなれば、それを狙う人間が出てくる可能性もあるということよ』
「そうですね。ゴールではジュリエットの同僚たちが巡回していますけれど、絶対に安全だとは言い切れませんわ」
アナスイも、落ち着いた口調で補足した。
「町の治安を守るために巡回していても、すべてのトラブルを未然に防げるわけではありませんもの」
『マドカ【エキドナ公式】:そうなんだよねー。ゴールにはエキドナ系列じゃないお店もあるからね。そこは私たちとは関係ないし、商業ギルドの管轄だもん』
「……え?」
キシリアは、再び目を丸くした。
「ゴールのお店なら、全部エキドナが面倒を見ているんじゃないの?」
『マドカ【エキドナ公式】:そんなわけないでしょ! 町にはいろんな商人さんがいるんだよ? エキドナのお店もあれば、独立して商売している人たちのお店もあるんだから!』
『そりゃそうだw』
『町全体がエキドナの直営店ってわけじゃないからなw』
『商業ギルドの管轄までエキドナが責任持つのは無理だろ』
『キシリア様、ゴールに行く前に町の仕組みを勉強したほうがいいのではw』
「な、何よ! 知らなかったんだから仕方ないでしょう!?」
『リゼット【エキドナ公式】:そういうことね。実際、たまにあるのよ。エキドナの商品を模倣して、エキドナの開発レシピだと偽って売りつけようとする詐欺が』
「……エキドナの開発レシピ?」
プライドが眉をひそめた。
『リゼット【エキドナ公式】:ええ。エキドナとは無関係なのに、うちが開発したものだと偽って売ろうとしたのよ。そういう業者は営業停止にしたけれど』
『マドカ【エキドナ公式】:まあ、エキドナを舐めるなってことだよね!』
『エキドナの名前を勝手に使って商売してたのか』
『そりゃ営業停止にもなるわ』
『本物かどうか分からない商品を買わされるのは嫌だな』
『エキドナの技術を看板にすれば売れると思ったのかね』
「……なるほどね」
キシリアは腕を組み、真剣な顔で頷いた。
「つまり、ゴールで買い物をするときは、店の評判や商品の出所も確認したほうがいいということね。安いから、珍しいからという理由だけで飛びつくのは危険なのね」
『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと! 特に、エキドナの名前を出しているのに、いつものお店と違うとか、説明が妙だとか、そういうときは気をつけてね!まぁ商業ギルドで私達が援助してる店を聞けば確実だろうね』
『リゼット【エキドナ公式】:それと、もし詐欺に遭ったとしても、わたしたちは関与しないわ。エキドナの系列店でないのなら、町の役場に相談しなさいな』
「ええっ!? エキドナの名前を騙られても!?」
キシリアが思わず声を上げた。
『リゼット【エキドナ公式】:エキドナの名前を騙ったことについて、こちらが対応する必要がある場合は別よ。例えば模倣品の鑑定などはする。ただ、あなたが町の独立した店で買い物をして、その店との間でトラブルになったのなら、まずは町の役場や商業ギルドに相談するべきでしょう? 何でもエキドナに持ち込まれても困るわ』
「……それは、確かにそうね」
キシリアも、今度は素直に納得した。
「エキドナが町のすべてのお店を運営しているわけではないのだものね。自分で買い物をする以上、確認するべきことは確認しないといけないわ」
『マドカ【エキドナ公式】:うんうん! せっかくゴールに来るんだから、楽しく買い物してほしいしね! ちゃんとお店を選べば、いいものも見つかると思うよ!』
「分かったわ! まずはエキドナ関係の専門店を回って、商品を見比べてみる! それでも欲しいものがなければ、改めてエキドナに相談するわ!」
キシリアは胸を張り、力強く宣言した。
「ふふん! 私が買い物で失敗するわけにはいかないもの!」
「……お前、今の話を聞いても、まだ失敗しそうな気がするんだが」
プライドがぼそりと呟く。
「何ですって!?」
「いや、何でもねぇよ」
『キシリア様、買い物に行く前から注意事項が増えていくw』
『お金があれば大丈夫、ではないんだよなw』
『まずは町のお店を見て回るところからだな』
『専門店巡りの時点で一日終わりそうw』
「ふふっ。皆さん、ゴールに行くのが待ち遠しいようですわね」
アナスイの穏やかな声に、会議場の空気も少し和らいだ。
ヒロバトの設置や特注装備の相談だけでなく、町での買い物にも気をつけるべきことは多い。
そして、エキドナが運営する店と、ゴールで独立して商売をしている店は別物だ。町で起きたすべての問題をエキドナが引き受けるわけではない。
『リゼット【エキドナ公式】:……まあ、あなたたちがゴールに来るのを止めるつもりはないわ。楽しむのは自由よ。ただし、何かあったら、まずはどこが管轄しているのかを確認しなさい』
「ええ、分かったわ!」
キシリアは元気よく返事をした。
その様子を見て、プライドは小さくため息をつく。
「……本当に分かってんのかねぇ」
『マドカ【エキドナ公式】:あはは! キシリアさん、ゴールで待ってるね!』
「任せなさい! 今度は私がマドカを嫉妬の大陸で案内する番なんだから!」
こうして、ゴールでの買い物を楽しみにするキシリアに、ひとつだけ大切な心得が加わった。
お金があっても、欲しいものがあっても、まずは店を選ぶこと。そして、エキドナの名前があるからといって、何もかもを信用しないこと。
ゴールでの観光は、まだ始まってもいない。
それでもキシリアは、すでに買い物の計画を立てる気満々だった。




