勇者会議雑談14
# 第9話 大賢者の説教と、エキドナへの有料依頼
『リゼット【エキドナ公式】:まぁ、あなたが会えないと後悔していた時間、色々と考えていたこともあるでしょう。それをムサシとわたしに伝えてくれれば、それでいいわ』
リゼットは、画面越しのジークフリートを見つめながら、静かにそう告げた。
『リゼット【エキドナ公式】:ただ……こんな配信で終わらせることではないわね』
「……おっしゃる通りですね」
ジークフリートは、苦笑交じりに頭を下げた。
「俺は……怖かったのですよ。もし、お二人に拒絶されたらどうしようと。今さら顔を出したところで、何を言われるのかと考えてしまい……結局、何もできずに時間だけが過ぎてしまいました」
彼は、ようやく胸の内を言葉にした。
三百二十年という時間は、決して短くない。
その間に何があったのか。どんな思いで生きてきたのか。そして、かつての主君や仲間たちに、もう一度会いたいと思いながらも、なぜ会いに行けなかったのか。
本人にしか分からない葛藤もあったのだろう。
だが、リゼットの反応は、ジークフリートが想像していたものとは少し違っていた。
『リゼット【エキドナ公式】:だから、おバカさんなのよ』
「……はい?」
『リゼット【エキドナ公式】:聞けば、ムサシが姿を消した理由だって、老化して周囲の足を引っ張るかもしれない、というものだったわ』
『マドカ【エキドナ公式】:あはは……ムサシ、そういうところは昔から変わってないんだね』
『リゼット【エキドナ公式】:そのあと三百年も修行だか何だかを続けて、とうとうレベル999に到達したのでしょう? それで、再会してみたら「何か死なないのです」とか言い出すのだから、こちらだって驚くわよ』
「…………」
ジークフリートは、何とも言えない顔になった。
『リゼット【エキドナ公式】:しかも、話を聞いてみれば、レベル999に到達した者は、わたし以外も不老なのではないか、という説まで出てきたのでしょう?』
『マドカ【エキドナ公式】:うん。まだ確定したわけじゃないけど、そう考えると説明がつくこともあるんだよね』
『リゼット【エキドナ公式】:そういうことよ。もちろん、実際にどういう仕組みなのかは、まだ調べる必要があるわ。でも、少なくともムサシは三百年も修行を続けて、今も元気に生きている。しかも他にもわたし以外の賢者もでしょう? わたしだって、まだ生きていたことにはびっくりしたのよ』
『三百年修行してレベル999になったムサシも大概だなwww』
『再会した第一声が「何か死なないのです」は面白すぎるだろw』
『リゼット様も普通にびっくりしてたのかwww』
『不老の賢者が不老に驚く世界』
『長生きしてる人たち、再会するたびに新事実が判明してない?』
『リゼット【エキドナ公式】:ジーク、あなたも同じようなものよ。その程度のことなのよ?』
「…………」
『リゼット【エキドナ公式】:勝手に悩んで、勝手に怖がって、勝手に会えないと思い込んでいたのでしょう? わたしたちがあなたをどう思っているのか、直接確かめもしないままに』
「……はい。まったく、その通りです」
『リゼット【エキドナ公式】:本当におバカさんね』
リゼットは呆れたように言ったが、その声音に突き放すような冷たさはなかった。
むしろ、いつまでも一人で悩んでいたかつての部下に、ようやく言いたいことを言えた。そんな様子だった。
『リゼット【エキドナ公式】:まぁ、わたしも人のことばかり言えないけれどね。ムサシのことも、ほかの賢者たちのことも、長い間きちんと確かめようとしていなかったのだから』
『マドカ【エキドナ公式】:お姉ちゃんたち、全員それぞれ事情があったんだろうけど、直接話してみたら案外あっさり解決することもあるんだね』
『そういうものかもしれないな……』
『三百年も悩んでいたのに、配信で話したらエキドナに来いって言われたわけだし』
『いや、そもそも配信で再会すること自体が普通じゃないんだよwww』
『でも、ジークにとっては相当勇気が必要だったんだろうな』
ジークフリートは、しばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと顔を上げる。
「……そうでしたね!」
先ほどまでの沈んだ表情とは違い、どこか吹っ切れたような声だった。
「ええ、このジークフリート、いずれ必ずお二人に直接お顔を見せていただきたく存じます!」
『リゼット【エキドナ公式】:ええ、そうなさいな。わたしもムサシも、エキドナに来るのなら会う機会くらいは作れるでしょう』
「はっ! 必ず参ります!」
『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、よかったね、ジークさん! これで直接会う約束もできたね!』
『よかったな、ジーク!』
『次は配信じゃなくて、ちゃんと直接会いに行けよ!』
『三百二十年越しの再会、今度こそ実現してほしいな』
『検査もあるんだから、エキドナに行く理由は十分すぎるほどあるぞw』
ジークフリートの表情から、先ほどまでの張り詰めた空気が少しずつ消えていく。
もっとも、リゼットは感傷に浸り続けるつもりなどないらしい。
『リゼット【エキドナ公式】:さて、それから……ほかの勇者たち』
「お、おう?」
突然話を振られたプライドが、思わず姿勢を正した。
「な、なんだよ?」
「……なんですか?」
キシリアも、何となく嫌な予感を覚えたのか、少し警戒した様子でリゼットを見つめる。
『リゼット【エキドナ公式】:別に、わたしたちは勇者支援組織ではないのよ』
「……ああ、まぁ、そうだろうな」
プライドは、ひとまず頷いた。
エキドナは怠惰大陸を拠点とする組織であり、リゼットはその代表だ。勇者協会の下部組織でもなければ、ほかの大陸の勇者たちを支援するために存在しているわけでもない。
それは、ここまでの話を聞いていれば十分に理解できる。
『リゼット【エキドナ公式】:ただ……マドカが気に入った相手なら、まぁ、しょうがないわね』
『マドカ【エキドナ公式】:えっ? お姉ちゃん、私が気に入ったからって、みんなを助けてくれるの?』
『リゼット【エキドナ公式】:あなたが気に入った相手を、わたしが無条件で放っておけるかというと……そうでもないでしょう? もちろん、何でもかんでも引き受けるつもりはないけれど』
『おおおお!』
『マドカ様の人脈、強すぎるwww』
『エキドナ代表から直接支援の話が出たぞ!』
『いや、無条件じゃないって言ってるからなw』
『マドカが気に入った相手なら、っていうのが大事なんだろうな』
『リゼット【エキドナ公式】:装備についての相談と、転移アイテムのレンタルくらいなら、してあげてもいいわ』
「……装備の相談に、転移アイテムのレンタル?」
プライドは思わず聞き返した。
「それって、俺たちがエキドナに行くための転移アイテムも用意してくれるってことか?」
『リゼット【エキドナ公式】:ええ。もちろん、貸し出す以上は扱いを間違えないでもらうけれどね。装備についても、相談を受けることくらいならできるわ。実際に何を用意できるかは、話を聞いてから決めることになるでしょうけれど』
「なるほどな……」
プライドは腕を組んだ。
装備の相談ができるなら、自分たちの戦い方や今後の活動についても、新しい選択肢が見つかるかもしれない。
転移アイテムを借りられるのであれば、怠惰大陸へ移動する手段についても話を進められる。
ただし、リゼットの言葉には、まだ続きがあった。
『リゼット【エキドナ公式】:ただし、ひとつ条件があるわ』
「……条件?」
『リゼット【エキドナ公式】:ええ。どうせ、また勇者協会が何かといちゃもんをつけてくるでしょう? だから、これはエキドナへの有料依頼という形にしておきなさい』
「…………は?」
プライドが、再び間の抜けた声を漏らした。
『マドカ【エキドナ公式】:あははっ! お姉ちゃん、そこはきっちりしてるんだね!』
『リゼット【エキドナ公式】:当然でしょう? わたしたちは勇者協会の支部でもなければ、勇者たちに無償で奉仕する組織でもないのよ。こちらが提供するものには、相応の対価を設定する。それだけの話だわ』
『あー、確かにwww』
『無償支援だと協会が何か言ってきそうだもんな』
『エキドナへの依頼なら、個人として問題ないってことか』
『装備の相談も転移アイテムのレンタルも、ちゃんと依頼として扱うわけね』
『大賢者、仕事の線引きが明確すぎるwww』
「……つまり、俺たちがエキドナに依頼料を払って、装備の相談や転移アイテムのレンタルを受ける。それなら協会が何か言ってきても、エキドナの通常業務として説明できるってことか?」
『リゼット【エキドナ公式】:そういうことよ。わたしたちは、こちらが受けると決めた依頼をこなすだけ。あなたたちが勇者だから特別扱いするわけではないわ。それに勇者協会は装備支援もするのでしょう?協会に請求する契約でもかまわないわよ?』
「なるほど……それなら筋は通るな。それに協会にも負担してもらえるなら助かるが」
プライドは納得したように頷いた。
キシリアも、少し考え込んでから口を開く。
「こちらが必要なサービスを受けるのだから、対価を支払うのは当然でしょう?!それに、せっかく怠惰大陸へ行くのなら、エキドナにも立ち寄ってみたいもの!」
『リゼット【エキドナ公式】:ふふっ。あなたは、話が早いわね』
「当然よ! 観光もできて、装備の相談もできて、珍しいものまで見られるかもしれないんでしょう? 行かない理由がないじゃない!」
『マドカ【エキドナ公式】:あはは、キシリアさん、もうすっかりエキドナに来る気満々だね!』
『観光の話から、いつの間にか有料依頼の話になってるwww』
『でも、正式な依頼にするなら分かりやすいな』
『勇者協会を通さず、エキドナと直接契約するわけか』
『転移アイテムのレンタルまであるなら、移動の計画も立てやすくなりそうだ』
『あとは依頼料と、どんな装備の相談ができるかだな!』
『リゼット【エキドナ公式】:依頼の内容や料金については、実際に希望を聞いてから決めましょう。こちらとしても、内容が分からないうちから適当な金額を提示するわけにはいかないもの』
「分かった。詳しい話は、また改めて相談させてもらうぜ」
『リゼット【エキドナ公式】:ええ。それでいいわ』
エキドナは勇者支援組織ではない。
勇者協会の都合で動くつもりもなければ、勇者という肩書きだけを理由に特別扱いするつもりもない。
しかし、マドカが気に入った相手であれば、相談に乗るくらいは構わない。そして、必要な支援を依頼として受けるのなら、対価を支払ってもらえばいい。
リゼットにとっては、それだけの話だった。
『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、なんだか話がまとまってきたね! ジークさんはエキドナで検査を受けることになったし、ほかのみんなも装備や転移アイテムについて相談できそうだし!』
『リゼット【エキドナ公式】:ええ。ただし、まだ何も決まっていないことまで、勝手に決まったと思わないようにね』
『マドカ様、ちゃんと釘を刺されてるwww』
『まずは相談から、だな!』
『エキドナへの訪問、ますます現実味が出てきたな……』
こうして、ジークフリートとリゼットの再会は、過去のわだかまりを少しずつ解いていくものとなった。
そして勇者たちにとっても、エキドナという組織との新たな接点が生まれつつあった。
ただし、それは勇者協会の支援制度とは別の話。
エキドナに依頼をするのであれば、依頼人として対価を支払う。
大賢者リゼットは、その線引きを決して曖昧にはしなかった。




