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落内円は落ちている  作者: 七風


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勇者会議雑談13

『リゼット【エキドナ公式】:さて……あなたたち、わたしに聞きたいことがあるのでしょう?』


リゼットは、画面の向こうにいる勇者たちを見渡すように、ゆったりと微笑んだ。


『リゼット【エキドナ公式】:正直なところ、面倒だからあまり関わりたくないのだけれど……そうもいかないのよね。まったく、困ったものだわ』


「そりゃあ……まあ、聞きたいことは山ほどあるだろうな」


プライドは頭をかきながら、ちらりと周囲を見た。


百年もの間、謎とされてきた怠惰の勇者。その本人が目の前の配信に現れたのだ。しかも、本人は勇者として活動するつもりがなく、エキドナの代表として普段どおりに仕事をしているという。


聞きたいことがないほうがおかしい。


『リゼット【エキドナ公式】:特に……そこの、ずっと黙っているおバカさん?』


それまで一言も発していなかったジークフリートは、わずかに顔を上げた。


「……申し訳ありません、リゼット様」


ようやく口を開いたジークフリートの声は、いつもよりも低く、硬かった。


『リゼット【エキドナ公式】:まあ、あなたの事情については、配信を見たからある程度は把握しているわ』


リゼットは、責め立てるような口調ではなく、あくまで淡々と話を続けた。


『リゼット【エキドナ公式】:もっとも、わたしも百年ほど国に関わっていなかったのだから、知らなかったこと自体はお互い様ね。……まあ、そんなことはどうでもいいわ。わたし自身、特に興味があるわけでもないし』


「当時の俺は……」


ジークフリートは、何かを説明しようと口を開いた。


しかし、言葉はそこで途切れた。


言い訳をするつもりはなかった。自分が当時どう考え、何を恐れ、なぜ今の状況に至ったのか。それを説明したところで、過去が変わるわけではない。


それでも、リゼットを前にして何も話さずにいることもできなかった。


「……いえ。申し訳ありません」


結局、ジークフリートはもう一度謝罪した。


『リゼット【エキドナ公式】:ふぅ……謝罪が聞きたいわけではないのだけれどね』


リゼットは小さく息をついた。


『リゼット【エキドナ公式】:まあいいわ。あなたの事情について、わたしが知っていることと、あなたが実際に経験したことには違いもあるでしょう。必要な話があるのなら、順を追って聞かせてもらうことになるわね』


ジークフリートは、静かに頭を下げた。


勇者会議場には、再び沈黙が落ちた。


マドカも、今は口を挟まなかった。リゼットがどこまで話を進めるつもりなのか、そしてジークフリートが何を語るのか。それを見守るように、画面の向こうから二人の様子を眺めていた。


# 第8話 大賢者が語る、三百二十年前の王


『リゼット【エキドナ公式】:ただ……あなたが生きていてくれたなら、まぁ、よかったわよ?』


リゼットは、それまでと変わらない落ち着いた声でそう告げた。


その言葉に、ジークフリートは顔を上げた。


『リゼット【エキドナ公式】:昔のことなんて、思い出したくもないけれどもね』


「……リゼット様」


ジークフリートの声には、驚きと戸惑いが混じっていた。


彼はずっと、リゼットに対して申し訳なさを抱えていたのだろう。かつて仕えていた相手に、自分の事情をどう説明すればいいのか。どこまで話せば許されるのか。そもそも、自分が今さら言葉を交わしてよい相手なのか。


そんな思いがあったのかもしれない。


しかし、リゼットは彼が考えていたほど、再会そのものを悪く受け止めてはいないようだった。


『リゼット【エキドナ公式】:あなたが何を考えていたのか、何があったのか。それは、これから少しずつ聞けばいいわ。少なくとも、今こうして生きていると分かったのだから、それでいいじゃない』


「……っ」


ジークフリートは再び言葉を失った。


『ああ……リゼット様、ちゃんとジークのことを気にかけてくれてるんだな』

『ずっと謝ってばかりだったけど、本人としてはそれだけ申し訳なかったんだろうな……』

『リゼット様のほうは、まず生きていてよかったって思ってくれてるんだね』

『いや、三百二十年前の部下と配信越しに再会するって、普通に考えたらすごい話だよな……』


『リゼット【エキドナ公式】:それにしても……』


リゼットは、ふと遠い過去を思い返すように目を細めた。


『リゼット【エキドナ公式】:当時の王は、まぁ、本当に使えない無能だったわね』


「…………」


ジークフリートが、今度は別の意味で固まった。


『マドカ【エキドナ公式】:お姉ちゃん、そこはずいぶんはっきり言うね!?』


『リゼット【エキドナ公式】:事実でしょう? わたしがあれこれ動かなければならなかったのも、周囲の者たちが余計な苦労を背負わされていたのも、結局は上に立つ者がまともに機能していなかったからよ』


『いきなり王様への評価が辛辣すぎるwww』

『リゼット様、昔の話になると容赦がないな!?』

『三百年以上前の話なのに、まだそんなに言いたいことがあるのか……』

『いや、百年単位で不老の人からしたら、そこまで昔の話でもないのか?』


『リゼット【エキドナ公式】:何もかもをこちらに押しつけて、自分ではまともに動こうとしない相手にまで、いつまでも付き合っていられるほど暇ではなかったのよ』


マドカは、画面の向こうで苦笑した。


『マドカ【エキドナ公式】:まぁ……お願いするだけで、結局のところ実務はお姉ちゃんたちに任せきりだったなら、そうなっちゃうよね』


『リゼット【エキドナ公式】:ええ。口だけは挟んでくるくせに、自分では動かない。こちらが必要なことを説明しても、肝心なところでは責任を取ろうとしない。本当に邪魔くさかったわ』


「……それは、確かに大変だったんだろうな」


プライドも、さすがに苦笑するしかなかった。


王という立場にある者が、周囲に仕事を任せること自体はおかしくない。だが、任せることと、何もかもを押しつけることは違う。


ましてや、実務を担う者たちの意見を聞かず、口だけを挟んでくるとなれば、現場の苦労は増える一方だろう。


『リゼット【エキドナ公式】:まぁ、当時の話はもういいわね。今さら蒸し返したところで、何かが変わるわけでもないのだから』


リゼットは軽く息をつき、話を切り上げた。


『リゼット【エキドナ公式】:結局、わたしも自分から行方をくらませたのだから。今になって、あの頃のことばかり話していても仕方がないわ』


「…………」


ジークフリートは、何かを言おうとして、結局口を閉じた。


リゼットが過去をどう受け止めているのか。そのすべてを、彼が今すぐ理解することはできないだろう。


それでも、彼女が自分の生存を喜んでくれたことだけは、確かだった。


『リゼット【エキドナ公式】:さて、ジーク。あなたの体の異変についてだけれど』


「はっ!」


呼びかけられたジークフリートは、反射的に背筋を伸ばした。


『リゼット【エキドナ公式】:あなたは、呪いだと言っていたわね?』


「はい。少なくとも、俺自身にはそうとしか思えません」


『リゼット【エキドナ公式】:そう。なら、後で検査するからエキドナに来なさい』


「……え?」


『リゼット【エキドナ公式】:聞こえなかったかしら? 後でエキドナに来て、わたしの検査を受けなさい。これは命令よ?』


「はっ! 承知しました!」


ジークフリートは、今度こそ迷いなく返事をした。


『命令って言ったwww』

『さすが元上司、話が早い!』

『ジーク、さっきまであんなに恐縮してたのに、命令された瞬間の返事が完璧だな』

『でも体の異変を調べてもらえるなら、ありがたい話だよな』


『マドカ【エキドナ公式】:お姉ちゃんが直接検査してくれるなら、原因が分かる可能性もあるね!』


『リゼット【エキドナ公式】:ええ。ただし、実際に調べてみないことには何とも言えないわ。わたしだって、見ただけですべてが分かるわけではないもの』


リゼットは、あくまでも慎重だった。


ジークフリートの体に起きた異変が本当に呪いなのか、それとも別の原因があるのか。今の段階では、断定することはできない。


だからこそ、まずは本人をエキドナへ招き、きちんと調べる必要がある。


『リゼット【エキドナ公式】:まぁ、調べてみないと分からないけれど……別に、そこまで悲観することでもないと思うわよ?』


「……そう、なのですか?」


『リゼット【エキドナ公式】:ええ。ムサシもわたしも不老なのだから』


「…………あ」


ジークフリートは、そこでようやく何かに気づいたような顔をした。


『マドカ【エキドナ公式】:お姉ちゃんもムサシも、ずっと変わらず生きてるもんね』


『リゼット【エキドナ公式】:そういうことよ。もちろん、あなたの体に何が起きているのかは別問題だけれど、不老そのものが特別にあり得ない現象というわけでもないわ』


『確かに、リゼット様もムサシも不老なんだよな』

『三百二十年経っても、本人が普通に生きてる世界だしな……』

『ジークの体も、調べたら何か分かるかもしれないってことか』

『まだ原因は不明だけど、少なくとも最初から絶望する必要はないんだな』


『リゼット【エキドナ公式】:それに、賢者のジジババだって、百年前から交流がなかったのよ?』


『マドカ【エキドナ公式】:お姉ちゃん、ジジババって言ってる』


『リゼット【エキドナ公式】:事実でしょう? 長く生きていれば、それだけ時間の感覚も違ってくるものよ』


リゼットは、さも当然といった様子だった。


『リゼット【エキドナ公式】:そもそも、わたしがほかの賢者たちが今どうしているのかを知ったのだって、アホな賢者会議とかいう配信のおかげなのだから』


『マドカ【エキドナ公式】:ああ 視聴者のコメント書き込みなしにしておけば見られてないと思ってそのまま動画残した奴?そのままアーカイブに残ってるの気づいてなかったんだよね!』


『リゼット【エキドナ公式】:EVの仕組み位理解しておきなさいな。』


『ひどい!まさかのアホな配信扱いwww』

『でも、その配信で生存確認できたのは事実なんだよな』

『大賢者たち、百年単位で連絡を取ってなかったのか……』

『不老だと百年がそこまで長く感じないって、感覚が違いすぎるw』


『リゼット【エキドナ公式】:百年なんて、不老のわたしたちにとっては、そこまで大きな時間でもないのよ。もちろん、何もかも放っておいていいという意味ではないけれどね』


リゼットは、最後にそう付け加えた。


人間にとっての百年と、不老の者にとっての百年。同じ時間であっても、その重みは必ずしも同じではない。


それゆえに、長い年月のあいだ交流が途絶えていたことも、彼女にとっては決して不思議なことではなかったのだろう。


「……分かりました。検査の件、よろしくお願いいたします」


ジークフリートは、深々と頭を下げた。


『リゼット【エキドナ公式】:ええ。詳しい話は、エキドナに来てから聞かせてもらうわ。今は、あなたが生きていてくれたことを喜んでおくことにするわね』


その言葉に、ジークフリートは再び顔を伏せた。


今度は、謝罪のためではなかった。


かつて仕えた大賢者は、三百二十年という歳月を隔てた自分を、まだ見捨ててはいなかった。


その事実を、彼は静かに受け止めていた。


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