勇者会議雑談12
『リゼット【エキドナ公式】:ただね? ひとつ、勘違いしてもらっては困ることがあるのよ。わたしが勇者として公の場に出るつもりはないわ』
リゼットは、いつもの穏やかな笑みを浮かべたまま、はっきりと言い切った。
『マドカ【エキドナ公式】:まぁ、そうだよね~。最近の怠惰大陸の事件って、ほとんどエキドナで解決しちゃってるし。結果的にお姉ちゃんも関わっているだけなんだよね』
『リゼット【エキドナ公式】:ええ、そういうことになるわね。わたしは大賢者として、エキドナの代表として、必要なことをしているだけなのよ。勇者として活動しようと考えているわけではないわ』
「なるほどな……」
プライドは腕を組み、納得したように頷いた。
考えてみれば、リゼットが怠惰大陸の問題に関わることと、勇者として活動することは別の話だ。
彼女はエキドナの代表であり、大賢者でもある。怠惰大陸で何か問題が起きれば、その立場から関与することもあるだろう。
だが、それをもって勇者として表舞台に立つことを望んでいると考えるのは、まったく別の話だった。
『リゼット【エキドナ公式】:そもそも、協会にあれこれ言われる筋合いもないのよね。だって、わたしは勇者として活動するつもりがないのだから』
『それはそうw』
『大賢者として仕事してたら、いつの間にか勇者扱いされてたわけだしな』
『本人が知らなかったんだから、そりゃ公の場に出る予定もないよな』
『リゼット【エキドナ公式】:それにしても、不思議だと思わないかしら? 百年もの間、怠惰の勇者だけが謎の存在として扱われていたのでしょう? それなのに、どうして誰も怠惰大陸に確認しに来なかったのかしらね』
リゼットは、ほんの少しだけ首を傾げた。
『リゼット【エキドナ公式】:王国に尋ねれば、もっと早く分かったはずよ。少なくとも、最初から怠惰大陸に問い合わせていれば、ここまで長い話にはならなかったでしょう?』
「それなんだよ!」
プライドが勢いよく声を上げた。
「いや、ほんとにそうだろ! 百年も謎だ、正体不明だって言い続けておいて、肝心の怠惰大陸には確認していなかったってことか!? あいつら、仕事してんのか!?」
『マドカ【エキドナ公式】:あはは……プライドさん、言いたいことは分かるけど、落ち着いて!』
「落ち着けるかよ! 分からないことがあるなら、まず国に聞けばいいだろうが!」
「本当にそうよね!」
キシリアも、すかさず同意した。
「勇者の選出に関わることなのだから、なおさら確認するべきでしょう? それを百年も放置していたなんて、いくら何でもおかしいわよ!」
『リゼット【エキドナ公式】:ふふっ。あなたたちも、そう思うでしょう?』
『協会、何やってたんだwww』
『百年も謎にしておく前に、問い合わせ一回くらいしようよw』
『リゼット様が知らなかったのはともかく、協会側は確認できたんじゃないのか?』
『今回の件、勇者本人より協会のほうが困惑してそうだな……』
『リゼット【エキドナ公式】:まあ、今さら過去の対応を責め続けても仕方がないわ。わたしとしては、これから先も怠惰大陸で必要なことをしていくだけよ』
「……それでいいのか?」
プライドが尋ねると、リゼットは当然だと言わんばかりに微笑んだ。
『リゼット【エキドナ公式】:ええ。怠惰大陸では、王様からエキドナに相談があれば、わたしたちが動くわ。必要なことがあれば、任せておきなさい』
『マドカ【エキドナ公式】:うん! 怠惰のことなら、エキドナに相談してくれれば大丈夫だよ!』
リゼットとマドカの言葉には、迷いがなかった。
勇者という肩書きがなくても、怠惰大陸にはエキドナがある。国王から相談を受ければ、必要に応じて対応することもできる。
少なくとも、リゼットにとっては、それで十分なのだろう。
「なるほどな。怠惰大陸のことは、怠惰大陸のやり方で解決するってわけか」
プライドは納得したように頷いた。
だが、そんな彼に向かって、リゼットはふと思い出したように声をかけた。
『リゼット【エキドナ公式】:ただ、あなたたちには、ひとつお願いがあるのだけれど』
「ん? なんだ?」
『リゼット【エキドナ公式】:わたしを勇者扱いするのは、やめてくれないかしら』
「…………は?」
プライドが、間の抜けた声を漏らした。
『リゼット【エキドナ公式】:勇者として扱われると、いろいろなことに巻き込まれそうで面倒なのよ。わたしは今までどおり、大賢者として、エキドナの代表として活動していきたいの。勇者として公の場に出るつもりはないし、会議への参加を求められても困るわ』
「いや、まあ……気持ちは分かるけどよ」
プライドは頭をかきながら、何とも言えない表情を浮かべた。
確かに、勇者として認識されれば、今後は何かあるたびに協会から連絡が来たり、会議への参加を求められたりする可能性がある。
リゼットがそれを面倒だと感じるのも、無理はない。
『リゼット【エキドナ公式】:そもそも、勇者になりたいと言っているジャスティスがいるのでしょう? だったら、わたしの枠はあげたいくらいなのだけれど』
『マドカ【エキドナ公式】:あはは! お姉ちゃん、本当に勇者をやりたくないんだね!』
『リゼット【エキドナ公式】:やりたくないというより、わたしには今の仕事があるでしょう? 大賢者としての役目も、エキドナの運営もあるのよ。そこに勇者としての仕事まで加わったら、いったい何をどこまで引き受けることになるのかしらね』
『それは確かにw』
『大賢者にエキドナ代表に勇者まで追加したら、仕事が多すぎるw』
『本人が望んでないなら、ジャスティスに譲れるなら譲ったほうがいいのか?』
『いや、勇者の枠ってそんな簡単に譲れるものなのか!?』
『リゼット【エキドナ公式】:もちろん、正式な条件が整えば、という話よ。わたしの一存で勝手に譲れるとは思っていないわ。ただ、制度上可能なのであれば、わたしはジャスティスに譲渡しても構わないと思っているの』
「……本気なのか?」
プライドは、今度こそ真剣な顔で聞き返した。
「勇者の座を譲るって、そんな簡単に決めていい話じゃねぇだろ?」
『リゼット【エキドナ公式】:ええ。だから、正式な条件が整ったら、と言っているのよ。必要な手続きもあるでしょうし、本人の意思や、関係する人たちの確認も必要になるはずだわ』
『マドカ【エキドナ公式】:そうだね。お姉ちゃんがやりたくないからって、勝手に誰かへ渡せるものでもないもんね』
『リゼット【エキドナ公式】:そういうことよ。わたしは、可能ならジャスティスに譲りたい。それだけの話なの』
リゼットは、あくまで淡々と答えた。
勇者という肩書きを得たことに喜びを感じるどころか、できることなら手放したいと考えている。
しかし、その判断は決して無責任なものではなかった。自分が望んでいない役目を抱え続けるよりも、勇者になりたいと願っている人物がその立場を担えるのなら、そのほうが自然だと考えているのだ。
『リゼット【エキドナ公式】:ともかく、わたしからお願いしたいのは、正式に話がまとまるまでは、わたしを勇者として扱わないでほしいということね。今までどおりに接してくれれば、それで十分よ』
「……分かった。少なくとも、リゼット殿が望んでいないのに、無理やり勇者として引っ張り出すような真似はしねぇよ」
プライドは、少し考えてから頷いた。
「協会がどう判断するかは別として、本人の意思は尊重するべきだろうからな」
『リゼット【エキドナ公式】:ありがとう。話が分かって助かるわ』
『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、これでお姉ちゃんも安心だね!』
『リゼット【エキドナ公式】:ええ。これ以上、面倒な肩書きが増えないことを祈るばかりね』
『大賢者、エキドナ代表、怠惰の勇者……もう十分多いんだよw』
『ジャスティスが本当に引き継げるのか、今後の話になりそうだな』
『正式な条件が整うまでは保留ってことね』
『リゼット様、勇者になったことより仕事が増えるのを心配してるのがらしいなw』
リゼットはコメント欄を見て、静かに微笑んだ。
勇者の選出については、まだ正式に整理しなければならない部分が残っている。ジャスティスへの譲渡も、現時点では可能性の話にすぎない。
それでも、リゼットの意向は明確だった。
彼女は怠惰大陸を見捨てるつもりなどない。必要があれば、エキドナとして動く。
ただし、それと勇者として表舞台に立つことは別問題なのだ。
そして、その考えを勇者たちにも理解してもらえたことに、リゼットはひとまず安堵していた。




