勇者会議雑談11
『リゼット【エキドナ公式】:さて、勇者の皆さん。改めまして、怠惰大陸の大賢者リゼットよ。エキドナの代表も務めているわ。最近は、謎だった怠惰の勇者という肩書きまで判明してしまったけれどもね』
リゼットは、いつもの落ち着いた微笑みを浮かべながら、勇者会議場に向けて自己紹介をした。
先ほどまでマドカとのやり取りを楽しんでいた彼女だったが、改めて名乗るとなれば話は別だ。大賢者としての立場に加え、エキドナの代表という肩書きもある。さらに、これまで謎に包まれていた怠惰の勇者という立場まで明らかになったのだから、本人としても少々複雑なところがあるらしい。
『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、肩書きが多くて大変だね!』
『リゼット【エキドナ公式】:あなたも大概ではないけれどもね?』
リゼットは、すぐさま隣のマドカへと話を振った。
『リゼット【エキドナ公式】:わたしの弟子であり、剣聖ムサシの弟子でもある。Sランク冒険者で、公爵令嬢。それに、ゴールの買い上げたすべての土地の正式な所有者で、エキドナの副代表でもあるでしょう?』
『マドカ【エキドナ公式】:あ、あはは……!』
『リゼット【エキドナ公式】:さて、どれがあなたにふさわしい肩書きなのかしらね?』
『待って、マドカちゃん肩書き多すぎない!?』
『大賢者の弟子に剣聖の弟子って、修行先が豪華すぎるwww』
『Sランク冒険者で公爵令嬢で副代表!? 情報量が多いんだよ!』
『ゴールの土地を全部買い上げたって、さらっと混ぜる話じゃないだろw』
『リゼット様も大概だけど、マドカ様も大概だった件』
『姉妹そろって肩書きが渋滞してるんだがwww』
「……おい」
プライドは、思わず額に手を当てた。
「いや、待て待て待て。今、さらっと聞き捨てならねぇ話がいくつも混ざってなかったか?」
もちろん、マドカがエキドナの副代表であることは、これまでの話からも分かっていた。だが、改めて並べられると、あまりにも肩書きが多い。
「大賢者の弟子で、剣聖の弟子で、Sランク冒険者で、公爵令嬢……。そのうえ、ゴールの土地を全部買い上げた正式な所有者だと?多すぎだろう!?」
「ええ。マドカさんは、そういう立場でもありますね」
シルヴァは、特に驚いた様子もなく頷いた。
「いや、シルヴァ! お前はそれで納得してんのか!?」
「納得というより、事実ですからね……」
「事実だからって、全部まとめて聞かされたら頭が追いつかねぇんだよ!」
『プライド、今さらマドカの肩書きに混乱してるw』
『ひとつひとつでも十分すごいのに、全部同じ人の話なんだよな』
『しかも本人は「あはは」で済ませてるぞwww』
「ふふっ、マドカちゃんらしいですわね」
アナスイは楽しそうに微笑んだ。
「これだけの肩書きを持っていても、本人はあまり気にしていないようですもの。どれがふさわしいかと尋ねられても、きっと困ってしまうのでしょうね」
『マドカ【エキドナ公式】:うーん……確かに、どれかひとつに決めるのは難しいかも? 普段はマドカでいいと思うんだけどな!』
『リゼット【エキドナ公式】:でしょうね。あなたは昔から、そういうところが変わらないのだから』
リゼットは小さく笑った。
数々の肩書きは、どれもマドカが歩んできた道の結果だ。けれど、肩書きが増えたからといって、本人の性格まで変わるわけではない。
むしろ、こうして並べてみると、マドカという人物がどれだけ多くの立場に関わっているのか、改めてよく分かるのだった。
『それにしても、怠惰の勇者まで判明したって、リゼット様の肩書きもすごいな』
『大賢者でエキドナ代表で怠惰の勇者……こっちも大概だぞw』
『この姉妹、肩書きの数で勝負したら終わらなさそう』
『そもそも肩書きで勝負する必要がないんだよwww』
『リゼット【エキドナ公式】:まったく……わたしもマドカも、肩書きだけで説明できるような人間ではないということね』
『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、そうだね!』
リゼットの言葉に、マドカは嬉しそうに頷いた。
そして、勇者会議場には、なんとも言えない納得と困惑が入り混じった空気が広がるのだった。
『リゼット【エキドナ公式】:ところで、あなたたちの間では「怠惰の勇者だけが選出されていない」という認識でよかったかしら?』
リゼットが改めて確認すると、勇者会議場にいたプライドは少しばかり姿勢を正した。
「え、ああ。その認識で間違ってはいないぜ。他の六大陸の勇者とは、この会議場で顔合わせを済ませているからな。けど、怠惰だけはずっと謎だったんだわ」
『リゼット【エキドナ公式】:そう。それなら、あなたたちがそう認識していたこと自体は間違いではなかったのね』
「ええ。今回はアナスイさんと合同主催という形で、リゼット様の件も報告させていただいた、ということですね」
シルヴァが落ち着いた口調で補足する。
今回の勇者会議は、単に各大陸の勇者が集まって話し合うだけではない。これまで謎とされていた怠惰の勇者について、正式に情報を共有するという意味もあった。
もっとも、当の本人であるリゼットは、どこか釈然としない様子だった。
『リゼット【エキドナ公式】:本当に困ったことだわ。もちろん、あなたたちを侮辱しているわけではないのよ? わたしだって、自分が怠惰の勇者として選出されていたことを知らなかったのだから、しょうがないわよね?』
「そ、それは……まあ、そうだな」
プライドも反論しづらそうに頷いた。
リゼットが勇者として選出されていたのなら、本来は本人への通知だけでなく、関係各所への報告も行われているはずだ。
ところが、実際には本人すら知らないまま、勇者会議では怠惰の勇者だけが謎として扱われ続けていた。
これでは、リゼットに責任を問うことなどできるはずもない。
『リゼット【エキドナ公式】:まあ、今となっては判明したところで「だから、何なの?」という話なのだけれどもね』
『言い方www』
『ご本人からしたら本当にそうなんだろうな』
『知らないうちに勇者に選出されてて、知らないうちに欠員扱いされてたら困るわw』
『怠惰の勇者の謎、まさか本人への連絡漏れとは……』
『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、勇者の選出自体は国が報告しなかっただけなんでしょ? お姉ちゃんには知ったこっちゃないよね!』
「まあ、今日こうして教えてもらったからな。リゼット殿にとっちゃ、まさに寝耳に水だったんだろうぜ」
プライドも、ようやく納得したように腕を組んだ。
本人が知らないものを、どうやって会議に報告しろというのか。そもそも、リゼットは自分が勇者として選出されていたことすら知らなかったのだ。
「まったく、まさか申請すらしていなかったなんて思わなかったわよ!」
キシリアは呆れたように声を上げた。
「勇者を選出したのなら、きちんと報告するべきでしょう? それを怠ったせいで、ずっと怠惰の勇者だけが謎だったなんて……。いったい、どういうつもりだったのかしら!」
『マドカ【エキドナ公式】:キシリアさん、怒ってるね……』
「当たり前でしょう! 勇者というのは、大陸を代表する立場でもあるのよ? その選出を報告していなかったなんて、普通に考えればおかしいじゃない!」
『リゼット【エキドナ公式】:ふふっ、まあ、あなたが怒るのも分かるわ。ただ、わたしとしては、今さらそのことで騒いでも仕方がないと思っているのよ』
「リゼット様がそうおっしゃるなら……」
キシリアはまだ納得しきれていない様子だったが、本人が気にしていない以上、これ以上強く言うこともできなかった。
『リゼット【エキドナ公式】:それに、あなたたちはもう知っているでしょう? この間の勇者協会の配信で、今回の件について説明があったはずよ』
「ああ、あれか」
プライドが思い出したように頷いた。
『リゼット【エキドナ公式】:もし知らなかったのなら、見逃し配信を見なさい? 必要な説明はされているはずだから』
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう! リアルタイムで見られなかった人もいるだろうし、気になる人は見逃し配信を確認してみてね!』
『エキドナから説明が出てるなら、そっちを見ればいいわけか』
『こういう話は切り抜きだけじゃなくて、元の配信を見たほうがよさそうだな』
『怠惰の勇者が謎だった理由、ようやく正式に整理された感じだな』
リゼットはコメント欄を眺めるように、穏やかな笑みを浮かべた。
『リゼット【エキドナ公式】:わたしから言えることは、それくらいね。少なくとも、わたし自身が知らなかった以上、わざと会議に参加しなかったわけではないのだから』
「そこはもう疑ってねぇよ。今日の話を聞けば、リゼット殿に非がないのは分かるからな」
プライドは肩をすくめた。
「むしろ、本人に知らせずに選出していたことのほうが問題だろ。これで怠惰の勇者が謎だった理由も分かったわけだしな」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! これでひとまず、怠惰の勇者についての疑問は解決だね!』
『リゼット【エキドナ公式】:そうね。わたしとしては、これ以上面倒な話にならないことを願うばかりだけれど』
その言葉に、勇者会議場の面々はそれぞれ頷いた。
長らく謎とされていた怠惰の勇者。その正体が明らかになったところで、リゼットの日常が大きく変わるわけではない。
ただ、勇者たちにとっては、これまで空白だった部分がようやく埋まったのだった。




