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落内円は落ちている  作者: 七風


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勇者会議雑談9

「まず、王都の街並みがどうしてあれほど立派なのか。その理由から説明してあげるわ!」


キシリアは、ようやく自分の得意分野に話を戻せたことが嬉しいのか、画面の向こうのマドカに向かって胸を張った。


『マドカ【エキドナ公式】:うん、楽しみ! さっきキシリアさん、ゴールよりも王都のほうがすごいって言ってたもんね。いったい、どんな街なの?』


「ふふん! まずは建物よ! 嫉妬の王都ではね、立派な屋敷を建てたり、庭を美しく整えたりすることが、とても盛んなの!」


「それは前にも聞いたな。誰かが屋敷を立派にすると、周囲も負けじと張り合うんだったか?」


プライドが腕を組みながら口を挟む。


「そうよ! でも、実際にどんなことが起きるのか、想像してみなさい!」


キシリアは指を一本立てた。


「ある貴族が、自分の屋敷を思い切って改築したとするでしょう? 今までよりも広い庭を作って、正面玄関には立派な装飾を施して、客間も見違えるほど豪華にするの!」


『おお、いいじゃん!』

『普通に金持ちの屋敷って感じだな』

『でも、ここから隣人との競争が始まるんだろ?w』


「ところが、それを見た隣の家の主人が、こう考えるのよ!」


キシリアは、いかにも悔しそうな顔を作ってみせた。


「『な、なんだと……!? 隣の家があそこまで立派になったというのに、うちが今までどおりではいられないではないか!』ってね!」


「……近所の改築を見て、そんなに悔しがるものなのか?」


プライドが呆れたように言うと、キシリアはすかさず彼を睨んだ。


「悔しいに決まっているでしょう!? 毎日顔を合わせる隣人の屋敷が急に立派になったのよ! それなのに、自分の家だけ何も変わっていなかったら、どう思うのよ!」


「いや、別に……。隣が立派になったなら、よかったじゃねぇか」


「あなた、嫉妬の大陸で暮らしたら、あっという間に置いていかれるわよ!」


『プライド、まさかの敗北宣言w』

『隣の家が立派になったならよかったじゃねぇか、は平和すぎるw』

『嫉妬の大陸ではその考え方だと生き残れないのかw』


「そして、その隣人は決意するのよ! 『よし、うちはもっとすごい屋敷にしてやる!』ってね!」


「いや、そこで対抗するのかよ!」


「そうよ! 庭を広げるだけでは足りないと思えば、今度は噴水を作るの! しかも、ただの噴水じゃないわ。水の流れに工夫を凝らして、庭の中心で美しく水が舞い上がるようなものをね!」


『噴水きたw』

『屋敷の改築から噴水バトルに発展してるぞ』

『まだ隣の家との競争なのに、どんどん大事になってない?』


「ところがよ! 今度は、その向かいの家が黙っていないの!」


キシリアは両手を広げ、まるで目の前に王都の街並みが広がっているかのように語り続けた。


「『あら、あちらのお宅は見事な噴水をお作りになったのね。……でも、うちだって負けてはいられないわ!』って、今度は屋敷の外観を大改装! 玄関の柱を美しく飾り、庭には季節ごとに違う花が楽しめるような工夫をして、誰もが目を奪われるような屋敷にするのよ!」


「もう屋敷を建て直すのが趣味になってねぇか?」


「違うわ! より良いものを目指しているのよ!」


「いや、最初は隣の家が気になっただけだろ!」


「きっかけが何であろうと、結果が素晴らしければいいでしょう!?」


『正論っぽいけど、動機がずっと隣人への対抗心なんだよなw』

『本人たちはいたって真剣なんだろうな』

『そして、向かいの家も参戦するとw』


「しかも、こういう競争は一軒だけで終わらないのよ! 立派になった屋敷を見た別の家が刺激を受けて、今度は自分の家を改築する。すると、その近所も負けじと工夫を始める……。そうしているうちに、街のあちこちで建物が新しくなって、庭も道も美しく整えられていくの!」


『マドカ【エキドナ公式】:なるほど……最初は一軒の屋敷だったのに、いつの間にか街全体が立派になっていくんだね』


「そういうことよ! 誰かが何かを始めると、周りも刺激を受ける。そして、自分たちならもっと良くできると考えて、工夫を重ねていくの!」


キシリアは満足そうに頷いた。


「もちろん、全員が同じように大規模な改築をするわけではないわ。家の広さも、使えるお金も、それぞれ違うもの。でも、自分にできる範囲で庭を整えたり、建物を手入れしたり、街を美しくする工夫をしたりする人もいるのよ」


「なるほどな。金をかけて競うだけじゃなくて、できる範囲で工夫する奴もいるわけか」


プライドも、今度は素直に納得したようだった。


「そうよ! それに、競争するのは貴族だけではないわ。街の住民だって、自分たちの暮らす場所をもっと良くしようとするもの。店先を美しく飾ったり、家の前をきれいに整えたりね。誰かが始めれば、それを見た人が自分なりの工夫をする。そうやって街全体が少しずつ変わっていくの!」


『マドカ【エキドナ公式】:それ、実際に見たら楽しそうだね! 同じ通りでも、建物ごとに違う工夫が見られそう』


「ええ! だからこそ、王都を歩くだけでも楽しいのよ! 大きな屋敷を眺めていると、その持ち主がどんな工夫をしたのか分かるし、通りを歩けば、また違った建物が目に入る。しかも、どこも同じようなものばかりではないの!」


キシリアは、話せば話すほど勢いづいていく。


「ある通りでは壮麗な建物が目を引き、別の通りでは、それぞれの家が個性的な工夫を凝らしている。街の人々が張り合いながらも、自分たちの好みや得意分野を生かしているから、王都全体が見応えのある場所になっているのよ!」


「……なるほどな。街を歩いているだけで、あちこちに競争の結果が見えるってことか」


「そう! 分かってきたじゃない、傲慢!」


「誰が傲慢だ! 俺の名前を呼べ!」


「あなたの名前を呼んだら、今度は自分の屋敷の話でも始めるつもりじゃないでしょうね?」


「始めねぇよ!」


『この二人、すぐに口喧嘩になるなw』

『プライドが嫉妬の大陸に行ったら、隣人と張り合うどころか本人が隣人と喧嘩しそう』

『でも王都の街並みは普通に見てみたいぞ』


画面の向こうで、マドカも楽しそうに笑っていた。


『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、キシリアさんの話を聞いていると、王都の人たちが街を歩きながら、あそこの屋敷が変わったとか、こっちのお店が新しくなったとか、いろんなところを見て回っている姿が想像できるね』


「まさにそういう楽しみ方もできるわ! もちろん、他人の家を眺めてばかりいるわけではないけれど、自分の街がどんどん美しくなっていくのは嬉しいものよ!」


キシリアはそこで、ふっと表情を変えた。


「……それに、王都の魅力は建物だけではないわ。街を歩いていると、あちこちで新しい工夫や美しいものに出会えるの。それも、私たちが互いに刺激を受けながら発展してきたからこそなのよ」


『マドカ【エキドナ公式】:うん。キシリアさんが自分の故郷を大好きなの、すごく伝わってくるよ』


「当然でしょう! 私は嫉妬の大陸の侯爵令嬢なのよ! 自分の故郷の魅力を語れなくて、どうするというの!」


キシリアは堂々と言い切った。


その自信満々な様子に、プライドは肩をすくめる。


「へいへい。よく分かったよ。お前が自分の故郷を自慢したくて仕方ねぇってことはな」


「自慢ではなく、事実を説明しているのよ!」


「はいはい、事実ねぇ」


「その返事は何よ!」


『キシリア、故郷の話になると本当に止まらないなw』

『でも、ここまで誇れる故郷があるのはいいことだと思うぞ』

『マドカも実際に行ってみたくなったんじゃないか?』


『マドカ【エキドナ公式】:うん、ますます行ってみたくなった! 街並みも見たいし、現地のお店もいろいろ見て回りたいな』


「でしょう!? 実際に来れば、もっと気に入るはずよ! 私が案内してあげるから、楽しみにしていなさい!」


『マドカ【エキドナ公式】:ありがとう、キシリアさん。……あ、そうだ』


マドカは何かを思いついたように、少しだけ間を置いた。


『マドカ【エキドナ公式】:嫉妬の大陸でも、エキドナの商品を扱えるようになったら面白いかもしれないね』


その言葉を聞いた瞬間、キシリアの表情が変わった。


「……っ! マ、マドカ! 今、なんて言ったの!?」


『マドカ【エキドナ公式】:えっ? 嫉妬の大陸でも商品を扱えたら、って話だけど……』


「そこよ! そこ! エキドナの商品を嫉妬でも販売する可能性があるってことでしょう!?」


キシリアは身を乗り出し、画面の向こうのマドカに勢いよく詰め寄った。


『おっとwww』

『キシリアの反応速度がすごいw』

『エキドナ商品の話になった瞬間、食いつきが違うぞ!』

『これはガチファンの顔ですわ』


「もちろんよ! 私は前から、どうにかして嫉妬でもエキドナの商品を手に入れられるようにならないかと思っていたのよ! EVだって、モンバトだって、ヒロバトだって、ほかにも魅力的な商品がたくさんあるじゃない! あれを私の故郷の人たちにも楽しんでもらえたら、どれほど素晴らしいことか!」


キシリアの声には、先ほどまでの故郷自慢とはまた違った熱がこもっていた。


「EVが広まれば、今までエキドナのことを知らなかった人たちだって、配信や情報に触れる機会が増えるでしょう? モンバトやヒロバトが遊べるようになれば、友人同士で競い合ったり、情報を交換したり、新しい楽しみが生まれるはずよ! それに、ほかの商品だってそう! 私が面白いと思ったものを、私だけが楽しむなんてもったいないじゃない!」


『マドカ【エキドナ公式】:キシリアさん……本当にエキドナの商品が好きなんだね』


「好きに決まっているでしょう! でも、私が欲しいからというだけではないわ!」


キシリアは一度言葉を切り、真剣な顔で続けた。


「私は、自分の故郷がもっと面白くなるところを見たいのよ。新しいものが入ってくれば、それに興味を持つ人が出てくる。遊び方を工夫する人もいれば、もっと楽しむ方法を考える人もいるでしょう? そうして嫉妬の大陸全体が盛り上がっていけば、素晴らしいことじゃない!」


その言葉に、先ほどまで茶化していたプライドも、少しだけ表情を和らげた。


「……なるほどな。自分が好きなものを、故郷の連中にも広めたいってわけか」


「そうよ! それの何が悪いの!」


「悪いなんて言ってねぇだろ。相変わらず声がでけぇんだよ」


「あなたが余計なことを言うからでしょう!」


『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、ありがとう。そう思ってくれるのは嬉しいよ。エキドナの商品を楽しんでくれる人が増えるなら、私たちにとっても嬉しいことだからね』


「だったら、ぜひ考えてちょうだい! 私も協力するわ!」


キシリアは間髪入れずに言い切った。


「嫉妬の大陸でエキドナの商品を扱うことになったら、私だってできる限り力になるわ。侯爵家として協力できることもあるでしょうし、勇者として動けることだってあるはずよ!」


『侯爵令嬢と勇者の二枚看板きたw』

『キシリア、もう出店する気満々じゃねぇかw』

『でも、後ろ盾がいるのは心強いな』

『本人が本気なのはよく伝わる』


キシリアは、視聴者の反応など気にする様子もなく、さらに胸を張った。


「侯爵家の私が後ろ盾、しかも勇者よ! 当然でしょう!?」


「自分で言い切りやがった……」


プライドは呆れたように額に手を当てた。


「何よ! 事実でしょう!? 私は本気で協力するつもりなのよ! せっかくエキドナの商品を嫉妬に広められるかもしれないのに、何もしないなんてあり得ないわ!」


『マドカ【エキドナ公式】:うん、キシリアさんが本気なのはよく分かったよ。私も、実現できたら面白いと思う』


マドカの返事に、キシリアは期待に満ちた目を向けた。


『マドカ【エキドナ公式】:ただね、今の嫉妬の大陸では、エキドナそのものを知っている人が、ほとんどいないんだよね』


「……え?」


『マドカ【エキドナ公式】:EVも、そっちにあるのは数台あればいいほうなんでしょう? モンバトやヒロバトも、どれくらいの人が知っているのか、実際に遊びたいと思ってくれる人がどれくらいいるのか、まだ分からないんだよ』


キシリアは、はっとしたように口を閉じた。


マドカの言いたいことは分かる。自分はエキドナの商品をよく知っているし、その魅力も理解している。しかし、嫉妬の大陸に暮らす人々が、同じように知っているとは限らない。


『マドカ【エキドナ公式】:いきなりお店を作って商品を並べても、知っている人が少なかったら、なかなか手に取ってもらえないかもしれないでしょう? 商品をどうやって運ぶか、誰が管理するか、現地で販売を担当する人をどうするか……考えなきゃいけないことも、いろいろあるんだ』


「それは……そうね」


キシリアは悔しそうに唇を引き結んだ。


「私が後ろ盾になれば、それで全部解決するという話ではないのね……」


『マドカ【エキドナ公式】:うん。キシリアさんの協力はすごく心強いよ。でも、エキドナ全体に関わる話だから、私だけで今すぐ決めることはできないんだ』


「……分かったわ」


キシリアは少しだけ肩を落としたが、すぐに顔を上げた。


「でも、だからといって諦めるつもりはないわよ! 何が必要なのか、どうすれば嫉妬の大陸の人々に知ってもらえるのか、考えていけばいいのでしょう?」


『マドカ【エキドナ公式】:そうだね。まずはエキドナ側でも相談してみるよ。どんな方法があるのか、すぐにお店を作る以外にもできることがあるのか、ちゃんと考えてみたい』


「ええ! 私も、侯爵家や勇者として協力できることを考えておくわ。嫉妬の大陸でエキドナの商品を楽しめるようになる可能性があるのなら、簡単に手放したくないもの!」


その熱意に、マドカは画面の向こうで柔らかく笑った。


『マドカ【エキドナ公式】:ありがとう、キシリアさん。じゃあ、出店については後日、あらためて相談しようね。お互いにできることを整理してから、具体的に考えていこう』


「約束よ! そのときは私も真剣に話し合うわ!」


『マドカ【エキドナ公式】:うん、約束! 私も、嫉妬の大陸のみんなにエキドナの商品を楽しんでもらえる方法が見つかったら嬉しいな』


「ふふっ……そうと決まれば、私もいろいろ考えておかなくてはね!」


キシリアは、すっかりやる気を取り戻していた。


「まずはマドカが嫉妬に来たとき、王都の魅力をたっぷり教えてあげるわ! そして、エキドナの商品を広める話も、必ず実現できるように考えていきましょう!」


「お前、最初は王都の自慢をしていただけだったのに、最後はエキドナの商品を広める話になってるじゃねぇか」


プライドの指摘に、キシリアは一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「……い、いいじゃない! どちらも私にとって大切なことなのよ!」


『キシリア、最初から最後まで全力だったなw』

『王都の観光案内から出店構想まで発展するとはw』

『でも、嫉妬でエキドナの商品が買えるようになったら面白そうだ』

『続報に期待!』


『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ。それじゃあ、出店の話はまた今度、ゆっくり相談しようね。今日は嫉妬の大陸のことをたくさん教えてくれてありがとう、キシリアさん』


「ええ! いつでも任せなさい! 私の故郷の素晴らしさなら、まだまだ語れるのだから!」


最後まで堂々と胸を張るキシリアに、マドカは楽しそうに笑った。


こうして、嫉妬の大陸の王都についての話は、ひとまずここで一区切りとなった。


エキドナ商品の出店については、まだ何も決まっていない。知名度も、需要も、販売の仕組みも、これから考えなければならないことばかりだ。


それでも、キシリアにとっては大きな一歩だった。


自分が愛するエキドナの商品を、いつか故郷の人々にも楽しんでもらいたい。その願いをマドカに伝え、実現に向けて話し合う約束を交わすことができたのだから。


そして、マドカたち勇者の会議場では、賑やかな雑談の時間が終わりを迎えようとしていた。


次に話題の中心となるのは、リゼット。


勇者たちの会話は、また新たな展開へと進んでいくことになる。



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