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落内円は落ちている  作者: 七風


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勇者会議雑談8



 勇者会議場での正式な議題が一段落し、場の空気が少しばかり緩んだ頃。


 各大陸の勇者たちは、それぞれ近くの者と雑談を交わしていた。そんな中、会議場に設置された映像装置の向こうから、マドカがふと思い出したように声を上げた。


『マドカ【エキドナ公式】:そういえばさ、私って色欲とか怠惰とか強欲、暴食の大陸については、それなりに文化を知ってるじゃない? でも、嫉妬とか憤怒とか傲慢の大陸って、実際にどんな感じなのか全然知らないんだよね。せっかくこうして勇者のみんなが集まってるんだし、今日はその辺りの話も聞いてみたいな!』


 その言葉に、シルヴァが反応した。


「なるほど。確かに、他の大陸の文化を知る機会というのは、ありそうで意外と少ないものですね」


『マドカ【エキドナ公式】:ただ、名前だけ聞くとさ……憤怒とか傲慢って、なんか怖そうじゃない? 嫉妬も嫉妬で、ちょっとドロドロした人間関係とかありそうな名前だし。もちろん、名前だけで決めつけるつもりはないんだけどさ!』


『名前だけで風評被害を受ける三大陸www』

『色欲と怠惰と強欲と暴食も、名前だけならなかなかだぞw』

『言われてみればそうだな。色欲なんて初見なら絶対に誤解されそう』

『マドカさん、ちゃんと名前だけで判断してないってフォローしてるの偉いw』

『でも憤怒は怖そうって言われても、まあ名前が名前だしな……』

『傲慢の大陸、住民全員が偉そうにしてるイメージになってしまう』

『嫉妬はもう名前の時点で人間関係が大変そうなんよw』

『実際の文化を聞いたら印象が変わるかもしれない。こういう話は面白そう!』


「おいおい、マドカ。名前の印象だけで怖がってたら、俺たちの大陸なんて全部とんでもない場所になっちまうぞ?」


 傲慢の勇者が、面白がるように笑った。


『マドカ【エキドナ公式】:だから、実際どうなのか聞きたいんだってば! 知らないまま想像だけで決めつけるのはよくないでしょ?』


「そりゃそうだ。ま、俺のところについては、聞きたいならいくらでも話してやるよ」


『マドカ【エキドナ公式】:おっ、頼もしい! じゃあ、あとで聞かせてもらおうかな。まずは……』


 マドカが言いかけた、その時だった。


「待っていましたわ!!」


 勢いよく声を上げたのは、嫉妬の勇者キシリアだった。


 彼女は椅子から身を乗り出し、まるで自分の出番が来るのをずっと待っていたかのように、赤い瞳を輝かせている。


「マドカ! 嫉妬の大陸について知りたいのでしょう? それなら、ぜひ私に任せてちょうだい!私の故郷がどれほど素晴らしい場所なのか、余すところなく教えてあげるわ!」


『来たwww』

『キシリア様、待ってましたと言わんばかりの食いつきで草』

『故郷の話になった瞬間、目の輝きが違うんですがw』

『これは長くなるぞ……! みんな、飲み物を用意しろ!』

『自分の大陸を語れる機会を逃さない女、キシリア』

『いや、でも自分の故郷を誇れるのはいいことだよね』

『マドカさん、今のうちに覚悟を決めた方がいい。キシリア様のプレゼンが始まるぞw』


『マドカ【エキドナ公式】:そうそう、キシリアさんから聞きたいな!実際に住んでる人から聞くのが一番だしね』


「そうでしょう、そうでしょう!? やっぱり、嫉妬の大陸の魅力を語るなら、私のように故郷を愛して、その文化をよく理解している者が適任だもの!」


「自分でそこまで言い切るのかよ……」


 傲慢の勇者が呆れたように笑う。


「何か問題でも?」


「いや、別に? お前らしいなと思っただけだ」


「ふん! 褒め言葉として受け取っておくわ!」



『キシリア様、褒められたことにして話を進めるの強い』

『傲慢の勇者、慣れた様子で流してるなw』

『故郷への愛と本人のプライドが一切隠れていない』

『むしろ隠す気がないんだろうなぁ』


 マドカは楽しそうに笑ったあと、改めて話を戻した。


『マドカ【エキドナ公式】:じゃあ、まず嫉妬の大陸って、普段どんな文化があるの? 食べ物とか服装とか、街の雰囲気とか……。私が知ってるのは、キシリアさんの見た目や性格くらいだから、普通に暮らしてる人たちがどんな感じなのかも気になるな』


「ふふん! まず、嫉妬の大陸を理解するうえで欠かせないのは、向上心よ!」


 キシリアは胸を張った。


「自分を磨いて、他の人に認めてもらうことを目指す。そして、誰かが自分より優れたものを生み出したのなら、それを参考にしながら、今度は自分がそれを超えるものを作ろうとする。そういう気風が、私たちの大陸には根付いているの!」


『マドカ【エキドナ公式】:へえ! もっとこう、相手の足を引っ張る方向に行くのかと思ってた。嫉妬って名前だからさ』


『初手からイメージが変わってきた』

『相手を引きずり下ろすんじゃなくて、自分が上に行くタイプなのか』

『それ、競争がめちゃくちゃ激しくなりそうだなw』

『良いものを見たら、自分ももっと良いものを作ろうってなるのか。職人には向いてそうな文化だね』

『ただし周囲も全員その考え方だった場合、休める気がしないw』

『嫉妬という名前だけで陰湿な文化を想像してたけど、思ったより前向きだ』

『キシリア様、故郷の紹介が上手い。ちゃんと文化の根っこから説明してる』


「もちろん、誰もがいつも立派な心構えで競争しているわけじゃないわ。人間だもの。悔しがることもあれば、相手を羨ましく思うことだってあるでしょう? でも、その気持ちを抱いた時に、相手を妨害するよりも、自分を磨くことに力を注ぐ人が多いの。そこが、嫉妬の大陸らしさね!」


『マドカ【エキドナ公式】:なるほどね。羨ましいって気持ちを、じゃあ自分も頑張ろうって方向に持っていくんだ。そう考えると、嫉妬って名前の印象とはだいぶ違うね』


『感情そのものをなくすんじゃなくて、使い方が違うってことか』

『人と比べて落ち込むか、追いつくために努力するか、みたいな話だな』

『もちろん努力が行き過ぎたら大変そうだけど、発想は面白い』

『「あの人が羨ましい! よし、もっと頑張ろう!」が大陸規模で起きてるのかw』

『向上心が文化として根付いてるって、そういうことなんだろうな』

『でもキシリア様、当然その中でも負けるつもりはないんですよね?』


「当然よ!」


 コメントを読んだわけでもないのに、キシリアは即答した。


「努力するからには、認められたいもの! 誰かに憧れられるのは嬉しいけれど、そこで満足してしまったら、私自身の成長が止まってしまうでしょう!?」


「……ほう。つまり、お前に憧れている者たちも、いつかお前を追い越そうとしているわけか」


 シークフリートが、口元に笑みを浮かべながら尋ねた。


「そうよ! それの何が問題なの!?」


「自分を慕ってくれている相手が、自分を追い越そうとしてくるんだろ? 普通なら、ちょっと複雑な気分になる奴もいそうじゃねえか」


「どうしてよ!? 憧れてくれるのは光栄なことだし、私を追い越そうと努力するのも素晴らしいことじゃない!私だって、いつまでも同じ場所に留まっているつもりはないわよ!」


『言い切ったwww』

『キシリア様、慕われるだけでは満足しない女』

『ファンが増えるほどライバルも増える仕組みなのか……』

『推しが新衣装を出したら、自分ももっとおしゃれになって推しを超えようとする世界』

『いや、その世界のファッション業界、競争率がすごいことになってない?』

『憧れの人を追い越すことが失礼じゃなくて、努力の一環なんだな』

『キシリア様が後輩に追い越されそうになったら、絶対に本気出すだろw』

『むしろ追い越されかけた瞬間が一番燃えそう』

『これ、勝負に負けた側も「次こそは!」ってなるなら、どんどんレベル上がるな』


 そのやり取りを聞いていたアナスイが、上品な笑みを浮かべて会話に加わった。


「美しさについても、似たようなところがありますわね。誰かの装いが素晴らしければ、それを見て自分も美しくありたいと思う。そこから新しい工夫が生まれるのですもの。美を追い求めること自体は、決して悪いことではありませんわ」


「そうなのよ、アナスイ! 美しさというものは、ただ生まれ持ったものを誇っていればいい、というわけじゃないでしょう!? 自分に似合うものを探したり、装いを工夫したり、もっと魅力的に見せる方法を考えたり……そういう努力だって大切なのよ!」


「ええ。自分をより魅力的に見せるために工夫を重ねることも、美しさの一部ですわね」


『アナスイさんも参戦! これは美意識の高い二人だ』

『この二人が美容とファッションについて話し始めたら、終わらなそうw』

『生まれ持った美貌だけじゃなく、努力も大切ってことね』

『アナスイさん、言葉が優雅なのに内容はしっかりストイック』

『キシリア様が頷きすぎて首がもげそうw』

『美しさも研究と工夫が必要って、考えてみれば職人仕事と同じなんだな』

『この会話を聞いてるだけで、身だしなみを整えたくなってきた』


『マドカ【エキドナ公式】:あー、なるほど! キシリアさんって元からすごく綺麗だけど、そういう文化の中で暮らしてるから、周りから見られることも多いし、自分でももっと良くしようって頑張るんだね』


「そうよ!私は嫉妬の大陸でも、ファッションの分野では知られた存在なの!私の装いを参考にしてくれる方もいるし、新しい流行が生まれるきっかけになることだってあるのよ!」


 そこでキシリアは、少しだけ顎を上げた。


「でも、ただ真似をするだけでは終わらないわ! 私の装いを参考にしたうえで、さらに工夫を加えて、いつかはわたくしを超えようとするの。そういう方々がいるからこそ、私も気を抜けないのよ!」


『マドカ【エキドナ公式】:あっ、なるほど! 憧れて真似するだけじゃなくて、最終的には本人を超えたいんだ!?』


『そういうことか! ただのファンで終わらないんだな』

『キシリア様、故郷の文化を説明してたはずなのに、いつの間にか自分の実績紹介になってるぞw』

『でも本人が実際にその競争の中心にいるなら、説明としてはわかりやすい』

『「キシリア様みたいになりたい!」から「キシリア様を超えたい!」に進化するのか』

『キシリア様が新しい服を着るたび、周りの令嬢が研究を始める光景が浮かんだw』

『その令嬢たちも、さらに別の誰かに目標にされてるかもしれないんだよな』

『ファッションの流行が一人の発信で終わらず、競争しながら発展していくわけだ』

『キシリア様、褒められて嬉しそうだけど「超えたい」って部分にも誇らしさを感じてるなw』


「ええ、そうなのよ! だから、私も日々努力しているの! 美しさを保つというのは、皆様が思っているほど簡単なことではないのよ!」


「自分で言うか、それを」


 プライドが小さく吹き出した。


「何か?」


「いやいや。自分が美しいってことに、ずいぶん自信があるんだなと思ってよ」


「当然でしょう!? 自信がなければ、誰が自分を認めてくれるというの? もちろん、ただ自信を持っていればいいわけじゃないわ。相応しい努力を重ねてこそ、その自信にも意味があるのよ!」


『自信の話になると一切ブレないw』

『キシリア様、自己評価が高いだけじゃなくて、努力もセットなのがらしいな』

『傲慢の勇者、絶対にわざと突っついて遊んでるだろw』

『「美しいです」と言われるのを待つんじゃなく、自分から認めているタイプ』

『いや、これだけ堂々としてると気持ちいいなw』

『でも実際、周りに追い越そうとする人がたくさんいるなら、維持するだけでも大変そう』

『美しさも競技みたいになってるのか。しかも終わりがない』

『キシリア様、かわいいだけじゃなくて格好いいって言われたいタイプと見た』


『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、キシリアさんらしいなあ。でも、そういう文化なら、服とか装飾品とかもどんどん進化していきそうだね。誰かが新しいものを作ったら、別の人がもっといいものを考えるわけでしょ?』


「その通りよ! 衣服に限った話じゃないわ。より良い品を作ろうとする人がいれば、それを見て刺激を受ける人もいる。そうして工夫が積み重なっていくの!」


「なるほどな。個人同士の競争だけじゃなく、作る側にもそういう気風があるわけか」


 別の勇者も興味深そうに頷いた。


「それなら、技術や品物の質も上がっていきそうですね。もちろん、競争が過熱すれば疲れることもあるでしょうが、互いに刺激を与え合うという意味では、発展の原動力にもなりそうです」


『そうそう、良いものを見たら自分ももっと良いものを作るんだ』

『新商品が出るたびに競合が本気を出す世界、消費者としては嬉しいかもしれないw』

『作る人は大変そうだけどな!』

『「あそこの品物が評判らしい」「なら、うちはもっと良いものを!」が日常なのか』

『競争があるから新しい工夫が生まれる。これは他の大陸にも参考になりそう』

『ただ、ずっと誰かと比べられるのはしんどい人もいそうだよね』

『そういう人まで無理に競争に参加させるわけじゃないだろうし、そこは個人差がありそう』

『キシリア様も良い面ばかりじゃなく、努力が必要な文化だって説明してくれるのがいいな』


『マドカ【エキドナ公式】:うんうん。競争があるからこそ、いろんなものが発展していくんだね。もちろん、ずっと他人と比べてたら疲れちゃうこともあるだろうけど……。でも、嫉妬って名前だけで想像してたより、ずっと活気のある文化なんだなあ』


「そうよ!私は、自分の故郷を誇りに思っているわ!」


 キシリアは胸を張り、誇らしげに微笑んだ。


「それに、競争するのは個人だけじゃないのよ。家同士であったり、町同士であったり……。誰かが立派なものを作れば、別の人も負けじと工夫を凝らす。そうした積み重ねが、町全体の発展につながることもあるの!」


『マドカ【エキドナ公式】:えっ、個人だけじゃなくて町同士でも!? それはもう、競争の規模が大きいね!』


『個人戦から団体戦に発展してるw』

『家同士で競争して、町同士でも競争するのか。どこまで広がるんだ』

『町の発展にまでつながるなら、単なる見栄の張り合いとも言い切れないんだな』

『隣の町が何か立派なものを作ったら、こっちも負けてられないってなるのか』

『競争心が公共の発展にもつながるのは面白い』

『もちろん張り合いすぎて疲れることもあるんだろうけど、町が活気づく理由はわかる気がする』

『嫉妬の大陸って、名前から想像した陰気な雰囲気と全然違うな』

『キシリア様が故郷を自慢したくなるのもわかってきたぞ!』


「そして、嫉妬の王都は、そうした競争心があるからこそ、とても素晴らしい場所なのよ! マドカ、配信で見たゴールの街も立派だったけれど、私の故郷の王都は、もっとすごいんだから!」


 キシリアはここぞとばかりに勢いを増した。


『マドカ【エキドナ公式】:おおっ、ゴールよりすごいんだ? それはちょっと気になるなあ!』


「ええ! 街並みも、建物も、そこに暮らす人々の活気も! ぜひ一度、実際に見てほしいわ!」


「おい、ずいぶん大きく出たな。ゴールと比べてまで自慢するとは」


 プライドがからかうように言うと、キシリアは即座にそちらを向いた。


「自慢じゃないわ! 事実を伝えているだけでしょう!?」


『出た、「事実ですわ」www』

『ゴール対嫉妬の王都、まさかの都市自慢対決』

『キシリア様、故郷の話になると本当に勢いが止まらないなw』

『傲慢の勇者、完全に煽って遊んでる』

『でもここまで言われると、どんな街なのか見たくなる』

『マドカさん、これは実際に行って確かめるしかないのでは?』

『転移できるなら、行ける機会はありそうだよね』

『ただし行ったらキシリア様の案内で一日中歩き回ることになりそうw』


『マドカ【エキドナ公式】:へえー、そんなにすごいんだ! じゃあ、次にどこか旅行するなら候補に入れてみようかな。転移できるから、行こうと思えば行きやすいしね』


「ぜひ、そうしてちょうだい! その時は、わたくしが喜んで案内してあげるわ!」


 キシリアは即座に答えた。その勢いに、周囲の勇者たちから小さな笑いが起こる。


『マドカ【エキドナ公式】:ふふっ、ありがとう!キシリアさん。ここまで聞いて、嫉妬の大陸って競争が盛んで、みんな自分を磨いたり、もっと良いものを作ろうとしたりする文化なんだっていうのは、だいぶわかってきたよ』


 マドカはそこで少し間を置き、いたずらっぽく笑った。


『マドカ【エキドナ公式】:……で? 結局、王都はどうすごいの?』


「なっ……!?」


 キシリアの言葉が止まった。


 ここまで自信満々に王都の素晴らしさを語ってきたのに、肝心の具体的な魅力について、まだ十分に説明していなかったことに気づいたらしい。


「マ、マドカ! それは、実際に見てもらえればわかることで……!」


『そこを説明してくれwww』

『結局どうすごいの? は正論すぎるw』

『プレゼンが盛り上がったところで、肝心の説明を求められて詰まるキシリア様』

『故郷への愛は伝わった! でも知りたいのはそこから先なんだ!』

『ゴールよりすごいって言った以上、マドカさんも気になるよなw』

『キシリア様、今こそ故郷自慢の真価を見せる時だ!』

『煽ってた傲慢の勇者まで笑ってるじゃないかw』

『いやあ、文化の話からここまで自然に盛り上がるとは思わなかった』

『次は王都の何を語ってくれるんだろう。楽しみ!』


「う、うう……! わかったわ! そこまで言うのなら、王都の魅力をきちんと説明してあげる!」


 キシリアは気を取り直し、再び胸を張った。


 その様子を見て、マドカは画面の向こうで楽しそうに笑っている。


 どうやら、嫉妬の大陸についての話は、まだまだ始まったばかりのようだった。


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