勇者会議雑談6
「それにしてもよ、お前らのエキドナって、正式メンバー以外はどうしてんだ?」
プライドの質問に、マドカは不思議そうに首を傾げた。
『マドカ【エキドナ公式】:え? バイトだけど』
「……は?」
『回答が軽いwww』
『バイト!?』
『エキドナってあの規模でバイト雇用なの!?』
『マドカ【エキドナ公式】:いや、だって、全員を正式メンバーにする必要はないでしょ? お店とか施設とか、働いてくれる人が必要なところは普通に雇ってるよ』
「いや、そういうことじゃねえ。お前ら、組織として結構な規模になってるだろうが。正式メンバーじゃない奴らは、どこまで関わってんだ?」
『マドカ【エキドナ公式】:あー、なるほど。基本的には担当している仕事をしてもらってるだけだよ。必要な情報は仕事に必要な範囲で共有するし、権限がいる仕事なら、それに応じた立場の人が担当する。全員がエキドナの中枢を知ってるわけじゃないね』
「なるほど。正式メンバーと雇用者では、情報へのアクセスも違うということか」
『マドカ【エキドナ公式】:うん。別に秘密組織ごっこがしたいわけじゃないけど、知る必要のないことまで教える意味もないからね』
『意外としっかりしてる』
『バイトだからって適当に扱ってるわけじゃないんだな』
『仕事の範囲は明確にしてるのか』
『マドカ【エキドナ公式】:もちろん、お給料はちゃんと払ってるよ。働いてくれてる人がいるから、私たちも自分の仕事に集中できるわけだし』
「そこは大事ですわね。全員が何でもできるわけではありませんもの」
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう。お店の人にはお店の仕事をしてもらうし、技術がある人には技術を活かしてもらう。正式メンバーにならないと働けない、なんてこともないよ』
「……なんか、思ってたより普通だな」
『マドカ【エキドナ公式】:組織だからって、全員が命懸けで忠誠を誓ってる必要はないでしょ?』
『それはそうwww』
『普通に働いて普通に給料をもらう』
『勇者会議でエキドナの雇用形態を学ぶとは』
「むしろ、正式メンバーって何をする人たちなんですか?」
『マドカ【エキドナ公式】:えーっと……私たちみたいに、エキドナ全体の方針を決めたり、責任を持って判断したりする人たちかな。あとは、普通の雇用契約だけじゃ任せられない仕事とかね』
「なるほど。単なる戦闘力だけで決まるわけでもないんですね」
『マドカ【エキドナ公式】:うん。仕事を任せられるかどうかは、強さだけじゃ決められないからね』
『プライドさん、今の話をよく聞いておこう』
『なんで俺を見るんだよ!』
『まだ何もしてないのにwww』
「だから、こっちを見るなって言ってんだろうが!!」
配信越しに飛び交うやり取りに、マドカは楽しそうに笑った。
『マドカ【エキドナ公式】:それにさ、エキドナって何してもある程度自由なんだよ。犯罪以外はサボっててもいいし、自分のやりたいことをやる。だから誰も遠慮しないし、好きなことに没頭できるんだよね』
「……いや、ちょっと待て。サボっててもいいって、組織として大丈夫なのか?」
『マドカ【エキドナ公式】:仕事に支障が出なければいいんじゃない? やることをちゃんとやってくれるなら、ずっと働いてなきゃいけない理由もないでしょ?』
『自由すぎるwww』
『普通はサボったら怒られるんだよ!』
『でも成果さえ出せば自由ってことか』
『エキドナ、働き方まで独特なんだな』
『マドカ【エキドナ公式】:まあ、私も書類を書きながら、ムサシの稽古を観察してることはあるよ。動きを目で捉えて、観察眼を集中させて、少しでも吸収できるものがないか見てるんだ』
「いや、書類を書きながらできることなのか、それ!?」
『マドカ【エキドナ公式】:できるよ? もちろん、ちゃんと見たい動きがあったら、そっちに集中するけどね』
『書類仕事と修行の研究を並行してるのか』
『ただ眺めてるんじゃなくて、技術を吸収しようとしてるんだな』
『マドカ様、仕事中まで修行熱心www』
「……観察眼を使って、ムサシの動きを学んでいるということか」
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう。見ているだけでも、勉強になることは多いからね』
『マドカ【エキドナ公式】:でも、そういう自由さがあるからこそ、みんな自分の得意なことに集中できるんだよ。誰かに細かく指示されなくても、自分で考えて動ける人が多いしね』
「なるほどな。全員を同じやり方で管理するんじゃなく、それぞれに任せるということか」
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう。もちろん、何をしてもいいってわけじゃないよ。人に迷惑をかけたり、犯罪をしたりするのは駄目だし、任された仕事には責任を持ってもらう。でも、それ以外までいちいち縛る必要はないと思ってる』
『自由だけど無責任ではない、と』
『好きなことに没頭できる環境っていいな』
『だからエキドナって、変わった人が多いのかwww』
「……なんか聞けば聞くほど、エキドナって組織の常識がわからなくなってきたぞ」
『マドカ【エキドナ公式】:えー、そうかな? みんな好きなことをして、得意なことを活かして、ちゃんと仕事もしてるだけだよ?』
「その『だけ』の範囲が広すぎるんだよ!!」
『勇者会議、エキドナの組織論で混乱中www』
『なお代表は書類を書きながら観察眼を鍛えています』
『自由さも器用さも規格外www』
『マドカ【エキドナ公式】:それにさ、できないならできないって、初めから言ってくれるもん。任せてくださいって胸を張って言って、結局できませんでした、すみません……とか言われたら、ガッカリするでしょう?』
「それはわかるぜ。新人冒険者とかによくいそうだな。依頼を受けるときは自信満々だったのに、いざやらせてみたら全然できねえってやつ」
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう。だから、できないって正直に言ってくれると、じゃあ違うのを試そうかって、別のアイディアが生まれることもあるんだよね。難易度を下げてみたら、逆にガチですごいものができたりするし!』
「それ、ニコラ博士が『めんど~』とか言ってたら、なんかヤバいものができちゃったときと一緒ですよね!」
『わかるwww』
『ニコラ博士の通常運転じゃん』
『面倒くさがった結果、技術革新が起きる女』
『本人は絶対に認めなさそう』
『マドカ【エキドナ公式】:よくあるよねー』
マドカは、シルヴァの言葉に楽しそうに同意した。
「あとさ、私たちって一斉に休むわけ」
「……どういうことだ?」
プライドが眉をひそめると、マドカはさも当然のように説明を続けた。
『マドカ【エキドナ公式】:旅行とか行くときは、エキドナのメンバーも、私の公爵家の人たちも一緒に行くからさ。屋敷が完全に誰もいない状態になるんだよ』
「おいおい、待て待て! それ危なくないか? 屋敷に誰もいねえって、居留守どころの話じゃねえだろ!」
『マドカ【エキドナ公式】:そうなんだよねー。だから、お姉ちゃんの封印が解けたら、財産の半分くらいあげてもいいよねって話になったりするんだよ』
「財産の半分!?」
『報酬がデカすぎるwww』
『封印解除の難易度を考えたら妥当なのか?』
『いや、そもそも封印を解ける人がいるのか問題』
「確かに、あれは無理だろうな。あんなに複雑な魔法は見たことがない」
ジークフリートの言葉に、マドカも大きく頷いた。
『マドカ【エキドナ公式】:でしょ? だから、今のところはみんなで旅行に行くの!』
「いや、そこは誰か残せよ! 屋敷を守る人間くらいいるだろうが!」
『マドカ【エキドナ公式】:でも、誰かが残ったら、その人だけ休めないじゃん?』
「そりゃそうだが……!」
『マドカ【エキドナ公式】:それに、旅行に行ってる間は完全に仕事しないんだよ。半月くらい休暇を取って、みんなで遊んで、リフレッシュしてから仕事に戻るの!』
マドカは、まるでそれが組織運営の基本であるかのように言い切った。
「半月も!?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん。仕事のことは一切考えないよ。連絡も最低限だし、基本的には全員お休み!』
『組織のトップが半月まとめて休む』
『しかも屋敷が完全に無人』
『侵入者からしたらチャンスなのか、そもそも近づいちゃいけない場所なのかw』
『マドカ【エキドナ公式】:でもさ、この間旅行に行った強欲って勝負ばっかり挑まれるから、プライドさん向きかもね!』
「はあ? なんで俺なんだよ!」
『マドカ【エキドナ公式】:だって、挑まれたら受けて立つでしょ?』
「そりゃ相手によるだろうが! 誰彼構わず受けるわけねえだろ!」
『マドカ【エキドナ公式】:えー、でも強そうな相手だったら?』
「……まあ、話くらいは聞いてやるが」
『マドカ【エキドナ公式】:ほら!』
マドカが楽しそうに指を差すと、プライドは「うるせえ!」と声を荒らげた。
『マドカ【エキドナ公式】:逆にキシリアさんは、ずっと勝負を挑まれてたらイライラしてそう』
「はぁ!? 誰がそんなことでイライラするっていうのよ!」
『マドカ【エキドナ公式】:だって、旅行って休むために行くんだよ? それなのに知らない人から次々に勝負を挑まれたら、ゆっくりできないじゃん』
「……それは、まあ」
キシリアは一瞬だけ言葉に詰まった。
「そもそも、あたしは旅行先でまで他人の相手なんかしてられないわよ! 服を見たり、おいしいものを食べたり、遊んだりするほうが大事なんだから!」
『キシリア様、正直でよろしい』
『プライドは勝負、キシリアは買い物』
『強欲は旅行先でも勝負を申し込まれるのか……』
『マドカ【エキドナ公式】:それでいいんだよ。せっかくの休暇なんだから、みんな自分の好きなことをすればいいんだって!』
マドカは満足そうに頷いた。
『マドカ【エキドナ公式】:仕事を頑張るためにも、休むときはちゃんと休む。エキドナはそういうところ、結構しっかりしてるんだよ?』
「……屋敷の防犯以外はな」
プライドのぼやきに、マドカはそっと目を逸らした。
『マドカ【エキドナ公式】:そこは……お姉ちゃんの封印に期待ってことで!』
「期待するな!!」
プライドのツッコミが、今日も配信に響き渡った。
しばらくして、マドカは何かに気づいたように首を傾げた。
『マドカ【エキドナ公式】:……いや、ちょっと待って。プライドさん、キシリアさん、ジークさん、それにお姉ちゃん……』
マドカは指を折りながら、勇者たちの顔を思い浮かべていく。
『マドカ【エキドナ公式】:あれ? みんなが遊びに来たら、エキドナの屋敷に勇者が七人揃うんじゃない?』
「……は?」
プライドが間の抜けた声を出した。
「いや、待て。どういう計算だよ、それ」
『マドカ【エキドナ公式】:だって、プライドさんにキシリアさん、ジークでしょ? それにアーノルドもいるし、お姉ちゃんもいる。そこにシルヴァとアナスイがいるんだから……七人揃うよね?』
「勇者七人が、エキドナの屋敷に?」
ジークフリートも、少し考えるように視線を上げた。
「確かに、そうなる可能性はありますね。普段なら、それぞれの事情で一堂に会すること自体が難しいでしょうが……」
『エキドナの屋敷、勇者大集合会場説』
『遊びに来るだけで勇者七人が揃うのかwww』
『普段はなかなか揃わない人が!』
『マドカ【エキドナ公式】:だって、勇者が七人も揃うなんて、なかなかないでしょ? みんなで集まって遊べたら楽しそうだなって思っただけだよ。みんなが遊びに来てくれるなら楽しそうじゃん!』
「……まあ、楽しそうではあるがなあ」
ジークフリートが苦笑する。
『マドカ【エキドナ公式】:ね! みんな遊びに来てね!』
『決まるの早いw』
『勇者七人が揃う日も近い?』
「ふ……リゼット様とムサシ様か。会うのは三百二十年ぶりほどか……」
ジークフリートが、どこか感慨深そうに呟いた。
「おっさんの時間が長すぎなんだよ!」
プライドが即座に突っ込む。
「三百二十年って、ちょっと久しぶりに会うってレベルじゃねえだろ!」
「お前たちの感覚ではそうなのだろうな」
「いや、俺たちの感覚とか関係ねえだろ! 普通に考えて長えよ!」
マドカは二人のやり取りを聞きながら、楽しそうに笑った。
『マドカ【エキドナ公式】:でも、三百二十年ぶりに再会するっていうのも、なんかいいね!』
「……まあ、リゼット様にお会いできるのなら、悪くはない」
ジークフリートは静かに頷いた。
『再会の感動と時間感覚のズレ』
『三百二十年を「ほど」で済ませる男』
『プライド、ツッコミ役が板についてきたな』
『マドカ【エキドナ公式】:じゃあ、みんなが遊びに来るのを楽しみにしてるね!』
マドカが明るく告げた。
それは、勇者たちが一堂に会する大きな計画でも、特別な式典でもない。
ただ、仲間たちが遊びに来てくれるなら嬉しい。
そして、その結果として勇者が七人揃うのなら、それはそれで面白い。
マドカにとっては、それだけの話だった。




