勇者会議雑談4
# 第3話 勇者会議場の場所と未知の島
『マドカ【エキドナ公式】:……そういえば、勇者さんたちって、ここがどこにあるのか知ってる?』
勇者会議場に、マドカの何気ない質問が響いた。
会議の合間に飛び出した、特に深い意味もなさそうな問いかけだった。
しかし、その場にいた勇者たちは、すぐには答えなかった。
「……どこ、と言われてもな」
「そういえば、考えたこともなかったわね」
「僕も、正確な場所は知りませんね」
シルヴァがあっさりと答える。
彼は発明家として、転移の仕組みや道具には詳しい。だが、勇者会議場そのものの所在地については、別の話だった。
『マドカ【エキドナ公式】:えっ、シルヴァさんも知らないの? ここって、勇者が集まるための場所なんでしょ?』
「はい。ですが、僕たちが知っているのは、招集を承諾するとこの場所へ転移し、開催者が解散を宣言すると元いた場所へ戻る、という仕組みです。会議場がどこに建てられているのかまでは、知らされていません」
「そういう場所だからな。わざわざ所在地を調べる必要もなかったんだろう」
プライドが腕を組み、気にした様子もなく言った。
『マドカ【エキドナ公式】:でも、誰がこんな場所を作ったの? 勇者協会が用意したの?』
「そこは少し違いますね」
シルヴァが説明を引き継いだ。
「勇者会議場に関する話は、昔の勇者たちから伝わっています。かつて、錬金術を得意とする勇者が転移アイテムを作り、それを使って勇者たちが集まれる場所を用意したそうです。その後、転移アイテムの管理は勇者協会が引き継いだようですが、会議場の正確な所在地までは共有されなかったのでしょう」
「昔の勇者たちは知っていたのか?」
「少なくとも、当時の関係者は知っていたはずです。ただ、現在の勇者たちにまで、その情報が伝わっていないということですね」
『マドカ【エキドナ公式】:つまり、勇者協会が転移アイテムを管理してるのに、肝心の会議場がどこにあるのかは知らないってこと?』
「そういうことになりますね。転移先として機能している以上、管理するうえで所在地を知る必要がなかったのかもしれません」
「いや、待てよ。協会が知らねぇってことは、ここがどの大陸にあるのかすら、わかってねぇのか?」
プライドが眉をひそめた。
「その可能性はありますね。少なくとも、僕は聞いたことがありません」
「……今さらかよ」
プライドが呆れたようにつぶやいた。
『マドカ【エキドナ公式】:今さらって、そんなに気になることじゃなかったの?』
「会議に呼ばれたら来て、話が終わったら帰る。それだけの場所だろうが。どこにあるかなんて、知る必要がなかったんだよ」
「まあ、確かにそうですわね。わたくしも、ここへ来る目的は会議への参加ですもの。わざわざ建物の外に出て、周囲を調べようなどとは考えませんでしたわ」
アナスイが優雅に頷いた。
「会議場として不自由がなければ、場所を気にする理由もないということか」
ジークも静かに同意する。
『勇者会議場の場所を誰も知らないとはw』
『会議するためだけの場所だから、外を調べる発想がなかったのかw』
『勇者協会も所在地を知らないのは草』
「今まで、誰も調べようと思わなかったのかしら?」
キシリアが不思議そうに首を傾げた。
「少なくとも、俺は思わなかったな。会議が終われば帰れるんだから、わざわざ残る理由もねぇだろ」
「僕も同じですね。会議場の外に何があるのか、考えたことすらありませんでした」
シルヴァまでそう言うと、マドカは少しだけ黙った。
そして、何かに気づいたように声を弾ませた。
『マドカ【エキドナ公式】:……待って。じゃあ、みんな、この建物の外に何があるのかも知らないの?』
「知らないも何も、調べてねぇんだから当たり前だろうが」
「えっ、本当に? 建物の周りを歩いてみたりとか、そういうことも?」
『マドカ【エキドナ公式】:だって、ここって島に建ってるんじゃないの? 窓から見える景色も、なんだか自然がいっぱいある感じだし』
マドカは配信画面越しに見える景色を思い浮かべながら話した。
彼女は会議場に直接来ているわけではない。あくまでEVを通して勇者たちと話し、配信を見ているだけだ。
そのため、外の様子を詳しく調べることもできない。
「確かに、建物の周囲には自然が広がっていますね。ですが、ここがどの島なのか、あるいはどの大陸に属しているのか、僕にはわかりません」
シルヴァが窓の外へ視線を向けた。
「島だとすれば、独自の生態系が存在している可能性もあるな」
ジークが興味を示した。
「独自の生態系?」
「ああ。周囲の大陸と隔絶されている期間が長ければ、そこに生息する動植物が独自の進化を遂げている可能性がある。地形や気候によっても、確認できる生物は変わるだろう」
いつも落ち着いているジークの声に、わずかな熱がこもる。
「珍しい植物や、見たことのない動物がいるかもしれませんわね。未知の資源が見つかる可能性もありますし、調査する価値はありそうですわ」
アナスイも興味深そうに言った。
「そう考えると、確かに気になるな。建物を使うだけ使って、周囲を一切調べていないというのも、妙な話ではある」
「いや、妙って言われてもな……」
プライドは少し面倒くさそうな顔をした。
「会議場なんだから、会議をしに来てるだけだろ。島の調査に来てるわけじゃねぇんだぞ」
『マドカ【エキドナ公式】:それはそうなんだけどさ。でも、誰も知らない島だったら、ちょっと面白くない?』
「未知の島、か……」
ジークは考え込むように目を細めた。
「もし、本当に人の手が入っていない場所なら、興味深い発見があるかもしれないな」
「でも、まずはどんな場所なのかを確認する必要がありますね。植物や動物だけでなく、地形や水源なども調べなければ、継続的な調査は難しいでしょう」
シルヴァが冷静に付け加えた。
「水源に、地形に、生態系……。考えることは多そうですわね」
「それに、未知の生物がいる可能性もある。危険性を確認せずに踏み込むのは避けるべきだろう」
ジークの言葉に、何人かの勇者が頷いた。
『未知の島とか普通にロマンあるじゃん!』
『未発見の植物とか珍しい資源とか、研究者なら絶対気になるやつ』
『ジークの食いつき方が本気だw』
しかし、その話を聞いていたマドカは、別のことを思いついたらしい。
『マドカ【エキドナ公式】:……未知の生物、かぁ』
声の調子が変わった。
『マドカ【エキドナ公式】:ねえ、ジーク。もしここに、まだモンバトに登録されてないモンスターがいたら、どうする?』
その瞬間、ジークの表情が変わった。
「……何?」
『マドカ【エキドナ公式】:いや、だって、誰もちゃんと調査してない島なんでしょ? だったら、まだ知られてないモンスターが生息してる可能性だってあるじゃない』
「……確かに、その可能性は否定できないな」
ジークが真剣な顔で考え始めた。
「生息域が限られた固有種であれば、これまで発見されていなくても不思議ではない。もし未知のモンスターがいるなら、その生態や能力を調べることにも大きな価値があるだろう」
「モンバトの新しいデータになるかもしれない、ということですね」
シルヴァも理解したように頷いた。
「そういうことですわね。珍しいモンスターのデータが手に入るなら、調査する理由としては十分ですわ」
アナスイも興味を示す。
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう! 今まで誰も見つけてないモンスターだったら、カードとしても貴重かもしれないよ!』
「未知のモンスターか……。それは、確かに調べてみたいな」
ジークは先ほどまで以上に真剣だった。
彼にとって、まだ知られていない生物の存在は、それだけで魅力的な研究対象なのだろう。
『未知のモンスターがいたらモンバトの新カードになるのか』
『それは確かに調査する価値がある』
『ジーク、さっきまでと明らかに目の色が違うぞw』
一方、ほかの勇者たちは別の可能性にも気づき始めていた。
「……ちょっと待ちなさいよ」
キシリアがゆっくりと口を開いた。
「つまり、ここには、まだ誰も調べていない島があって、珍しい植物や動物がいるかもしれなくて、もしかしたら未知のモンスターまでいるかもしれない……ってこと?」
「可能性の話だがな」
ジークが答える。
「だったら、調査する価値はあるんじゃない?」
キシリアの赤い瞳が輝いた。
「未知のモンスターがいるなら、見てみたい気持ちはあるわね。珍しい素材なんかが見つかれば、それも面白そうじゃない!」
「……お前、さっきまで島の場所なんて気にしてなかっただろ」
プライドが呆れたように突っ込む。
「今は気になってるのよ! 新しい発見があるかもしれないんだから、当然じゃない!」
「まあ、興味が出るのはわかりますね。僕も、まだ見ぬ生物や資源があるなら、調べてみたいとは思います」
シルヴァはそう言ったものの、すぐに現実的な問題を口にした。
「ただし、実際に調査するとなれば準備が必要です。この建物には食料も飲料もありませんし、保存食のようなものが残っていたとしても、今すぐ食べられる状態とは限りません。現地で水や食料を確保できる保証もありませんから、思いつきで出発するわけにはいきませんね」
「そりゃそうだな。会議場なんだから、食料庫があるわけでもねぇし」
プライドも納得したように頷く。
「会議が終われば帰れる場所ですもの。ここに長期間滞在することを想定した備蓄など、最初から必要ありませんわね」
アナスイも同意した。
『マドカ【エキドナ公式】:うんうん。じゃあ、今すぐ探検に行こうって話じゃなくて、いつかちゃんと準備して調べてみよう、ってことだね』
「そういうことだな。調査するにしても、まずは必要な物資を用意して、どこまで調べるのかを決める必要がある」
ジークが落ち着いて答えた。
「未知のモンスターがいるかもしれないなら、なおさら準備は必要だ。危険性もわからない場所へ、何の用意もなく入るわけにはいかない」
『今すぐ行くんじゃなくて、ちゃんと準備してからなのね』
『未知の場所なんだから食料も水も必要だよな』
『会議場に食料がないのは当たり前なんだよなあ』
『マドカ【エキドナ公式】:なるほどね。じゃあ、調査に行く人はそのうち決めるとして……』
マドカは、何かを企むような声になった。
『マドカ【エキドナ公式】:ところで、みんな。島に虫がいっぱいいたら、どうする?』
「…………」
一瞬、勇者会議場が静まり返った。
「……は?」
プライドが聞き返す。
「虫よ、虫。森とか草むらとか、そういうところにはいるでしょ? 大きいのも、小さいのも、飛ぶのも、地面を這うのも」
『マドカ【エキドナ公式】:未知の島なんだから、見たこともない虫がいるかもしれないよね!』
「ちょっと待て。なんで、わざわざ虫の話をするんだよ!」
プライドが露骨に嫌そうな顔をした。
「だって、調査するなら、そういうのもいるかもしれないじゃない」
「……虫は、あまり歓迎できませんわね」
アナスイが困ったように微笑んだ。
「珍しい生物には興味がありますけれど、わざわざ虫に囲まれたいとは思いませんもの」
「わかるわ。未知のモンスターには興味があるけど、虫が大量にいる場所を歩き回るのは、ちょっと……」
キシリアも、先ほどまでの勢いを少し失っていた。
「おいおい。さっきまで調査する気満々だったじゃねぇか」
プライドが指摘する。
「モンスターと虫は別でしょう! モンスターなら戦えるけど、虫は嫌なのよ!」
「虫だって生物だろうが!」
「そういう問題じゃないの!」
『虫の話が出た瞬間に空気が変わって草』
『未知のモンスターはいいけど虫は嫌なの、わかる』
『キシリア様、言い出しっぺなのに虫が嫌いw』
『プライドも嫌いなのかよ!』
勇者たちが言い争いを始めるなか、ジークだけは別の方向へ思考を進めていた。
「いや、待て。未知の島なら、昆虫の種類や生態も調査対象になる。既知の種とは異なる特徴を持っている可能性もあるし、モンスターとの関係性も調べられるかもしれない」
「ジーク、あんたは虫が平気なの?」
キシリアがじっと見つめた。
「好き嫌いの話ではない。調査する価値があるという話だ」
「つまり、調査には行く気があるってことね?」
「必要な準備が整い、調査の方針が決まるなら、私は行ってみたいと思う」
ジークは迷いなく答えた。
『マドカ【エキドナ公式】:おおー! さすがジーク! 未知のモンスターのためなら、虫のいる島でも調査するんだ!』
「……その言い方だと、私が虫だらけの場所へ喜んで飛び込むように聞こえるのだが」
『マドカ【エキドナ公式】:あれ、違うの?』
「必要な調査を行うと言っているだけだ」
ジークは冷静に訂正したが、マドカの楽しそうな声は変わらなかった。
『ジークは本当に未知の生態系に興味津々だな』
『研究者魂が強すぎるw』
『調査する価値があるのと、虫が平気なのは別問題なんだよなあ』
その様子を見ていたキシリアが、ふと何かを思いついたように顔を上げた。
「ちょっと、あんたたち! 男でしょう!? 未知の島くらい、さっさと見に行ってきなさいよ!」
「男かどうかは関係ねぇだろうが! お前だって十分強いんだから、自分で見に行け!」
プライドが即座に言い返した。
「私は虫が嫌いなのよ!」
「俺だって嫌いだ!」
「だったら、男の意地を見せなさいよ!」
「そんな意地を見せる必要がどこにあるんだよ!」
「未知の島に未知のモンスターよ!? 調査しないなんてもったいないじゃない!」
「お前が行きたいなら、まず自分で行けって言ってんだろうが!」
二人の言い争いは、あっという間に白熱した。
『勇者たちが虫で揉めてるの面白すぎる』
『未知のモンスターを調べたい気持ちはあるのに、虫は嫌なの笑う』
『キシリア様、さっきの勢いはどこへ行ったw』
「まあまあ、お二人とも。まだ調査の日程も、参加者も、何も決まっていませんわ。今ここで言い争っても仕方ありませんでしょう?」
アナスイが穏やかに仲裁する。
「そうですね。まずは調査の目的と必要な準備を整理してから、参加者を決めるのがよいでしょう」
シルヴァも落ち着いた口調で続けた。
「未知のモンスターがいる可能性がある以上、調査自体は検討する価値があると思います。ですが、今すぐ出発する話ではありません。食料や装備を整え、島の環境を確認する方法も考える必要がありますね」
「……まあ、準備をするのは当然だな」
ジークも同意した。
「調査を行うなら、可能な限り情報を集めてからにしたい。特に未知のモンスターがいる場合、事前情報の有無は大きい」
『マドカ【エキドナ公式】:うん、そうだね。じゃあ、今度会議があるときまでに、誰が調査に行くか考えておいてよ!』
「お前、随分と楽しそうだな……」
プライドが嫌な予感を覚えたように呟いた。
『マドカ【エキドナ公式】:だって、誰も知らない島だよ? 珍しい動物がいるかもしれないし、未知のモンスターがいるかもしれないし、モンバトの新しいカードになるかもしれないんだよ! 配信でそんな話が出たら、絶対に盛り上がるじゃない!』
「結局、配信のネタにしたいだけじゃねぇか!」
「いいじゃない! 調査する人たちにとっても、新しい発見があるかもしれないんだから!」
「その新しい発見の中に、虫が大量にいる可能性も含まれてるんだろうが!」
『マドカ【エキドナ公式】:そこは頑張って!』
「頑張ってで済ませるな!」
勇者会議場に、プライドの怒鳴り声が響いた。
『これはいつか調査配信が見たい』
『マドカ、完全に他人事で楽しんでるだろw』
『調査する勇者たちより、配信を楽しみにしてるマドカのほうが盛り上がってるぞw』
『マドカ【エキドナ公式】:あははは! みんな、ちゃんと準備してね! 私は配信を見ながら報告を待ってるから!』
「お前も少しは手伝え!」
プライドの抗議が飛ぶ。
『マドカ【エキドナ公式】:えっ? 私は今、視聴者です!』
「都合のいいときだけ視聴者になるんじゃねぇ!」
『マドカ【エキドナ公式】:だって、私はEV越しに話してるだけだもん。現地で島を調べることはできないし、勇者さんたちのほうが詳しいでしょ?』
「それはそうだが……!」
プライドは反論しかけて、言葉に詰まった。
マドカは現地にいるわけではない。会議場の外を歩き回って調査することもできないのだから、実際に島を調べるのは勇者たちになる。
そして、彼ら自身も、まだ何も決めていない。
未知の島に何があるのか。
珍しい植物や動物がいるのか。
誰も見たことのないモンスターが生息しているのか。
それを確かめるには、十分な準備を整え、調査する者を決める必要がある。
今すぐ出発するわけではない。けれど、これまで誰も気に留めなかった場所に、新しい発見が眠っている可能性が浮かび上がったのだ。
「……まったく。会議場の場所を知らねぇって話から、なんでこんなことになってんだよ」
プライドが深々とため息をつく。
「でも、面白そうな話じゃない!」
キシリアはまだ少し不満そうだったが、未知の島への興味は失っていない。
「準備が整えば、私も調査に参加することを検討しよう。未知の生態系と、未発見のモンスター。その可能性は見過ごせない」
ジークはすでに、どんな調査を行うべきか考え始めているようだった。
「それでは、まずは必要な準備と調査方法を検討するところからですね」
シルヴァが穏やかにまとめた。
「ええ。虫対策も忘れないでくださいませ」
アナスイの一言に、プライドとキシリアが同時に顔をしかめる。
『マドカ【エキドナ公式】:じゃあ、次にみんなが集まるときには、島の調査計画ができてるといいね! 未知のモンスターが見つかったら、モンバトの新カードにも期待しちゃうな!』
「……お前、本当に楽しそうだな」
プライドはもう一度ため息をついた。
勇者会議場の外に広がる、誰も詳しく知らない島。
そこに何があるのか、今はまだ誰にもわからない。
ただ一つ確かなのは、勇者たちがこれまで一度も考えなかった場所に、思いがけない興味を抱き始めたということだった。




