勇者会議28
『マドカ【エキドナ公式】:だけど、私たちはエキドナに危害を加える組織とは、二度と商売はしないよ。これはもう実例が出てるからね』
それまで明るかったマドカの声に、少しだけ硬さが混じった。
『マドカ【エキドナ公式】:エキドナを便利屋だと思ってるなら、舐めすぎかな』
「……なるほどな」
プライドは先ほどまでの軽い調子を引っ込めた。
商売の話だけではない。エキドナは、利益のためなら誰とでも手を組むような組織ではないということだ。
『マドカ【エキドナ公式】:それに、お姉ちゃんの鑑定って、個人のステータスだけじゃなくて組織まで見えるんだよね』
「……組織まで、ですか?」
シルヴァが眉を上げた。
『マドカ【エキドナ公式】:うん。しかも、危険な兆候は色でも分かるんだよ。問題がなさそうなら白や薄い青、注意が必要なら黄色、気になる兆候があればオレンジ、明確に危険な要素があれば赤。もちろん、色だけで犯罪者だって決めつけることはできないけどね』
「色で、そこまで分かるのか……」
プライドが配信カメラを見上げた。
『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと! だから、エキドナに近づくときは気をつけてね。こっちに悪意を隠して近づいても、気づかれる可能性があるんだから』
「おいおい……それ、今ここで言う必要あんのか?」
『マドカ【エキドナ公式】:あるよ! 知らない人もいるでしょ? 悪いことをしようとしてる人には、先に教えておいた方がいいもん』
「親切の使い方がおかしいだろうが!」
キシリアは腕を組み、少し考えてから口を開いた。
「つまり、エキドナに害を与えるつもりで近づいても、最初から見抜かれる可能性があるってこと?」
『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと。でも、勘違いしないでね。鑑定ですべてが分かるわけじゃないし、赤だからって、その人が必ず悪事を働いたって意味でもないよ。事情があって危険な組織にいる人だっているだろうし、これからどうするかだって人それぞれだから』
そこまでは、いつもの明るい調子だった。
しかし、次の言葉には、はっきりとした強さがあった。
『マドカ【エキドナ公式】:ただし、実際にエキドナに危害を加えた組織は別。事情がどうであれ、私たちに被害を与えた相手と、これからも仲良く商売するつもりはないよ。そこは絶対に変わらないからね!』
会議の場が静かになった。
『マドカ【エキドナ公式】:私たちだって、何をされても笑って許すわけじゃないんだから。仲良くしたいなら、こっちのことも大切にしてね。利用するつもりなら、最初から来ないで』
「……これは、依頼を持ち込む側も相当慎重になるでしょうね」
アナスイが静かに言った。
「エキドナと商売をしたいのであれば、まず信頼を得ること。鑑定の色だけで相手を断罪するわけではない。しかし、実際に危害を加えれば、その時点で関係を断たれる。そういうことですね」
「ええ。しかも、一度取引を断られたら終わりというだけでなく、二度と商売をしないという方針なのですね」
シルヴァも真剣な表情だった。
「目先の利益を求めて信頼を損なえば、長期的には大きな損失になります。商人としても、肝に銘じておきたい話です」
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう! 私たち、別に誰とでも商売したいわけじゃないからね。仲良くできる人とは仲良くするし、協力できる人とは協力する。でも、敵になるなら話は別だよ! エキドナを敵に回しておいて、都合のいいときだけ取引してほしいなんて言われても、お断りだからね!』
『エキドナ、思ったより線引きがはっきりしてる』
『色だけで決めつけないのは分かるけど、実害が出たら永久に取引停止か』
『便利屋どころか、やっちゃいけないことをやったら二度目はない組織だった』
『鑑定で組織まで見えるの、普通に怖いw』
『いや、悪いことをしなければいいだけでは?』
『最後のコメントが真理すぎるw』
「……結局、普通に付き合う分には問題ねえんだろ?」
プライドが確認するように尋ねた。
『マドカ【エキドナ公式】:もちろん! 普通に仲良くしてくれるなら大歓迎だよ!』
「なら、最初からそう言え!」
『マドカ【エキドナ公式】:えー? ちゃんと言ったじゃん!』
「言い方の問題だっつってんだよ!!」
『マドカ【エキドナ公式】:まぁ、EVとかモンバト、ヒロバトが異常な数売れただけだよね!』
「いや、その異常な数ってのが問題なんじゃねえのか……」
プライドは思わず額を押さえた。
マドカ本人は、まるで予想外のおまけがついてきたとでも言いたげな様子だったが、売れた数が異常なら、それだけ多くの人間や組織がエキドナの製品に注目しているということでもある。
しかも、EVにモンバト、ヒロバトと、どれも一時的な流行で終わるようなものではない。
エキドナが生み出したものは、すでに各地の生活や娯楽に影響を与え始めている。
『異常な数売れた、で済ませる規模じゃないんだよなぁ』
『本人が一番売上を甘く見てる説』
『でも、売れたからって何でもかんでも広げるわけじゃないんだな』
『さっきまでの商売の話と違って、急に慎重になったぞ?』
『マドカ【エキドナ公式】:だって、売れると思ってなかったんだもん! でも、転移魔法陣は別だよ。あれは危険だから、設置できるのはエキドナだけなんだよね』
先ほどまでの軽い雰囲気が、少しだけ変わった。
EVやモンバト、ヒロバトなら、売れれば売れるほど利用者が増える。もちろん管理や供給の問題はあるが、基本的には多くの人に使ってもらうこと自体が悪いわけではない。
しかし、転移魔法陣は違う。
人や物を瞬時に移動させられるということは、使い方次第で国境や地形による防衛上の制約を大きく変えてしまうということだ。
便利だからといって、あちこちに設置していいものではなかった。
「エキドナだけって、ほかの国には作れる奴がいないの?」
キシリアが疑問を口にした。
『マドカ【エキドナ公式】:んー、どうだろうね? 私たちが知らないだけで、作れる人がいる可能性はあるよ。でも、転移魔法陣は使い方を間違えると危ないからね。簡単に設置していいものじゃないんだよ』
「作れるかどうかと、作っていいかどうかは別……ということですね」
シルヴァが確認するように言った。
技術そのものが存在するかどうかは、エキドナにも断言できない。未知の魔法や技術が、どこかの国や組織に眠っている可能性までは否定できないからだ。
だが、仮に作れる者がいたとしても、それだけで自由に設置していい理由にはならない。
『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと! 転移魔法陣って、便利だからこそ気をつけないといけないんだよ。誰が使えるのか、どこにつながっているのか、相手はちゃんと分かってるのか。そういうことを考えずに増やすのは危ないでしょ?』
『便利な技術ほど、管理が大事ってことか』
『交通手段の話だと思ってたら、国防の話だった』
『これ、国の偉い人たちが聞いたら頭抱えるやつでは?』
「転移魔法陣は人や物を移動させるだけでなく、軍隊の侵入経路にもなり得ますからね。過去の事例を考えても、慎重に扱う必要があります」
シルヴァの指摘に、会議の参加者たちも納得した様子を見せた。
「そりゃそうだろうな。国境を越えて軍隊が突然現れたら、たまったもんじゃねえ」
プライドも、今度ばかりはすぐに納得した。
城門を固め、国境を守り、侵入者を見張る。そうした防衛の仕組みを、転移魔法陣ひとつで無意味にされる可能性があるのだ。
しかも、相手がどこから来るのか分からないとなれば、守る側にとってはたまったものではない。
過去に転移魔法陣が原因で、ダンジョン都市が他国に攻められた事例もある。
便利さの裏側にある危険性は、すでに歴史が証明していた。
『転移魔法陣で軍隊が来るとか、考えただけで怖い』
『そりゃ設置許可も簡単には出せないわ』
『一度つながったら終わり、じゃなくて、その先に何が来るかが問題なんだな』
『エキドナが独占したいからじゃなくて、危険だから制限してるのか』
『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと! だから、ほかの国から頼まれても簡単には設置できないんだよね』
マドカは、当然のことを説明するような明るい口調で続けた。
だが、その判断は決して軽いものではない。
転移魔法陣を設置すれば、移動が楽になる。商人にとっては物流が改善し、国にとっては人や物資の移動が速くなる。利用したいと考える者はいくらでもいるだろう。
それでも、便利さだけを理由に設置を認めるわけにはいかない。
エキドナが技術を持っているからこそ、設置する場所も相手も慎重に選ぶ必要があった。
「でも、メアリーは転移ポイントを持ってるんでしょ? あれはどうなってるの?」
キシリアの問いに、何人かが反応した。
確かに、転移魔法陣を簡単には設置しないというのなら、メアリーが使っている転移ポイントはどういう扱いなのだろうか。
個人が転移できることと、国の領域に自由に出入りできることは、同じではないはずだ。
『マドカ【エキドナ公式】:メアリーちゃんは、ちゃんと相手の国に許可を取ってから飛んでるよ! 正式に「そちらの国を訪問してもいいですか?」って確認してからね』
「……ああ、なるほど」
プライドが小さくうなずいた。
転移できる手段を持っているからといって、相手の国に勝手に入っていいわけではない。
メアリーは訪問する前に相手へ確認し、許可を得てから転移している。つまり、移動手段が特殊であっても、相手国の主権や手続きを無視しているわけではないのだ。
「転移ポイントがあっても、勝手に飛び込んでるわけじゃねえってことか」
『マドカ【エキドナ公式】:そうそう! 転移できることと、相手の国に勝手に入っていいことは別だからね!』
『当たり前の話なんだけど、転移できる世界だと大事な区別だな』
『普通の道から入るのも転移で入るのも、相手の国に入ることには変わりないってことか』
『メアリー、ちゃんと手順を踏んでたんだな』
『これを守らないと、訪問じゃなくて侵入扱いになりかねないもんな』
「転移手段を持っているからこそ、相手国への礼儀や手続きは守る。そういうことですね」
シルヴァが静かにまとめた。
『マドカ【エキドナ公式】:うん! 私たちだって、そこはちゃんとしてるんだよ!』
マドカは、えへんと胸を張るような調子で答えた。
「いや、そこはちゃんとしてて当然だろ……」
プライドがぼそりとつぶやく。
ただ、今回の話は単純に礼儀正しいかどうかという問題でもない。
転移できるという能力は、使い方によっては相手の国の防衛をすり抜ける力になる。だからこそ、相手の許可を取るという手続きには大きな意味があった。
エキドナは、転移魔法陣を便利だからといって無制限に設置することはしない。
メアリーも、転移できるからといって勝手に他国へ入ることはしない。
技術を持っていることと、その技術を好き勝手に使っていいことは別なのだ。
『エキドナ、技術力だけじゃなくて、使うときの線引きもちゃんとしてるんだな』
『便利なものを作れるからこそ、やっていいこととダメなことを分けてるわけか』
『マドカ本人はいつも通りだけど、説明されると結構厳格だぞ』
『プライドの「当然だろ」が全部持っていったw』
「……まあ、勝手に国へ飛び込まれる側のことを考えりゃ、当然の対応か」
プライドはそう結論づけると、改めて配信カメラを見た。
「ただ、転移魔法陣を欲しがる国は多そうだな。便利なのは間違いねえんだからよ」
『マドカ【エキドナ公式】:うん、そうだと思うよ! でも、欲しいって言われたら何でも設置するわけじゃないからね。そこはちゃんと考えて決めるよ!』
『ですよねー』
『便利だからこそ、簡単には渡せない技術ってことだ』
『頼めば何でも作ってくれると思ったら大間違い、と』
『エキドナの基準、わりと一貫してるなw』
最後のコメントに、プライドも小さくうなずいた。
「……確かに、そこは一貫してるな」
便利だから広めるものと、便利だからこそ慎重に扱うもの。
マドカたちは、その違いをきちんと理解しているらしい。




