勇者会議25
『マドカ〖エキドナ公式〗:まあ、そうなるよね。最初に設備を作るお金はかかるけど、転移するたびに通行料を取れるなら、長い目で見れば利益が出るもの』
シルヴァも頷いた。
「ええ。国同士を直接つなぐことができるなら、人や物資の移動にかかる時間も大幅に短縮できます。経済的な利点は大きいでしょうね」
「だからこそ、簡単に許可するわけにはいかないのよね」
アナスイが穏やかな口調で続けた。
「人や物だけじゃない。軍隊だって移動できる可能性があるんだから。便利だからって、どこの国にでも設置していいものじゃないわ」
『マドカ〖エキドナ公式〗:そのとおり。実際、配信を見た知らない国からも問い合わせが来ているんだよ』
マドカは少し困ったように笑った。
『マドカ〖エキドナ公式〗:「配信を見ました! 強欲の国にも通したなら、うちにも通していいですよね?」って感じで』
『強欲に通したから、うちにも通せってことかw』
『前例があるから自分たちも、って考えなのかな』
『いやいや、国ごとに事情が違うでしょうに』
『そもそも、設置する側にも選ぶ権利はあるよな』
「ずいぶんと都合のいい話だな」
憤怒が呆れたように言った。
「強欲に通したことと、ほかの国にも通すことは別の話だろう。まさか、先に一か国へ許可したのだから、残りの国にも同じ条件で許可しろとでも言うつもりか?」
『マドカ〖エキドナ公式〗:そういうことなんじゃないかな。でも、全部お断りしてるよ』
マドカはあっさりと答えた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:強欲は特別だったからね』
「特別、ですか?」
シルヴァが尋ねると、マドカは頷いた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:うん。強欲の王様が、EVとかモンバト・ヒロバトをどうやって広めたらいいのか相談してきたの。それで、ゴールと強欲の王都をつなぐことになったんだよ』
「つまり、転移魔法陣を設置すること自体が目的だったわけではない、と?」
『マドカ〖エキドナ公式〗:そうそう。EVとかモンバト・ヒロバトを広めるための話だったの。転移魔法陣は、そのための手段だね』
『なるほど、転移魔法陣そのものが目的じゃなかったのか』
『EVとモンバト・ヒロバトを広めるための特別な手段だったわけね』
『それなら、ほかの国が同じことを頼んでも同じ条件になるとは限らないな』
マドカは指を一本立てた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:それに、あのころは強欲の国でエキドナのことが知られていなかったから、怠惰の名前を使わせてもらうことにしたんだよ。もちろん、勝手に使ったわけじゃないよ。ちゃんと許可をもらってるからね』
「なるほど。怠惰の名前を借りたからといって、怠惰が設置の契約者だったわけではないのですね」
『マドカ〖エキドナ公式〗:うん。契約したのはエキドナと強欲だよ』
シルヴァの確認に、マドカは迷いなく答えた。
「ですから、ほかの国が同じことを望んでも、強欲と同じ条件になるとは限りませんし、そもそもエキドナに設置する意思がないのなら、話はそこで終わりですね」
『マドカ〖エキドナ公式〗:そういうこと!』
マドカは笑顔で頷いた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:それに、もしかしたら「怠惰に頼めばゴールにつないでもらえるんじゃないか」って考える国もあるかもしれないけど、それも無理だよ』
「……なぜだ?」
憤怒が尋ねた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:ゴールは怠惰の土地ではないからだよ。エキドナが怠惰から買った土地だもの』
「買った、だと?」
『マドカ〖エキドナ公式〗:うん。私が契約して買ったの』
マドカは何でもないことのように答えた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:もともとは王様から褒賞として土地をもらう話もあったんだけど、私は正式に購入することにしたんだよ』
「褒賞として受け取るのではなく、わざわざ金を払って購入したのか?」
『マドカ〖エキドナ公式〗:そうだよ。だって、あとから揉めたら困るでしょ?』
マドカは不思議そうに首を傾げた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:褒賞としてもらっただけだと、あとになって「あれは貸していただけだ」とか、「王国の土地なんだから返せ」とか言われるかもしれないじゃない。だから、最初から売買契約を結んでおけば、そういう問題が起きにくくなると思ったの』
憤怒の表情から、わずかに険しさが消えた。
土地を得ることだけが目的なら、褒賞として受け取るほうが簡単だったはずだ。それでもマドカは、将来の揉め事を避けるために正式な購入を選んだのだという。
『褒賞より正式な購入を選んだのか』
『後から揉めないように、最初から契約をはっきりさせたんだな』
『本人は当たり前みたいに言ってるけど、ちゃんと先のことを考えてる』
『これ、ゴールの土地を誰が使えるのかって話にも直結するよね』
『マドカ〖エキドナ公式〗:土地の範囲も、所有権も、売買価格も、ちゃんと書類に書いてもらったよ。王国にも確認してもらって、王家の印章も押してもらった。私も契約書を確認して署名したし、売買は正式に成立してるからね』
マドカは胸を張った。
『マドカ〖エキドナ公式〗:だから、ゴールの土地の正当な契約者は私!』
『言い切ったwww』
『いや、ちゃんと契約して買ってるんだから、そりゃそうだ』
『怠惰の名前を使ったことと、土地の契約者が誰かってことは別の話だもんな』
『問い合わせる前に調べておくべき情報では?』
「…………」
憤怒は黙り込んだ。
契約の内容を確認し、土地の範囲と権利関係を明確にし、王国の承認を得たうえで購入する。後になって所有権を巡る問題が起きないよう、最初から手続きを整えておく。
どれも、土地を扱ううえでは理にかなった判断だ。
しかし、それを目の前の少女は、特別なことでも何でもないかのように説明している。
「……お前、本当に十三歳の娘なのか?」
『マドカ〖エキドナ公式〗:えっ? そうだけど?』
マドカはきょとんとした。
『マドカ〖エキドナ公式〗:何でそんなこと聞くの?』
「いや……」
憤怒は言葉に詰まった。
『本当に十三歳なのかw』
『憤怒さん、思わず聞いちゃったよwww』
『契約の話を聞いてからだと、なおさら信じられないんだろうな』
『マドカ本人は、揉めるのが嫌だから契約しただけって感じなのがまたw』
単に頭の回転が速いというだけではない。自分が何を手に入れ、どのような権利を持ち、将来どんな問題が起こり得るのかを考えたうえで、最初から手続きを選んでいる。
しかも、本人にはそれが特別な判断だという自覚すらないらしい。
「……普通は、そこまで先のことを考えて土地を買うものなのか?」
『マドカ〖エキドナ公式〗:え? だって、自分の土地なのに、あとから返せって言われたら嫌じゃない?』
「それは……そうだが」
憤怒は思わず額に手を当てた。
マドカにとっては、ただ自分の土地を安心して使うための判断だったのだろう。だが、その当然の判断が、かえって彼女の年齢を忘れさせる。
『自分の土地だからこそ、最初にきちんと契約する。正論だ』
『憤怒さんが考え込んでるの、ちょっと面白いw』
『土地を買う話でここまで驚かせる十三歳』
『マドカは普通に説明してるだけなのに、周りがどんどん驚いていくw』
「つまり、怠惰に頼んだところで、ゴールの土地を利用する権利まで手に入るわけではない。土地の正当な契約者はマドカさんであり、エキドナが認めない限り、ほかの国が勝手に転移魔法陣を設置することもできない。そういう理解でよろしいですね?」
シルヴァが話を整理した。
『マドカ〖エキドナ公式〗:うん。そもそも、ほかの国に転移魔法陣を設置するつもりはないからね』
マドカはいつもの明るい調子に戻った。
『マドカ〖エキドナ公式〗:別に、ほかの国と商売したくて転移魔法陣を作ったわけじゃないんだよ。強欲のときは、EVとかモンバト・ヒロバトを広める目的があったから、特別にやっただけ』
『なるほど、設置を増やして商売を広げたいわけじゃないんだな』
『最初から方針は一貫してるわけか』
『便利な技術でも、何でもかんでも広めればいいってものじゃないよね』
「……それなら、最初からそう言って断ればいいだけの話だな」
憤怒が言った。
『マドカ〖エキドナ公式〗:うん。だから断ってるよ?』
「そうか。ならいい」
憤怒は一度頷いたものの、まだ少し納得しきれていないような顔をしていた。
十三歳の少女が、国同士の利害だけでなく、土地の契約まできちんと考えている。その事実が、どうにも頭から離れないらしい。
『結論:マドカは十三歳』
『その結論に納得できてないのは憤怒さんw』
『ゴールの土地の正当な契約者はマドカ。ここ重要!』
「……ねえ、そもそもさ」
マドカが、ふと思い出したように口を開いた。
「怠惰に頼めばゴールにつないでもらえる、って考えるのがおかしくない?」
「ん?」
「だって、ゴールは私の土地だよ? 怠惰から買った土地で、契約だってちゃんと結んでるんだよ? なのに、なんで怠惰を通して話を進めようとするの?」
マドカは心底不思議そうな顔をした。
「問い合わせる前に、ちょっとくらい調べてほしいよね。土地がどこのものなのかとか、誰が契約者なのかとかさ」
「……まあ、言いたいことは分かるが」
「でしょ? 怠惰に頼んだところで、私が許可しなかったら意味ないのにね」
マドカは肩をすくめた。
「なんか、私がいないところで私の土地の使い方を相談されてるみたいで、変な感じだよ」
「実際、そのような話を持ちかけられているのでは?」
シルヴァの指摘に、マドカは一瞬だけ黙った。
「……あ、そっか。そういうことか」
「今さら気づいたのかよ」
憤怒が呆れたように突っ込んだ。
「いや、だって! 自分の土地を使いたいなら、まず私に聞けばいいじゃん! なんで最初から別の国に相談するのさ!」
「その正論を、なぜ今まで疑問に思わなかったのかが不思議だな……」
憤怒は深々とため息をついた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:……ねえ、そもそもさ』
マドカが、ふと思い出したように口を開いた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:怠惰に頼めばゴールにつないでもらえる、って考えるのがおかしくない?』
「ん?」
『マドカ〖エキドナ公式〗:だって、ゴールは私の土地だよ? 怠惰から買った土地で、契約だってちゃんと結んでるんだよ? なのに、なんで怠惰を通して話を進めようとするの?』
マドカは心底不思議そうな顔をした。
『マドカ〖エキドナ公式〗:問い合わせる前に、ちょっとくらい調べてほしいよね。土地がどこのものなのかとか、誰が契約者なのかとかさ』
「……まあ、言いたいことは分かるが」
『怠惰の土地だと思われてるのか?』
『昔の経緯だけ知ってて、今の所有関係を知らないとか?』
『いや、そもそもマドカに聞くのが先ではw』
『マドカの土地を使いたいのに、マドカを通さないのは確かに変だな』
『マドカ〖エキドナ公式〗:でしょ? 怠惰に頼んだところで、私が許可しなかったら意味ないのにね』
マドカは肩をすくめた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:なんか、私がいないところで私の土地の使い方を相談されてるみたいで、変な感じだよ』
「実際、そのような話を持ちかけられているのでは?」
シルヴァの指摘に、マドカは一瞬だけ黙った。
『マドカ〖エキドナ公式〗:……あ、そっか。そういうことか』
「今さら気づいたのかよ」
憤怒が呆れたように突っ込んだ。
『マドカ〖エキドナ公式〗:いや、だって! 自分の土地を使いたいなら、まず私に聞けばいいじゃん! なんで最初から別の国に相談するのさ!』
「その正論を、なぜ今まで疑問に思わなかったのかが不思議だな……」
憤怒は深々とため息をついた。
『そこに気づいてなかったのかwww』
『自分の土地だから、使いたいなら自分に聞け。正論すぎるw』
『マドカ、契約の話はしっかりしてるのに、こういうところは素で抜けてるんだなw』
『いや、本人からしたら「なんで私に聞かないの?」ってだけなんだろうな』
『怠惰を通せば話が早いと思ったのかもしれないけど、土地の契約者はマドカだもんな』
マドカはまだ納得がいかない様子で、首を傾げていた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:だって、私に聞いてくれれば、最初から断れるのにね?』
「……断る前提なのかよ」
憤怒が、またしても呆れた声を漏らした。
『マドカ〖エキドナ公式〗:だって、ほかの国に設置するつもりはないって、もう決めてるもん』
『そこはブレないw』
『相談する相手を間違えてるうえに、結論も変わらないw』
『ゴールの土地の契約者に聞かず、怠惰に話を持ちかけても意味がない。まずそこを調べてほしい、ってことだな』
シルヴァは小さく頷いた。
「土地の権利関係を確認せず、別の国を通して話を進めようとする。確かに、順序としてはおかしな話ですね」
「だろうな。少なくとも、ゴールを利用したいのなら、まずマドカに話を通すべきだ」
憤怒も同意した。
『マドカ〖エキドナ公式〗:うんうん。まあ、聞かれても答えは変わらないんだけどね!』
『結局そこに戻るのかwww』
『マドカに直接聞いても断られる。怠惰に聞いてもマドカが許可しなければ使えない。最初から詰んでるじゃんw』
『せめて問い合わせる前に、土地の契約くらい確認しような……』
マドカは、そんな視聴者たちの反応を見て不思議そうに目を瞬かせた。
『マドカ〖エキドナ公式〗:えっ? だって、自分の土地のことなんだから、自分に聞くのが普通じゃないの?』
「……だから、その普通のことに、なぜ今さら気づいたんだと言っている」
憤怒のため息が、会議場に響いた。




