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落内円は落ちている  作者: 七風


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勇者会議24

『マドカ【エキドナ公式】:さて、あとは新情報発表かなー!』


「まだあんのかよ……」


 プライドが、心底うんざりした声を漏らした。


 今日一日で、いったいどれだけの情報を聞かされるのか。エキドナの話を聞くたびに、自分たちの常識が崩れていく気がする。


『マドカ【エキドナ公式】:そういえばさ、強欲の国に転移魔法陣を設置した話、覚えてる?』


「……忘れるわけねえだろ」


 プライドが即座に答えた。


「国同士を直接つなぐ転移魔法陣だぞ。忘れられるような話じゃねえ」


『マドカ【エキドナ公式】:あれを見て、他の国からもうちにも設置してほしいって依頼が来てるらしいんだよねー』


「……それで、受けているのですか?」


 シルヴァが慎重に尋ねた。


『マドカ【エキドナ公式】:ううん、全部断ってるよ!』


「全部!?」


 プライドが思わず声を上げた。


「待ちなさい。転移魔法陣の設置依頼を、すべて断っているのですか?」


 アナスイも驚いた様子で確認する。


『マドカ【エキドナ公式】:そうだよ! だって、転移魔法陣って便利だけど、すっごく危ない技術でもあるでしょ?』


「……まあ、そりゃそうだろうが」


 プライドは険しい顔になった。


「転移魔法陣といえば、国の防衛や物流、外交にまで関わる重要な設備だ。人も物も簡単に移動できるうえ、使い方次第じゃ軍隊だって送り込める。そんなもんを、頼まれたからってホイホイ設置できるわけがねえ」


「ええ。設置する国同士の信頼関係だけでなく、設置場所や管理方法も重要になりますわね」


 アナスイも頷いた。


「便利になるという利点はありますが、悪意ある者に利用された場合の危険性も無視できません。通常の交通網とは、話が違いますわ」


「……確かに。設置を求める側にとっては便利でも、設置する側にとっては大きな責任が生じますね」


 シルヴァも納得したように頷いた。


『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと! 設置するだけなら、絶対に無理ってわけじゃないよ? でも、できるからって設置するのと、実際に設置していいかどうかは別の話だからね!』


「……お前、そこはちゃんと考えてるんだな」


 プライドが少し意外そうに呟いた。


『マドカ【エキドナ公式】:そりゃ考えるよー! 強欲の国との契約だって、ちゃんと目的があったから成立した話なんだもん!』


「目的、ですか?」


 シルヴァが聞き返した。


『マドカ【エキドナ公式】:うん! 強欲の王様が、EVとかモンバト・ヒロバトをどうやって広めようかって相談してきたのがきっかけだよ。それならゴールと強欲の王都を転移魔法陣でつなげようって話になったんだよね!』


「なるほど。単に設置してほしいと頼まれたから、引き受けたわけではないのですね」


『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと! それに、あの頃は強欲の国でエキドナの名前が知られてなかったから、怠惰の名前を使わせてもらう許可もちゃんともらったんだよ!』


「……怠惰の名前を?」


 シルヴァが反応した。


『マドカ【エキドナ公式】:うん! もちろん、勝手に使ったわけじゃないよ。怠惰王にも話を通して、認めてもらったんだよ!』


「つまり、強欲との契約はエキドナが結んだもので、怠惰には名前の使用を認めてもらった、ということですね」


『マドカ【エキドナ公式】:そうそう!』


「でしたら、他国が強欲の国を前例にして同じものを求めてきても、それだけで引き受ける理由にはなりませんね」


『マドカ【エキドナ公式】:もちろん! 強欲の国とは、EVやモンバト・ヒロバトを広めるっていう目的があったから成立したんだよ。ほかの国も同じようにするとは限らないし、そもそも危ない技術なんだからね!』


「……なるほどな」


 プライドは深く息を吐いた。


「便利だから設置する、金になるから設置する、そんな単純な話じゃねえってことか」


『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと!』


『転移魔法陣の設置依頼、全部断ってるのか!』

『強欲との契約は特別な理由があったんだな』

『国境を無視して移動できる設備とか、管理を間違えたら大惨事では?』

『便利だからって何でも普及させればいいわけじゃないんだな』

『プライド、今日はツッコミだけじゃなくて真面目な話もしてるw』


 プライドは画面を見つめたまま、しばらく黙り込んだ。


「……もういい。先に最後まで話せ。どうせ、まだ何かあるんだろ」


『マドカ【エキドナ公式】:えっ、なんで分かったの!?』


「やっぱりあんのかよ!!」


『マドカ【エキドナ公式】:強欲の大陸で通行料の問題があるじゃない?』


「……ああ、あれですか」


 シルヴァが思い当たったように頷く。


『マドカ【エキドナ公式】:まぁ、怠惰の王都とゴールの転移は銀貨二枚なんだけどね!』


「距離が違いますわ」


 アナスイがすぐさま口を挟んだ。


「普通に移動すれば一か月かかる旅が、金貨一枚で済むのです。そんなもの、誰だって転移魔法陣を使いますわよ」


「……確かに、移動時間だけで考えても圧倒的ですね」


 シルヴァもその影響の大きさは理解できる。


 馬車や護衛、食費、宿泊費。それらを考えれば、金貨一枚で一か月分の旅程を省略できるというのは、単なる便利さの話ではない。


『マドカ【エキドナ公式】:そうなんだよねー。しかも、もうゴールの町長さんの話じゃ、ゴールに来てる人は二万人を超えてるらしいんだよね。逆も同じくらいじゃないかな?』


「「「…………は?」」」


 勇者たちの反応が止まった。


 最初に口を開いたのは、キシリアだった。


「ちょ、ちょっと待って! もう二万人!?」


『マドカ【エキドナ公式】:うん! ゴールに来た人だけで二万人以上。強欲の王都に行った人も、同じくらいいるんじゃないかなーって話!』


「ということは……」


 キシリアは指折り数えようとして、途中で動きを止めた。


「もう二万金貨を回収できている……!?」


「いや、待て。なんでそこで金貨の話になるんだよ!」


 プライドが思わず突っ込んだものの、すぐに自分でも計算を始めた。


 仮に二万人が一人ずつ金貨一枚を払っているなら、それだけで金貨二万枚。反対方向からの利用者まで含めれば、さらに大きな金額になる。


「……マジか……」


 プライドの顔から、先ほどまでの呆れが消えた。


 転移魔法陣は便利な移動手段というだけではない。人が動けば商売が生まれ、商売が生まれれば金が動く。しかも、それがすでに二万人規模で起きているのだ。


「これは……強欲の大陸にとっても、無視できない話ですね」


 シルヴァは真剣な表情で呟いた。


「人の流れが増えれば、宿泊施設も飲食店も商店も潤います。反対に、従来の交通や宿場町への影響も出るでしょう。通行料だけでなく、経済全体を見て考える必要がありますね」


『マドカ【エキドナ公式】:でしょー? だから、通行料の話も簡単じゃないんだよね! 便利にしたら人が動くし、人が動いたら色んなことが変わるからさ!』


「……お前、最初からそこまで考えて話してたのか?」


 プライドが疑わしげに尋ねる。


『マドカ【エキドナ公式】:え? いや、二万人って聞いて、すごいなーって思っただけだけど?』


「考えてねえのかよ!!」


『二万人って数字がさらっと出てくるの怖いw』

『転移魔法陣、完全に人の流れを変えてるじゃん』

『金貨二万枚のインパクトが強すぎる』

『シルヴァが真面目に経済分析してる横でマドカがいつも通りw』

『これ、まだ増えるんじゃないか?』


 アナスイは小さく息を吐いた。


「……少なくとも、これから他国にも転移魔法陣を設置するのであれば、料金設定は慎重にしなければなりませんわね」


「そうですね。安くしすぎれば既存の交通網に影響しますし、高くしすぎれば利用者が減る。設置費用や維持管理費も含めて考えるべきでしょう」


 シルヴァは頷いたあと、ふと何かに気づいたように顔を上げた。


「……ところで、マドカさん。その二万人という数字は、いつ時点の話ですか?」


『マドカ【エキドナ公式】:町長さんから聞いた話だから、ちょっと前かな?』


「ちょっと前……」


 シルヴァは静かに目を閉じた。


「……なるほど。現在は、さらに増えている可能性もあるわけですね」


「おいおいおい……」


 プライドは天井を仰いだ。


「今日の会議、いったいどこまで世界をひっくり返す気なんだよ……」

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