勇者会議20
『マドカ【エキドナ公式】:あ、ちなみにお姉ちゃんは五百年前から999で止まってるよ? それで不老になれたんだよね!』
「…………は?」
プライドが、再び固まった。
『五百年前から!?』
『ちょっと待て、五百年!?』
『999になったのが五百年前ってことか!?』
『不老になれたって、レベル999の特典なのかよ!?』
『いや、さらっととんでもない情報を追加するな!』
「……ふ」
憤怒の勇者が、また小さく笑った。
今度はプライドも、聞き流すことができなかった。
「おい、待て……。五百年前からレベル999ってことは、リゼット殿は五百年以上もその強さのまま生きてるってことか?」
『マドカ【エキドナ公式】:そうだよ? お姉ちゃん、昔からずーっと強いからね!』
「いや、そうだよ? じゃねえだろうが!」
プライドが思わず叫んだ。
「レベル999になったら不老になる!? そんな話、聞いたこともねえぞ!」
『マドカ【エキドナ公式】:あれ? そうなの? お姉ちゃんがそうなったから、そういうものなのかと思ってた!』
「マドカさん……。それはリゼット様だけの特殊な事例という可能性もありますわ」
アナスイが、少し困ったように指摘した。
「そうですね。レベル999に到達した者が他にほとんどいないのであれば、一般的な法則なのかどうかも判断できません」
シルヴァも慎重に言葉を選ぶ。
「……つまり、レベル999になれば不老になると確定したわけではない、と」
プライドは腕を組み、難しい顔をした。
『999の先に何があるんだ……』
『不老って、強さの報酬としては破格すぎるだろ』
『そもそも五百年も999の人がいる時点で参考にならない!』
『マドカ、師匠のことなのに理解がふわっとしてるw』
『マドカ【エキドナ公式】:まぁ、お姉ちゃんに直接聞けばいいんじゃない? 私も詳しい仕組みまでは知らないし!』
「それを本人に聞けるなら、苦労はしねえんだよ……」
プライドは深々とため息をついた。
五百年前からレベル999で、不老の大賢者。
その弟子がレベル630で、三十層のソロをぬるいと言い、仲間たちは素材集めのついでにレベルを上げている。
「……エキドナってのは、本当に何なんだよ……」
その疑問に、答えられる者は誰もいなかった。
『マドカ【エキドナ公式】:あ、そういえばムサシも似たようなものだね! ムサシは三百年くらい前から山にこもってたんだけど、いつの間にか死ななくなったんだって。それで鑑定してみたらレベル999だったんだよ!』
「……三百年、山にこもっていた?」
プライドが、もう驚くのにも疲れたような声を出した。
『マドカ【エキドナ公式】:うん! だから、お姉ちゃんに続いてムサシが二例目だね!』
『山籠もりしてたら死ななくなった!?』
『いや、山籠もりの成果が不老不死なの意味わからんw』
『二例目ってことは、偶然じゃない可能性があるのか?』
『五百年と三百年……どっちも時間の感覚がおかしい!』
『マドカ【エキドナ公式】:それに、賢者のお爺ちゃんお婆ちゃんたちも、もうお姉ちゃんと五百年くらいの付き合いみたいだからね! 999になったら不老になるっていうのは、もう確定でいいんじゃないかな?』
プライドが、ゆっくりと顔を上げた。
「……ちょっと待て。今、何例あるって言った?」
『マドカ【エキドナ公式】:えーっと、お姉ちゃんとムサシ、それから賢者のお爺ちゃんお婆ちゃんたちで……全部で八例かな!』
『八人もいるのかよ!?』
『いや、世界中探しても八人しかいないってことでは?』
『レベル999が八例って、十分すぎるほど貴重だろ!』
『しかも全員、長命の大賢者とその関係者……?』
「八例……」
シルヴァが考え込むように呟いた。
「リゼット様とムサシさんだけでなく、長年付き合いのある賢者の方々も該当するのであれば、確かにレベル999と不老には何らかの関係があると考えるのが自然ですね」
「五百年も一緒にいる方々なら、本人たちの経過も含めて、十分な実例になりますわね」
アナスイも頷いた。
「ただ、レベル999に到達すれば誰でも必ず不老になるのか、それとも何か別の条件があるのか。そこはまだ分かりませんけれど」
『マドカ【エキドナ公式】:あ、でもメアリーはまだだからね!まだ十五歳だし!あ 色欲のお婆ちゃんはまだ生きてるみたいだよ!賢者代替わりしただけ!そのお婆ちゃんもいれたら八になるね!七大賢者とムサシ』
「……まだ?」
『エキドナってそのうち999だらけになるんじゃ?』
『メアリーさんも999を目指してるのか?』
『いや、そもそも999になるまで何年かかるんだよ……』
『エキドナ、長命者の基準が狂ってるw』
「……つまり、まだ九人目の事例が増える可能性がある、と」
シルヴァが、妙に真剣な顔でまとめた。
「そういうことですわね……」
アナスイも、どこか遠い目をしている。
プライドは額に手を当てた。
レベル999に到達すると不老になる可能性が高い。
その実例が八人。
しかも、そのうち何人かは数百年単位で生きている。
それだけでも十分に歴史を揺るがす情報なのに、当のマドカはまるで世間話でもするような調子だった。
「……お前ら、本当に自分たちがとんでもないことを話してるって自覚あるのか?」
『マドカ【エキドナ公式】:え? だって、うちでは普通だよ?』
「その『うちでは普通』が一番怖えんだよ!!」
『マドカ【エキドナ公式】:私たちって、いつかは死ぬだろうけどさ。死んだら、またお姉ちゃんが一人で生きていかないといけないでしょう?』
それまで軽い調子だったマドカの声が、ほんの少しだけ静かになった。
『マドカ【エキドナ公式】:お姉ちゃんって、五百年以上も生きてるんだよ? 私たちがいなくなったあと、また一人で何百年も過ごすことになるかもしれないじゃん』
会議室の空気が、わずかに変わった。
『マドカ【エキドナ公式】:だから、999を目指すことで不老になれる可能性があるならさ。やるしかないんじゃないかな?』
「…………」
プライドは、今度こそ何も言わなかった。
先ほどまで語られていたレベル999は、圧倒的な強さの象徴だった。
だが、マドカが目指す理由は、強さそのものではなかった。
「……なるほどな」
憤怒の勇者が、静かに呟いた。
「自分たちが長く生きるためではなく、残される者を一人にしないためか」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! もちろん、みんなで長く遊べたら楽しいしね! せっかく家族みたいなものなんだから、できるだけ一緒にいたいじゃん!』
「……ふふ。マドカさんらしいですわね」
アナスイは、先ほどまでの苦々しい表情を少し和らげた。
「不老になれるかもしれないから強くなる、という話だけなら、随分と打算的にも聞こえますけれど……。大切な方を一人にしたくない、という理由なら理解できますわ」
「僕もそう思います。ただ、レベル999への到達が本当に不老につながるのかは、引き続き確かめる必要がありますね」
シルヴァは冷静にそう言ったが、その声音はいつもより柔らかかった。
『一緒にいたいから999を目指すのか……』
『五百年も生きてきた人を、また一人にしたくないんだな』
『マドカ、普段はあんなに軽いのに……』
『強さの話だと思ってたら、家族の話だった』
『エキドナの連中が必死に素材を集めてる理由、ちょっと分かった気がする』
プライドは腕を組んだまま、しばらく黙っていた。
自分なら、強さの先に何を求めるだろうか。
誰よりも強くなりたい。自分の価値を示したい。名を世界中に響かせたい。
それが自分の望みだった。
だが、マドカたちは違う。
誰かを置いていかないために、強くなろうとしている。
「……お前ら、変な連中だな」
ようやく出てきた言葉は、そんな一言だった。
『マドカ【エキドナ公式】:えー? そうかな? みんなで長生きできたら、楽しそうじゃない?』
「……ふ」
憤怒の勇者が、また小さく笑った。
今度は、誰もその笑いの意味を尋ねなかった。




