王国への報告
## 翌日――王宮
翌日。
私たちは王宮へ向かった。
昨日と違って。
今日は人が多い。
貴族。
騎士。
文官。
そして。
国王陛下。
「随分と集まってるね」
「正式な報告ですから」
エレノアが答える。
「まあ、昨日の話を聞けばね」
リゼットが周囲を見る。
「大変なことになってるね~」
ニコラが小さく頷いた。
「そうなの?」
「そうだと思うよ~」
そんな会話をしている間にも。
報告は進んでいった。
ダンジョンの構造。
魔物。
各階層で起きた出来事。
そして。
十九階層。
記録保存の魔道具に残された映像が、広間の大きな投影魔道具に映し出される。
「……」
最初は。
貴族たちも静かに見ていた。
だが。
映像が進むにつれて。
少しずつ空気が変わっていく。
「これは……」
「Sランク冒険者たちが、あれほど苦戦しているのか?」
「なんという魔物だ……」
ガレスたちが戦っている。
セリナの矢が飛ぶ。
リゼットの魔法が炸裂する。
それでも。
魔物は倒れない。
「……」
国王陛下も。
黙って映像を見ていた。
そして。
マドカが動く。
「時間停止」
映像の中で。
すべてが止まった。
「……?」
貴族たちがざわめく。
次の瞬間。
マドカの一撃が放たれる。
時間が動き出す。
轟音。
巨大な魔物が吹き飛ぶ。
「…………」
広間が静まり返った。
誰も。
すぐには言葉を発しなかった。
リゼットが小さく息を吐く。
「この辺りから、みんな理解したんじゃない?」
「何を?」
「今回のダンジョンが、普通じゃなかったってことを」
「そっか」
マドカは普通に頷いた。
◆
そして。
映像は二十階層へ進む。
巨大な扉。
その先に広がる。
古代の施設。
「……これは?」
誰かが呟いた。
巨大な魔法陣。
古代の魔道具。
そして。
透明な結晶の中で眠る少女。
「人……?」
「少女だ」
広間がざわめく。
映像の中で。
マドカが少女へ近づいていく。
そして。
時間が動き出す。
「……やっと……」
少女の声が。
広間に響いた。
「同じ人が……来てくれた……」
誰も喋らない。
やがて。
少女の名前が告げられる。
「ヒナタ」
国王陛下の表情が変わった。
「……」
エレノアを見る。
「この少女が?」
「はい」
エレノアが頷く。
「昨日、保護した少女です」
「そうか……」
国王陛下は再び映像を見る。
古代施設。
止まっていた時間。
そして。
巨大な神狼。
「……あれは何だ?」
「神狼です」
エレノアが答える。
「古代から生きていたと思われます」
「……」
国王陛下は。
何も言わなかった。
ただ。
映像を見続けていた。
◆
そして。
最後に映し出されたのは。
古代の転移装置だった。
「ここからです」
エレノアが言う。
「今回の調査で、もう一つ重要な発見がありました」
映像の中。
巨大な装置が動き始める。
「……転移装置?」
貴族の一人が呟く。
「はい」
エレノアが答える。
「かつて、この国と別の場所を繋ぐために使われていたものと考えられます」
装置が一瞬だけ。
別の場所を映し出す。
赤茶けた大地。
巨大な壁。
山々。
そして。
遠くに見える巨大な都市。
「…………」
広間が完全に静まった。
映像が途切れる。
「今のは……」
国王陛下が呟く。
「向こう側の景色です」
エレノアが答える。
「現在も存在しているのかは分かりません」
「……そうか」
国王陛下は。
しばらく黙っていた。
「この件については」
やがて。
「ここで結論を出す必要はない」
広間にいる者たちを見る。
「後日、改めて会議を開く」
「はい」
エレノアが頷く。
「詳細については、その場で説明します」
「うむ」
国王陛下が立ち上がる。
「本日の報告は、ここまでとする」
貴族たちがざわめきながら退出していく。
誰もが。
今見たものについて話している。
「古代の転移装置だと?」
「向こう側に国があるのか?」
「それより、あの少女は……」
「神狼とは一体……」
次々と声が聞こえる。
「なんか、大変なことになったね」
マドカが言った。
「そうね」
リゼットが答える。
「あなたが思っている以上にね」
「そう?」
「ええ」
◆
私たちも帰ろうとしたところ。
「待て」
国王陛下から声がかかった。
「エレノア」
「はい」
「マドカ」
「私?」
「それとリゼット」
「分かりました」
「ニコラも残ってくれ」
「僕も?」
「頼む」
「はーい」
広間から。
人がいなくなる。
残ったのは。
国王陛下。
エレノア。
私。
リゼット。
ニコラ。
それだけだった。
◆
「まず」
国王陛下が言った。
「ヒナタという少女についてだ」
「はい」
エレノアが答える。
「彼女については、先ほどの報告には含めていない話があります」
「やはりか」
国王陛下がため息をつく。
「話してくれ」
「はい」
エレノアが頷いた。
「ヒナタさんは、およそ数百年前、この国の王家に仕えていた巫女です」
「巫女……」
「正確には、王家直属の時間術師です」
国王陛下が眉を寄せる。
「時間術師?」
「はい」
エレノアが続ける。
「当時の記録によれば、ヒナタさんは非常に特殊な時間操作の力を持っていたようです」
「どの程度だ?」
「正確には分かりません」
エレノアが首を振る。
「ただ」
「彼女の力が、当時のダンジョン管理に利用されていたことは間違いありません」
「利用?」
「はい」
リゼットが口を挟む。
「ヒナタの時間操作能力を、ダンジョンの維持に使っていたの」
「具体的には?」
「時間の流れを遅くしたり」
エレノアが説明する。
「場所によって時間の進み方を変えたり」
「それによって、ダンジョンそのものを維持していたと考えられます」
国王陛下が黙り込む。
「では」
「そのために生贄にされたのか?」
「はい」
エレノアが頷く。
「本人が望んだという記録はありません」
「……強制的に?」
「そう考えるのが自然でしょう」
リゼットが答えた。
「一人の少女を装置の一部にした」
「王家は、その力を手放したくなかったのでしょうね」
「……」
国王陛下が額に手を当てる。
「魔力も?」
「供給され続けていました」
ニコラが答える。
「封印されてからも、ずっとだよ~」
「ずっと?」
「うん」
「……そうか」
国王陛下が目を伏せる。
「そして」
エレノアが続ける。
「ヒナタさんは、封印されている間も意識を失っていたわけではありません」
「……」
「意識はありました」
「数百年間?」
「おそらく」
国王陛下の顔が引きつる。
「正確な時間は、本人にしか分かりません」
リゼットが静かに言った。
「ですが」
「彼女自身が、長い時間を過ごしたことを覚えています」
「……」
しばらく。
誰も何も言わなかった。
「そして」
エレノアが続ける。
「彼女の時間を食べていた存在がいます」
「神狼か」
「はい」
「それによって」
リゼットが説明する。
「ヒナタの時間の流れは極端に遅くなっていた」
「だから」
エレノアが続ける。
「数百年を経ても、彼女は生きていた」
「……なるほど」
国王陛下が深く息を吐く。
「つまり」
「王家が少女を生贄にした」
「その少女は意識を持ったまま封印され」
「数百年をそこで過ごした」
「そして神狼が、その時間を食べ続けていた」
「はい」
エレノアが頷く。
「それが、現在まで彼女が生きていた理由の一つだと考えられます」
「……我々の先祖は」
国王陛下が呟く。
「一体、何をしていたんだ……」
「その答えを知っているのは」
エレノアが静かに言う。
「今では、ヒナタさん本人だけかもしれません」
「……そうか」
国王陛下が顔を上げる。
「ならば」
「彼女を保護する必要があるな」
「はい」
「ただし」
エレノアが言う。
「彼女を再び王家の都合で扱うことはしません」
少しだけ。
声に力がこもる。
「ヒナタさんは、もう生贄ではありません」
「……当然だ」
国王陛下が頷いた。
◆
「マドカ」
国王陛下が。
私を見る。
「お前は」
「はい?」
「ヒナタのことをどう思っている?」
「友達」
即答だった。
「新しい友達だよ」
「……」
「それだけ」
私は頷く。
「何か問題ある?」
国王陛下は。
少しだけ目を閉じた。
「いや」
そして。
小さく笑う。
「問題があるのは」
「我々の方だ」
「?」
私は首を傾げる。
リゼットが。
少し笑った。
「それでいいのよ」
「そう?」
「ええ」
私は立ち上がる。
「じゃあ」
「ヒナタちゃんのところに戻っていい?」
「……ああ」
国王陛下が頷く。
「戻ってやれ」
「うん」
私は部屋を出る。
残された四人。
国王陛下は。
しばらく何も言わなかった。
「……王家の歴史を」
やがて。
「一から調べ直す必要があるな」
「そうですね」
エレノアが答える。
「私もそう思います」
「それから」
国王陛下が言う。
「転移装置についてもだ」
「はい」
「向こう側の国についても」
「はい」
「そして」
国王陛下は。
大きく息を吐いた。
「ヒナタについても」
「……」
「一体」
「私は何から手をつければいいんだ」
リゼットが。
小さく笑った。
「まずは」
「頭痛薬でも探したら?」
「……」
国王陛下は。
さらに頭を抱えた。




