帰還
## 帰還後
ダンジョンから帰還して。
私たちは、まずニコラの家へ向かった。
「この部屋を使ってね~」
ニコラが案内してくれる。
「ありがとうございます」
ヒナタが頭を下げた。
「しばらくはここで休んでて」
「はい」
ヒナタが部屋の中を見回す。
「ここなら安心して眠れるよ~」
「……」
ヒナタが少しだけ笑った。
「ありがとうございます」
その隣。
ベッドには、ダンジョンの奥で見つけたドワーフの女性が眠っている。
「この人も?」
「うん」
マドカが答える。
「起きるまでは、ここで保護することになったの」
「分かりました」
ヒナタが眠っている女性を見る。
「まだ名前も分からないんですよね」
「そうなのよ」
リゼットが答える。
「起きれば本人から聞けるでしょうけど」
「じゃあ」
マドカが笑う。
「起きるまで、ゆっくりしてもらおう」
「はい」
ヒナタが頷いた。
「私も何かできることがあれば……」
「今はヒナタちゃんも休んでて」
「でも……」
「大丈夫だよ」
マドカが笑う。
「私たちがいるから」
「……はい」
ヒナタは、少し嬉しそうに笑った。
◆
「じゃあ」
マドカたちは居間へ移動する。
そこには、今回の攻略メンバーが集まっていた。
ただし、全員が揃って話し合う必要はない。
「俺たちは代表でいいだろ」
ガレスが椅子に座る。
「そうね」
セリナも隣に座った。
「全員で話し合う必要もないでしょう」
「そうだな」
ガレスが頷く。
「それで?」
「まずは」
リゼットがテーブルを見る。
「持ち帰ったものの整理よ」
「ドロップ?」
マドカが聞く。
「そう」
リゼットが答える。
「国に報告する前に、何をどうするか決めておきましょう」
「なるほど」
マドカが頷いた。
「じゃあ出すね」
リゼットがインベントリを開く。
そして――。
次々と、ドロップ品が出てくる。
「……」
ガレスが黙った。
「多いわね」
セリナも目を丸くする。
「これだけあったの?」
「うん」
マドカが答える。
「いっぱい拾ったよ」
「いっぱい、で済ませていい量か?」
「そう?」
マドカは首を傾げる。
「インベントリに入ったよ?」
「そういう問題じゃないと思うけど」
セリナが苦笑した。
◆
「これは?」
ニコラが一つの素材を手に取る。
「魔力の流れが普通の素材と違うね~」
「研究できそう?」
「うん」
ニコラが頷く。
「かなり面白そう」
別の素材も手に取る。
「これも欲しいな~」
「それも?」
「うん」
「じゃあ」
リゼットが言った。
「ニコラが研究に使うものは分けましょう」
「いいの?」
「ええ」
ニコラが嬉しそうにする。
「じゃあ、これとこれと……」
次々と素材を分けていく。
「結構あるね~」
「それ」
リゼットが言った。
「私が買い取るわ」
「え?」
「ニコラが使う分」
「でも、かなりの金額になるよ~?」
「問題ないわ」
リゼットは平然としている。
「私、インベントリにお金をかなり持っているもの」
「……」
ガレスがリゼットを見る。
「かなり?」
「ええ」
「どれくらいだ?」
「言わない」
「……そうか」
ガレスが諦めた。
セリナが笑う。
「相変わらずね」
「何が?」
「リゼットらしいってこと」
「そう?」
「ええ」
ニコラが素材を抱える。
「じゃあ、ありがたく買い取ってもらうね~」
「ええ」
リゼットが頷く。
「値段は後で計算しましょう」
「はーい」
◆
残ったドロップ品。
「これはどうする?」
マドカが聞く。
「私たちには必要ないものね」
リゼットが答える。
「国に買い取ってもらえばいいでしょう」
「国に?」
ガレスが聞く。
「ええ」
「まあ、それが一番いいか」
セリナも頷く。
「今回の依頼で手に入れたものだしね」
「じゃあ決まり」
マドカが笑う。
「必要なものは私たち」
「研究するものはニコラ」
「残りは国」
「分かりやすいね」
「そうね」
リゼットが頷く。
「問題は」
セリナが言った。
「これだけでは済まないことね」
「?」
マドカが見る。
「ダンジョンそのものよ」
「ああ」
ガレスが頷く。
「そうだったな」
◆
リゼットが、一つの魔道具をテーブルに置いた。
「記録は全部残っている」
カトリーヌが確認する。
「問題ありません」
「ダンジョン内の戦闘も?」
「全部です」
「それなら」
ガレスが頷く。
「国への報告はこれを使えばいい」
「うん」
マドカが頷く。
「私たちが説明するより分かりやすいよね」
「そうね」
リゼットが答える。
「実際に何が起きたのか、そのまま見てもらえる」
「それなら話も早いでしょう」
エレノアが言った。
「私から国王陛下へ報告します」
「お願い」
マドカが笑う。
「エレノアがいると楽だね」
「王女ですから」
エレノアが少しだけ笑った。
「こういう時のための立場ですよ」
「そっか」
マドカは納得した。
◆
「ヒナタについては?」
セリナが聞いた。
「しばらくはニコラの家で保護する」
エレノアが答える。
「ドワーフの女性も同様です」
「国には?」
「報告します」
エレノアが頷く。
「ただし」
「?」
「無理に連れていくことはしません」
マドカが頷く。
「うん」
「本人の意思を尊重しましょう」
「それがいいね」
マドカが笑う。
「ヒナタちゃん、いい子だし」
「……」
リゼットがマドカを見る。
「何?」
「いいえ」
リゼットが小さく笑う。
「あなたらしいと思っただけよ」
「そう?」
「ええ」
◆
話が一通り終わる。
「じゃあ」
マドカが立ち上がる。
「今日は休み?」
「そうね」
リゼットが答える。
「明日、王宮へ行くわ」
「明日かぁ」
マドカが伸びをする。
「じゃあ、今日はゆっくりできるね」
「その前に」
ニコラが言う。
「この素材を研究室に運びたい~」
「……」
マドカがニコラを見る。
「今から?」
「今から」
「元気だね」
「研究素材だからね~」
「じゃあ手伝うよ」
「ありがとう~」
リゼットが呆れたように二人を見る。
「あなたたちは本当に疲れないのね」
「疲れたよ?」
マドカが答える。
「だから寝る」
「その前に運ぶんでしょう?」
「うん」
その時だった。
廊下から、控えめな声がした。
「……あの」
全員が振り向く。
ヒナタが顔を出していた。
「あ」
マドカが振り返る。
「ヒナタちゃん」
「すみません」
「どうしたの?」
「少し眠れなくて……」
マドカが少しだけ表情を緩める。
「そっか」
そしてヒナタへ近づいた。
「一緒にいる?」
「……いいんですか?」
「もちろん」
ヒナタが少し笑う。
「ありがとうございます」
マドカも笑った。
「友達だもん」
「……」
ヒナタが目を瞬かせる。
「友達……」
その言葉を、確かめるように呟いた。
「うん」
マドカが頷く。
「友達」
ヒナタは少し俯いた。
そして――。
「……はい」
顔を上げる。
「友達です」
その言葉を聞いて。
神狼がヒナタの後ろから顔を出した。
「我もいるぞ」
「神狼さんも?」
「当然だ」
「じゃあ三人だね」
「うむ」
マドカが笑う。
「じゃあ、ちょっとだけお話しようか」
「はい」
ヒナタが頷く。
その姿を、リゼットは黙って見ていた。
ヒナタには、過去がある。
誰にも言えないほど長い時間と。
誰にも知られていない出来事。
けれど。
今のマドカにとって、そんなことは関係ない。
ヒナタは。
ヒナタだった。
それだけで。
十分だった。
◆
それから少しして。
ガレスたちも帰る時間になった。
「じゃあ、俺たちはそろそろ行くか」
ガレスが立ち上がる。
「うん!」
マドカも玄関までついていく。
「今日はありがとう!」
「こちらこそだ」
ガレスが笑う。
「今回の攻略は、かなり助かった」
「え?」
「特にお前にはな」
「そう?」
マドカは首を傾げる。
「じゃあ、また一緒に行こうね!」
「……また?」
ガレスが少し驚く。
「うん!」
マドカが笑う。
「せっかく仲良くなったんだし!」
「まあ……」
ガレスが苦笑する。
「機会があればな」
「機会がなくても遊びに来てよ!」
マドカが言う。
「ニコラの家だけど、もう私たちの家みたいなものだし!」
「それはニコラに聞いたほうがいいんじゃない~?」
ニコラが笑う。
「いいよ~」
「ほら!」
マドカが嬉しそうにする。
「また来てね!」
「……そうだな」
ガレスが頷く。
「近くに来たら寄らせてもらう」
「絶対だよ!」
「分かった分かった」
ガレスが手を上げる。
セリナも小さく笑った。
「私も、また来るわ」
「やった!」
マドカが嬉しそうにする。
「じゃあ次はお茶会ね!」
「お茶会?」
「うん!」
マドカが頷く。
「今回ずっとダンジョンだったから、今度は普通に遊ぼうよ!」
「それも悪くないわね」
セリナが笑う。
「ヒナタも一緒にね」
「……私も?」
少し離れたところにいたヒナタが顔を上げる。
「もちろん!」
マドカが笑った。
「これからいろんなところに行くんだから!」
「……はい」
ヒナタも小さく笑う。
「楽しみです」
「じゃあ決まり!」
マドカが手を叩く。
「また遊びに来てね!」
「おう」
「またね~」
「また来ます」
Sランク冒険者たちが家を出ていく。
マドカは玄関から手を振り続けた。
「またねー!」
やがて、その姿が見えなくなる。
「……なんか」
ヒナタが呟いた。
「賑やかですね」
「うん!」
マドカが笑う。
「こういうの、いいよね!」
「……はい」
ヒナタも頷いた。
かつては。
誰かが訪ねてくることなどなかった。
声をかけてくれる人も。
一緒に笑ってくれる人も。
けれど今は違う。
また来ると言ってくれる人がいる。
そして。
自分も、それを楽しみにしていい。
ヒナタは、そんな当たり前のことを。
少しずつ覚えていくのだった。




