↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/501

脱出

## 第二十階層・脱出


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


 施設全体が、大きく揺れた。


「……っ!」


 ヒナタの身体が傾く。


 マドカが咄嗟に手を掴んだ。


「ヒナタちゃん!」


「だ、大丈夫……」


 けれど、返事をした直後だった。


 ドォン!!


 遠くで巨大な何かが崩れ落ちた。


 続いて、天井から無数の石片が降ってくる。


「全員、走ってください!」


 エレノアが叫んだ。


「施設そのものが崩れ始めています!」


「リゼット!」


「分かってる」


 リゼットが周囲を見回す。


 魔力の流れが乱れている。


 これまで何百年もの間、無理やり維持されていた術式が、一斉に停止していた。


「……まずい」


「何が?」


「崩壊が早い」


 リゼットが短く答える。


「このままだと、転移陣に着く前に通路が潰れる」


「えっ!?」


 マドカの顔が引きつった。


「じゃあ急ごう!」


「うん」


 神狼が先頭へ出た。


「我が道を開く」


 巨大な身体が通路を駆ける。


 前方から落ちてくる瓦礫を牙で弾き、崩れかけた柱を身体ごと押し退ける。


 ドォン!


 ドガッ!


「こっち!」


 セリナが叫ぶ。


「右の通路はまだ生きています!」


「走れ!」


 ガレスが続く。


 一行が駆け抜けた直後――。


 ズズズズズ……。


 背後の天井が大きく沈んだ。


「……!」


 マドカが振り返る。


「近い……!」


「振り返らないでください!」


 エレノアが叫ぶ。


「前だけ見て!」


「分かった!」


 マドカはヒナタの手を強く握った。


「走れる?」


「うん!」


 ヒナタも必死に足を動かす。


 まだ外の世界に出たばかりなのに。


 振り返る暇すらない。


 その後ろでは、クロードとヴァルトが石棺を担いでいた。


「……これ、やっぱり置いていかないか?」


 ヴァルトが苦しそうに言う。


「駄目です!」


 エレノアが即答する。


「中にいる方も連れて帰ります!」


「だよなぁ……!」


 クロードが歯を食いしばる。


「交代!」


 ヴァルトが石棺を押し付ける。


「早く!」


「分かった!」


 クロードが受け取った。


 だが、その瞬間――。


 バキッ!!


 石棺を支えていた床が割れた。


「うおっ!?」


 クロードの身体が沈む。


「クロード!」


 ヴァルトが腕を掴んだ。


 石棺が大きく傾く。


「離せ!」


「何を!?」


「俺ごと落ちる!」


「嫌だ!」


 ヴァルトが踏ん張る。


 ブリジットも駆け寄った。


「私も支えます!」


 ガレスも加わる。


「せーのっ!」


 三人が力を合わせ、石棺ごと引き上げる。


「ぐっ……!」


「重い!」


 ようやく床へ戻った。


「……助かった」


「礼はあとです!」


 エレノアが叫ぶ。


「本当に時間がありません!」


「はい!」


 再び走り出す。


 だが――。


 通路の先から、轟音が響いた。


 ドォォォン!!


 全員が足を止める。


「……嘘」


 ニコラが呟いた。


 前方の通路が、完全に崩れていた。


「転移陣は?」


 マドカが聞く。


 リゼットが目を閉じる。


「……向こう側」


「向こうって……」


「この瓦礫の先」


「…………」


 マドカが固まった。


「これ、通れる?」


「普通には無理」


 リゼットが瓦礫を見る。


「でも、時間は止めない」


「どうして?」


「ここで止めたら、みんなも止まる」


 リゼットがマドカを見る。


「それに、施設そのものが止まったままになったら、解除した瞬間に全部まとめて来る」


「……そっか」


 マドカが拳を握る。


「じゃあ、どうする?」


「壊す」


 神狼が前へ出た。


「我が道を作る」


 巨大な前脚が瓦礫へ叩きつけられる。


 ドォン!!


 岩が砕ける。


 しかし――。


 ガラガラガラッ!


 上からさらに瓦礫が落ちてきた。


「神狼!」


「構うな!」


 神狼が吠える。


「走れ!」


「でも!」


「我を信じろ!」


 その声に、マドカが一瞬だけ目を見開く。


 そして頷いた。


「……うん!」


 全員が動き出す。


 神狼が崩れる瓦礫を押さえ込む。


 ブリジットがヒナタを守りながら進む。


 セリナが落下地点を見極める。


 ガレスとヴァルトが道を作り、クロードが石棺を担ぐ。


 ミレイユは走りながら全員の状態を確認していた。


「マドカちゃん!」


「なに!?」


「ヒナタちゃん、少し顔色が悪い!」


 マドカが隣を見る。


「ヒナタちゃん、大丈夫!?」


「……うん」


 ヒナタは息を切らしながら頷く。


「大丈夫……!」


 その直後。


 足元が大きく揺れた。


「きゃっ!」


 ヒナタが倒れかける。


 マドカが抱き止めた。


「もう少し!」


 リゼットが叫ぶ。


「転移陣が見える!」


「本当!?」


 前方。


 崩れた通路の向こうに、淡い光が見えた。


 転移陣だ。


 けれど――。


 その光が、明滅している。


「……リゼット?」


「まずい」


「え?」


「転移陣の出力が落ちてる」


 リゼットの表情が変わる。


「あと一度、大きく揺れたら消えるかもしれない」


「じゃあ――」


 マドカが転移陣を見る。


「急がないと!」


「そういうこと」


 その瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


 今までとは比べものにならない揺れが起きた。


「うわっ!」


「きゃあ!」


「転ぶな!」


 天井が裂ける。


 巨大な亀裂が走った。


「走って!」


 エレノアが叫ぶ。


「全員、転移陣へ!」


 神狼が最後の瓦礫を吹き飛ばす。


「今だ!」


 マドカがヒナタの手を引く。


「行こう!」


「うん!」


 二人が転移陣へ飛び込む。


 続いてブリジット。


 セリナ。


 リゼット。


 ニコラ。


 カトリーヌ。


 ミレイユ。


 ガレス。


 クロード。


 ヴァルト。


 エレノア。


「石棺!」


 クロードとヴァルトが最後の力を振り絞る。


「持っていけ!」


 石棺が転移陣へ滑り込む。


 その直後――。


 天井が崩れた。


「神狼!」


 マドカが叫ぶ。


 巨大な瓦礫が神狼へ迫る。


 神狼はそれを睨みつけた。


「……遅い」


 前脚で叩き砕く。


 だが、次の瓦礫が落ちる。


 さらにその後ろから、壁そのものが崩れてくる。


「神狼、早く!」


 ヒナタが叫んだ。


「我は最後でよい!」


「でも!」


「こやつ」


 神狼がヒナタを見る。


「我を待つな」


「……!」


「先に行け」


 ヒナタの顔が青ざめる。


「嫌……!」


 マドカがヒナタの肩に手を置いた。


「大丈夫」


「でも……!」


「神狼は絶対に来るよ」


 マドカは笑った。


「だよね?」


 神狼が口元を僅かに上げる。


「当然だ」


 そして――。


 神狼が跳んだ。


 巨大な身体が瓦礫を飛び越え、最後の瞬間に転移陣へ飛び込む。


「今!」


 リゼットが叫んだ。


 転移陣が強烈な光を放つ。


 その直後。


 ドォォォォォン!!


 施設が完全に崩れ落ちた。


 白い光が、一行を包み込む。


 ――そして。


 風が吹いた。


 草の匂い。


 暖かな日差し。


 どこまでも広がる青空。


「…………」


 ヒナタは立ち尽くしていた。


 銀色の髪が風に揺れている。


 しばらく、何も言えなかった。


 ただ空を見上げている。


「……きれい」


 ぽつりと呟く。


 マドカが隣に立った。


「うん」


 そして笑う。


「これから、いっぱい見られるよ」


 ヒナタは空を見上げた。


 何百年もの間、見られなかった世界。


 もう、時間を止める必要はない。


 もう、誰かが来るのを待ち続ける必要もない。


 隣にはマドカがいる。


 神狼もいる。


 そして、新しくできた仲間たちがいる。


 ヒナタは、ほんの少しだけ笑った。


「……帰ってきた、のかな」


 マドカが頷く。


「うん」


 そして、ヒナタの手を握った。


「一緒に帰ってきたんだよ」


 ヒナタはもう一度、空を見上げた。


 長い長い時間の果てに。


 ようやく少女は、止まっていた時間から歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。