勇者会議18
『マドカ【エキドナ公式】:ちなみに、五作品全部が続きものなんだけど、まだストーリーが半分も埋まってないんだよね!』
「……五作品、全部が続きもの?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! 四か月に一作品くらいのペースで、連続ものの映像結晶として公開していく予定!』
「四か月に一作品……それなら、じっくり作り込めそうですわね」
『マドカ【エキドナ公式】:一作品目は情報塔とかEVで公開するけど、他の四作品は買ってね!』
「えげつないですわね……。続きは買わないとダメとか……」
アナスイが、思わず額に手を当てた。
「商売としては間違ってはいないが……最初だけ無料で見せて、続きは有料か」
傲慢の勇者も、どこか納得しきれない顔で腕を組んだ。
「これがエキドナなのね……! 最初から全部売るんじゃなくて、続きが気になるところで買わせる……!」
キシリアはなぜか感心した様子で、目を輝かせている。
「なんという知略……。これもお前が考えたのか……」
憤怒の勇者まで、静かな声でマドカに問いかけた。
『マドカ【エキドナ公式】:ちょっと待って!? 私、極悪人みたいな言われ方してない!?』
『続きが気になったら買うしかないw』
『四か月待って、さらに続きが気になるところで終わるんですね?』
『エキドナの商売、容赦がなさすぎる』
『憤怒さんまで感心してるの面白いw』
『マドカ【エキドナ公式】:いや、でもね? これにはちゃんといいところもあるんだよ!』
「ほう。聞かせてもらおうか」
『マドカ【エキドナ公式】:例えば、通行人役でもいいんだよ。名前がジェームズさんだったら、最後にちゃんと『通行人ジェームズ役:ジェームズ』って名前が出るの! 映像結晶に自分が参加した記録が残るわけ! 自慢できるでしょ??』
「……なるほど。確かに、ただ映像を見るだけではなく、自分が作品に参加した証が残るのですね」
シルヴァが感心したように頷いた。
「それは記念になりますね。自分が暮らしている街が映像に残り、そこに自分も出演している。後世にまで残せるなら、参加する価値は十分にありそうです」
『自分の名前が映像結晶に残るのか!』
『通行人でも出演者!』
『百年後の子孫に自慢できるやつだ!』
『でも、通行人ジェームズ役:ジェームズって二回名前が出るんだなw』
「待って! ということは、私の名前も映像結晶に残るのね?」
キシリアが身を乗り出した。
『マドカ【エキドナ公式】:うん! ……あ、ごめん。あなたの名前知らないや』
「そうだったわね!」
キシリアは一瞬も気にした様子を見せず、むしろ嬉しそうに胸を張った。
「私は嫉妬の勇者、キシリアよ! よろしく! あなたとはずっと仲良くしたいわ!」
『マドカ【エキドナ公式】:キシリアさんだね! よろしく! 私も仲良くしたい!』
「おう、俺はプライドだ! よろしく頼むわ!」
傲慢の勇者――プライドも、便乗するように名乗った。
『マドカ【エキドナ公式】:プライドさんね! 覚えた!』
『勇者、今さら自己紹介してるw』
『キシリア、マドカと仲良くする気満々じゃないか』
『プライドさん、王子役への未練はどこへ行ったんだw』
「マドカよ……。本名は、まだ待ってくれないか。いずれエキドナに行かなければならない……」
憤怒の勇者が、少しだけ声を落として告げた。
『マドカ【エキドナ公式】:ん? まぁ、なんかかっこいいおじさんってだけ覚える! 剣聖っぽいよね!』
「…………!」
憤怒の勇者の動きが止まった。
「……剣聖、か」
ほんのわずかに顔を背けた彼の口元が、かすかに緩んだように見えた。
『憤怒さん、今ちょっと嬉しそうじゃなかった?』
『かっこいいおじさん認定いただきました!』
『剣聖っぽい、は強いw』
『憤怒さん、名前を明かせない事情があるのに、マドカの評価はしっかり受け取ってるの草』
「……ふ」
憤怒の勇者は、いつもの調子で短く笑った。
その笑い声を聞いたほかの勇者たちは、なぜかそろって彼の顔を見た。
「……なんだ」
「いや……お前、そんな顔もできるんだな」
プライドの呟きに、憤怒の勇者は再び黙り込んだ。
『マドカ【エキドナ公式】:まぁ、私も剣聖の弟子だし、剣聖になってもいいんじゃないか? とか言われてるんだけどさー』
「……剣聖の弟子?」
傲慢の勇者が、またしても聞き捨てならない単語を耳にしたという顔をする。
『マドカ【エキドナ公式】:うん。でも、私も色々やりたいことがあるしね! 職業は何? って聞かれたら、私はエキドナしてます、って答えるんだよね!』
「エキドナしてます、って……職業の答えとして成立しているのがすごいですわね」
アナスイは苦笑しながらも、どこか納得した様子だった。
『マドカ【エキドナ公式】:それで、逆に質問! あなたたちは勇者って楽しい?』
唐突な質問に、会場の空気が少し変わった。
『マドカ【エキドナ公式】:うちにいる変な奴は「俺は勇者だ!」って自称してるけどさ。みんなからの期待とか、重く感じたりしない?』
『勇者であることが楽しいか、か……』
『確かに、勇者って強さだけじゃなくて期待も背負わされるよな』
『マドカ、たまに核心を突く質問するよな』
「私は美しいから選ばれたのですもの。それが運命ですわね」
アナスイは、当然のことを答えるように優雅に微笑んだ。
「勇者であることを重荷だと思ったことはありませんわ。私に相応しい役目を与えられたのですから、期待に応えるのも当然ですもの」
『自信がすごいw』
『アナスイ様、ブレないなあ』
『美しいから選ばれた、で全部説明するの強い』
「なんか色々手を出してたら、決まってました」
シルヴァは少し困ったように笑った。
「最初から勇者を目指していたわけではないんです。ただ、目の前のことに取り組んでいたら、いつの間にかこうなっていました。ですから、楽しいかと聞かれれば……そうですね。興味のあることを追いかけていた結果ですから、悪くはありません」
『シルヴァらしい答えだ』
『強欲の勇者、気づいたら勇者になってた説』
『興味のあることを追いかけた結果、世界有数の強者になってるのが怖い』
「私はとにかく目立ちたいの! そして、みんなに褒めたたえられるのが気持ちいいのよ! 逆に目立たないと、なんかむかつくの!」
キシリアは一切ためらわず、堂々と言い切った。
「勇者として活躍すれば、みんなが私を見てくれるでしょう? それが最高なの!」
『正直すぎるwww』
『嫉妬の勇者、名前の通りすぎるだろ!』
『目立たないとむかつくって、もう隠す気ないじゃんw』
『マドカ【エキドナ公式】:お姉さん、大丈夫? お姉さんは笑ってた方が美人さんだよ?』
「まっ! この子、タラシね!」
キシリアは頬に手を当て、ぱっと表情を明るくした。
「でも、気持ちいいわ! もっと言ってちょうだい!」
『マドカ【エキドナ公式】:ちょっと危ない人なのかな?』
『褒めたら元気になったw』
『扱い方を覚えたマドカ』
『いや、たぶん扱い方を覚える前に巻き込まれてる』
「そいつはほっとけ」
プライドが、呆れたように吐き捨てた。
「俺は自分の価値を示したい。俺より強い奴は傲慢にはいねぇからな! 俺の名を世界中に響かせる! それだけだ」
その言葉には迷いがなかった。
自分の強さに疑いを持たず、それを世界に認めさせることこそが、彼にとっての勇者なのだろう。
『マドカ【エキドナ公式】:んー、傲慢だねぇ。まぁいいや! おじさんは?』
マドカの軽い問いかけに、憤怒の勇者はしばらく黙っていた。
「ふむ……色々あるが……」
いつもの静かな声。しかし、今度はすぐに言葉が続かなかった。
「俺は……ずっと謝るまで死ねなかった」
会場のざわめきが、すっと静まった。
「ずっとだ……。後悔しながら生きていたら、この地位に座らされた。……過去に向き合わないといけないな」
『…………』
『憤怒さん……』
『勇者になった理由も、人それぞれなんだな』
『今の言葉、かなり重いぞ……』
『マドカ【エキドナ公式】:ふーん』
マドカの返事は、驚くほどあっさりしていた。
憤怒の勇者が顔を上げる。何かを問い返そうとした、その前に。
『マドカ【エキドナ公式】:まぁ、そのうちジャスティスとかいうのが怠惰の勇者になるかもしれないから、よろしくね!』
「……彼ですか」
シルヴァが、少し意外そうに反応した。
「やる気は認めますよ。ですが、怠惰の勇者になるのであれば、まずSクラスにならないといけませんね」
「そうですわね。勇者として認められるにも、相応の実力が必要ですもの」
アナスイも頷いた。
「そいつは強ぇのか?」
プライドが興味を示す。
『マドカ【エキドナ公式】:んー、私たちの正式メンバーでは下から三番目? まぁ、レベルは二百くらいじゃ?』
「……今、なんて?」
プライドの表情が固まった。
『マドカ【エキドナ公式】:ジャスティスは二百だけど?』
「…………」
プライドは口を開きかけ、そのまま閉じた。
『レベル二百!?』
『下から三番目で二百……?』
『ちょっと待て、エキドナの正式メンバーって何人いるんだ?』
『下から三番目ってことは、少なくとも下に二人いるんだよな? いや、そういう問題じゃない!』
「気づいたか?」
憤怒の勇者が、静かに言った。
「お前よりも上の奴がゴロゴロいる。配信を見直せ」
「……俺が、か?」
プライドの声から、先ほどまでの自信が少しだけ消えていた。
「おごってたってことかよ……」
彼は拳を握りしめ、俯いた。
自分より強い者など、そうそういるはずがない。そう思っていた。
だが、マドカはまるで特別なことでもないように、エキドナの正式メンバーの話をしている。
その何気ない一言が、彼の世界を揺さぶっていた。




