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落内円は落ちている  作者: 七風


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勇者会議17

「結局、エキドナはこれから何を作るつもりなんだ?」


 傲慢の勇者が、先ほどから気になっていた疑問を改めて口にした。


『マドカ【エキドナ公式】:そうだなー。配信で大体喋ったんでしょ?』


『シルヴァ【エキドナ公式】:まぁ、そうですね。公開できる計画については、かなりお話ししていると思いますよ』


「配信で話しているのに、まだ俺たちが知らないことがあるのか……」


 傲慢の勇者が疑わしげに呟く。


『マドカ【エキドナ公式】:あなたたちが知らないことかー……』


 マドカは少し考え込むように間を置いた。


『マドカ【エキドナ公式】:そうだ! あなたたち、私たちと遊ばない?』


「……あ?」


 傲慢の勇者が眉をひそめる。


「遊ぶって、どういう意味よ?」


 嫉妬の勇者も首を傾げた。


『マドカ【エキドナ公式】:今ね、ゴール全体を会場にした、映像結晶に残る劇を作る計画があるんだよね!』


「ゴール全体を会場に……?」


 アナスイが興味深そうに反応した。


『マドカ【エキドナ公式】:うん! 一つの劇が二時間くらいで、全部で五作品を予定してるの!』


『映像結晶に残る劇……?』

『劇なら舞台で演じるものじゃないのか? ゴール全体を会場にするってどういうことだ?』

『五作品も作るのか。いったい、どれほど大掛かりな計画なんだ……』


 会場の勇者たちも、聞き慣れない計画にざわめき始めた。


『マドカ【エキドナ公式】:それに参加してみれば、怠惰や色欲、強欲の圏内でも「あ、嫉妬の人だ!」「傲慢の人だ!」「憤怒の人だ!」って有名になるかもしれないじゃない? そしたらEVを持ってる人も、あなたたちの配信を見に来るんじゃないかな?』


「えっ……私たちが、映像結晶に出演!?」


 嫉妬の勇者が、驚きに目を見開いた。


「ちょ、ちょっと待って! それって、私たちが劇の登場人物になるってこと!?」


『マドカ【エキドナ公式】:そうそう! もちろん、どんな役をやるかとか、そういうのは相談して決めることになると思うけどね!』


「なるほど……!」


 嫉妬の勇者の顔が、みるみる明るくなっていく。


「それなら、私のことを知らない人にも見てもらえるかもしれないのね……!」


「ほぅ……おもしれぇ」


 傲慢の勇者も、腕を組んで口元を吊り上げた。


「劇に出て、他の圏内の連中にも俺の名を知らしめる……。ただダンジョンを攻略するだけじゃなく、自分を売り込む機会にもなるってわけか」


『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと! せっかくなら、みんなで面白いことしたいじゃない?』


『勇者が劇に出演するのか……』

『傲慢がどんな役をやるのか、想像しただけで面白そうだ』

『嫉妬は絶対に乗り気だろ、これw』


「……ところで、マドカ」


 アナスイが、ひとつ気になったことを尋ねた。


「ゴール全体を会場にするというのは、具体的にはどういうことですの? まさか、ゴール中の人々を全員出演させるおつもりではありませんわよね?」


『マドカ【エキドナ公式】:んー? そこはこれから決めていくところかな! でも、せっかくゴール全体を使うんだから、出演する人も見る人も楽しめるものにしたいよね!』


「なるほど……まだ計画段階ということですわね」


 アナスイは頷きつつも、すでに大規模な催しになることを想像しているようだった。


「おい、マドカ。その劇ってのは、俺たち以外にも勇者を出演させるつもりなのか?」


 傲慢の勇者が、身を乗り出して尋ねる。


『マドカ【エキドナ公式】:面白くなるなら、いいんじゃない? でも、リゼットお姉ちゃんにも相談しないとね!』


「……なるほどな。まだ決定じゃねえってことか」


『マドカ【エキドナ公式】:うん! だから、興味があるなら一緒に考えようよ!』


「私はやるわ!」


 嫉妬の勇者が、間髪入れずに宣言した。


「せっかくの機会だもの! 絶対に面白いものにしてみせるわ!」


「ふっ……なら、俺も参加してやる」


 傲慢の勇者も、すっかりその気になっていた。


『傲慢が自分から参加したがってるぞ……』

『さっきまでエキドナを警戒していたのに、話が変わりすぎだろw』

『でも、勇者が出演する劇って、どんなものになるんだ?』


 先ほどまでエキドナの目的を問い詰めていた傲慢の勇者は、いつの間にか劇の出演に興味津々だった。


『マドカ【エキドナ公式】:まずね、大体の内容は発表してるけど、話せるところだけ話すよ! ネタバレ嫌でしょ?』


「それはそうね! 楽しみがなくなっちゃうもの!」


 嫉妬の勇者は、すっかり劇の話に夢中になっていた。


『マドカ【エキドナ公式】:まず、ゴールの住民は本人の役で、そのまま映像結晶の中でいつも通りに過ごしてもらうんだよ』


「……本人の役?」


 傲慢の勇者が聞き返す。


『マドカ【エキドナ公式】:そう! それとは別に、役者として本人が違う職業をしている、ゴールの今とは違う世界を作るの。例えば、エキドナが存在しない世界!』


『エキドナが存在しない世界……?』


 配信のコメントにも、戸惑いの声が流れ始めた。


『マドカ【エキドナ公式】:お姉ちゃんは、本当の世界では大賢者をしてるでしょう? でも劇の世界では、冒険者ギルドのギルドマスターをしていたり! トライアングルがアイドルじゃなくて冒険者をしている世界だったり! そういう、架空の私たちを劇にするのさ!』


「なるほど……実際に存在する人物を、別の人生を歩んだ人物として演じてもらうわけですわね」


 アナスイは説明を整理するように頷いた。


「しかも、エキドナが存在しない世界まで作るのか。なかなか大胆な発想だな……」


 傲慢の勇者も、今度は真剣に考え込んでいる。


『もしエキドナがなかったら、今の世界はどうなっていたんだろうな……』

『大賢者リゼット様が冒険者ギルドのギルドマスター? 想像できないようで、妙に似合いそうだ』

『トライアングルが冒険者って、それはそれで見てみたいぞ!』


「それって……つまり、本人だけど、私は違う職業で参加するということ!?」


 嫉妬の勇者が身を乗り出した。


『マドカ【エキドナ公式】:そういうこと! いつもの自分とは違う人生を演じる感じかな!』


「なら、俺は王子役とかか!?」


 傲慢の勇者が、なぜか自信満々に胸を張った。


「顔を考えろ……」


 それまで静かに話を聞いていた憤怒の勇者が、ぼそりと呟いた。


「おい、どういう意味だ!」


 傲慢の勇者が即座に食ってかかる。


『マドカ【エキドナ公式】:んー、まぁ、嫉妬のお姉さんはじゃじゃ馬貴族令嬢とかじゃない? 傲慢の人は、なんか顔がいかついからマフィアの若頭とか!』


「「誰が!!」」


 二人の声が見事に重なった。


『じゃじゃ馬貴族令嬢w』

『傲慢、王子じゃなくて若頭にされてるぞ!』

『でも、いかつい若頭は妙に似合いそうなんだよな……』

『嫉妬の勇者が貴族令嬢で、傲慢がマフィアって、どんな劇になるんだよ!』


「ちょっとマドカ! 私のどこがじゃじゃ馬なのよ!?」


『マドカ【エキドナ公式】:えー? だって、思ったことすぐ口にするし、行動力もあるし!』


「それは褒めてるの!? それとも馬鹿にしてるの!?」


『マドカ【エキドナ公式】:褒めてるよ? 元気でいいじゃん!』


「うっ……そ、そう言われると、悪い気はしないけど……!」


 嫉妬の勇者は、怒るタイミングを見失ったように口ごもった。


「おい、俺のほうはどうなんだ! マフィアの若頭ってなんだよ! 俺は王子役だろうが!」


『マドカ【エキドナ公式】:えー? でも王子様って、上品で優雅な感じじゃない?』


「俺だって上品で優雅にできるわ!」


「無理があるな」


 憤怒の勇者の容赦ない一言が飛んだ。


「お前まで言うな!!」


『マドカ【エキドナ公式】:あはは! まぁ、役はまだ決まってないからね! みんなで相談して決めればいいよ!』


『役が決まる前から配役で揉めてるぞw』

『この調子で五作品も作ったら、配役会議だけで何日かかるんだ……』

『でも、本人が普段と違う職業を演じるなら、憤怒さんの意外な一面も見られるかもしれないな』


 傲慢の勇者は、まだ王子役を諦めきれない様子で腕を組んでいた。


「……いいだろう。マフィアの若頭でも、俺が演じれば主役級の存在感を見せてやる」


「もう若頭でいいのね……」


 嫉妬の勇者が呆れたように呟くと、会場から小さな笑いが起こった。

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