勇者会議16
『アーノルド【エキドナ公式】:それから俺は地上を目指した。そこでEVやモンバトを買って、ひたすら十九階層まで戻り、モンスターを倒して食っていた。配信しながらな……。そこでリゼットさんにスカウトされたわけだ』
『なるほど、アーノルドがエキドナに入るまでの話はそういうことだったのか』
『地上に出てからも、結局やってることは狩りと食事なんだな……』
『配信していたらリゼット様に見つかったというのも、なかなかすごい話だ』
『マドカ【エキドナ公式】:そういう経緯だったんだね! アーノルド、いつもありがとう!』
『アーノルド【エキドナ公式】:ふ……こちらも三十階層の食材調達をしてもらって助かっている……マドカ、明日は何が食べたい?』
『マドカ【エキドナ公式】:んー、ドラゴンステーキ! 今日狩ってきたから、みんなで食べよう!』
『アーノルド【エキドナ公式】:任せろ』
「……ドラゴンステーキ?」
傲慢の勇者が、今度は別の意味で固まった。
「ちょっと待て。今日狩ってきたって、ドラゴンをか?」
『マドカ【エキドナ公式】:うん! おっきくておいしそうなのがいたから!』
「いや、理由が食欲だけじゃねえか!」
『ドラゴンを狩ってきた、が今日のお土産みたいなノリなのか……』
『エキドナではドラゴンも食材扱いなのか』
『アーノルドさんが一切驚いてないのが一番怖い』
「あら、では明日は夕食に間に合わせないといけませんわね」
アナスイは、すっかり明日の献立の話として受け止めているようだった。
『アーノルド【エキドナ公式】:ああ。せっかくのドラゴンだ、うまく調理してみせよう』
「あなたも普通に引き受けるんじゃありませんわ!」
傲慢の勇者が思わず突っ込む。
『シルヴァ【エキドナ公式】:ドラゴンですか! これは技術班のみんなも喜びますよ!』
「技術班まで喜ぶのかよ!?」
『マドカ【エキドナ公式】:じゃあ、アーノルドのことも聞けたし、ついでになんか質問ある?』
「……は?」
勇者会議の場に、なんとも言えない沈黙が落ちた。
『ついでにってw』
『いつの間にか勇者会議がマドカの質問コーナーになっている』
『アーノルドの話を聞くつもりだったのに、ドラゴンステーキの話まで出てきたぞ』
『勇者会議、乗っ取られたぞ!』
「乗っ取られてねえよ!」
傲慢の勇者が即座に叫んだが、誰も特に気にしていなかった。
『マドカ【エキドナ公式】:まぁ、エキドナが怪しいってのは自覚してるからさ。私、全部の企画に関わってるけど、専門的なことは丸投げしてるわけだね。計画くらいなら、教えていい範囲のことは教えてもいいよ? 配信で私たちのこと、シルヴァとアナスイに聞きまくってるの聞いたからさ!』
「あら、聞かれていたのですわね」
アナスイは少し困ったように微笑んだ。
「もちろん、私たちも話せる範囲のことしか話していませんけれども」
『僕もまだエキドナに入って二週間くらいしかいませんからね。お話しできることにも限りがあります』
『たしかに、エキドナって謎が多いよな』
『新しい魔道具が次々出てくるのに、作ってるところがほとんど見えないんだよな……』
「まず、お前らは何がしたいんだ?」
傲慢の勇者が、ようやく本題とばかりにマドカへ問いかけた。
『マドカ【エキドナ公式】:んー? もしかして私たちって、危険な存在だと思われてる?』
「そりゃ、得体の知れない連中が次々ととんでもない物を出してくりゃ、そう思うだろうが!」
『アーノルド【エキドナ公式】:ふ……好きなことを一生懸命しているだけだ』
『マドカ【エキドナ公式】:そうだね! 自分たちが欲しい物を作ってたら売れただけ。別にお金儲けとかは興味ないけど、売れるから作るしかないじゃない? 在庫がないと文句言うの、購買者だし』
「た、たしかにそうかも……!」
嫉妬の勇者が、妙に納得した様子で声を上げた。
「……単純ですわね」
アナスイは呆れたように肩をすくめた。
『マドカ【エキドナ公式】:そう! 別に経済を支配しようとか考えてるわけじゃないんだ。エアバイクだってそうだね。オークションに出てた乗り物の残骸が珍しかったから分析して、ニコラが悪ノリして車輪を外して、小型飛空艇もどきみたいに空を飛ばせただけなんだ』
「……待て。今、さらっととんでもないことを言わなかったか?」
『マドカ【エキドナ公式】:私の見たところ、あれって本来は飛ばないで地面を走るんだよねー』
「そこじゃねえよ! 残骸から空飛ぶ乗り物を作ったって話だよ!」
『オークションの残骸が飛空艇もどきになったのか……』
『車輪を外したら飛ぶって、どういう理屈なんだ?』
『そのニコラって人が一番気になるんだが』
「ニコラってのは何なんだ……。そいつが色々作ってるんだろ?」
「天才としか言えませんよ。適当に作った物でも、超高性能な魔道具になってしまうんです」
「適当に作って超高性能……?」
傲慢の勇者は、頭が痛くなってきたとばかりに額を押さえた。
『マドカ【エキドナ公式】:まぁ、ニコラのモンバトもヒロバトもEVも、私が仮案を出して、勝手にニコラが完成させただけだしね。私はアイディアしか出してないから、本当の天才なんだよね!』
『なるほど、マドカが考えてニコラが形にするのか』
『その二人が組んでるから、次から次へと新しい物が出てくるんだな……』
「そういうことだったのね!」
嫉妬の勇者が、ぱっと顔を輝かせた。
「EVって、配信を見ているだけでも楽しいのよね! でも、マドカ、ちょっと聞きたいんだけど」
『マドカ【エキドナ公式】:なにかな?』
「私も配信してるわ? でも、視聴者が全然増えないのよ! なんで!?」
「俺もだ! かっこいいダンジョン配信をしてるんだが、全然見に来ねえ!」
傲慢の勇者まで身を乗り出してきた。
『マドカ【エキドナ公式】:んー……傲慢と嫉妬の人だっけ?』
「ああ!」「ええ!」
二人の声が重なった。
『マドカ【エキドナ公式】:まぁ、強欲でも私たちが行くまでは、EVもモンバトもヒロバトも知らない人ばっかだったからねー』
『僕は早いうちから仕入れていましたけどね!』
『マドカ【エキドナ公式】:私たちがオークションに流したのって、二十台くらいだったよね。傲慢と嫉妬って、ほとんど持ってる人いないんじゃない?』
「……そういうこと?」
嫉妬の勇者は、ようやく何かに気づいたように呟いた。
「待てよ。つまり、俺たちの配信を見ようにも、そもそもEVを持ってる奴が少なかったってことか?」
『マドカ【エキドナ公式】:そういうことじゃないかな?』
「じゃ、じゃあ……怠惰や色欲の奴らは、あんなに視聴者が多いのに……」
傲慢の勇者は、納得しかけた顔をしてから、再び疑問を浮かべた。
「そういや、俺のことを知らねえ奴ばっかだったのは……」
「あら、それは単純な話ですわ」
アナスイが、あっさりと言い切った。
「地元では有名でも、配信を見てくれる人がいなければ、知られるはずがありませんもの」
「ぐっ……!」
傲慢の勇者が言葉に詰まる。
『地元で有名なのと、配信で人気なのは別なのか……』
『そもそも見てもらう手段がなかったんだな』
『マドカに聞いたら、配信の悩みまで解決し始めたぞ……』
『マドカ【エキドナ公式】:うーん、でも二人とも配信してるなら、どんな内容なのか見てみたいな! どんなところが面白いのか、私も気になるし!』
「ほ、本当!?」
嫉妬の勇者が食いついた。
「お、おう! 俺の配信も見てくれるのか!?」
傲慢の勇者も、先ほどまでの威勢はどこへやら、期待に満ちた声を上げた。
『マドカ【エキドナ公式】:うん! 面白かったら、エキドナのみんなにも教えてあげるね!』
「「ぜひ頼む!!」」
二人の勇者が、ほとんど同時に頭を下げた。
『勇者会議が配信の宣伝会場になってるw』
『さっきまでエキドナを警戒していた傲慢が、今は宣伝を頼んでいるぞ』
『マドカ、質問を受け付けたら別の問題まで解決しそうだな……』
勇者会議は、もはや当初の議題が何だったのか分からなくなりつつあった。




