勇者会議13
「ああ、でも……マドカさんが理由になるとは限りませんよ」
シルヴァが、ふと思い出したように付け加えた。
「他にも、ニコラ博士が興味を持ちそうな面白い魔導具があるとか、武器や防具に使える珍しい素材があるとか、単純に面白い人がいるとか。それだけでも『じゃあ、行ってみようか!』となる場合がありますからね」
「……なんだそれ」
傲慢の勇者が呆れたように呟いた。
「国を訪問する理由が、ずいぶん気軽じゃねえか」
「皆さん、観光が大好きなんですよ」
シルヴァはさらりと言い切った。
『観光www』
『大陸間の移動が観光感覚なのかよ!』
『珍しい素材があるから行こう! で大陸を渡る組織』
『技術力と行動力が高すぎる旅行かな?』
『でも楽しそうでちょっと羨ましいw』
「ニコラ博士が興味を持ちそうな魔導具に、珍しい素材……」
キシリアは考え込むように呟いた。
「つまり、色欲にもそういうものがあれば、エキドナが来てくれる可能性があるわけね?」
「ええ。もちろん、興味を持つかどうかは、実物や詳しい話を見てみないと分かりませんけれど」
アナスイが微笑みながら補足する。
「ただ、皆さんは本当に好奇心旺盛ですわ。珍しいものがあれば見に行きますし、面白そうな場所があれば観光も楽しみます。必ずしも大きな目的が必要というわけではありませんの」
「……それ、外交する側からしたら、どう誘えばいいのか逆に分からなくないか?」
傲慢の勇者が腕を組んだ。
「国として正式に招待するのがいいのか、珍しい魔導具を見せるのがいいのか、それとも観光名所を紹介するのがいいのか……」
「全部用意すればいいんじゃない?」
キシリアが即答した。
「魔導具も、珍しい素材も、観光名所も! 来てもらえる可能性があるなら、できることはやってみるべきでしょう!」
『キシリア様、完全に招待する気だw』
『もう色欲大陸の観光プランを考え始めてる』
『でも珍しい魔導具を見せたらニコラ博士が帰らなくなる可能性も……』
『それはそれで面白そうw』
「それから、食材にも熱心ですわね」
アナスイが、もう一つ重要な点を思い出したように続けた。
「珍しい食材や、その土地ならではの料理にも興味を持たれる方が多いですわ。特に、食材の調達や新しい料理の研究となると、皆さんかなり積極的ですの」
「食材?」
傲慢の勇者が首を傾げた。
「魔導具や武器の素材なら分かるが、食材までか?」
「ええ。食べることも、皆さんにとっては大切な楽しみですもの」
アナスイは優雅に頷いた。
「そういえば……暴食の勇者も、いつの間にかエキドナで働いていましたわね」
『…………え?』
『暴食?』
『今、さらっと凄いこと言わなかった?』
『暴食の勇者がエキドナに就職!?』
『いつの間に!? どういう経緯で!?』
「はあああああ!?」
キシリアが椅子から飛び上がった。
「ちょっと待ちなさいよ! 暴食の勇者がエキドナで就職してるって、どういうことよ!?」
「ええと……そのままの意味ですわね」
「そのままの意味で済ませられる話じゃないでしょうが!!」
キシリアは頭を抱えた。
「勇者が! 他の組織に! 就職!? しかも、いつの間にか!? そんなこと、聞いてないわよ!」
「わ、私も詳しい経緯をすべて把握しているわけではありませんけれど……」
アナスイは少し困ったように微笑んだ。
「エキドナには、食材や料理に関わる仕事もありますもの。暴食の勇者にとっては、興味を持てる環境だったのではありませんかしら」
「いやいやいや! 興味を持てる環境って、そんな理由で勇者が就職するの!?」
「皆さん、面白そうなことには積極的ですからね」
シルヴァが、またしても何でもないことのように答えた。
「……シルヴァ」
キシリアがゆっくりと彼へ顔を向ける。
「あなた、さっきからエキドナの話をするたびに、私たちの常識を壊していない?」
「えっ!? 僕は知っていることを説明しているだけですよ!?」
『シルヴァさん、今日何回目のそれw』
『悪気がないから余計に情報が飛び出すんだよな』
『暴食の勇者の就職が「そういえば」扱いなの草』
『エキドナ、いったい何人の勇者と関わってるんだ……』
「……なるほどな」
憤怒の勇者が、静かに口を開いた。
「珍しい技術や素材、食材、人物。そして観光。エキドナの連中は、興味を引かれるものがあれば、実際に見に行くことをためらわないというわけか」
「そういうことですわね」
アナスイが頷く。
「もちろん、訪問の手続きや必要な許可は別の話ですけれど。興味を持つきっかけ自体は、案外ささやかなものでもよろしいのですわ」
「……だったら、色欲にもまだ可能性はあるわね」
キシリアは、先ほどまでの驚きをどこかへ押しやり、再び前向きな表情になった。
「珍しい食材なら、うちにもあるわ。魔導具だって、職人たちがいろいろ作っているし……観光名所だって負けていないはずよ!」
「ええ。そうした魅力を紹介するのは、よいことだと思いますわ」
「よし! 帰ったら調べるわ! 色欲大陸の珍しい魔導具、素材、食材、観光名所! それから面白い人物も!」
『面白い人物まで募集するのかw』
『色欲大陸の観光大使になりつつあるキシリア様』
『エキドナ誘致計画、着々と進行中』
『なお、本人たちが来るかは未定』
「……ただし、暴食の勇者がエキドナに就職した件については、もう少し詳しく説明してほしいわね」
キシリアは、ふと思い出したようにアナスイを見た。
「勇者が他の組織で働いているなんて、普通なら大事件でしょう?」
「ふふっ。そうですわね。機会があれば、本人に聞いてみるのもよろしいのではありませんかしら」
「本人に……」
キシリアは小さく呟いたあと、配信画面へ視線を向けた。
「……ねえ。暴食がエキドナに就職した経緯、知っている人がいたら教えてちょうだい!」
『本人に聞けw』
『ここで視聴者に聞くのかよ!』
『でも俺も知りたい』
『食材が理由なのか、それとも別の理由なのか……』
コメント欄にも、暴食の勇者がエキドナで働くようになった経緯を知りたがる声が次々と流れ始めた。
こうして勇者会議は、エキドナを各大陸へ招待する方法を考える話から、暴食の勇者の就職事情を知りたいという話にまで広がっていくのだった。




