勇者会議12
「……まあ、そもそもリゼット様が他の大陸へ行くかどうかは、マドカさん次第なところもありますけどね」
シルヴァが、ふと思い出したように口を開いた。
「……は?」
傲慢の勇者が眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
「マドカさんはリゼット様のお弟子さんじゃないですか。リゼット様はマドカさんのことを妹のように大切にされていますし、リゼット様が動く理由って、マドカさんに関係していることが多いんですよ」
「妹のように……?」
嫉妬の勇者キシリアが、興味深そうに身を乗り出した。
「ええ。ですから、例えばマドカさんが『傲慢の大陸に行ってみたい』と言えば、リゼット様も考えるでしょうね。逆に、マドカさんが『傲慢って、なんだかケンカを売ってきそうだから行くのはやめようよ』なんて言ったら……」
シルヴァは少し考え、あっさりと言った。
「『そうね。なら、やめましょう』ってなるんじゃないですか?」
『wwwww』
『判断基準がマドカちゃん!?』
『リゼット様、国家間の外交より弟子の一言が優先なのかw』
『いや、妹みたいにかわいがってるなら分からなくもない』
『傲慢、今すぐマドカちゃんに好かれる努力をしろ!』
「おい!!」
傲慢の勇者が机を叩いた。
「てめぇ、俺がケンカを売ってくるみたいな言い方してんじゃねえぞ! こら!!」
「えっ? 僕はあくまで例え話をしただけですよ?」
「例え話でも、なんで俺がそんな役なんだよ!?」
「それは……普段の言動から、そういう印象を持たれやすいのでは?」
「お前、今、俺のことを煽っただろうが!!」
『シルヴァ、火に油を注ぐの上手すぎるw』
『傲慢、本人が一番ケンカ腰で草』
『今の反応がまさにケンカ売ってそうなんだよなぁ』
『マドカちゃんに聞かせたら本当に避けられるぞw』
「ちょっと待ちなさいよ!」
キシリアが二人のやり取りを遮った。
「つまり、マドカに気に入られれば、リゼットが来てくれる可能性があるってこと?」
「可能性の話ですよ。必ずそうなるとは限りません」
シルヴァは念を押した。
「ただ、リゼット様がマドカさんを大切にされているのは確かです。マドカさんが楽しめることなら、リゼット様も協力することが多いですからね」
「なるほどね……」
キシリアは腕を組み、真剣な表情で考え込んだ。
「じゃあ、色欲に来てもらいたいなら、マドカに楽しんでもらえるようなことを用意すればいいのね?」
「まあ、そういう考え方もできると思います」
「よし……!」
キシリアの目が輝いた。
「色欲には、おいしい料理もあるし、きれいな街もあるわ! 音楽関係の施設だって用意できるかもしれない! マドカが楽しめそうな場所を調べて、招待状を出すのよ!」
『急に本気になったw』
『外交戦略がマドカちゃん接待計画になったぞ』
『トライアングルのライブ好きなら音楽施設は刺さるかも?』
『でも、本人が来たいと思わなきゃ意味ないんだよな』
「……待てよ」
傲慢の勇者が、何かに気づいたように顔を上げた。
「それなら、俺だってマドカって奴に会って、誤解を解けばいいんだろ?」
「誤解?」
シルヴァが首を傾げる。
「そうだ! 俺は別にケンカを売るつもりなんてねえ! 会えば分かるはずだ!」
「……その前に、今の言い方をどうにかしたほうがいいのではありませんこと?」
アナスイが優雅に微笑んだ。
「なんでだよ!?」
「その調子で初対面のマドカさんに接したら、リゼット様に警戒される可能性がありますわね」
「ぐっ……!」
傲慢の勇者が言葉に詰まる。
『アナスイさん、正論w』
『会う前から印象を悪くしていくスタイル』
『リゼット様が「なら、やめましょう」って言う未来が見える』
『傲慢、まずは落ち着いて話す練習からだな』
「……くそっ。分かったよ。会う機会があったら、ちゃんと普通に話す」
「本当にお願いしますね」
シルヴァがほっとしたように答える。
「ただ、マドカさんがどう思うかは本人次第ですから。僕からも、無理に話を進めることはできませんよ」
「分かってるっての!」
傲慢の勇者は不満そうに腕を組んだ。
その一方で、キシリアはすでに次の計画を考えているらしく、何やら指を折りながら呟いていた。
「マドカを招待して、楽しんでもらって……それからリゼットにも来ていただいて……」
「キシリア様、まだ来ると決まったわけではありませんわよ?」
「分かってるわよ! 可能性の話よ、可能性の!」
『今日の勇者会議、エキドナへの招待計画ばかり進んでるw』
『マドカちゃん、知らないところで大人気だな』
『リゼット様を呼びたいなら、まずマドカちゃんに気に入られること』
『そして傲慢はケンカを売っていないことを証明しようw』
配信画面には、そんなコメントが次々と流れていた。
エキドナの活動範囲や転移技術を知ろうとしていたはずの勇者会議は、いつの間にか、マドカをどう招待するかという話にまで発展していた。
そして傲慢の勇者は、最後まで納得のいかない顔でぼやいていた。
「……だから俺は、ケンカなんて売ってねえだろうがよ!」
『その声量がもう怖いんだよw』
「コメントォ!!」




